チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
私たちが戻ってすぐに駆け寄ってきたのはジャスミンだった。そこでメイプルとテオが嬉しそうに豆腐料理の話をしたら、ジャスミンが絶望の顔をしてorzになった。……ま、まあ、仕方ないと思うよ? 私だって出先で料理するつもりはなかったし。
「くっ、屈辱であります! 自分が一番にリディアお嬢様の新作料理を食べるべきなのに!」
「ナンデダヨ!」
思わず私は突っ込みを入れた。ジャスミンがぼろぼろと涙を零してたから。逆にメイプルとテオはその場で小躍りしている。今日はスカーレットが待ち構えてなかったから、ほっとして浮かれてるのかも知れない。……いや、こないだみたいに転移のドアから帰ってないから、待ち構えるのは難しかったってだけかも知れないんだが?
ちなみに帰りもテオの転移魔法で送ってもらった。ホントは私が二人を連れて飛行魔法で帰ろうとしたんだけど、青い顔でガクブルされたからやめておいた。島がどういう感じなのか見たかったのになあ。残念。
それから私たちはみんな……いや、他にもたくさんメイドがついてきたので仕方なく……。全員引きつれて厨房に向かった。
「リディアお嬢様! お帰りなさいませ!」
厨房に入るとスティーブンを始め、コック全員が私に頭を下げて挨拶した。OH...。メイプルから先触れがあったから、新しい食材を待ってたんだろうとは思う。が! ここまで期待されても困る! 醤油がまだない……あ゛ー! 他にも料理があったわ! 醤油使わないやつ!
私は厨房でorzした。いや、小屋の中でもこの姿勢はやったけど、ここまでくると自分の記憶が憎い! 転生前世界日本で生活してた時の主婦飯レシピがどうしても忘れられない! みんなが喜ぶし、私も美味しい飯を食えるからいいけど! 豆腐料理ってバリエーションが多くてヤバいんだよ! しかもコスパが良かったから、けっこー作ってたんだよ!
よし。ここは出し惜しみしよう。私は心の中で呟いた。少なくともこの世界には読心術っていうか、テレパシーみたいのを使う人はいないぽいし、バレないと思う。あ、島の外にはそういうスキルもあるかもね。でもここにはそういうスキル持ちはいない……と思う。多分。スカーレットが妙に私のことを読んでくるけど、あれはテレパシーとかじゃなく、表情の変化とかを見てるんだと思う。貴族の付き合いではそういうのが大事らしいし。
「判った! 作るのは豆腐ハンバーグね! ハンバーグは判るよね!?」
ヤケクソになった私はスティーブンを問い詰めた。するとそれまで何故かばんざいしてたスティーブンがビビり倒す。……そーいえばスティーブンってかなり繊細? というか、小心者? みたいなんだよね。最近になって気付いたんだけど。だから私がキレ散らかすとビビるらしい。
それはともかく!
私は今度は木綿豆腐を合成して放出した。絹だと水切りが大変そうだしなあ。ていうか、転生前に私が使ってたのが木綿だったってだけだが。でもって続けて私は豆腐の水切りを教えて、軽めのハンバーグにするように言った。……牛だけにするとボロボロになりそうな気がするんだよね。牛オンリーは高かったからやったことないけど。合い挽きくらいが丁度いいのではなかろうか。
いつも試作の時はスティーブンにお任せである。おっかなびっくりで豆腐の水切りをし始めたスティーブンも、ハンバーグ種は流れるような手つきで作って行く。さすがはシェフといったところだろうか。って、みんなでガン見してるから、スティーブンがちょっとやりにくそうにしてるけど!? これって突っ込むべき!?
観客をたくさん背負ってても、スティーブンはひき肉をしっかり混ぜることには成功した。その根性はすごい! さすがはプロというべきか!? ちなみに肉を混ぜる時は誰かが氷の魔法を使ってボウルを冷やしっぱなしにする。肉の温度が上がるのを防ぐためだ。だからスティーブンの手は冷え冷えになってるはず。私だったら手が痛くなるな……。
そこから豆腐とか卵とか他のものも入れて、また混ぜる。そこで私もついついスティーブンの手元をガン見してることに気付いた。しまった。緊張してるのって、私のせい!? あー! すまんすまん! でも気になるから見る!
じっくり中火で火を通す。こういう時は火の魔法があって便利だよね。もちろんかまどっていうか石窯もあるんだけど、フライパンで焼く時は魔法のが早いし楽らしい。転生前世界のコンロとかじゃないけど、魔法を使えば似たような感じに出来るんだよね。違うのは作る時の人数。さすがにスティーブンはフライパンと同時に火の魔法を使うのは難しいらしい。微調整がいるからだ。前に私が米を炊くときの最後にとろ火を放出し続けたのと同じ。
肉が焼ける良い香りがし始めた。周りにいたコックが手にフォークを持って立っている。待てや! 私に一番に食わせるべきだろ!? あ、でも一度に何個もハンバーグを作ってるから、ちょっとずつなら味見ができ……おい! メイプルとテオとジャスミン! いつの間に観客の最前列に移動したんだ!?
焼き上がったハンバーグにはトマト系のソースをかけてもらった。いやー。醤油ないからね、まだ。ホントは醤油とか味付きポン酢とか欲しいんだけど、無理だし。でもトマト系ソースも悪くないと思う。
皿に載せられた豆腐ハンバーグは当然、私が最初に味見する! あ、毒味という意味では一番をスティーブンに譲ってもいいんだけど、これは譲れない! トマトソースをちょっとつけた豆腐ハンバーグにふーふーと息をかけ、口に運んだ私は幸せを感じた。超美味いわ、これ!
私が食ったことを確認したスティーブンが小さく切った豆腐ハンバーグを食べて、目をカッ! と開く。その反応を見たメイプル、テオ、ジャスミンの三人組が争うように豆腐ハンバーグに群がる。
「美味しいですー!」
「すっごい美味いっすね!」
「感動であります!」
うん。判るんだけど、他の人に位置を譲ってあげなさい。私が突っ込むと三人が慌てて退く。その後は味見祭になった。いつもの光景なのでびっくりはしないけども! 毎回激しいんだよ!
スティーブンが焼いた豆腐ハンバーグが、次々と皿に載せられて調理台の上に並ぶ。コックとメイドがちょっとずつ味見をしては嬉しそうに笑うのは、見ていてちょっと和む。美味しそうに食べてくれるのは、やっぱりいいね!
「あら。何をしているのかしら?」
背後から聞こえた声にみんなが固まった。ぎぎぎ、と後ろを向くと、いつの間にかスカーレットが立っていた。あああー! しまった! この人も鼻が利くんだったわ!
「申し訳ありません、奥様! ご連絡もせず!」
ざざー! とスライディング土下座をしたのはスティーブンだった。OH...。慣れてるな、これ。でもスカーレットが見ていたのは私だった。
「ほほほ。リディア。わたくしに声をかけなかった理由を説明なさい」
「あー、えっと、その、戻った足で厨房にきたので、その、ついつい!」
「ついついではありません。いつもわたくしより先に……いえ、わたくしに黙って勝手に厨房で暴れるのは感心しませんわよ?」
あ。ぽろっと本音が出たよ。先に食わせろって意味か!!
結局、みんながビビってる中、スカーレットは優雅に豆腐ハンバーグを食べた。味見っていうにはたくさん食べてる気がする。うーわ、使用人全員が青くなって固まってるよ! 誰か何とかしてくれ!