数日後。
サニー号は新世界の小さな島へ到着した。
名を、ガルム島。
海軍の支配下にあるはずの島だったが、今は異様な空気に包まれていた。
港には壊れた軍艦。
町には火の跡。
人々は怯え、家の中に隠れている。
ナミが周囲を見る。
「何かあったみたいね」
ロビンが耳を澄ませる。
「噂では、最近この島に“新しい支配者”が現れたらしいわ」
ウソップが震える。
「新しい支配者って、嫌な予感しかしねぇ!」
その時、町の奥から悲鳴が聞こえた。
ルフィが走り出す。
「行くぞ!」
ゾロ、サンジ、ジンベエが続く。
ラオウもゆっくり歩き出した。
町の広場では、海賊たちが住民を集めていた。
中央には巨大な男。
賞金首、鉄腕のバルガ。
新世界で名を上げようとする海賊だった。
バルガは住民の前で笑っていた。
「この島は今日から俺のもんだ! 海軍も逃げた! お前らは俺に食い物と金を差し出せ!」
老人が震えながら言う。
「もう何もありません……」
バルガは老人を蹴り飛ばした。
「なら命でも差し出せ!」
その瞬間。
ルフィの顔から笑みが消えた。
「おい」
バルガが振り向く。
「あ?」
ルフィは静かに言った。
「おっさんを蹴るな」
バルガはルフィを見る。
「麦わらのルフィ……!? 四皇じゃねぇか!」
海賊たちがざわつく。
だがバルガはすぐに笑った。
「へっ、ちょうどいい! ここでお前を倒せば、俺の名は――」
言葉は途中で止まった。
ルフィの隣に、ラオウが立ったからだ。
広場の空気が変わる。
住民たちは息を呑む。
バルガですら、無意識に後退した。
ラオウは蹴られた老人を見た。
そしてバルガを見る。
「貴様がこの地の支配者か」
バルガは汗を流しながら叫ぶ。
「な、なんだてめぇは!」
ラオウはゆっくり前へ出る。
「弱者を踏み、恐怖で奪う。それが貴様の覇か」
「黙れ!」
バルガは巨大な鉄腕を振るう。
武装色を纏った一撃。
普通の人間なら肉片になる。
ラオウは避けなかった。
拳がラオウの胸に当たる。
轟音。
だがラオウは一歩も動かない。
バルガの表情が凍る。
「な……」
ラオウは低く言った。
「軽い」
次の瞬間、ラオウの拳がバルガの腹に突き刺さった。
ただの一撃。
だがバルガの巨体が浮いた。
鉄腕が砕け、身体が広場の壁まで吹き飛ぶ。
「がはっ……!」
海賊たちは震えた。
ルフィは感心したように笑う。
「やっぱ強ぇな!」
ゾロも口元を上げる。
「化け物だな」
サンジが煙草をくわえ直す。
「ああいう雑魚相手だと、余計に差が分かるな」
バルガは血を吐きながら立ち上がった。
「ふざけるな……俺は……この島の王に……!」
ラオウの目が冷たくなる。
「王?」
その一言で、空気が凍った。
「王とは、己の全てを背負う者だ。恐怖を振りまくだけの賊が、王を名乗るな」
バルガが叫びながら突進する。
「黙れえええ!」
ラオウは掌を突き出した。
「北斗剛掌波」
見えない剛の波が放たれた。
バルガの巨体は空中で止まり、そのまま地面へ叩きつけられた。
意識を失い、動かなくなる。
住民たちは静まり返っていた。
やがて、誰かが膝をついた。
恐怖ではない。
安堵だった。
ラオウはその光景を見ていた。
かつてなら、彼はこのまま支配者として君臨したかもしれない。
恐怖で秩序を作る。
それが拳王の道だった。
だが、今。
ルフィが老人へ手を差し出している。
「大丈夫か?」
老人は涙を流して頷いた。
ルフィは笑う。
「肉あるか?」
ナミが後頭部を殴った。
「台無し!」
住民たちが、少しずつ笑い始めた。
ラオウはその光景を見て、静かに目を細める。
恐怖で従わせるのではない。
救って、笑わせる。
それもまた、王の姿なのか。