サニー号に引き上げられたラオウは、甲板に立っていた。
というより、甲板の一部を沈ませていた。
フランキーが青ざめる。
「おいおい、重すぎだろ! サニーの床が悲鳴あげてんぞ!」
ラオウは足元を見る。
「この船、脆いな」
フランキーが叫ぶ。
「脆くねぇ! お前が規格外なんだよ!」
チョッパーはラオウの身体を見て目を丸くしていた。
「すごい傷だ……でも心臓は動いてる……いや、なんか変だぞ。生きてるけど、普通の生き物じゃないみたいだ」
ロビンが静かに言う。
「死後、別の世界から転移してきた……という可能性もあるわね」
ウソップが叫ぶ。
「ロビン! 怖いことを真顔で言うな!」
ラオウは当然のように言った。
「我は一度死んだ」
全員が固まった。
ルフィだけが目を輝かせる。
「へぇー! 死んだのに生きてんのか! おもしれぇな!」
ナミは頭を抱えた。
「受け入れ早すぎるでしょ……」
ブルックがラオウの前に出る。
「死後に蘇るとは、親近感がありますね。私も一度死んでますので!」
ラオウはブルックを見た。
「骨が喋っている」
ブルックは嬉しそうに礼をした。
「はい、骨です。パンツ見せて――」
ラオウの眼光が飛んだ。
ブルックは即座に正座した。
「失礼しました」
サンジが珍しく止めなかった。
「今のはお前が悪い、骨」
ゾロはラオウをじっと見ていた。
「おい、ラオウとか言ったな」
「何だ」
「お前、剣士じゃねぇな」
「拳だ」
「だろうな」
ゾロの口元がわずかに上がる。
「だが強ぇ」
ラオウもゾロを見る。
「貴様もな。刀に己の命を乗せる目だ」
ゾロは笑った。
「一度やってみてぇな」
サンジが呆れる。
「いきなり喧嘩売るなよ」
「お前も蹴りたそうな顔してるぞ」
「まあな」
ナミが叫ぶ。
「やめなさい! 船が壊れる!」
ジンベエはラオウに向かって静かに言った。
「ラオウ殿。お主がどこから来たかは分からぬ。じゃが、この海は新世界。強者と狂気が渦巻く場所じゃ」
ラオウは海を見た。
「新世界」
その言葉を噛みしめる。
「よい名だ」
ロビンが尋ねた。
「元の世界へ戻りたい?」
ラオウはしばらく沈黙した。
荒野。
拳王軍。
トキ。
ユリア。
ケンシロウ。
自分は死んだ。
己の生は終えた。
ならば戻る場所はない。
「我が道は終わった」
ラオウは低く言う。
「だが、この世界に来たのならば、見るまでだ。この海の強者を。この世の王を」
ルフィはにっと笑った。
「じゃあ一緒に来いよ!」
ナミが叫ぶ。
「だから軽いって!」
ラオウはルフィを見る。
「麦わらの小僧。貴様は海賊王を目指すと言ったな」
「ああ!」
「ならば聞く。海賊王とは何だ。支配か。覇か。恐怖か」
ルフィは即答した。
「この海で一番自由な奴だ!」
ラオウは目を見開いた。
自由。
支配ではない。
恐怖でもない。
ルフィはまっすぐ笑っていた。
「おれは誰かを支配したいわけじゃねぇ。好きな奴らと飯食って、冒険して、嫌な奴はぶっ飛ばす。それだけだ!」
ラオウは黙った。
生前の彼なら、笑い飛ばしたかもしれない。
だが、今のラオウは死の間際に愛を知った。
支配ではない王。
恐怖ではない覇。
自由の王。
「ふ……」
ラオウの口元がわずかに動く。
「面白い。ならば見届けよう」
ルフィは拳を突き上げた。
「よし! ラオウ、仲間――」
ラオウが遮る。
「我は誰の配下にもならぬ」
ルフィは首を傾げた。
「配下じゃねぇよ。乗るだけだ」
「……」
ラオウはしばらくルフィを見た。
そして低く言った。
「ならば、しばし同じ船に乗る」
ルフィは笑った。
「宴だー!」
ナミが即座にツッコむ。
「この嵐で宴できるか!」