孫悟空でボスラッシュ! ――希望のなき世界に、希望になり得るか――   作:Henon

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第9話

 

中央通りへ続く外縁道路では、まだ残存するレッドリボン軍の部隊が抵抗を続けていた。

 

車を横倒しにして作った簡易バリケード。

ビルの二階、三階に配置された銃座群。

 

中心部へ向かう通路を塞ぐには、十分すぎる布陣だった。

 

だが、その鉄壁の防衛線は、すでに崩れ始めていた。

 

「撃てッ!近づけるな!」

 

兵士たちが一斉に引き金を引く。

銃声が道路に跳ね返り、火線が二人へ向かって伸びる。

 

しかし、当たらない。

 

白と緑の影が、銃弾の隙間を縫うように前へ進んだ。

少女の足運びは静かだが、速い。

 

路面を蹴ったと思った次の瞬間には、すでに別の位置にいる。

 

銃口が追いつかないのだ。

 

「銃が当たらないッ!」

 

「クソッ、こいつら……上位のヒーローかッ!」

 

兵士の叫びに答えるように、少女の刀が走った。

 

「あっ!」

 

ーー刃は人を斬らない。

 

銃身だけを断ち、構えた腕の力を逸らし、踏み込んだ勢いのまま峰で胴を打つ。

 

「ぐぇっ……!」

 

兵士が息を詰まらせ、膝をつく。

 

骨を砕くほどではない。けれど、立ち上がってもう一度銃を向けることはできないだろう。

 

少女は一瞬だけその兵士を見下ろし、すぐに次へ向かった。

 

迷いはあった。

 

人を相手にしているという重さは、まだ手に残っている。

 

だが、その迷いで足を止めることはなかった。

その横を、覆面の男が軽く駆け抜ける。

 

「こっちにもいるぞ!」

 

兵士の叫びに、銃口が一斉に振られた。

だが、その先にいたのは一人ではなかった。

 

右にも、左にも…さらに瓦礫の上にも。

 

同じ姿の男が、いくつも同時に動いている。

 

「どれが本物だ!」

 

「撃て!撃てぇ!」

 

混乱した銃声が散る。

 

兵士たちは必死に引き金を引いた。火線が煙を裂き、道路の瓦礫を砕き、壁面に穴を穿つ。

 

当たらない。

 

撃ったと思った瞬間、次の瞬間には兵士達の懐へ踏み込んでいる。

 

「あっ……!」

 

短い打撃。

兵士達が膝から崩れ落ちる。

 

兵士たちが、武器を失って次々と倒されていく。

道路は制圧されつつあった。

 

「このまま行けば!」

 

少女は走りながら叫ぶ。

 

「敵の防衛線を突破できます!」

 

「油断は禁物!」

 

覆面の男は、いつもの調子より少し低い声で返した。

 

「こういう時ほど、嫌な手が残ってるものだからね」

 

その二人を、遠く離れたビルの上から見ている兵士がいた。

 

狙撃手だ。

 

彼は崩れかけた看板の陰に身を伏せ、スコープ越しに道路を見下ろしていた。照準の中で、二人の影があり得ない速度で動いている。

 

速すぎる。

 

兵士の群れの中を抜ける少女。

煙の中に消えては別の場所に現れる覆面の男。

 

銃口が向いた瞬間には、もうそこにいない。

 

狙撃手の額に汗が滲んだ。

 

「くそッ……」

 

照準を合わせる。

しかし、あまりにも速い移動で照準が追いつかない。

 

「人間のスピードじゃねえだろうが……!」

 

それでも、狙撃手は引き金に指をかけた。

狙うべきは『奴ら』ではない。

 

速すぎる相手を直接撃つのは確かに難しい。

 

ならば、当たるように仕向ければいい。

 

彼は道路の先、崩れた歩道の近くに目を向けた。そこには、逃げ遅れた市民が数人、壊れた車両の陰に身を寄せている。

 

狙撃手の目が細くなる。

 

ヒーローは、人を守る。

 

ならば、守らせればいい。

 

銃口が、市民の方へわずかにずれた。

 

ーーその瞬間。

 

「コラ」

 

声がした。

狙撃手の背筋が凍る。

 

振り返る間もなく、屋上の床に影が落ちた。

 

覆面の男が、いつの間にか背後に立っていたのだ。

 

「無抵抗の市民を狙っちゃダメでしょ」

 

「な――」

 

狙撃手が振り向こうとする前に、男の手刀が首筋へ入った。

 

狙撃手は声も出せずに崩れ落ちる。

ライフルが屋上に転がり、金属音を立てた。

 

男はそれを足で遠ざけ、下の道路へ視線を向ける。

 

本体と少女は、ちょうど最後の銃座を制圧しているようだ。

 

最後の峰打ちが決まり、兵士が膝から崩れる。

 

少女は息を整えながら、周囲を確認する。

 

敵兵は倒れているが、死んではいない。

逃げ遅れた市民も無事だ。

 

少女は小さく息を吐いた。

 

「…ふぅ…殺さずに、止められた」

 

その声は、自分に言い聞かせるようでもあった。

 

「お、さすがだねェ」

 

「ま、まだ終わっていません!」

 

二人は駆け出した。

突破した防衛線の向こうへ。

 

ーー

 

防衛線が崩れつつある。

 

銃座は沈黙し、道路に伏せていた兵士たちは次々に武器を失っていく。少女の峰打ちは正確で、覆面の男の動きは煙のように掴めない。

 

兵士たちの間に、恐怖が広がり始めていた。

 

「くそッ、止めろ!止めろォ!」

 

隊長格の兵士が叫ぶ。

その声に応じるように、後方で重い金属音が響いた。

 

横倒しになった車の向こうで、まだ無事だった戦車が砲塔を旋回させる。

 

「戦車!奴らを吹き飛ばせッ!」

 

砲身が、走る二人へ向く。

 

2人はそれに気付きながらも瓦礫の間を縫うように、なおも速度を上げる。砲塔の旋回が追いつかない。だが、戦車は強引に狙いを合わせた。

 

砲声。

 

空気が裂けた。

 

砲弾が、道路を抉るような勢いで飛んでくる。

少女が刀へ手をかけるより早く、覆面の男が前に出た。

 

指が印を結ぶ。

 

「土遁――土流壁!」

 

道路が隆起した。

 

砕けたアスファルトを突き破り、土と瓦礫を巻き込んだ壁が二人の前にせり上がる。

 

直後、砲弾が土壁に突き刺さった。

 

土とコンクリート片が吹き飛び、視界が煙で塞がれる。

だが、その煙の中から、白と緑の影が跳び上がった。

 

少女だ。

 

盛り上がった土塊は防壁であると同時に、足場でもあったのだ。

彼女は崩れかけた壁面を蹴り、戦車の真上へ舞い上がる。

 

兵士たちが見上げた。

 

「なっ……!」

 

少女の二本の刀が抜かれる。

白刃が、煙の中で冷たく光った。

 

「断命剣――冥想斬!」

 

緑色の刃が走った。

分厚い鋼鉄の砲身に、細い線が入る。

 

一瞬遅れて、砲身の先端がずるりと滑り落ちた。

 

重い金属音が道路に響く。

 

「砲身がッ!」

 

「馬鹿な、斬っただと!?」

 

混乱する兵士たちの横で、覆面の男が煙の中から駆け抜けた。

その右手に、青白い光が集まっている。

 

鳥の鳴き声にも似た甲高い音が、瓦礫だらけの道路に響いた。

 

「ーー雷切!」

 

次の瞬間、青白い閃光が戦車の側面を走った。

 

装甲板が裂け、重い車体が傾く。

履帯が外れ、やがて戦車は金属の悲鳴を上げながら停止した。

 

「ば、化け物だ……」

 

「戦車が……戦車が一瞬で……」

 

「無理だ!こんなの相手にできねえよ!」

 

誰かが銃を落とした。

それを合図に、恐怖が一気に広がる。

 

兵士たちは後ずさり、やがて完全に背を向けて走り出した。

 

「退けッ!退けぇ!」

 

「あんまりだぁ!」

 

「A級ってこんな連中なのかよォ!」

 

士気がたった今崩壊した。

 

潰走だった。

 

2人は逃げていく兵士たちを追わなかった。

 

代わりに、倒れた者や逃げ遅れた市民の位置を確認する。巻き込まれた者はいない。

 

戦車の乗員も、外へ這い出てきている。恐怖で顔を歪めてはいるが、生きているようだ。

 

覆面の男が、壊れた戦車を一瞥する。

 

「よし。突破口は開いたね」

 

少女は二本の刀を鞘に戻しながら、中央通りの方を見た。

黒煙の奥で、まだ大きな衝撃が走っている。

 

遠くの窓ガラスが一斉に震え、空が低く唸った。

 

「急ぎましょう」

 

「いや…ここで最後の締めをしよう。」

 

路地裏に逃げ込む影を睨みながら覆面の男は低く声を返した。

 

ーー

 

司令官は、壊れた車両の陰へ逃げ込もうとしていた。

 

だが、その足は途中で止まることになる。

首筋に、冷たいものが触れたからだ。

 

ーークナイだ。

 

いつの間に回り込まれたのか、覆面の男が背後に立ち、それを首筋に当てていた。声はいつも通り軽い。少し力を入れれば、容易に首をきられるだろう。

 

「……終わりだ」

 

男の冷淡な声に、司令官の喉が小さく鳴った。

 

背中越しに、男の気配がする。

殺気はない。だが…逃がす気もないのだろう。

その中途半端な優しさが、かえって恐ろしかった。

 

「ッ……さすがは、A級ヒーローと言ったところか」

 

司令官は、唇を歪めて言った。

その声には、敗北を悟った者の恐怖とは別の、妙な余裕が混じっていた。

 

覆面の男は、その言葉に含まれた余裕を見逃さなかった。。

 

「…犯行動機は後で聞くとして」

 

彼はクナイを突きつけたまま、静かに問う。

 

「…最後にひとつ聞きたい。なぜ、勝てる見込みのないことをした?」

 

司令官の目が、わずかに動いた。

 

「……何?」

 

「この程度じゃ、複数のA級ヒーローを同時に相手取るのは無理がある。いや、相手によっては一人でも制圧される恐れがあったはずだ」

 

男の声は淡々としていた。

 

「なのに、都市侵攻を仕掛けた。しかも、ヒーロー協会の支部がある街にな。…ま、普通なら…勝算がなければやらない」

 

司令官は黙っていた。

だが、その肩が小さく震え始める。

 

恐怖ではない。

 

ーー笑っている。

 

「……まさか」

 

司令官は、喉の奥で笑った。

 

「勝ったつもりか?」

 

男の目が細くなる。

少し離れた場所で、少女もその言葉に反応した。

 

彼女は倒れた兵士たちを確認していたが、司令官の声に振り返った。

手は刀の柄にかかっている。

 

「何……?」

 

覆面の男が低く聞き返した。

司令官は、ゆっくりと顔だけを横へ向けた。

 

クナイを突きつけられているにもかかわらず、その表情には嫌な笑みが浮かんでいた。

 

「お前たちは、死ぬ」

 

その言葉は、あまりにも静かだった。

 

「この都市も、じきに吹き飛ぶだろう。」

 

少女の表情が強張った。

 

「…どういう意味ですか」

 

司令官は答えず、笑みを深める。

 

「将軍が『切り札』を出したのだ」

 

「切り札……?」

 

覆面の男の声から、わずかに軽さが消えた。

 

「ああ」

 

司令官は誇るように言った。

 

「我がレッドリボン軍の切り札をな」

 

その名が出た瞬間。

覆面の男の指が、わずかに止まった。

 

少女はその男の変化を見逃さなかった。

 

「レッド、リボン軍……」

 

男が小さく呟く。

 

その声には、単なる敵組織名を聞いた時の反応だけでない。

 

知っている。

だが、ありえない…そんなはずがないと言う感情。

 

そんな歪んだ感覚が、彼の中をかすめた。

 

司令官は、その一瞬を見た。

隙ができたと思ったのだろう。

 

腰のホルスターに残っていた小型拳銃へ、指が伸びる。

 

敵の変化に少女が気付き、声を荒げる

 

「カカシさん!!」

 

銃声が響いた。

 

至近距離。避けようがない。

司令官が勝利を確信し、その顔を歪ませた時であった

 

覆面の男の身体が、司令官の目の前で揺らぐ。

撃ち抜いたはずの影が、煙のように崩れた。

 

「なッ……!」

 

司令官の目が見開かれる。

次の瞬間、背後から声がした。

 

「…やめとおけ」

 

司令官の背筋が凍った。

振り返るより早く、再び首筋にクナイが触れる。

 

覆面の男は、また司令官の背後に立っていたのだ。

先ほどと同じように。

 

だが、先ほどと違う点があるとすれば…

 

その片目が違っていた。

 

普段は布で隠されている左目。

ずらされ、露出した赤い瞳が、静かに光っている。

 

黒い巴の模様が、ゆっくりと回っていた。

 

司令官は、声を失う。

 

「お前……何を……」

 

「…悪いが、言うつもりはない」

 

男の声は、いつもの軽さを残していた。

司令官の膝が震えた。

 

今、確かに隙を突いたはずだった。

弾が奴の体を貫いたはず。

 

「…レッドリボン軍、ね」

 

男は低く呟く。

その名を口にした時だけ、声の奥にわずかな重さが混じった。

 

「やっぱり、ただの武装組織じゃなかったか…」

 

司令官は歯を食いしばった。

 

「貴様らがいくら対応したとしても……もう遅い」

 

「遅いかどうかは、こっちで決めるよ」

 

男の手刀が、司令官の首筋へ入った。

司令官の意識が落ちる。

 

身体が崩れかける前に、男は襟を掴み、乱暴すぎない程度に地面へ寝かせた。

 

少女が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だよ」

 

男は額当てを戻しながら答えた。

 

「…ちょっと嫌な名前を聞いちゃったからね…」

 

「?」

 

それから数分後。

 

ーー治安部隊が到着した。

 

息を切らした隊員たちが、壊れたバリケードの向こうから駆け込んでくる。彼らの顔には疲労と混乱が浮かんでいたが、それでも動きは早かった。

 

覆面の男は、気絶した司令官の襟を掴んだまま、近づいてきた隊員へ視線を向ける。

 

「こいつが指揮官みたい。拘束、お願いできる?」

 

治安部隊員は一瞬、倒れている司令官を見て、それから覆面の男を見た。

 

「…了解しました。身柄はこちらで預かります」

 

隊員たちが司令官の腕を縛り、武器を取り上げる。別の隊員は、降伏したレッドリボン軍兵士たちを集め、負傷者と市民を分けて誘導していた。

 

少女はその様子を見つめていた。

 

敵兵たちは、もう抵抗する気力を失っている。さっきまで銃を撃っていた者たちが、今は治安部隊の指示に従っているようだ。

 

「……大丈夫ですか?」

 

彼女は、隣の男へ声をかけた。

 

「うん。平気」

 

そう言った声は、いつもと違うような気がして少女は眉を寄せる。

彼は、まだ中央通りの方を見ていた。

 

黒煙が渦巻く先。時折、白い閃光が見え、遅れて空気が低く震える。通常の爆発音ではない。もっと重い衝撃波のような音。空間そのものの芯を叩いているような衝撃だ。

 

男は、心の中で先ほどの言葉を反芻していた。

 

ーーレッドリボン軍。

 

(…ありえない。)

 

確かに、この世界には転生というイレギュラーがある。

自分や少女がそうだ。

 

他にも、別の力を持つ者、別の物語の姿を得た者たちが多数いる。

 

それ自体は、もう受け入れるしかなかった。

 

だが、『別作品の敵』まで現れるとなれば話が違う。

しかも、よりにもよってレッドリボン軍だ。

 

あの作品において、後の災厄へ繋がるの源流。

 

もし、本物なら。

 

もし、この世界に本当にあの作品の因果が流れ込んでいるのなら。

 

ーー次は何が出てくる?

 

男は奥歯を噛んだ。

 

考えすぎだ、と自分に言い聞かせる。

まだ何も確定していない。

 

名前が同じだけかもしれない。

 

誰か転生者が知識を利用して、組織名を借りただけかもしれない。

司令官がこちらを動揺させるために、わざとそれらしい言葉を使っただけかもしれない。

 

だが、いくら仮説をだしても、胸のざわつきは消えなかった。

 

(いや…この世界は、そういう楽観を何度も裏切ってきた…)

 

そもそも最後の抑止力である彼がはいないのだ。

 

原作通りにいく保証など、どこにもない。

現に、原作にいないはずの敵が街を焼いている。

 

だったら…

 

男の思考が、さらに悪い方へ沈みかける。

 

もし奴らが…曲がりなりも本物だったら…この先、どれだけのものが来る?

 

「……カカシさん」

 

少女の声で、男は現実へ引き戻された。

彼女はじっとこちらを見ていた。

 

その目は不安げだったが、先ほどまで、人を相手にすることに震えていた少女とは違う。

 

「今は…考え込んでいる場合ではありません」

 

「……そうだね」

 

男は息を吐く。

額当てを戻し、左目を隠した。

 

赤い瞳の感覚が、まだ奥に残っている。

 

「中央通りへ向かおう。さっきの司令官が言ってた切り札が本当なら、急がないとまずい」

 

「はい」

 

少女は頷いた。

それと同時に治安部隊員が声を上げる。

 

「この先、まだ敵の第二防衛線があります!装甲車両と歩兵が残っているとの報告です!」

 

男は軽く手を振った。

 

「了解。俺たちで防衛線を突破するよ」

 

「え…あの、支援は?」

 

「市民の避難を優先して。出来るだけ足を止めたくない」

 

隊員は一瞬迷ったが、すぐに頷いた。

 

「…了解しました。」

 

男と少女は同時に走り出した。

 

砕けた道路を蹴り、倒れた車両を飛び越え、まだ煙の残る外縁道路を駆ける。

 

前方には、さらに濃い黒煙。

その向こうに、次の防衛線がある。

 

「次の防衛線を突破すれば、ヒーロー協会支部に繋がる中央通りです!」

 

「…一気に崩すぞ!」

 

ーーその時だった。空が白く光った。

 

一瞬、夕暮れの街が昼間のように照らされる。

二人の影が、道路にくっきりと伸びた。

 

「ッ――!!」

 

次の瞬間、凄まじい衝撃が走った。

音よりも先に、圧力が来たのだ。

 

胸を殴られたような重さが全身を貫き、道路脇の割れ残っていた窓ガラスが一斉に砕け散る。瓦礫が跳ね、倒れていた標識がさらに折れ、煙が押し流されるように渦を巻いた。

 

少女は咄嗟に足を止め、刀の柄を握る。

男も片膝を沈め、風圧に耐えた。

 

遠くの空で、巨大な爆発の残光が膨らんでいる。

 

遠い空の上だと言うのにその衝撃波で街全体が震えていた。

 

それを見た少女が呆然と呟く。

 

「……今のは……」

 

男は答えられなかった。

あれがもし、街の上で炸裂していたら。

 

ここにいる誰もが一瞬でーー

 

男の額に、冷たい汗が滲んだ。

 

「急ぐぞ」

 

その声には、もう軽さは一切なかった。

少女は無言で頷く。

 

二人は再び走り出した。

 

黒煙の奥へ。

たった今、都市を消し飛ばしかねない何かが放たれた、その戦場へ。

 

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