冬木の番外次席   作:甘めのコーヒー

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第103話

アインナッシュの中心核。

 

吹雪すら近づけない異界の中心。

 

数百メートル級の巨木が脈動し、無数の眼が開閉を繰り返している。

 

その足元。

 

夥しい死徒の死骸。

 

祖級の残骸。

 

焼け焦げた森。

 

抉れた大地。

 

そして。

 

赤い外套を翻す吸血鬼。

 

黒衣の狂信者。

 

アーカードとアンデルセンが立っていた。

 

その二人へ向かって。

 

雪を踏み締めながらブラッドレイが歩いていく。

 

後方にはシエル。

 

マルグリット。

 

ランスロット。

 

ディルムッド。

 

さらにイスカンダル達も続いていた。

 

ブラッドレイは周囲を見渡した。

 

吹き飛んだ森。

 

巨大なクレーター。

 

十数体を超える上位死徒の死骸。

 

祖級の残骸。

 

そして苦笑した。

 

「まったく」

 

二人が振り向く。

 

「やっと追いついたぞ」

 

静かに双剣を抜く。

 

「アンデルセン」

 

神父の口元が歪む。

 

その瞳には狂気と歓喜。

 

銃剣を両手に握り。

 

「やはり来たなァ、ブラッドレイィ!!」

 

傷だらけ。

 

血まみれ。

 

だが笑っている。

 

まるで戦場そのものを楽しんでいるようだった。

 

「貴様らは、あとで殺す」

 

「お前が早過ぎるんだ」

 

ブラッドレイが即答する。

 

「七回も突撃したそうだな」

 

「八回だ」

 

「増えているな」

 

「イスカリオテの私が止まる訳なかろう」

 

イスカンダルが大笑いした。

 

「ハハハハハハ!!」

 

一方。

 

アーカードは赤い帽子を軽く持ち上げる。

 

「久しいな、キング・ブラッドレイ」

 

「元気そうだな」

 

「実に愉快だ」

 

吸血鬼は笑う。

 

だが。

 

その赤い瞳だけは笑っていなかった。

 

ブラッドレイはすぐに気付く。

 

「厄介か」

 

アーカードはゆっくり振り返った。

 

その先。

 

アインナッシュ中心核。

 

そして。

 

さらにその奥。

 

「ああ」

 

珍しく短い返答だった。

 

「久しぶりに面白い」

 

アンデルセンが笑う。

 

「あれは特上の化け物だ……」

 

「お前が言うな」

 

シエルが呆れる。

 

マルグリットも珍しく笑っていない。

 

ランスロットは剣を構える。

 

ディルムッドの槍先も向けられる。

 

イスカンダル。

 

ギルガメッシュ。

 

切嗣。

 

全員がその方向を見る。

 

そこに居た。

 

いや。

 

そこに”在った”。

 

巨大な繭。

 

直径数十メートル。

 

アインナッシュの根が無数に絡みつき。

 

祖級死徒達がその周囲を守っている。

 

その繭の中から。

 

鼓動。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

森全体が脈動する。

 

アーカードが静かに言う。

 

「森が守っている」

 

アンデルセンが笑う。

 

「祖共もだ」

 

ブラッドレイの究極眼が細くなる。

 

「つまり」

 

アーカードの口元が歪む。

 

「主だ」

 

その瞬間。

 

アインナッシュ全体が震えた。

 

巨大な眼が一斉にこちらを見る。

 

森が怒っている。

 

いや。

 

恐れている。

 

繭の内部。

 

そこから。

 

ゆっくりと。

 

何かが目を覚まそうとしていた。

 

ブラッドレイは双剣を構える。

 

そして。

 

隣に立つ吸血鬼と狂信者を見る。

 

「さて」

 

アーカードが笑う。

 

「フフフフ……」

 

アンデルセンも笑う。

 

「ゲハハハ……!!」

 

その後方。

 

第四次聖杯戦争の生存者達。

 

時計塔。

 

埋葬機関。

 

ハサン達。

 

全員が武器を構える。

 

ブラッドレイは静かに言った。

 

「今度は私達も混ぜてもらうぞ」

 

吹雪が止む。

 

アインナッシュが咆哮する。

 

そして。

 

森の最深部における最後の戦いが始まろうとしていた。

 

アインナッシュの中心部。

 

吹雪は止み。

 

森そのものが静まり返っていた。

 

まるでこれから始まる戦いを理解しているかのように。

 

ランスロットが剣を構える。

 

ディルムッドの双槍が雪を裂く。

 

シエルの黒鍵。

 

マルグリットの処刑槍。

 

イスカンダルの剣。

 

ギルガメッシュの王の財宝。

 

切嗣のコンテンダー。

 

ハサン達の短剣。

 

そして――

 

二人の怪物。

 

アレクサンド・アンデルセン。

 

その両手には無数の祝福された銃剣。

 

白銀の刃が吹雪の中に並ぶ。

 

その瞳には狂信と歓喜。

 

「アァァ……」

 

まるで祈るように。

 

「神の敵だ……」

 

一方。

 

アーカードは静かだった。

 

赤いコートを揺らし。

 

ゆっくりと懐へ手を入れる。

 

まず現れたのは巨大な銀色の拳銃。

 

454カスール。

 

そして。

 

もう片方。

 

漆黒の大型拳銃。

 

長大な銃身。

 

異様な威圧感。

 

人間が扱う事を想定していない質量。

 

ジャッカル。

 

対吸血鬼戦闘用に作られた特製拳銃。

 

その姿を見て。

 

ブラッドレイは僅かに眉を上げた。

 

「その黒い銃は初めて見るな」

 

アーカードが横目で見る。

 

「ほう?」

 

ブラッドレイは苦笑した。

 

「相変わらず化け物みたいな銃を使う」

 

アーカードはゆっくりとジャッカルを持ち上げる。

 

「最近の得物だ」

 

その低い声はどこか楽しげだった。

 

「対吸血鬼用だ」

 

切嗣が思わず銃を見る。

 

「……拳銃か?」

 

アーカードが笑う。

 

「拳銃だ」

 

「いや」

 

切嗣は真顔だった。

 

「それは砲だろう」

 

誰も反論できない。

 

ジャッカルは常人が片手で持つことすら難しい。

 

それをアーカードは片手で軽々と扱っている。

 

イスカンダルが興味深そうに見る。

 

「ほう!」

 

「良い武器だな!」

 

アーカードは笑う。

 

「気に入っている」

 

アンデルセンが鼻を鳴らした。

 

「相変わらず悪趣味な鉄砲だなァ吸血鬼ィ」

 

アーカードが振り向く。

 

「神父の剣山よりは上品だ」

 

「誰が剣山だ!!」

 

「違うのか?」

 

少し考え込んだ

 

「いや、見えんこともないか?」

 

「どっちだ」

 

シエルが頭を押さえる。

 

マルグリットは笑っている。

 

ブラッドレイは溜息を吐いた。

 

「変わらんな君達は」

 

アーカードは帽子を下げた。

 

「そう簡単に変わるものか」

 

アンデルセンも銃剣を構える。

 

「神の敵を、異教徒と化け物共を駆逐するのみ」

 

その言葉に。

 

ブラッドレイは少しだけ笑った。

 

「そうか」

 

そして。

 

双剣を抜く。

 

「ならば私も死ぬまで剣士だ」

 

ランスロットが剣を上げる。

 

ディルムッドも続く。

 

イスカンダルが笑う。

 

ギルガメッシュの背後に黄金の門が開く。

 

そして。

 

その瞬間だった。

 

ドクン。

 

繭が脈打つ。

 

アインナッシュ全体が震える。

 

祖級死徒達が一斉に咆哮する。

 

アーカードの赤い瞳が細くなる。

 

アンデルセンの笑みが深まる。

 

ブラッドレイの究極眼が開く。

 

そして。

 

巨大な繭の表面に。

 

一本の亀裂が走った。

 

何かが。

 

目覚めようとしていた。

 

巨大な繭。

 

その表面を走る亀裂。

 

アインナッシュの森全体が苦痛のような振動を繰り返している。

 

祖級死徒達が低く唸り。

 

雪が舞い上がる。

 

誰もが武器を構えていた。

 

その中で。

 

ブラッドレイはゆっくりと前へ出る。

 

両手に白銀の軍刀。

 

究極眼が戦場の全てを見渡していた。

 

隣にはアーカード。

 

反対側にはアンデルセン。

 

その後ろには第四次聖杯戦争を生き延びた戦友達。

 

時計塔。

 

埋葬機関。

 

ハサン達。

 

本来なら決して並び立つことのない者達だった。

 

ブラッドレイは小さく笑う。

 

「さて、諸君」

 

全員がその背を見る。

 

「死ぬなよ?」

 

静かな言葉だった。

 

しかし。

 

そこにいる誰一人として軽く受け取らなかった。

 

イスカンダルが豪快に笑う。

 

「ハハハハハ!!」

 

「今さらだ、友よ!」

 

ディルムッドは槍を構える。

 

「その言葉、お返しします」

 

ランスロットは静かに剣を掲げた。

 

切嗣も小さく笑う。

 

「君が言うと妙に現実味があるな」

 

ケイネスが鼻を鳴らす。

 

「誰に言っている」

 

時臣も静かに頷く。

 

凛は少し緊張した顔をしている。

 

ウェイバーは深呼吸する。

 

シエルは黒鍵を握り直した。

 

「了解です」

 

マルグリットは柔らかく微笑む。

 

「ふふふ、今更よね?」

 

そして。

 

アーカード。

 

赤い吸血鬼は口元を吊り上げる。

 

「フフフ……」

 

ジャッカルを肩に乗せる。

 

「人間に心配されるとはな」

 

ブラッドレイが横を見る。

 

「不満か?」

 

「いや」

 

アーカードは笑う。

 

「悪くない」

 

そして。

 

アンデルセン。

 

神父は大量の銃剣を両手に握りしめ。

 

狂気じみた笑みを浮かべた。

 

「死ぬ訳無かろう」

 

低い声。

 

「まだ貴様らを殺していない」

 

ブラッドレイは呆れたように笑う。

 

「相変わらずだな」

 

「次は逃がさんぞォ……!」

 

「まずは目の前を片付けろ」

 

その瞬間。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

繭の鼓動が速くなる。

 

アインナッシュが悲鳴を上げる。

 

祖級死徒達が咆哮する。

 

空気が変わった。

 

アーカードの笑みが消える。

 

アンデルセンの目が細くなる。

 

シエルが息を呑む。

 

ナルバレックも表情を険しくした。

 

そして。

 

巨大な繭が完全に裂ける。

 

眩い光。

 

森全体を揺るがす咆哮。

 

世界そのものが震えた。

 

その直前。

 

ブラッドレイは双剣を構え。

 

最後に戦友達へ言った。

 

「では――」

 

究極眼が開く。

 

「久しぶりの共闘だ」

 

その言葉に。

 

第四次聖杯戦争を生き延びた者達は。

 

かつてと同じように。

 

肩を並べて前を向いた。

 

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