宇宙は空にある。 作:ペペロンチーノ大好き
...魔導書というのはどうやら大変魅惑的な物であるらしい。
その証拠に、さながら火に飛び込む虫のように、ヴァルヌンクさんが逝った。
「で...どうしてあの魔導書を読み込むなんて無謀なことをしたんですか?」
「......。未知とはどうしてこうも魅力的なのでしょうね?」
気持ちは分かるけどさぁ...なんなら俺も人のこと言えないんだけどさ。
今俺たちはオレオールに居た。理由はこの方が死んだからである。
「...何であの3冊で満足しなかったんですか?」
「......。天啓です。」
顔を逸らされてしまった。
「...結界を破る方法を教わった見返りに、魔導書を要求されるのは全然良かったんですがね。
しかし.....持っていくなと言われた物を持っていくのはダメでしょう。」
「...でも面白そうでしたし...。」
そういう問題じゃないんですがそれは。
というか面白そうってだけであの禁書見るか普通。
禍々し過ぎて近くにいるだけでも体調が悪くなるレベルの劇物だぞ。
「...好奇心で見て、そのまま死んだのは、まあ、百歩譲って許します。
いずれ俺もやらかすでしょうしね。......ただぁ!どうして俺の手配書が現場にあったんですか!ええ!?
アレのせいで巷じゃあなたを自殺させた真犯人俺になってるんですからね?」
「...それに関しては誠に申し訳ございません。...いえ、ほんとに他意はなかったんですよ。...過去の報告書を整理していたら、そういえば魔導書を貰ったなと思い出し、チラリと見ただけなんです。
そうしたら悍ましい知識が脳に侵入してきて...。気づいたらここに。」
...貰ったではなく盗ったの間違いでは?
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2回目の宇宙探査の時に発見した結界を破る方法をヴァルヌンクさんに相談したまでは良かった。
幸い良さげな魔法の入っている魔導書を彼女は持っていたし、俺は魔王くんから貰ったクッソくだらない魔法の魔導書を何冊か持っていたからそれと交換したのだ。
そうだ、ここまでは順調も順調だった。
問題は俺が持っていた例の禁書が懐からポロリしたところから始まった。
何をトチ狂ったのかヴァルヌンクさんが魔導書に異常な興味を示してしまったのである。
まずいと思い、コレはダメですと何度も言ったが聞く耳を持たず、仕方ないので強行帰宅した。
しかしコレは悪手だったのである。
何故かはわからないが彼女は俺の家を知っていた。
そして俺が魔王城に行っている隙を着き魔導書を持ち去ったのである。
俺が気付いた時には時すでに遅し、彼女は事切れて
「ちなみにどんな知識か覚えてますか?」
「...覚えていたらあなたと会話出来る状態ではなかったでしょうね。」
覚えてないのか...少し残念。
「ただ、大まかな情報ならあります。感覚としては...何かの記憶を追体験したような、死ぬ直前の記憶だった気がします。」
何だそら...あっ...そういえば行き場を失った魂を材料にしてたな...。
...やっべ。...まいっか。
「...。なるほど、分かりました。とりあえずあなたはオレオールで反省してください。」
「...はい。」
「ではまたオレオールで。」
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あかん...人類共の執念がやばい。
なまじヴァルヌンクさんがエルフの中でも社交性が強く、さらに人類にめちゃくちゃ貢献してて英雄視されてたせいで、そいつを殺した事になってる俺が人類の大敵みたいに扱われとる。
あとあのゼーリエとかいう小娘はやばい。
アイツ何処に隠れてても見つけてくるもん。
...シュラハトから聞いた話によると帝国と協力して大陸全土に探知魔法かけてるらしい。
仲悪かったんじゃないのかよお前ら...。
俺が居るとゼーリエ辺りが襲撃してくるから魔王城から出ていけって追い出されたし....。
まあそれは仕方ないんだけどさ。
俺のせいで魔王城爆撃されて仲良かった門番の魔族死んだし。
...アイツ俺ら魔族が人の心ないとか何とか言ってるけどエルフも大概人の心ないよな。
しかしクッソまずいぞ。
別に死ぬのはいいんだ、物質的な宇宙とは別の概念的な宇宙に行くだけだし。
しかしこのまま殺されると、月の真実を知れなくなるのは遺憾である。
早急にかの結界を解析しなければならない。
だがコレに非常に手間取っている。
今、直接月に来て頑張って解析して居るのだが、めちゃくちゃ時間がかかりそうである。
一回の宇宙遠征で滞在できる時間は、どれほど上手く魔力をやりくりしても4ヶ月ぐらいが限界である。
エルフ共から逃げる様に宇宙へ旅立って1カ月が経った。
残りは3カ月。
この間に結界を調べきれないと
地上で魔力が回復するまで人類の襲撃を受け続ける。
更に帰還した直後は魔力が少ない状態で襲撃を受ける可能性があり、
非常に危ない、帰りたくない。早く調べねば。
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────何の成果も得られませんでしたぁ!終わりだ...
というかこの結界、女神様魔法ではないか。
そもそも結界を維持するのに必要な魔力は何処から来てんのコレ。
女神様の嫌がらせじゃねぇのコレ。何、ここには何が眠っているの?
怖いんだけど。
...魔力的にもうギリだ、帰るしかねぇ。
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もうなんか殺意がやばいよ。
出待ちはされてなかったけどさぁ。
帰って来てから4時間でゼーリエ来たんだけど。
もう逆に俺のこと好きだろコレ。
奴の気配を察知した瞬間地中深くに潜ったから何とかなったがいよいよまずい。
もう次の月探索で決めなければ。
だがなぁ、女神様魔法となると解析には絶対えらい時間かかるだろうしなぁ...
せや、女神の聖典強奪したろ!なんか載ってるかも。
────うん、わからんかった。もう諦めるか...。
...いや、なんか聖典譲っくれて寿命で死んでいった下町の僧侶さんの犠牲を無駄にするわけにはいかん。
...ん?何この魔法は...。あ、これじゃん。絶対コレやん。
よかった何とか1週間で見つかって。
ありがとう下町の爺さんアンタ俺の勇者だったよ。
──よーし後は使うだけや、ん?
あっ下町の方々、こんにちあぶねッ。...ねぇ武器しまってよぉ。
爺さんは寿命だっつってんだろ!って言ったけど俺は魔族なので信用されませんでした。即逃げました。
俺が正体バラす前はあんなに優しかったのに...。
まあ正しい反応だ。
実際魔族は人を騙すし、人を理解しない。
だがそれを悪いとも思わん。
それが我らの生態で本能であるがゆえ、悪いのは我らを作っちゃった存在である。
本当になんでこんな生態にした?
女神様?いや、女神様以外の上位者の可能性もあるが。
そんなことはどうでもいい。
とうとうあの忌まわしき女神結界を突破出来る足掛かりを掴んだのだ。
これほど嬉しいことはない。はよ実践,..だから小娘早いって来んの!
お前こんな下町で起こったことを速攻で嗅ぎつけてくるのは変態だろ!
あっ、もう結界貼られてらァ!ちょっと待ってくださいよぉ!
...クッソ割れねぇ!やばいよ小娘なんか溜めてるよ。
じゃあ見せてやるよ新技、女神の結界魔法!良かった...出たぁ!
...ちゃんとゼーリエクラスの技を防いでるし普通意味不な技だな...。
まあ小娘の攻撃では結界により死ぬことはないとはいえ結界解除したら死ぬから解除出来ない。そして小娘が貼った結界を解除出来ていない。
つまりジリ貧で詰んでる状況。
こっから俺が勝てる方法は一つ──────魔力切れを狙う。
────3日か4日か、もしかしたらそれ以上、時間が経った。
未だに結界を試行錯誤しながら破壊しようとする、奴はまだ元気だ。
俺はさすがに手が疲れて来た。...お、結界が弱まって来たな...まだだ...まだ...今だァ!
─────
くくく、何やかんや小娘よりは長生きしてるからな、魔力総量は俺の方が上よ。
まあ、当然の如く魔力が急速に回復していたのには絶望した。
だがさすがにそれと同時に結界維持は無理だった様だな。
ひとまず助かった。俺の死に場所はあそこではないからな。
しかし...いよいよだな、次ゼーリエに見つかったら死ぬだろう。
女神結界もなんか解析されかけてたし。
アイツ頭おかしいよ...。
魔力もまた削られたから溜め直さねば。
...この感じだと出発は明日になるか。
とりあえず地面に引き篭ろう。
────よーし何とか見つからずに済んだな。
さて───いよいよ飛ぶか。
──────なんだかどうしようもない気持ちになってきた。
...恐らく今回の遠征が終わり、地球に帰ったら俺は殺されるだろう。
もはやゼーリエと戦い、生き残る未来が見えない。
同時に人類の殺意から逃げ切るイメージもつかない。
つまり月から帰ったら俺は死ぬ。
そも月に何が眠っているかがわからないので、月で死ぬ可能性もある。
どちらにせよ先は短い、せめてやりたいことをやろう。
─────着いたか。よし、早速解析&破壊や。何日かかるかな。
──何か2時間ぐらいで解析いけたな。じゃあ破壊すっか。
......なんか...あっさりいったな。...外観は前世とあんまり変わらないか。
いや瘴気濃いな。...濃ッ...いけど不快じゃない。
あかんわ、もう俺魔族やん。一応ギリギリ人間の頃の記憶あるのに...。
...この瘴気は月の裏側から来てるっぽい。
...あとやっぱり魔物や魔族やらの魔力を感じる。
...十中八九魑魅魍魎の類いだろうが、行ってみるか。
どうせ死ぬのだ、最期にその面見せてもらおう。
──........................何だこの...何?魑魅魍魎の類いではあるが...
...ちょっと百鬼夜行過ぎない?ええ何この...死屍累々は。
何でこんな魔族と魔物が死んでるんですか?
...魔力が混ざり合っててキショい。やべぇ吐きそう。
........何かから生えてるぽくね、この魔族と魔物の腐乱死体軍。
何から生えてんだ...
...地点によって違うな。
爬虫類の身体だったり、毛皮、何の動物かは腐り果てていてわからん。
後は蛸足だったり何か名状し難き液状の物体だったり...。
しかもコレ全体がデカい。
パッと見この死屍累々の地獄の全長が3kmはあるように見える。
きも。ちょっとどんな魔族がいるか見てみよう。
結構色々いんな...
...ん?コイツは...
俺が仲良くしてた魔王城の門番?
......え?
..................いや、まさか。そんなことある?
...もうちょっと探索しよう。
......これ頭部じゃね?頭部?頭部かこれ?
やっぱ毛皮とか爬虫類とか蛸足と一繋がりの...生物?
...でも多分そうではないか。
...コレは...多分女神様とおんなじ様な上位者の死体なのでは?
いまここに生えている魔物、魔族、そしてこのバカデカ死体。
これらは、調べた所、全て魂であった。
実体がない。魂が集う場所。
地球の方が人間のオレオールとするならば。
こちらは魔族、魔物のオレオールなのではないか。
地球のオレオールには女神様がいると信じられてきた。
そうしたらこの死体も同じなのでは。
つまりはこちら側の神様、我ら魔族、強いては魔物の先祖の。
状況を見る限り、女神様側とこの上位者で何か争いがあって、それで負けて
そして...ここで死んだのか?
いや、仮にそうだとして、女神様は何故魔物を残したのだ?
何かメリットは...。
『...シュラハトから聞いた話によると帝国と協力して大陸全土に探知魔法かけてるらしい。』
『仲悪かったんじゃないのかよお前ら...。』
人類の団結?
......つまりそういうことなのか、女神様?
そもそもおかしかったのだ。
魔族の俺が女神様魔法を使えたり、女神様結界を使えたことが。
だが女神様には狙いがあったとしたら?
魔族を存続させるための柱として、俺は選ばれたのだろう。
何故魔族は必要か?
人類は愚かだ。これはこうとせずとも争い始め、いずれ滅びる。
しかしながら、全人類共通の敵が現れたら状況は変わる。
人は突如団結し始め、目覚ましい速度で発展を繰り返し敵を打倒する。
そして、魔族は人類にとって都合が良すぎる"敵''である。
魔族はあまりにも徹底して人類の敵で、頑張れば転用出来る高度な技術を持っていて、群れる事なく、クソみたいな驕りと油断を持っている。
まるで...誰かが作り出したような都合の良さだ。
いや多分人類も作り出された物ではあるだろうが。
つまり魔族の存在は明らかな作為を感じるという事である。
そしてそれらを作った存在が恐らくこの目の前の死体だ。
魔物は産んだ、魔族は作られたと言ったところだろうか。
そして多分、魔族はもう作られない。
魔族を生み出していたと思われる目の前の上位者が死体になったからである。
魔族は大部分の構成要素が魔力と魂なのだが、この上位者が死んだことにより新たに魂が生まれなくなった。
地球のオレオールは魂を再利用したり、新たな魂が漂っていたりなど絶妙な活気が溢れていたが、月は比にならないぐらい寂れている。
活気のかの字もない。
このままでは近いうちに魔族は全滅するだろう。
だからこそ俺がここに来たのだ。
わかったぜ女神様、アンタのたてたレールの上を疾走してやろう。
ちょうどいいことに魂に関する魔導書と聖典はここにある。
まるで導かれたように...。
思えば、ヴァルヌンクさんも、下町の名も知れぬ爺さんも、エーヴィヒも、女神様に唆されたのかも知れないと感じる
今の俺の様に。
さて、やるか。悔いはなし。
俺は静かに死体に触れた。
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「...来たか。」
「やっぱ来るのわかってた感じ?」
オレオール、その庭園に一人の魔族、いや魔族とは言えないかもしれない何かが浮遊して来る。
「...まあな。それでどうする。」
「ここでオレオールに還るよ。
「......そうか。」
「魔族の一万年後はどうなってる?」
もう一人の魔族はしばらく時間が経った後、答えた。
「...やはり存続している。」
「そう。よかった。」
静寂。
「...お前は...」
「?」
「お前は月で何をしたんだ?」
息苦しさを感じる静寂。
「......秘密かな。というか見なかったの?」
「見なかったのではなく、見られなかったのだ。
未来視の中のお前は黒塗りにされていた。」
「あー...じゃあちょっとだけ教えるわ。
まず俺は女神様と同レベルになった。」
場違いな突風が吹いた。
「何を言っている。」
「んーとね、まず我々の起源と思わしき者を取り込んだのね。」
風が強くなった。
「......?どういうことだ?」
「で、次にその者に纏わりついていた魔族、魔物の魂を取り込んだ。」
風はまだ強くなる。
「つまりだね...今の俺は魔族の頂点といっても差し支えない。
この身をオレオールに還せば魔族、魔物の魂は活力を取り戻し、
再び廻るだろう。
そして、いつかの魔族の繁栄のために、犠牲になろうということさ。」
「宇宙探索にはもう行かないんだな。」
デカい魔力が彼方に見えた。
「...行きたいけどね。どうせあのやべぇ小娘に遅かれ早かれ殺されるからね。無理よ。」
「...来たぞ。」
砂塵を巻き上げ、大魔法使いがやってきた。
結界はやはりすでに貼られていた。
なおシュラハトは効果範囲外に居た。
「...今日こそ死んでもらおう。」
「いいよ。」
「...?!」
大魔法使いは何を警戒したのか、距離を取った。
「どしたん小娘。別に殺ってもいいぞ。」
「...おかしい。誰だ。」
「誰だって、俺だよ、ヒルン。」
「...魔力が違う。」
魔族はひどく納得したように顔を振った。
「まあ確かに存在がちょっと変わったからね、で殺さないのかい?」
「...質問をする。今ここで死にたいのか?」
ゼーリエの目の奥が光った。
「...懐かしいねそれ!ヴァルヌンクさんのやつやん。」
魔族の腕が飛んだ。
「質問に答えろ。」
「わかったわかった。えっとだな、そうだ、今死にたい。」
大魔法使いは少し困惑した。
「...気でも狂ったか。哀れだな。」
「そー思うんならひと思いに殺っちゃってくれよ小娘ェ。」
「断る。今死にたいなら勝手に死ね。興が覚めた。」
「意地が悪いな小娘ェ!確かに今から死ぬけどよォ!」
不貞腐れた魔族をよそにゼーリエは結界から抜けた。
魔族を残して。
「...ちょっと待て小娘閉じ込める気か?」
「最後に一つ聞くが...ヴァルヌンクを殺したのはお前か?」
「無視すんなよ!...後アレはヴァルヌンクさんの自業自得だって!」
「...そうか。」
結界は解かれた。と同時に魔族の腹に風穴が空いた。
「お、ありがとう。」
「...やはり気が狂ったか。」
何か恍惚とした表情でオレオールの庭園の中心へと歩いていく。
ゼーリエは末路を確認するようにこちらを見ている。
「...なんだぁ?お別れのあいさつか?」
「そんな訳ないだろう。きちんと最期を見届けねば安心出来んだけだ。」
「...私も同行しよう。」
「お前まだいたんか...。」
かくして、一人の魔族の最期をもう一人の魔族とエルフが見届けるというなんとも不思議な光景が広がった。
「じゃあ、また別の宇宙に行くとするか。」
「...とっとと逝け。」
「......。」
ヒルンは何か幻覚が見えているように動く。
扉を開ける動作をする。
「では、シュラハトと小娘よ、オレオールで会おう。」
そう言って消えた。
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取り残された二人は互いを見合って、見合って、そして互いに危害を加えることなくそれぞれ帰った。
魔王が討伐された後、魔王城の外れにある小屋から非常に重要な文献が見つかった。
なんとヴァルヌンク氏の持っていた''宇宙''に関する報告書の原本が見つかったのである。
''宇宙''の正体については諸説あるが、報告書の原本の最後にはこう綴られていた。
宇宙は空にある。
これでヒルンの物語はおしまい。
彼のおかげで魔族はしばらく繁栄することになったし、シュラハトくんはホクホクだよ。
エーヴィヒくんは撲殺されたよ。
ヴァルヌンクさんはもっかい怒られたよ。
何はともあれ、大団円。