藤原妹紅さんと美味しくお酒を飲みたかったお話です(^^♪
妹紅の気を引きたい「ぼく」は人間関係がへたっぴなようで~…っ???

2016年9月26日に書いた妄想を加筆し、掌編として完成させたものです。
自意識強めの「私」に対しても優しい妹紅ちゃん良いですよね。

pixivにも載せました。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28104582

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心地よい夜風、ゲロ以下の満月

それでね、夜雀のやっている八目鰻の屋台があるでしょう。竹林の外れに、夜になると屋台を出しているあれです。そこで夕飯を食ったんですよね。いやあ、うまかったですねえ。白焼きと蒲焼を頼んだんですがね、噛むとびっくりするくらい柔らかくって、噛むたび浸み出る鰻の味は、淡白でうまかったね。蒲焼の方はたれの焦げた匂いがよく、白飯に合うんだこれが。

 

ま、夕飯はそんなところだったんだ。帰り道につくことにした。もう、闇が空気をすっかり染めていて、少しばかり怖かったな。空気も、夜風が気持ちいいといえばそうかもしれないけど、ぼくとしては、厭に冷んやりしていて、あまり心地よいものではないなんて言いたくならなくもない、と言えばうそになるって感じだった。いや、嘘だよ、あれは良い夜風だった。

 

あ、まだ書いていないことがあった。それは、夕食の時の相客が某不老不死の女だった、ということさ。ちょうど、輝夜と殺し合いをしたのだという。まあ、ぼくは、ずっと表情一つ変えないで飯を食ってたんだけどね、実は、その女のことが気になっていたんだよな。その女は、とても美人だし、不思議ないい匂いはするし、夜雀との会話を聞いても、人が良さそうだったし。

 

でね、自然の成り行きでその女に話しかけられるわけだ。でもね、人見知りなぼくは、無愛想に低い声で一言返したきり、会話を途絶えさせてしまったんだよな。もちろん、その場の空気は悪くなったさ。ぼくはそれに我慢できなくて、代金を払うと、急いで逃げるように、でも尚且つ自然を装って、神社へ帰る道へと歩き始めた。まるで競歩だな、とくだらないことを考えていたんだけどね、それはすぐにかき消されたよ。

 

──先ほどの自分の返答を、脳で反芻し始めてしまったのだ。

 

私はいま、自分の顔が、不快さと恥ずかしさに満ちた表情となっているのを意識した。いや、誰も私の顔など見ていないのに、そんな表情を作った。私の無思慮な返答が、藤原妹紅と屋台の夜雀を不快にしたのは明らかで、そうとしか人と関われない自分に、私はひどく苛立ち憤りを抑えられなくなった。それで、限界を超えたので、自然に口汚い罵声を草や木に向かって飛ばした。そうして私は、普段であれば心地よい夜風さえも甚だ不快に思えてきた。不意に空を見ると、満月がみえた。異様に大きく、無気味にさえ思えた。

 

*  *

 

藤原妹紅はまだ酒を飲んでいた。強めの度数の日本酒だが、彼女は酩酊感を味わうことがない。際限なく飲むので、夜雀は未だに慣れぬように目を丸くしながらおかわりの酒を用意した。夜風が涼しく吹き、妹紅の白い長髪がなびき、髪に括られた小さなお札がカサカサと音を立てている。

 

が、唐突にその穏やかな夜がやぶられた。男の怒鳴り声が聞こえてきたのだ。声は何かに怒っているようだが、論理的な訴えではむろんなく、口汚い言葉が叫ばれているようだった。

 

藤原妹紅は、おちょこを置くと、夜雀に「なんだあれは……。少し見てくる」と言って席を立ち、音の方向へ向かった。

 

すぐに男は見つかった。それは先ほどまで同席していた男だった。男は妹紅を認めると気まずそうな顔をした。男は挙動不審になり、妹紅と眼も合わせずにいた。藤原妹紅は、心配そうに男に話しかけた。

「おい、大丈夫かい? 何か気に障ることでもあったか?」

と発した妹紅の声は、優しく、思いやりを男に意識させた。それが男の気に障ったらしく、

「いや、なんでもない! 関わらないでくれ!」

と言った。妹紅は、

「そういうわけにはいかないな。心配じゃないか。」

と直接的な心配を示す。ますます男はその優しさを拒絶したくなったのか、

「おれは神社にこのまま帰る。道は分かっているし、何か問題なのか。」

とぶっきらぼうな声色で跳ねのける。妹紅は男が変な人間だと思ったが、そういえばあの巫女の神社に変わった外来人が寝泊まりしていると風の噂で聞いたことがある。事情があるのだろう、私も似たような時期があったさ、と思い、妹紅は「そうか、分かったよ」と述べ、

「危なくなったら叫べ。助けてやるから」と言い、その場を辞した。

 

*  *

 

男は藤原妹紅が去ってすぐに、今度は小さな声で「俺は馬鹿じゃないのか。俺は糞だ。」と自己否定し始めた。それはむろん、妹紅に心配させたからだった。妹紅が、男の予想通りに親切な人間だったことが、むしろ男の自己否定に寄与した。俺はあんな優しさを享受すべき人間ではないのに、と思った。が、男はにやけていた。何はともあれ、俺は妹紅の方からふたたび話しかけられたのだ。俺のくそみその怨嗟が、親切な女を呼び戻したのだ。それは男の狙い通りだった。妹紅が声をかけてきたことは戦略通りだった。それなのに、男は自己否定がやめられなかった。

 

男は、月を一瞥すると興味など無いようにふるまい、それなのに優しくて冷たい月の光を頼りに博麗神社への道を辿った。

 

 


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