キヴォトスの空は、今日もどこまでも青く、そしてどこか騒がしい。
学園都市の治安を維持する数々の組織の中でも、市民に最も身近な存在であるヴァルキューレ警察学校。
その生活安全局に所属する1年生、中務キリノは、まさに今、全力で路地裏を疾走していた。
トレードマークである白い制服の裾を翻し、頭上の天使のようなヘイローを激しく明滅させながら、彼女は必死の形相で前方を走るヘルメット団の構成員を追いかけている。
キリノの心にあるのは、燃え盛るような正義感だ。「市民の安全を守るため、本官は絶対に悪を許しません!」という強い信念が、彼女の足を前へと動かしていた。
「待ちなさい! これ以上の逃亡は罪を重ねるだけです! 大人しくお縄につきなさい!」
キリノの声が、狭い路地裏のコンクリート壁に反響する。
しかし、前方を逃げる犯人は、そんな彼女の必死な呼びかけなどどこ吹く風だった。
時折後ろを振り返っては、小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべている。
「ひゃははは! 誰が止まるかってんだよ、ヴァルキューレのポンコツお巡りさんが! お前、生活安全局のキリノだろ? 有名だぜ、お前の凄まじい射撃の下手くそさはよぉ!」
「なっ……! ほ、本官の射撃は、毎日欠かさず整備を行っている完璧な銃から放たれるものです! バ、バカにしないでください!!」
犯人の言葉は、キリノの最も気にしている痛いところを突いていた。
キリノは真面目で勤勉、市民の気持ちに寄り添う素晴らしい警察官の素質を持っている。
しかし、致命的なまでに不器用だった。特にその射撃精度たるや、キヴォトス全土を探しても類を見ないほどの惨状なのである。
至近距離で犯人を狙って撃てば、なぜか隣にいる人質に弾が当たる。
どれだけ腰を据えて狙っても、銃口から放たれた弾丸は物理法則を無視したかのように見当違いの方向へ飛んでいくのだ。
それでも、ここで引き下がるわけにはいかない。キリノは走りながら、腰のホルスターから愛用の拳銃を素早く引き抜いた。
「もう一度言います、止まりなさい! さもないと、警告射撃を行います!」
「やってみろよ! どうせ当たらねぇんだろ!?」
犯人はさらにスピードを上げ、キリノを挑発する。
キリノは唇を噛み締め、走りながら銃を構えた。狙うは犯人の足元。彼を怯ませ、足を止めさせるための威嚇射撃のつもりだった。
キリノは引き金に指をかけ、真っ直ぐに狙いを定める。彼女の目は真剣そのもので、職務にかける熱意だけは誰にも負けていなかった。
「はぁぁぁっ! 止まりなさーーーい!!」
パァン!!
路地裏に乾いた銃声が響き渡った。
だが、放たれた弾丸は、キリノが狙った犯人の足元とは全く逆の方向――遥か斜め上空の、錆びついたビルの外壁に向かって真っ直ぐに飛んでいった。
ここまでは、いつものキリノの日常茶飯事である。しかし、この日の銃弾は、いつも以上の奇跡的な大迷走を見せることになる。
ガキィン!
最初の弾丸は、ビルの外壁に取り付けられていた鉄製の配管に激しく衝突した。
これで終わりではない。跳ね返った弾丸は、凄まじい速度を維持したまま、今度は対面のビルの非常階段の鉄格子に激突する。
ゴンッ!
「ひゃあっ!?」
あまりの勢いの跳弾に、キリノは思わず声を上げた。
しかし、弾丸の狂詩曲は止まらない。鉄格子から跳ね返った弾は、今度は路地に置かれていた古びた自動販売機の側面に当たり、さらにそこから地面のコンクリートへとバウンドした。
カン! チュイィィン! バチィン!!
あちこちの壁や鉄塊を予測不可能な角度で跳んで、跳んで、跳びまくった銃弾は、まるで意思を持っているかのように、最終的にキリノ自身の足元へと向かって突き進んできた。
ドガァン!!
キリノのまさに数センチ手前の地面に、激しい火花とともに弾丸が着弾した。アスファルトの破片がパチパチと彼女の靴に当たる。
「ひゃ、ひゃあああああーーーっ!!?」
あまりの恐怖と情けない声を出して、キリノはその場にへなへなと崩れ落ちた。
自分で撃った弾が、どういうわけか周囲のあらゆるものに跳弾を繰り返し、自分を襲ってきたのだ。
あまりのパニックに、キリノは完全に腰を抜かしてしまい、地面に手を突いてガタガタと震えることしかできなかった。
「ギャーーッハッハッハッ!!!!! なんだそりゃ! 自分で撃った弾で腰を抜かしてやんの! マジで奇跡のポンコツだな、お前!!」
それを見ていた犯人は、路地の先で足を止め、腹を抱えて大爆笑し始めた。
涙を流しながらキリノを指差し、路地裏に「ギャハハ」という下品な笑い声を響かせる。
キリノは顔を真っ赤にして、涙目で犯人を睨みつけることしかできない。
「うぅ……うぅぅ、笑わないでください……! 本官はいたって大真面目に……!」
キリノが言いかけた、その時だった。
先ほど、弾丸が最初に激しく衝突したビルの一角。そこには、長年放置されてすっかりボロボロになっていた大型の店舗用鉄製看板が設置されていた。
キリノの放った銃弾の凄まじい衝撃により、その看板を支えていた最後のボルトが、ついに完全に破断した。
ギギギィ……と不穏な金属音が路地に響く。
「ん? 何の音だ……?」
犯人が笑うのをやめ、怪訝そうに上を見上げた瞬間だった。
ドゴーーーーン!!!
「ぶふぇっ!?」
凄まじい音を立てて、巨大な鉄製看板が真上から犯人の頭上へと直撃した。
看板の直撃を食らった犯人は、悲鳴を上げる暇さえなく、そのまま地面に平伏するようにしてぶ倒れた。
頭の上が完全に看板の下敷きになり、足だけがピクピクと痙攣している。やがて、その足の動きも止まり、犯人は完全に意識を失って白目を剥いた。
静まり返る路地裏。
腰を抜かしたままの一部始終を見ていたキリノは、信じられないものを見たという風に目を丸くしていた。
「や、やった……! やった、やりました! 犯人確保です!」
キリノは嬉しそうに声を上げると、ガクガクと震える足を無理やり動かして立ち上がった。
まだ恐怖で膝が笑っているが、警察官としての使命感が彼女を突き動かす。
気絶している犯人の元へとよちよち歩きで近づき、腰の後ろから金属製の手錠を取り出した。
「ふ、ふふん、どんなものです! 結果オーライ、これもお巡りさんの日頃の行いが良いからですね! さぁ、大人しく連行されてくださいね!」
キリノは勝利の余韻に浸りながら、気を失っている犯人の手首に手錠をかけようとした。
しかし、彼女の足元はまだガタガタと震えており、手元も極度の緊張と興奮で全く定まっていなかった。
早く手錠をかけなければという焦りも加わり、視界が泳ぐ。
カチャリ、と金属の冷たい音が響いた。
「よしっ、片方はかかりました! あとはもう片方を……あれ?」
キリノがふと自分の手元を見ると、なぜか手錠の片方は、犯人の手首ではなく、犯人のすぐ横に突き出ていた太い排水用の鉄製パイプにガッチリと固定されていた。
そして、もう片方の手錠の輪は――。
「え?」
カチャリ…。
あろうことか、キリノは焦るあまり、自分の左手首にしっかりと手錠のもう片方を嵌めてしまっていた。
引っ張ってみるが、警察用のがっしりとした手錠はびくともしない。キリノの左手首と、地面から生えた強固な鉄パイプが、完璧な形で連結されてしまっていた。犯人はその横で、全く関係のない様子でスヤスヤと気を失っている。
「え……? あ、あれ? 外れない……? 鍵、鍵はどこに……あ、右ポケット……って、右手じゃ届かない位置に……!」
キリノは自分の状況を理解するまでに数秒を要した。
そして、自分が犯人ではなく、自分自身と路地の構造物を完璧に「逮捕」してしまったことに気づいた瞬間、彼女の顔は絶望に染まった。
「なんでぇーーーーーーーーーー!!? どうしてこうなるんですかぁーーー!!」
キリノの悲痛な叫び声が、キヴォトスの空へと虚しく吸い込まれていった。
彼女のドジは、ある意味で周囲に甚大な被害をもたらす殺人級のものであり、その奇跡的なまでのポンコツぶりは、もはやキヴォトスの人間国宝に指定されてもおかしくないレベルに達していた。
それから数時間後。
ヴァルキューレ警察学校の庁舎内にある、生活安全局のオフィスにて。
夕方の静かなオフィスの中でキリノはデスクに向かい、涙目でひたすらペンを走らせていた。
目の前には、うず高く積まれた「始末書」の紙の山がある。
結局、あの後は通りかかった他の局員に鍵を開けてもらい、どうにか解放されたのだが、その失態は瞬く間に庁舎内に広まってしまっていた。
「お疲れー、キリノ。今日も相変わらず、キレッキレの活躍だったみたいじゃーん」
ひょっこりと横から顔を出したのは、キリノの同僚であり、同じ生活安全局1年生の合歓垣フブキだった。
フブキはいつものように眠たげな目を擦りながら、手にお気に入りのドーナツを持って、サクサクと音を立てて食べている。
「うぅ……フブキ、からかわないでください……。本官は今、猛烈に反省中なんです……」
「いやいや、からかってないって。噂で聞いたよ? 今日のキリノは、犯人と……えっと、路地の『排水パイプ』を同時に現行犯逮捕したらしいじゃん。パイプの容疑は何だったわけ? 不法占拠?」
「掘り返さないでください……! うぅ、本官、これでも毎回、すっごく真面目に頑張ってるんですぅ……! なのに、どうしていつもこうなっちゃうんでしょうか……!」
キリノは始末書に顔を突っ伏して、消えてしまいたいと言わんばかりに耳まで真っ赤に染めていた。
彼女の正義感は本物なのだ。ただ、その情熱に肉体と器用さが全く追いついていないだけなのだが、結果として残るのはいつも笑えないレベルの始末書の山だった。
「まぁ、キリノが真面目なのはみんな知ってるけどさー。もうちょっと肩の力を抜きなよ。私みたいに、適度にサボりつつやるのが長く続けるコツだって」
「フブキはサボりすぎです! 本官はいつか警備局に転科して、エリート警察官になるんですから!」
キリノがふくれっ面で言い返した、その時だった。
オフィスの入り口の扉が静かに開き、コツコツと重々しい足音が近づいてきた。その場の空気が一瞬でピリッと張り詰める。
「ふむ……相変わらず賑やかだな、生活安全局は」
現れたのは、ヴァルキューレ警察学校の公安局長を務める3年生、尾刃カンナだった。
「狂犬」の異名を持ち、その圧倒的な威圧感と冷徹な仕事ぶりで恐れられる彼女の登場に、フブキは一瞬でドーナツを背後に隠し、キリノは弾かれたように背筋を伸ばして挙手の敬礼をした。
「きょ、局長! お疲れ様です!」
カンナは手にした何枚かの書類――キリノが先ほど提出した、現場の被害報告書と状況説明書――に目を落としながら、深く、深いため息をついた。
その表情には、怒りというよりも、どう表現していいか分からないといった圧倒的な疲労感が滲み出ている。
「中務…お前の報告書は、いつも私の想像力の限界を試してくるな。……弾丸が4回跳弾して自分の足元に着弾し、その衝撃で倒れた看板が犯人を気絶させ、最終的にお前自身をパイプに拘束した、か」
「は、はい……! 事実をありのままに記載いたしました!」
カンナは片手で頭を抱え、こめかみを指で押さえた。
「……お前の書類を見ていると、頭が痛くなってくる。だが、怪我人が出なかったことと、結果的に犯人を確保できたことだけは評価しよう。中務、その始末書を書き終えたら、今日はもう上がっていい。少し頭を冷やし、体を休めろ。これは命令だ」
「えっ……? あ、はい! ありがとうございます、局長!」
カンナはそれだけ言うと、翻ってオフィスを出て行った。
残されたキリノは、ガックリと肩を落とした。局長の配慮はありがたいが、やはり呆れられてしまったという事実が、彼女の心に重くのしかかる。
「ほらー、局長もああ言ってるし、早く終わらせて帰りなよー。私も手伝ってあげたいけど、ドーナツ食べるのに忙しいからさー」
「フブキ……手伝う気ゼロですね……。うぅ、急いで書きます……」
夕暮れ時のキヴォトスの街。
オレンジ色から徐々に紫色のグラデーションへと移り変わる空の下、キリノは一人、トボトボと家路を歩いていた。
昼間の大騒ぎと、その後の始末書作成で、心も体もすっかり疲れ果てていた。白い警察帽を手に持ち、うつむき加減で歩く彼女の影が、街灯の光に長く伸びる。
「うぅ……やっぱり、本官は警察官に向いてないのかなぁ……」
ポツリと、誰に聞かせるでもない弱音が口からこぼれ落ちた。
憧れて入ったヴァルキューレ警察学校。街の人たちを助けたい、悪い人を取り締まりたいという気持ちは誰よりも強い。
だけど、現実はいつも失敗ばかり。同期のフブキには呆れられ、カンナ局長には頭を抱えられ、犯人には笑われる始末だ。
「……ううん! 何言ってるの、私! 頑張らなくちゃダメだよ!」
キリノは立ち止まり、自分の両手で両頬をパーン! と勢いよく叩いた。
赤い手形がつくほどの強さで気合を入れる。ここで諦めたら、それこそ本当にポンコツで終わってしまう。
明日からまた、射撃の練習をして、手錠の掛け方も特訓して、立派なお巡りさんになる。そう自分に言い聞かせた。
「よしっ! 頑張るぞ!」
自分に言い聞かせるように呟きながら歩みを進めると、いつの間にか、見慣れた住宅街へと足を踏み入れていた。
そこにあるのは、キリノが毎日帰る場所。外での緊張感や警察官としての重圧から、唯一完全に解放される聖域――彼女の実家だった。
我が家の門をくぐり、玄関の扉の前に立った瞬間、キリノの顔から「警察官としての凛々しさ」が、まるで魔法が解けたかのように一瞬で消え去った。
下がっていた眉がアーチ状に緩やかになり、口元がだらしなく緩み、目は潤んでトロンとした状態になる。
外では必死に隠し通している、彼女の「本当の姿」が顔を出そうとしていた。
ガチャリ、と鍵を開けて扉を開ける。
「ママーー!! ただいまーーー!!! キーちゃん帰ってきたよぉーーー!!!」
昼間の凛々しい「本官」の声とは似ても似つかない、甘ったるくて大きな声が玄関に響き渡った。
キリノは靴を脱ぎ捨てるようにして脱ぐと、満面の笑みを浮かべて廊下へと駆け出す。
すると、廊下の奥のキッチンの方から、エプロン姿の美しい女性が優しい笑顔を浮かべて姿を現した。
彼女の名前は中務マヤ……キリノのママである。
「お帰りなさい、キーちゃん。今日も学校、お疲れ様」
「ママーー!! うわーーーん! キーちゃん、すっごく寂しかったよぉーーー!!」
キリノは廊下を猛ダッシュすると、ママの胸へと目掛けて思い切り飛び込んだ。
ママは「おっとっと」と優しくキリノの体を受け止め、その小さな頭を愛おしそうに何度も撫でる。
キリノはママの胸に顔をすりつけ、幸せそうに目を細めていた。
そう…中務キリノは外では正義感あふれるお巡りさんを気取っているが、その実態は、実家住まいの筋金入りの重度のマザコンなのである。
外では「本官」と呼び、規律正しい敬語を使う彼女だが、家に一歩入れば一人称は『キーちゃん』になり、幼児のようにママに甘え倒す。
この事実を、ヴァルキューレの仲間たちは誰一人として知らない。もし知られたら恥ずかしさで爆発してしまうため、キリノは外ではこの秘密を完璧に隠し通していた。
「ママ、ママ! 今日のキーちゃんね、すっごく大変だったんだよ! 変な男の人を捕まえたんだけど、いっぱい失敗しちゃって、お仕事向いてないのかなって悲しくなっちゃったの……」
「あらあら、そうなの? キーちゃんはいつも一生懸命頑張ってるのにね。大変だったわねぇ」
「うぅ……ママにギューってしてもらうと、元気になるぅ……」
ママはキリノの背中をポンポンと優しく叩きながら、微笑んだ。
「がんばったキーちゃんのために、今日はキーちゃんが大好きなメニューを作っておいたわよ」
「本当!? もしかして……!」
「ええ、キーちゃんが大好きな、ママ特製のハンバーグよ」
「わーーーい!! ママのハンバーグだーいすき!! 世界で一番おいしいもんね!」
キリノは飛び跳ねて大喜びすると、急いで部屋へと向かった。
まずは汚れた制服を着替えなければならない。キリノが自分の部屋で着替えたパジャマは、ピンク色をした、モコモコのウサギの着ぐるみ型のパジャマだった。
フードには長いウサギの耳がついており、お尻には丸い尻尾がついている。これを着ている時のキリノは、どこからどう見てもただの甘えん坊な子供だった。
ダイニングテーブルに座ると、目の前にはジューシーに焼き上がった、たっぷりとデミグラスソースがかかったハンバーグが並んでいた。
「いただきまーす! むぐ……おいしいぃぃ! やっぱりママのハンバーグが一番だよ!」
「ふふ、たくさん食べなさいね、キーちゃん。口の周りにソースがついてるわよ」
「あぅ、ママ拭いてー」
キリノが甘えると、ママは苦笑しながらも、優しくティッシュでキリノの口元を拭いてあげる。
キリノはその過保護なまでの優しさを全身で受け止め、昼間の疲れや落ち込みを完全に吹き飛ばしていた。
夕食が終わると、次はお風呂の時間だ。
なんと、15歳になって高校生であるにもかかわらず、キリノは未だに大好きなママと一緒にお風呂に入っていた。
「ママ、背中流してあげる!」
「ありがとう、キーちゃん。大きくなったわねぇ」
「えへへ、キーちゃんはね、いくつになってもママの可愛いキーちゃんだよぉ!」
湯船に浸かりながら、キリノはママの肩に頭を預けた。
温かいお湯と、大好きなママの匂いに包まれて、昼間の張り詰めていた心が完全に解きほぐされていく。
外での失敗も…カンナに怒られたことも…ママと一緒の空間にいればすべてがどうでもよくなるほど癒されていくのだ。
お風呂から上がると、ピンクのウサギパジャマを再び着込んで、いよいよ寝る時間になる。
キリノの部屋には自分のベッドもあるのだが、彼女は毎日、ママの寝室にある大きなベッドへと潜り込んでいた。
そう、毎日大好きなママと一緒のベッドで寝ているのである。
寝室の電気が消され、暗くなった部屋。
ベッドの中で、キリノはママの体に横から思い切り抱きついた。ママの温もりを感じながら、ウサギのフードを被った頭をママの胸元にすり寄せる。
「ママ、おやすみなさい」
「おやすみ、キーちゃん。良い夢を見てね」
ママがキリノの頭を優しく撫でる。
キリノはママの腕の中で、幸せに満ちた呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと意識を微睡みへと沈めていった。
「(明日も頑張ろう……。明日もお巡りさんとして、本官は街の平和を守るために全力で走るんだ。……だけど、お家にいる時だけは、大好きなママにいっぱい甘えてもいいよね?)」
ピンクのウサギの耳を小さく揺らしながら、キリノは幸せそうな寝息を立てて、大好きなママの隣で深い眠りへと落ちていった。
彼女の明日の活力は、この誰も知らない超ド級の甘えん坊な時間によって、完璧にチャージされているのだった。