チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
アーサーとスカーレット夫婦の戦闘力が馬鹿げていると判ったのだけども、私には日常生活が戻ってきた。すぐにバトルが発生することはないだろう、とみんなが普段通りに過ごしているからか、緊張してた私もちょっとずつ落ち着くことが出来た。
で、攻撃された稲だよ。かなり燃えたと思ったけど、水田一枚以下で火は消し止められたらしい。やった! もちろん火がついたのは腹立つけど、全滅してなかった! というのも、水魔法が使える使用人がすぐに消したかららしい。さんきゅー! 名も知らぬ使用人さん!
いや、まあね。前に吸引した種籾はまだあるんだよ。増幅すればいくらでも増やせるのは判ってる。でもそっちはいざって時のためにとっておきたい。水田で米作りを始めたとはいっても、ずっと続けられるかも判んないしね。今回みたいなバトルがあって、酷いことになったら困るし。もしやられたら、ブチキレ確率が高いけども。さすがに自重はしたいところだが、ブチキレを止める術が私にも判んないからなあ……。
そして私はメイプルとジャスミンにカツ丼をご馳走することにした。……こないだのバトルで迷惑をかけたから。二人に作ったら、当然のごとく厨房のコックやメイド、ついでのようにスカーレットが寄ってきたので、みんなの分も振る舞った。……スティーブンが。私が考えても作るのはスティーブンだから! ちなみに作ったカツ丼は醤油とか使う和風じゃなく、ソースとかを使ったから、ソースカツ丼と言ったほうがいいかも知んない。
そんなこともあったし、そろそろ醤油を作ってもいいかな、と思ってはいる。ただ、問題は暇がない! 実はバトルの時に受けたスカーレットの説明で、自分の力量があまりにもゴミだと判ったから、私から訓練追加を頼んだのだ。その時のスカーレットの喜びようといったら! 小躍りしてるように見えたが!? 私が自主練を言い出したのが嬉しかったらしい。た、確かに。私が自分から訓練したいとか言ったことないもんな。
メイプルたちも強いよ、もちろん。私も剣での特訓ではギリ届かない時もある。でもアーサーとスカーレットが、今までものっすごく手加減してたってことは嫌ってほど判ったから! せめて自分の身を守れる程度にはしないといかん! 最低限、逃げれるように!!
あと、私の魔法は吸引と放出っていう特殊なことをしてるから、誰も教えられないって。……そりゃそーだよね。ザビエルとかも匙を投げてたし。でも強いメイプルですら、バトルレベルがあの夫婦には及ばない。それどころか使用人の誰もかなわないという。……だろうな! 判ってた!
ちなみに鬼畜カテキョのザビエルとステラは仕事が終わったので帰ったという。あの二人は一時的に雇ったチューターだったらしい。なるほどー。ザビエルはともかく、ステラが大人しく帰るとは思わなんだ。あ、でも給金が下がるとかぶちぶち言ってたから、早く帰りたかったのかも知れない。もっと真面目とかマトモというか……あ、これじゃ私がマトモじゃないぽい!? まあでも、物わかりがよくて教育しがいがある子供相手のがいいんだろうな。私じゃダンスが盆踊りになるしな! あの鬼カテキョのおかげで、ちょっとくらいは踊れるようになったけども!
そんなわけで私のスケジュールは自主練の時間を除いて、元通りになった。書庫で読書したり農園で手伝いをしたり厨房で手伝いをしたり……まあ、色々としてたのがフツーに戻ったというか? あ、でも草刈りの効率とかは段違いに良くなったと思う!
魔獣とのバトルの時にブチ切れてたせいか、私は複数の魔法を同時に操れるようになったから。つまり吸引と放出をいくつか同時に出来るようになったってこと。多分だけど、飛びながらウニコンテナを投げたりしたのが良かったぽい。あ、相手の火を吸引してぶっぱしたのも良かったのかな。スカーレットには超怒られたけど!
「だからまあ、おにぎりを握ってるわけデスヨ」
「お嬢様? どうしたんですか?」
隣でご飯をにぎにぎしてたメイプルが不思議そうに言う。だろうな! 心の声がつい口に出ちゃったからね! メイプルには意味が判んないよな!
何で私とメイプルがおにぎりを握ってるかというと、今の厨房は夕食の仕込みと賄いを作るためにてんてこ舞いになっているからだ。しかもこの時間のコックたちは交代で休憩している。最初は私が自分でおにぎり作ると言ったら、スティーブンが発狂しそうな……あれだ。ムンクの叫びみたいな顔になった。でも今の状況と私の交渉で諦めたぽい。今はこっちをチラチラ見つつも賄いを作っている。
転生前世界日本のレストランでバイトしてた時、賄いが美味しかったなあ。しかも賄いって店のメニューにはなかったんだよね。厨房でわざわざ作ってくれてた。あの時はバイトとパートの人数分だけ作れば良かったんだろうけども……。この屋敷の賄いってもの凄い量なのだ。何しろ使用人全員分。もちろん外で働いてる人たちの分も含む。彼らが代わる代わる食べに来るんだけど、それを全て厨房で作ってるんだから大変だ。
それを横目に私たちは呑気におにぎりを握っている。次に行くのが水田だから、おにぎりを持っていくことにしたんだよ。それを知ってる米女子農婦なメアリーや他の農夫は、屋敷の賄いを食べずにお弁当を待ってる。もちろん、私が行く時だけだけども。
大量ににぎにぎしたおにぎりをお弁当箱に入れては吸引していく。出来ればおかずも欲しい、ということで焼き魚も持ってくことにした。塩サバは作れたからね! これがまた、おにぎりに合うんだよ! あ、魚が苦手な人もいるので肉のしぐれ煮……は、まだ無理だから、塩コショウで炒めた肉のおかずを作ってもらった。厨房のストーブ前っていうか、フライパン前? にはさすがに立たせてもらえないからなー。吸引からの合成でもいけるんだけども。ホントは島の外に出た時に作った七輪があるから、田んぼの近くで魚を焼いたりも出来る。けど、七輪の存在は内緒にしてる。メイプルとテオが口を滑らせない限りは大丈夫だろうと思う。そもそも二人とも説明できんだろ、あれは! という訳で口止めはしてるけど、今のとこは放置中。
あと、ベジタリアンっていうか、魚も肉も駄目って人には野菜のおかずを作った……というか、作ってもらった。そろそろ火を使わせてくれてもいいと思うが!? と交渉したんだけど、さすがにそれは駄目、とスティーブンに言われた。あの小心者……もとい、ビビり……もとい……まあ、とにかくそういう性格のスティーブンがそこまで言うなら駄目なんだと思う。
いっそのこと牛とか豚を管理してるホレスのとこ行って、かまどを借りてもいいかな。あそこは冷蔵庫とか色々揃ってるんだよね。ホレスは屋敷まで歩くのめんどいってことで、たまに自炊してるらしい。だからあそこにはやたらと揃ってたのか、と後で知った。あそこなら料理も出来るのかなあ。
悶々としつつおにぎりとおかずを詰めた弁当箱を持っ(吸引し)て、田んぼに向かった。田んぼは屋敷から離れてるので馬車を使っている。今は私が結界を作れるので、雨が降っても問題なし! 便利だよね、結界魔法! 雨を通すようにも出来るんだけども、そういう時は空気以外はシャットアウトである!
そいえば今日もジャスミンがメイプルに食ってかかってたなあ。この二人、どっちが侍女につくかを毎日争ってるんである。昨日までの3日間はジャスミンがついてくれてたんだから、次はメイプルがいいんだが、という私の意見が採用され、ジャスミンは泣く泣く譲ることになった。……なんで主人の私に先に訊かない!? まあ、いいけどさ!
田んぼに辿り着いた私たちは遅めの昼食を摂った。当然、そこで働いてるみんなとである。例外は許さん。お茶ももちろん用意済み。使用人は誰一人逃さん! という私の強い意志を理解したのか、近頃は誰も遠慮しなくなった。というか、長閑な田んぼの前でそんな真似はさせない!
「おにぎり、いつも美味しいですね! あたしの田舎にはなかったんですよ、これ。塩が貴重だったし、こんな風に形があるのに柔らかくすることは出来なくて」
メアリーが嬉しそうに言う。メアリーの田舎では主に粥を食べていたらしい。でも漬け物とかも稀少でほとんど食べられなかったという。たくあん持って来てあげたい! 大根と塩があればいけると思うし、精米の時に糠が出来るから、ぬか漬けでもいいかな。そういうのもメアリーは喜びそう。でも他のみんなはどーだろ。
「お魚も美味しいです!」
「おかずも一緒に食べられるのは嬉しいですね」
口々にそう言いながらみんなが食べてくれる。おお、やはりいつも通りいい反応。近頃はここのみんなは遠慮がなくなってるから、おべっかじゃないことは判る。
「で、メイプルはどーして泣いてるのかと」
「塩味のする魚! これって出先で食べてないんですが!?」
涙を零しながらメイプルが訴える。あ、感激したんじゃなくて、こないだ海水を吸引したとこで食べられなかったと愚痴ってるのか!
「塩サバを作るのはちょっち時間がかかるんだよ! ていうか、泣きながら早食いすんな!」
私がメイプルに突っ込むと、周囲に笑い声が広がった。