嵐が過ぎた夜。
サニー号の甲板では、小さな宴が開かれていた。
ルフィは肉を食べまくり、ラオウの前にも山のような肉が置かれた。
ラオウは黙々と食っていた。
チョッパーが驚く。
「すごい! ルフィと同じくらい食べる!」
ルフィが対抗するように肉を詰め込む。
「負けねぇ!」
ラオウは言う。
「食もまた力だ」
サンジが腕を組んで笑う。
「まあ、食いっぷりがいい奴は嫌いじゃねぇ」
ウソップはラオウの隣を避け、かなり離れた場所から聞いた。
「な、なあラオウ。お前の世界ってどんなとこだったんだ?」
ラオウは肉を置いた。
「水は枯れ、食料は奪われ、力なき者は踏みにじられる。そんな世界だ」
空気が少し沈んだ。
ナミの表情が曇る。
サンジも静かに煙草をくわえる。
ジンベエは目を閉じた。
ラオウは続けた。
「ゆえに我は、恐怖によって世を統べようとした。弱き者を守るためではない。我が覇を成すためだ」
ルフィは黙って聞いていた。
ラオウは自嘲するように笑う。
「だが最期に、知った。恐怖だけでは人は救えぬ。力だけでは、愛は得られぬ」
ロビンが静かに言う。
「それで、悔いはなかったの?」
ラオウは目を閉じた。
「ない」
その声は揺るがなかった。
「我が生涯に、一片の悔いなし」
その瞬間。
甲板の空気が重くなった。
全員が感じた。
ラオウの奥底から滲む覇気。
それは覇王色に似ていた。
だが、この世界の覇王色とは少し違う。
王の資質というより、王として生き切った者の残響。
ゾロが笑う。
「すげぇな。覇王色みてぇで、ちょっと違う」
ジンベエが頷く。
「まるで別の理で鍛えられた覇気じゃ」
ルフィは立ち上がった。
「なあラオウ」
「何だ」
「ちょっとやろう!」
ナミが叫ぶ。
「待ちなさい! なんでそうなるの!?」
ルフィは笑っている。
「だって強そうだし!」
ラオウも立ち上がった。
「よかろう」
ナミがフランキーに叫ぶ。
「船守って!」
フランキーは涙目で叫んだ。
「俺のサニーがまた試されるのか!?」
ジンベエが間に入った。
「二人とも、船上では抑えるんじゃ。海が荒れる」
ラオウはルフィを見た。
「麦わらの小僧。貴様の覇、見せてみよ」
ルフィの目が鋭くなる。
「行くぞ」
次の瞬間。
ルフィの覇王色が放たれた。
見えない衝撃が甲板を走る。
普通の人間なら立っていられない。
海鳥が遠くで落ちる。
ウソップとチョッパーは思わず震えた。
だがラオウは、立っていた。
微動だにせず。
「これが、この世界の王の気か」
ラオウの闘気が膨れ上がる。
覇王色と拳王の闘気がぶつかった。
空が割れるように軋む。
雲が裂ける。
海面が波打つ。
ルフィは笑った。
「ししし! やっぱすげぇ!」
ラオウも低く笑う。
「貴様もな」
二人は拳を構えた。
ルフィが先に飛び込む。
「ゴムゴムの――!」
腕が伸びる。
「鷹銃!」
武装色を纏った拳がラオウへ迫る。
ラオウは片手で受けた。
轟ッ!!
衝撃でサニー号が傾く。
ナミが悲鳴を上げる。
「やめろって言ってるでしょおおお!」
ラオウはルフィの拳を掴んだまま言った。
「妙な身体だ」
ルフィは笑う。
「ゴムだからな!」
「ゴム……?」
ラオウは一瞬だけ真顔になった。
「人がゴムになるのか。この世界は奇怪だな」
「悪魔の実だ!」
「悪魔?」
ラオウの目が鋭くなる。
「悪魔を喰らって力を得るとは、まさに乱世よ」
ロビンが微笑む。
「説明すると長くなるわ」
ルフィは腕を戻し、再び構える。
「まだまだ!」
ラオウは拳を握る。
「来い。海賊王を目指す男よ」
だが、次の瞬間。
サンジとゾロが同時に割り込んだ。
ゾロが刀を抜く。
「船が壊れる。続きは島でやれ」
サンジがルフィの頭を蹴った。
「ナミさんを困らせんな!」
ルフィが床に突っ込む。
「いでっ!」
ラオウは二人を見て、少しだけ笑った。
「よい部下を持つな」
ルフィは床から顔を上げる。
「部下じゃねぇ。仲間だ」
ラオウは沈黙した。
部下ではない。
仲間。
その言葉は、拳王にとってまだ少し眩しかった。