その日。
Z市上空に現れた巨大隕石は。
後に――
《隕石落下事件》として語られる事になる。
だが世間の記録に残ったのは、
「S級ヒーロー達の奮戦」
だけだった。
本当の地獄を見た者は少ない。
その一人がジライヤだった。
瓦礫の屋上で彼は隠密用ゴーグル越しに空を見ていた。
迫る巨大隕石。
都市一つ飲み込む質量はS級達の総攻撃でもビクともしない。
ジェノスの焼却砲。
シルバーファングの打撃。
ボロスの一斉射。
全て『焼け石に水』だった。
その理不尽な光景にジライヤは歯噛みする。
「駄目だ、間に合わねぇ…!」
その時、空気が破裂した。
空を見上げると影が見える。
一人はC級ヒーロー《ハゲマント》ことサイタマ。
空を跳んでいた。
ただしあり得ない速度で。
次の瞬間。
バ ギ ィ ッ !!
拳が隕石を直撃し、深々と刺さる。
巨大隕石に亀裂が入り、崩壊
星が割れた。
ジライヤは絶句した。
「……は?」
砕けた。
都市滅亡級の塊が。
だがそんな現実離れした光景も束の間だった。
「いかん!!」
砕けた隕石。
しかし今度は“散弾”になった。
無数の巨大破片がZ市全域へ降り注ぐ。
一つ一つがビル級。
このままでは「街が死ぬ」とヒーロー達も理解する。
ジェノスが叫ぶ。
「クソッ!! 数が多すぎる!!」
誰もが絶望した、その時――
空に一筋の光が奔る
「剣閃!?」
ジライヤが目を見開く。
「……シンタ?」
空中に赤髪の青年が跳躍している。腰を落とし、静かに刀へ手を添えた。
「飛天御剣流『龍巣閃』!!」
振るわれた銀閃が世界を切断する線となる。
空を埋め尽くす剣撃の嵐。
速いなどではない。多すぎて見えない。
隕石破片が次々粉砕されていく。
斬る。
斬る。
斬る。
斬る。
まるで“空そのものが裂けている”ようだった。
いつしか息をするのを忘れていた。
「嘘だろ…」
しかしシンタは止まらない。
なお加速する。
そして――
《アトミック龍巣閃》
それが発動した瞬間、空一面に“龍の巣”が顕現した。
無数の剣筋が交差し、拡散し、空を疾走する。
巨大破片群が全て粉微塵と化す。
空で砂になった。まるでキラキラと輝く流星雨のように光の雨が降り注ぐ。
地上の市民達はぽかんと空を見ていた。
さっきまで死が降っていた。
なのに今は「綺麗……」と誰かが呟く。
ジライヤは震えていた。
物書きとして多くの猛者を見てきた。
だが、今目の前に居るのは。
「人間の剣術じゃない」
空中でシンタは刀を納める。
その背後には砕けた隕石群。
まるで“龍に喰われた星の残骸”のようだった。
そして彼はサイタマの隣に着地する。
「お、助かった」
シンタは肩竦める。
「サイタマ殿、加減してほしかったでござる」
「無茶言うな」
普通に会話しているその姿には頭抱えるしかない。
「なんなんだアイツら…」
その時、通信が入る。
「こちらヒーロー協会!! 被害急減!! 隕石破片、ほぼ消滅しています!!」
「な、何が起きた!?」
ジライヤは乾いた笑いをするしかできない。
「……龍が星を喰ったんだよ」
真実を語ったところで、誰にも理解されないだろう。
でも確かに自分は見た。
世界最強の拳が隕石を砕き、世界最速の剣がその死を斬り尽くした瞬間を。
アトミック龍巣閃:
シンタが生み出したオリジナルの飛天の技。龍巣閃という刀をブンブン振り回せば良い簡素な技にアトミック侍の剣技を組み合わせたもの。シンタの切り札でもある。