新世界の海は荒れていた。
空は黒く、波は山のように高い。
雷が海面を叩き、巨大な海王類が水中を横切る。
その荒海を、一隻の海賊船が進んでいた。
サニー号。
麦わらの一味の船である。
「うっひゃあああ! 波でけぇー!」
ルフィは船首にしがみつきながら笑っていた。
ナミは必死で航路を読む。
「笑ってる場合じゃないでしょ! 帆を調整して! フランキー、右舷の波くる!」
「任せろ、スーパー!」
フランキーが舵を切り、ジンベエが的確に船を流れへ乗せる。
ゾロは甲板で寝ようとしていたが、巨大な波を見て片目を開けた。
「騒がしいな」
サンジが叫ぶ。
「寝てる場合かマリモ! ナミさんが困ってんだろ!」
「お前がうるせぇんだ、ぐる眉」
ウソップはマストにしがみついて泣いていた。
「俺はもうダメだ! 新世界の天気、絶対ふざけてる!」
チョッパーも震えている。
「海が山みたいだぁ!」
ロビンは静かに空を見上げた。
「……何か、落ちてくるわ」
「え?」
全員が空を見た。
黒雲の裂け目から、ひとつの光が降ってくる。
星のように。
雷のように。
いや。
人だった。
巨大な人影が、空から海へ向かって落ちてくる。
ルフィの目が輝いた。
「人だ!」
ナミが叫ぶ。
「いや人が空から落ちてくる状況を普通に受け入れないで!」
その人影は、サニー号の目の前の海へ落下した。
轟音。
海面が爆発したように盛り上がる。
サニー号が大きく揺れた。
「ぎゃああああ!」
ウソップが転がる。
ジンベエが目を細めた。
「今の落下……ただ者ではないのう」
ルフィはすでに身を乗り出していた。
「助けるぞ!」
「ちょっと待ちなさい! 相手が敵かもしれないでしょ!」
「でも沈んでる!」
ルフィが腕を伸ばそうとした瞬間。
海面が割れた。
巨大な影が、水柱の中から立ち上がる。
濡れた髪。
鋼のような肉体。
傷だらけの身体。
その男は、まるで海そのものを押し退けるように立っていた。
普通、人は海の上に立てない。
だがその男は、沈まない。
覇気にも似た異様な闘気が、海面を押し返しているようだった。
ゾロの手が刀へ伸びる。
サンジも煙草を噛んだ。
ジンベエの表情が険しくなる。
「お主……何者じゃ」
男は静かに顔を上げた。
その眼光だけで、空気が変わった。
ルフィがにやりと笑う。
「すげぇな、お前!」
男は低く答えた。
「我が名はラオウ」
雷鳴が鳴った。
「世に覇を唱えし拳王なり」
サニー号の上に沈黙が落ちる。
ウソップが震えた。
「け……拳王……?」
ブルックがカタカタ震える。
「ヨホホホ……私、骨なのに鳥肌が……骨だけに!」
誰も笑わなかった。
ラオウは海を見渡し、空を見た。
「ここは……荒野ではないな」
ルフィは笑いながら手を伸ばした。
「お前、船乗るか?」
ナミが叫ぶ。
「誘うの早すぎ!」
ラオウはルフィを見た。
その瞬間、ルフィは少しだけ目を細めた。
重い。
この男の気配は、今まで会った誰とも違う。
カイドウのような怪物性。
ビッグ・マムのような理不尽さ。
だが、それだけではない。
どこか、終わったはずの男の哀しみがある。
ラオウもまた、ルフィを見ていた。
「貴様……王の目をしている」
ルフィは首を傾げた。
「王?」
「己の道を誰にも譲らぬ目だ」
ルフィはにっと笑った。
「おれは海賊王になる男だ!」
その言葉に、ラオウの目が鋭くなった。
「海賊王……」
拳王。
海賊王。
二つの王の名が、荒れる海の上で向かい合う。
ラオウは低く笑った。
「面白い」