チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
豆腐の後は何を作ろうかな。醤油とか味噌とかの調味料は欲しい。何なら米から作る酒やみりんも欲しい。……完全に和食だけども! みんなにはウケないかもだけど! でも一度は食べてみたい! 転生してから8年も経つとさすがに恋しくなるっていうか? 何だろ、この恋しさ。あ! もしかしたら豆腐を作った反動かも!? 醤油があれば厚揚げにして煮物にするとか、料理のバリエーションが広がるからね!
食べたいって言っても一度きりという話。それもあって醤油作りにはなかなか踏ん切りがつかない。それに大豆とかの材料はあるんだけど、そもそもどのくらいの割合で作れるのかも判らない。……まあ、某白ポケットの合成で勝手に出来る気がするけどね!
でも日本食に思いを馳せる日々を邪魔するモノが現れた。水田で育った米を収穫しようとした時だ。私とメイプルの間を抜けて飛んできた火魔法が稲に直撃したのである。呆然とした私の目の前で稲に火がついて燃える。それを見た私は当然、ブチキレた。
「誰だ! 私の米道を邪魔するヤツは!」
「お嬢様! 落ち着いてください! 攻撃が監視を通り抜けたということは、敵はかなり強いです!」
メイプルの止める声より早く、私は水田から一気に上空に飛んだ。火が飛んで来た方に向かって飛び続ける。飛んでるうちに森が広がってるとこに出た。さっき火が来たのは水田から南西からだ。今度は私に向かって火が飛んで来たが、それを私は避けた。馬鹿め! 遅いわ! しかも私の正面に一直線に飛んでくるとか、避けてくれって言ってるようなもんだろうが! 追尾性能くらいつけとけや!
私が避けたのがムカついたのか、それとも他に理由があるのか知らんが、今度は上空に向かって複数の火が飛んで来た。完全に私がターゲットである。だが知らん! 簡単に墜とされる阿呆だと思ってるんか!
「この程度、避けれないとでも思ったか!」
飛んで来た火はやっぱり真っ直ぐだ。しかも何か知らないが、火の色が変。ちょっと紫が入ってる気がする。フツーの火魔法は赤い。でも飛んで来てるのは近くで見ると紫が入ってるのだ。
だが! 知らん!
私は火元に向かって飛んだ。すると岸壁が遠くに見えた。けっこう森が続いてから端が見えてきたから、島のサイズはかなりあるな。とかどうでもいいことを思いつつ、私は火を避けながら岸壁の端を見た。するとそこに何故かどう見ても人間外のモノが絶壁をロープで上って来てるのが判った。ロープは森の木にくくりつけてるぽい。わざわざ森の木までロープを運んでくくりつけるとか、ばかなのしぬの? しかも空を飛んでるヤツまでいる。
「食らえ! コンテナ!」
私は飛びながらウニみたいなトゲトゲ(ただし硬い)を生やした結界コンテナを、そいつらに向かって放出した。勢いが乗ったのか猛スピードで飛んだコンテナが、岸を上ってこようとしたバカタレどもにあっという間にぶつかった。ロープで上ってきてたヤツらが悲鳴ぽい声を上げて海に落ちて行く。殺意マシマシのコンテナが当たった瞬間に、空を飛んでたヤツから火が飛んで来た。私はそれを飛びながら避けつつ、2個目のコンテナを放出した。
「よくも田んぼを燃やしてくれたな!」
立て続けにコンテナを飛ばすと、ぎゃー、とかいう声を上げた鳥もどきが海に落下する。だけどまだ、空には鳥もどきが何個か浮いてる。
「まだ残ってんのか! 絶対にしばく!」
私は飛んで来た火を吸引した。某白ポケットの中で畳んで畳んで畳んで、そこからとことんまででかくしてから、例の叫びを上げてそれを高速で放出した。
「ドラグ・ス○イブ!」
放出した火は完全に紫になって飛んだ。すると空に浮いてたヤツと、ついでに海に残ってたヤツらを一気に吹き飛ばした。海が割れて、海底がむき出しになる。岸壁につけてあったでかい船まで吹っ飛んだ。
燃えかすすら残さず、私の周りをちょろちょろしていたモノと、火の攻撃は止んだ。よし! 仕返しは済んだ! 呪文ぽいのは気分! おーるおっけー! と、喜んでたら声が聞こえてきた。
「リディア! 降りてきなさい!」
「あ」
地上から叫んだのはスカーレットだった。ヤバい! 勝手な復讐で怒られる! あああ! だって米道を邪魔され……ひー!
私が降りようかどうしようか迷っていた間に、スカーレットが空を飛んで私に迫ってきた。あ、スカーレットの後ろにテオがいる。何か顔色が悪い。もしかして無理矢理、飛行魔法を使ったのかも知んない。
「何をしたのか判っているのですか!」
「あ、えっと、稲を焼かれて、その、つい……」
「つい、ではありません!」
とにかく降りろ、と命令されて私は怖々と地上に降りた。岸壁はさっきの攻撃でかなり鋭角に削れてる。OH...。割れた海は元に戻ってるけど、沖で波が暴れてる。下手すれば津波になるトコだったのか……ヤバかった……。
地上に降りたところでテオがバタンキューと倒れた。あ、限界だったから、スカーレットが降りろと言ったのか。ていうか、スカーレットは帯剣してる。そっか、戦うつもりだったのか、と呑気に考えてたら、私の頭にげんこつが落ちて来た。
「いったーーーい!」
「痛いのは当たり前です! どうしてこんな馬鹿な真似をしたのか、説明なさい!」
「だから、米を……おおう、痛い」
げんこつで殴られたとこを押さえて、私は半泣きでスカーレットを見た。
「本当は旦那様に叱って頂きたいのですが、リディアが可愛すぎて無理ですのでわたくしが代わりに叱ります」
「ええー!」
「……貴女、旦那様に叱られる方が楽と思っていますの?」
呆れた顔になったスカーレットに言われ、思わず私は頷いてしまった。するとスカーレットが大きなため息を吐いて、額を指先で押さえた。
「旦那様はライオンハートと呼ばれていらっしゃる苛烈な方ですのよ。叱るとなればわたくしよりはるかに厳しいのです」
「はー!? えっ、獅子心王!?」
転生前世界日本でプレイしてたゲームやラノベを思い出して、私は思わず悲鳴を上げた。アーサーという名前だから、うっかりそっちを想像してたけど、異名がヤバい! まさかのリチャード一世の方かー!! 何でもカリバーのアレか! こっちのアーサーは豪快で体躯が分厚いから、どっちかといえばFat○のイスカン○ルに似てる気がしてたんだけども!
いや、それはどーでもいい! まずは訊かねばならぬ!
「ライオンハートということは、大陸にはライオンがいるのですか?」
「は? 貴女、書庫で動物図鑑すら見ていませんの?」
「え、と、植物メインで読んでました」
私は素直に白状した。スカーレットがまたため息を吐く。その後ろには目を回したテオが倒れたままだった。……人のことは言えないけど、ご愁傷様です……。