ちょっとバーバラにTSしてオリジナル異世界に行く短編SSを出したくなりまして

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バーバラTS異世界転移

 異世界に来て一ヶ月が過ぎた。

 

 

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 だから何かが起きたかと言われると、別に何も起きていない。魔王の気配もなければ、王女に見初められたわけでもないし、神託めいた声すら聞いていない。私――いまはドラクエⅥの登場人物の名を借りてバーバラと名乗っている――は、今日も宿の小さな部屋で目を覚ました。藁の匂いが少し残る寝台から体を起こす。窓の外は薄曇りで、石畳の道を荷車がゆっくり通っていく音がする。

 

 

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 寝ぼけたまま胸元を見下ろえて、私は毎朝のように、あるな、と思う。何度確認しても、ちゃんとある。柔らかくて、重くて、寝返りを打つと存在を主張してくる胸。細い腰。広めの尻。肌はやたら白いし、腕も脚もすらりとしている。令和の日本でくたびれた顔の会社員をやっていた私の面影は、どこにもない。鏡を見れば、オレンジ色の髪の、いかにもアニメっぽい顔立ちの女がこちらを見返してくる。大きな紫の目まできらきらしていて、最初の数日は落ち着かなかったが、いまはもう慣れた。いや、慣れたというより、受け入れた、のほうが近いかもしれない。

 

 受け入れた理由は単純だ。元に戻る方法が分からないからではない。前の自分に、そこまで強い未練がないからだ。

 

 社会人十年目。恋人なし。職場と家を往復して、休日は動画とゲームと漫画で終わる生活。別に不幸だと言うつもりはないけれど、胸を張って大事だったとも言えなかった。だから、気がつけば異世界にいて、見た目まで別人の女になっていたとき、私は案外あっさり現実を飲み込んだ。怖さがまったくなかったわけじゃない。でもそれ以上に、「じゃあ、この見た目で生きていくのもありか」と思ってしまったのだ。元の世界に対して薄情なのかもしれないが、もともとの私がそれだけ軽かったのだろう。

 

 

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 普段着姿のまま、私は立ち上がる。服はバーバラそのままなのに、毎日色が変わる不思議な下着は今日は淡い水色だった。昨日は赤、その前は黄色。最初は魔法のバグか何かかと思ったが、どうやらこの服一式の仕様らしい。青いワンピースも、茶色のベルトも、赤と青のリバーシブルマントも、全部まとめて妙な便利さがある。汚れは勝手に落ちるし、ほつれも時間が経てば戻る。着ていると妙に疲れにくく、擦り傷くらいなら気づいたときには治っている。鑑定のできる道具屋の老婆いわく、かなり上等な守護付きの魔法衣だそうだ。異世界転移のおまけにしては破格すぎるが、くれた相手がいない以上、気にしても仕方がない。

 

 顔を洗い、髪を整え、ワンピースを着る。頭上で髪をまとめるのも、もう手慣れたものだった。最初の頃は腕を上げるたび胸が揺れて気が散ったし、腰のくびれに布が沿う感覚にもいちいち落ち着かなかったが、人間の慣れは早い。見た目が可憐だからかもしれない。実際には剣は振れないし、殴り合いもしたくない。ただ、炎の魔法が使える。そこだけはこの身体になってからの強みだった。

 

 

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 指先に意識を集めると、小さな火が灯る。最初はライター程度の火しか出せなかったのに、一ヶ月で焚き火を起こすくらいなら余裕になった。細く伸ばして蝋燭に火を移すこともできるし、瞬間的に火球を飛ばすこともできる。威力は高いが、街中でやれば普通に怒られる。だから練習は街の外だ。ゲーム知識で、火力職っぽいなと思っていたけれど、現実にやるとMPバーなんて見えないので、疲労と集中力で管理するしかない。そこは少し不便だった。

 

 

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 宿の一階に降りると、女将がもうパンとスープを並べていた。

 

「おはよう、バーバラ。今日は早いね」

 

「おはようございます。依頼、いいのが残ってるといいんですけど」

 

「贅沢言えるようになったもんだよ。一週間前まで薬草採りで膝を泥だらけにしてたくせに」

 

「今でもしますよ、泥だらけ」

 

 

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 そう言うと女将は笑った。ここ、魔法の竈亭は、冒険者向けにしては清潔な宿だ。床には毎朝、掃除用の魔道具を転がしているらしく、埃が少ない。風呂も一日に一度は使える。中世風の世界だと覚悟していたぶん、この生活水準はありがたかった。中年ヨーロッパ(暗黒時代じゃない時期)めいた町並みのくせに、妙なところだけ便利なのである。

 

 

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 朝食を終え、ギルドへ向かう。石造りの建物に入ると、酒と革と紙の匂いが混ざった空気が鼻についた。昼前だというのに、もう何人かは飲んでいる。男はだいたいスケベ、というこの世界の雑な傾向は、残念ながら実感として正しい。私が入ると視線が何本か寄ってくる。胸や脚に向く視線は、分かる。分かるけれど、いちいち腹を立ててもきりがない。しかも私は元男だから、ああいう視線の単純さがわりと手に取るように分かる。下品だなと思う一方で、頭の中身まで大差ないのも知っているので、妙に冷めてしまうのだ。

 

 ただ、冷めていても面倒は面倒だ。だから私は、笑って受け流すやり方を覚えた。必要なら少し距離を詰めて、必要以上には近づかせない。声を柔らかくして、線は越えさせない。元の私なら絶対できなかった対人処世を、いまの私はこの身体でやっている。女になって得たものがあるとすれば、美貌や魔法だけじゃなく、その場の空気を読む切り替えの速さかもしれなかった。

 

 

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 依頼板の前で、私は紙を見比べる。荷運び、薬草採取、下水路の清掃補助、農地を荒らす野ウサギの駆除。派手さはない。けれど、こういうののほうが日銭になるし、怪我しにくい。私は少し迷って、火魔法使い向けの、近郊の果樹園で発生した「火を怖がらない虫」の駆除依頼を剥がした。名前からして嫌な予感しかしないが、報酬は悪くない。

 

「おっ、バーバラじゃないか。今日は何だ?」

 

 横から声をかけてきたのは、受付嬢のミレナだ。栗色の髪をきっちり結った、仕事のできる女という感じの人で、転移して間もない私にいろいろ教えてくれた恩人でもある。

 

「果樹園の虫退治です。火を怖がらない虫って、火魔法使いにやらせる依頼なんですか?」

 

「だからこそ、だよ。魔力の火に耐性があって、その熱と煙から魔素を吸収するために飛び出て来る種族なの。氷や風には反応しないから場所が分からない。あと巣を見つけたら、焼くんじゃなくてギルドに報告。ちゃんと、駆除班が根絶しないと厄介なことになる連中だからね。前に丸ごと燃やそうとして、木と畑まで延焼して、さらに巣穴の虫が全部飛び出して来て果樹園主に泣かれた魔術師がいる」

 

「もう少し魔力が高いなら、私でもやりそう」

 

「やりそうじゃなくて、やっちゃいけないの」

 

 私は笑って依頼票を差し出した。ミレナは手早く手続きを済ませる。その横で、初老の冒険者がこちらのミニの裾をちらちら見ていたが、私は気づかないふりをした。正面から受けるほどの価値もない視線だった。

 

 

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 町の外へ出る道を歩きながら、私は少しだけ、自分の脚に見とれた。細い。よく動く。丈の短いワンピースの裾から伸びる脚は、正直かなりきれいだ。自分で見てもそう思うのだから、他人が見るのも仕方がないのかもしれない。問題は、その視線の大半が品のない方向を向くことだが、この世界の男にそこまで期待するのも間違いだろう。私はマントを軽く引き寄せ、歩幅を少し広げた。身体の重心は、前より低いようで高い。胸と腰と尻のせいで、動き方が少し変わる。走るときの揺れも無視できない。でも、一ヶ月も付き合えば、この身体はもう借り物という感じがしない。

 

 

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 果樹園では、依頼主の老人が疲れた顔で待っていた。案内された木の根元には、甲虫のような虫が群れていた。黒くて、艶があって、サイズが嫌に大きい。日本にいた頃なら悲鳴を上げて逃げていたが、ここではそうも言っていられない。

 

「焼きすぎないでくれよ、お嬢さん」

 

「分かってます。煙で追って、巣を探します」

 

 

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 私は掌に熱を集める。赤い火ではなく、空気を歪ませるような乾いた熱。枯れ草だけを軽く燻らせ、虫を散らす。逃げ散った虫の行く先を見れば、巧妙にカモフラージュされた土の窪みに穴がいくつもある。なるほど、こいつらは木そのものじゃなく、根元に巣くっていたらしい。

 

 

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 私は老人に場所を示し、ギルド用の目印杭を立てた。巣の処理は専門の班が来る。地味な仕事だ。でも、仕事というのはこういうので十分だった。

 

 

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 その後、魔法の熱と煙に惹かれた虫が一斉に巣穴から飛び出て来たので、準備していた老人と一緒に果樹園から逃げ出した。

 簡単で報酬が高い仕事には理由が付き物だ。

 あとはギルドの駆除依頼を受ける冒険者に任せよう。

 

 

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 帰り道、手のひらにはまだ熱が残っていた。魔法を使ったあとの感覚は、パソコン仕事で指先がじんわりするのに少し似ている。懐かしいような、もう遠いような感覚だ。会社のデスク、昼休みのコンビニ飯、上司の雑なチャット、月曜の重さ。いま思い出しても、鮮明なのに現実味がない。前の人生が夢だったとは思わない。でも、こちらの生活も、もう十分に現実だった。

 

 

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 町へ戻ると、広場で大道芸人が芸をしていた。子どもたちが笑い、露店では串焼きの匂いが立っている。パン屋の娘が私に手を振る。先週、店のかまどの火が弱くなったとき、少しだけ手伝ったから顔を覚えられたのだ。私は軽く手を振り返し、そのままギルドへ報告に戻る。英雄にはならない。伝説も始まらない。だけど、顔見知りが増えて、明日の仕事を考えて、夕方になれば腹が減る。この程度の確かさなら、前の世界でも欲しかった気がする。

 

 報告を終えたあと、ミレナが報酬袋を机越しに滑らせてきた。

 

「偵察だけで終わらせるとは手堅いわね、相変わらず」

 

「面倒は避けたいので」

 

「賢明。若い子ほど派手なのを選びたがるから」

 

「私は若く見えるだけで、中身はわりとくたびれてるんです」

 

「何それ」

 

 言ってから、自分で少し可笑しくなった。見た目はどう考えても十代半ば。肌も髪もつやつやで、曲がり角の気配すら出ない。けれど中身は、会議と納期と微妙な人間関係をくぐってきた三十代手前の会社員だ。その妙なちぐはぐさが、最近はかえって都合がよかった。甘く見られた顔で、慎重な判断ができる。見た目の印象と中身のずれは、武器になる。

 

 

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 夕方、宿に戻って部屋に入る。マントを外し、ベルトを解く。鏡の前で立ち止まると、今日の私は少しだけ頬が赤かった。外を歩いたせいか、魔法を使ったせいか。ワンピースの布越しに身体の線が見える。こんな身体になって一ヶ月、私はまだ自分を見飽きていない。指先で鎖骨をなぞり、腰のくびれに触れ、胸の重さを確かめる。そのたびに、知らない女の身体を借りているような、不思議な親しさが胸の奥を撫でる。興味津々、という言葉がいちばん近い。恥ずかしさはもう薄い。これは私の身体で、私はこの身体の使い方を覚えていく途中なのだ。

 

 窓の外は、もう橙色だった。通りの向こうで鐘が鳴る。明日はたぶん、薬草採りか荷運びだろう。もしかしたら、また面倒な男に絡まれるかもしれない。新しい魔法を開発したり、試したりする時間も欲しい。金も要るし、日用品もそろそろ手に入れたい。

 考えることはあまりにも小さい。世界の秘密にも、転移の理由にも、まだ手は届かない。

 

 でも、それで困ってはいなかった。

 

 私は寝台に腰を下ろし、報酬袋の中身を数える。銀貨の重みは分かりやすい。働けば食べていける。食べていけるなら、明日も起きる。令和の日本でも、結局はそういう理屈で生きていた。世界が変わって、身体が変わって、名前まで変わっても、そのあたりだけは驚くほど変わらない。

 

 

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 だから今日も、壮大な何かは始まらない。

 

 始まらないまま、私はたぶん、そこそこ元気に暮らしていける。

 

 何も考えず、流されるままに。

 それがいまのところ、いちばん都合がよかった。

 

 

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主人公の性格的に絶対しない全力ダッシュ+笑顔

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