なお前回と前々回()
霊都アムニールから少し離れた薄暗い森林。四糸乃たちは四人でクエストのためここを訪れていた。
メンバーは【蹴士】氷芽川四糸乃、【暗闇術師】エレイナ・ミオソティス、【秘法騎兵】バルグラム・アルスル、【賢者】トレマス・サンドリアだ。
「この辺りにUBMらしきモンスターが出るんでしたっけ」
「この周辺に出没するモンスターではありえない事態が起きているからほぼ確実にUBMだろうという話だ」
「バルグラムよ、オマエなら一人でも討伐できそうだが、何故ワタシたちまで連れてきたのだ?」
「現時点で判明してる情報では、彼奴の特性は"隠蔽"と"遠距離精密狙撃"らしくてな。探知系のスキルが《殺気感知》や《危機察知》くらいしかない私では逃げに徹されると追えん。さらに言えば、彼奴の能力特性から推察するに特典武具を獲得しても私のスタイルには合わん。それなら自分の特典武具獲得チャンスを減らしてでも取り逃がすリスクを可能な限り少なくすべきだと判断した。まぁ、妹弟子がもう【神】に至ったことや、新たな妹弟子が増えたことを聞いて気になった、というのも理由の一つだがな」
「念のために先に言っておくが、ワタシは四糸乃と違って凡人の範疇を出ないからな?」
「さすがに四糸乃が異常なのは分かっているさ。【神】に就いただけじゃ飽き足らず、転職クエストを手掛かりにロストしていた魔法属性を再発見したのだろう?ハイエンドは直接会ったことはなくとも噂には聞いていたが、〈マスター〉にもいるとは思わなんだ」
「性質的に防御や拘束がメインのようなので、バルグラムさんが使うことはそうないと思いますが」
「いや、防御系の属性は割とよく使うぞ。遠距離からの魔法を防ぐ際に対応する属性を刀に纏わせてな」
「貴方のジョブ構成なら素早く避けるものだと思っていました」
「AGI特化というわけではないからな。範囲魔法や光、雷魔法は回避が難しいのだ」
「ちなみに纏わせる魔法とやらを間近で見せてもらうことは可能でしょうか?」
「お前の腕前なら私のを見ずともいずれ習得できると思うが······。それでも見たいのなら、代わりに発見したという属性を教えてくれ」
「構いません。貴方なら一日もあれば三つとも会得できると思いますよ」
「感謝する」
「······なぁ、魔法を直接武器に纏わせる所謂"魔法剣"的な魔法はないのではなかったか?というか、バルグラムもそんなホイホイと新しい魔法属性を習得できる前提で話しておるが」
「四糸乃ちゃんがバケモノ以上のバケモノだとして、バルグラム君だって四糸乃ちゃんには及ばないだけでバケモノレベルではあるんだよね。天才を超えた"鬼才"くらいかな。バルグラム君曰く『【剣聖】の《レーザーブレード》を参考にしただけだ。ゼロからオリジナル魔法を編み出せる奴には敵わん』らしいけど、既存のジョブスキルを参考にしたとはいえオリジナルスキルとして〈アーキタイプ・システム〉に認定されるレベルまで完成度を引き上げたのは本人だからね。四糸乃ちゃんみたく無自覚で煽るタイプだよ」
「なんとまぁ······」
怪物二人の会話を遠巻きに眺めているエレイナとトレマス。普通の【魔術師】が聞けば耳を疑うような発言が飛び交っているが、才能の権化のような二人としては普通の会話をしているつもりなのだろうか。
「それにしても、件のモンスターは影も形も見えんな。なぁトレマス、襲われた人物に共通点はあるのか?」
「少なくともジョブはバラバラだね。だから非戦闘職が狙われているということはない。しかも一人でいたら撃ち抜かれたり二、三人でいる所を襲撃されたりと人数も関係なさそうだ」
「四糸乃、【術神】に便利そうなジョブスキルがあったりしないか?」
「まだ習得していない奥義を除いて四つのジョブスキルがありますが、どれもパッシブで、探知系のスキルはないですね。《魔力視》と《看破》を組み合わせたようなスキルが一つありますが、そもそも対象が視界内にいないと無意味です」
「つい二日前にも被害報告が出ているからこの森を去ったとは考え辛い。となると、何かしらの条件を満たさないと出現しないという可能性が大きいか」
「基本的に隠れ潜んでいることから察するに、HPやENDは低そうですよね。しかも襲われた報告はあれど姿の報告がないということは、よほど隠蔽能力にリソースを割いているか、視界に入り辛い場所にいるか、ですね」
「木の上に住む小動物系か、空を飛ぶ鳥系モンスターか?」
「射撃系の能力があるんだろう?空からだと射線が通りにくいから小動物の可能性の方が高いんじゃないかな。確かこの森にリス系モンスターは生息してるはずだ」
「予測を立てても、誘き出す方法がないんですよね。······森林破壊とか?燃やすなり伐り倒すなり」
「伐り倒すなら得意だ」
「ワタシはどっちでもいけるぞ!」
「環境破壊は許可取ってからじゃないとヤバいからやめてね!?ほら、別の方法を考えようか!?」
「他ですか······我ながら良い手だと思ったんですけどね」
「私も良い案だと思ったのだがな」
「なんでこう脳筋なのかなウチの天才どもは!」
「ただの脳筋ではなく、合理性を突き詰めた結果として脳筋のような手段になったようだぞ?」
「ところで誘き出す方法ですが、他に案あります?」
「ここまでの仮説が正しいという前提でなら一つあるが、大きな問題がな」
「とりあえず聞かせてください。私やエレイナさんの〈エンブリオ〉か特典武具で解決できるかもですし」
「そうさな。トレマスや四糸乃にその場で適した魔法を作らせるという方法もある」
「では私が思い付いた案だが、『栄養価の高い木の実を乱獲する』というものだ。もし私達の予想通りにUBMがリスなどの小動物系だった場合、何が一番奴の神経を逆撫でするかと考えたら、食料を奪われることだと思ったのだ。【採取家】などの非戦闘職はもちろん、戦闘職でも果実を採取することはあるだろうし、採取中なら停止しているから狙撃も容易い」
「······あぁ、問題というのは囮ですか」
「そうだ。『木の実を採取している』という無防備な状態でいる必要があるため、ほぼ確実に奴の狙撃を急所に受けることとなる。本来ならHPとENDが高い者が担うべきだが、この四人にはおらん」
「それなら死んでも戻ってこれる〈マスター〉である私かエレイナさんがやるべきですね」
「なら、ワタシが適任だな。そういえば狙撃は物理攻撃なのか?魔法攻撃なのか?」
「狙撃痕を捜査した者によると、固有スキルで強化した種子や葉を撃ち出す物理攻撃らしい」
「ほう?」
◇◆◇◆◇◆◇
探査用の魔法を使って果実を乱獲した四人。アイテムボックス数個分を集めた所で小休止を取っている。
「これだけ集めれば十分か?」
「魔法まで使って乱獲したからねぇ。さすがに誘き出すには十分でしょ」
「これで足りなければ、推測が間違っていたということでしょう」
「私としては、果実探査用の魔法を既に作っていたというのが驚きだ。四糸乃とトレマス殿にその場で作ってもらうつもりで提案したのだがな」
「少し昔に森で遭難したことがあってねー。食料捜索のために即興で編み出したのがこの《フルーツ・サーチ》さ。後にも先にも僕が即興で魔法を作ることができたのはこれだけなんだ」
「火事場の馬鹿力、でしょうか」
「なるほど、ではワタシは少し離れてこれ見よがしに果実を食いながら採取するか。これで釣れるといいんだがなぁ」
そう言って三人から離れた場所へと歩き出すエレイナと、その様子を見て怪訝そうな表情で四糸乃を問い詰めるバルグラム。
「······四糸乃、本当に彼女を囮にしてよかったのか?いくらお前たち〈マスター〉が死んでも三日経てば戻って来ることができるという不死性を備えていても、私の矜持が死を前提にした作戦には抵抗がある」
「······?あ、勘違いさせていましたね。エレイナさんなら死にませんよ。あの人防御系の特典武具を持っているうえに【大死霊】ですから」
「―――あいたぁ!?」
「「「っ!」」」
何かが着弾したと思わしき轟音と、若干気の抜けたエレイナの悲鳴。
想定していたよりも随分と早く件のモンスターが釣れたらしい。
「こっちだ······!」
「良い根性だエレイナちゃん!」
いくら優秀な隠蔽系スキルを持っていようと攻撃の方向を誤魔化すことはできない。それも攻撃を直に受けた者が誤認することなど、五感への干渉に特化していなければありえない。
今までは急所を狙撃することで一撃で仕留め、情報を伝達を防いでいたが、今回は相手が悪かった。ただでさえ生存能力の高い【大死霊】が防御に適した特典武具を使っていたのだ。
「―――捉えました」
四糸乃の視界にはリスの如き小動物の姿と、その頭上の【供食慈愛 ラタトスク】という銘が映っていた。UBMだ。
しかも、銘を見るに隠蔽能力と狙撃能力はメインではないらしい。
「モンスター名は!」
「【供食慈愛 ラタトスク】、UBMです。隠蔽も狙撃も銘に無関係ですし、まだ判明していない能力があります」
「供食······捕食みたいなリソース関係か?」
「慈愛の方で回復能力もあるかもよ」
「考察は後だぞ二人とも!四糸乃しか奴の正確な位置を把握できない現状、ここで逃すと討伐が非常に困難になる!」
「逃がしませんよ」
四糸乃が柏手を打つと、辺り一帯の地面から氷がせり上がり始める。やがて氷は上空まで覆いつくし、巨大なドームが完成して自分たちごと【ラタトスク】を閉じ込めた。
「四糸乃、こんな大規模魔法を使ってMPは大丈夫なのか?」
「ステータスの伸びが悪い【神】シリーズとはいえ就職条件が厳しかったからか割とMPが伸びるんですよ。【ザドキエル】の補正も合わされば、まだ余裕があります」
「ちなみに四糸乃ちゃん、【ラタトスク】の位置を把握しているスキルってさっき言っていた【術神】のジョブスキルによる視覚強化かい?」
「その通りですが、それがどうかしたんですか?」
「それならこの魔法が使えるなって!《ビジョン・シェアリング》!」
「ぬ!?これは······」
「ほう······【ラタトスク】の姿が見える」
トレマスのオリジナル魔法の一つ、《ビジョン・シェアリング》。その効果は「ある一人の視覚に関する効果を他の人物にも適用する」というもの。視界の共有ではなく、視覚に関する効果の共有だ。
その魔法で【術神】のジョブスキルである《根源を覗く瞳》の効果を四糸乃以外にも適用させたということだ。
「これで【ラタトスク】の退路は塞がれ、全員が奴の位置を把握できる。あとは誰がどれだけダメージを与えるかの貢献度レースだ」
「なるほどな。分かりやすい」
「誰が獲っても恨みっこなしだぞ!」
「勿論です」
◇◆◇◆◇◆◇
【<UBM>【供食慈愛 ラタトスク】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【氷芽川四糸乃】がMVPに選出されました】
【【氷芽川四糸乃】にMVP特典【共職自愛 ラタトスク】を贈与します】
「隠蔽を潰したからかあっさりでしたね」
「結局、最後まで銘を表すような固有スキルは見せてこなかったな。一体なんだったのか······」
「それにしても、貢献度レースは負けたか」
「まぁ逃走経路の遮断も位置の把握も四糸乃ちゃんのおかげだからね。与えたダメージも大きな差がなかったし、妥当でしょ。無事に討伐できたことだし一休みしたら帰ろ―――え?」
「―――なっ!?」
戦闘終了のタイミングを狙い澄ましたかのような〈アクシデント・サークル〉。
探知魔法で周囲にモンスターがいないのを確認していたこともあり、気が抜けてしまっていて歴戦のバルグラムでも反応が数瞬遅れてしまう。
その数瞬の間にも魔力は収束していき、今にも何かが起きそうな瞬間、トレマスとバルグラムの身体が宙に浮かぶ、否、空に落ちるようにして〈アクシデント・サークル〉から離れていく。
誰の仕業かなど考えるまでもない。この場に重力魔法を使える者は一人しかいないのである。
無秩序に魔力の奔流が吹き荒れる〈アクシデント・サークル〉の内部で〈アーキタイプ・システム〉の補助を受けずに一瞬で魔法を構築してのける魔力操作技術はまさに【神】だが、その常識外れの制御力でも時間と環境のせいで二人が限度だったらしい。
「四糸乃!?なぜ私たち二人だけを······!」
「さすがに制御が厳しくてですね······どうなるかは分かりませんが、また会いましょう
「もし転移ならぶっちゃけ死ねばすぐに戻れるが、それは悔しいから生きて戻るつもりだ!いつになるか分からんがまた会おう!」
〈アクシデント・サークル〉が一層眩しく光り輝き、その光が止んだ頃には四糸乃とエレイナの姿はなかった。転移魔法を引いたパターンだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「ここは······雪山ですね」
「マップに地名は載っておるが地名じゃ場所は分からんな······あ゛」
「もしかしなくても遠いんですね」
「聞いて驚け、〈厳冬山脈〉だ」
「············まじですか」
二人の長い旅が、始まる。
〇【供食慈愛 ラタトスク】
(╹ x ╹)<【ファフニール】くんとは異なり戦闘シーン九割カットという悲しきUBM
(╹ x ╹)<なお銘の由来になった能力が戦闘にほぼ関与しないから、というのが理由
(^・ω・^)<UBMの固有能力でそんなことあるのか?
(^・ω・^)<本文でも一切描写がなかったようだが
(╹ x ╹)<この先描写することほぼなさそうなので言っちゃうんですけど、能力は「子へのリソース分配・魔法による隠蔽・木の実や木の葉などの強化&投擲」なんですよね
(^・ω・^)<あぁ······道理で描写されないわけだ
(╹ x ╹)<能力にUBMとしてのリソースの大部分が集中しているので、居場所がバレた状態での直接戦闘は【ラタトスク】が最も苦手とするシチュエーションです
(╹ x ╹)<要は隠蔽をメタれる射程持ちなら楽に勝てる相手ということです
(^・ω・^)<逆に言えば隠蔽への対抗策がないと勝ち目がないということでは?
(╹ x ╹)<周辺一帯ごと殲滅すればいけます。まぁ木材の賠償金を課せられますがね
(^・ω・^)<どこぞのクマじゃないんだから······
(╹ x ╹)<そうだ、ついでにエレイナの特典武具を紹介しましょうか
(^・ω・^)<えっ
(╹ x ╹)<防御系の特典武具とは描写しましたが詳細を書くかどうか微妙なので
(╹ x ╹)<まぁ読者の方々はうっすら察してるかもしれませんが、私こと作者(姫河ハヅキ)は設定を考えるのと設定を開示するのが好きですから
【輝装纏鎧 ファフニール】
伝説級UBM【纏鎧鉱蠧 ファフニール】の討伐MVPで獲得した、内臓(一応肝臓設定)を置換する特典武具。なお装備枠はアクセサリー。
・装備補正
END+50%
・装備スキル
《喰鋼蓄蔵》
装備者が経口摂取により金属を取り込み、特典武具内に保存する。元となった《喰鉱蓄蔵》から対象を「鉱石」ではなく「金属」に限定したもの。
装備者本人の口にのみ金属限定の硬度無視効果がパッシブで発揮されていたりする。
アクティブスキル。
《鋼躯換装》
《喰鋼蓄蔵》によって蓄積した金属を消費し、装備者の肉体を金属へと置換する。骨格や内臓などの内部構造から体表の装甲まで、任意の部位を対象とすることが可能。
アクティブスキル。