超級進化においてネックとなる感情トリガー。だが、逆に言えば噛み合ったらこういうことも起きるのではないか?

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初投稿です。文章の読みづらさ、ガバなどはご容赦ください。


超級の羞恥心

「うわああああああああ!!!!!!!!!!」

 

アルター王国は首都アルター。人通りの多い大路に、少年の絶叫が轟いた。

真っ昼間から何事かと、道ゆく人々は少年に視線を向ける。全身黒づくめで目元を隠すマスクをした少年は、西洋風の建物が並ぶこの都市には若干ミスマッチな風貌であった。だがそれもそのはず、彼の手には<マスター>であることを示す、交差する鎌が描かれた青い紋章があった。

 

「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

自身が注目を集めていることに気づいてしまったのであろうか。少年は、さらに大きな声をあげて駆け出していく。その後ろを、同じく黒づくめの少女が追っていった。

 

「待つのだ我が盟友よ! ともに我らが<✝︎聖域✝︎>にてこの歓喜を共有しようでは――」

「もうお前喋るなああああああ!!!!!!!」

 

側からみれば、やけにうるさい全身真っ黒二人組。彼らが一体何者なのか、どうしてこのような迷惑な状況に陥っているのか。それを説明するには、しばし時を戻さねばならない。

 

 

「やった! 受かった!」

 

2045年3月。高校受験を迎えた中学3年生の吉川一郎は、半年間の猛勉強の末、見事第一志望であったN高校に合格した。

 

「おめでとう一郎兄ちゃん! これでまた一緒に遊べるね!」

「ありがとな〜二郎! 一人で遊んでて寂しくなかったか?」

「大丈夫! クランの人たちとも仲良くやってたよ!」

 

一郎とその弟の二郎は、共に<Infinite Dendrogram>のプレイヤーである。二人は同じクランに所属し、切磋琢磨してきた。しかし高校受験のため、一郎は半年間、ゲームなどの娯楽を断ち勉強に専念していたのだ。

 

「今日もこの後、クランメンバーの会合があるんだ! 兄ちゃんが帰ってきたらみんな喜ぶよ、一緒に行かない?」

「わかった、行くよ。久しぶりだからもう色々忘れてるかもだけど、よろしくな!」

「心配しないで! 僕が助けてあげるし、何より兄ちゃんはクラン最強の

“✝︎深淵より来たる兇手✝︎”なんだから!」

 

空気が凍った。少なくとも一郎はそう錯覚した。

封印してきた、受験によって忘れていた、忘れることが出来ていた忌まわしき過去が、愛すべき弟の無邪気さによって一郎の前に厳然として現れた。

 

この世には13歳から15歳、主に思春期を迎えた少年少女を蝕む恐るべき病が存在する。

その症例は様々であり、過度な妄想によってありもしない設定を作り出し自身を他とは違う特別な存在と思い込む、ネットや本で聞き齧っただけの知識をひけらかし周囲を混乱に陥れる、などが存在する。

妄想や思考に耽る間もないほど別の何かに熱中すればこの病は治療されるが、真に恐るべきはここからである。

俗に『中二病』と呼ばれるこの病に罹患していた時の、自らの身悶えるような言動は何の脈絡もなくフラッシュバックし、不幸にも正常な感性を取り戻してしまった患者達に、激しい羞恥心と過去の自分への殺意を抱かせるのである。

 

一郎もまた、他の健全な少年少女と同じく、その病に罹患していた。彼はゲーム内でもその設定を常に自身に適用し、活動していた。

「過去は消えない」――そう言っていたのは誰であったか。決め台詞を放つ過去の己である。一郎は身を持って、その言葉の重みを感じていた。

 

「先にログインしてるね!」

 

二郎は哀れな兄を残し、一人旅立っていってしまった。一郎も震える手で棚の中に仕舞われていたヘルメットを取り出し、<Infinite Dendrogram>にログインした。

 

ログインしてすぐに、一郎は己のステータスをチェックした。

 

宵闇 一龍

レベル:100(合計レベル:500)

 

もうログアウトしたい。一郎は心の底からそう思った。

過去の自分は何を思ってこのような巫山戯た名前をつけたのか。服装もまた酷い。暗殺者としてプレイしていただけあり、全身黒づくめでとても白昼堂々街を歩けるものではない。彼が天を仰ぎ、現実から目を背けていると、

 

「一年半ぶりか、久しいな。我がマスターにして無二の盟友よ。息災であったか?」

 

同じく全身黒づくめに、眼帯をした少女がいつのまにか目の前に立っており、嬉しそうに話しかけてきた。彼の<エンブリオ>、アズリエルである。

 

「ありがとう、元気だよ」

 

明らかに元気ではない声で一郎、否、一龍は返事をした。

 

「ふむ、まあ良いだろう。今までの尊大な口調はやめたのか?」

 

「ぐっ…、もう卒業したんだよ。」

できるだけ自分の発言を思い出すぬよう努めながら、一龍は彼女と会話を交わす。

アズリエルは彼と共に数々の修羅場を乗り越えてきた相棒であり、(今となっては恥ずかしいが)盟友と呼んで差し支えない存在でもある。

そうだ。自分にとってデンドロは何も恥ずべきものばかりがある世界ではない。そう前向きに捉えようとしていたその時、

 

「そうか…、我はあれを気に入っていたのだがな…。聞いてみよ。初めてギルドの依頼を受け盗賊団を壊滅せしめた時の『深淵より貴様らに引導を渡しにきた』という其方の言葉も、あの恐るべき<UBM>を<✝︎聖域✝︎>の朋友らと打破した時の、其方の『恐れるな、我が深淵に敗北はない』という言葉も全て我は保存してある。」

 

宵闇一龍:『深淵より貴様らに引導を渡しにきた』(クソデカ音声)

宵闇一龍:『恐れるな、我が深淵に敗北はない』(クソデカ音声)

 

 

突きつけられる、致死量の過去。

それは否応無しに、ギリギリで平静を保っていた一龍の精神を破壊した。

 

「うわああああああああ!!!!!!!!!!」

連鎖的に呼び起こされ、脳内を埋め尽くすあまりにも痛々しい発言の数々。それによって溢れ出す羞恥心は弱冠15歳の少年にとってはあまりにも十分すぎるものであり――

 

【感情トリガー:作動――確認】

 

 

【必要リソース:閾値――到達】

 

 

 

 

【――――超級進化シークエンスを開始します】

 

「おお! 盟友よ! なぜか我はたった今<超級エンブリオ>へと進化した! これは天も我らが新しき旅路を祝福しているに違いない!」

 

 

「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

自身がこの世界でも100人に満たない<超級>へと至ったことを気にしていられるほど、今の一龍の精神に余裕はなく、彼は駆け出していく。あたかも、忌まわしき過去から逃げていくように。

彼が今後どのようにしてこの世界に影響を与えていくのか。それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、高校入学後にクラスメイトとデンドロ内で会うことになり、また苦悩するのは別のお話。




宵闇一龍/吉川一郎:元中二病。カンストしてることからもわかるように、受験前はそれなりにデンドロをやり込んでいた。エンブリオが形成される際のパーソナルに影響するほど中二病だったため、治った際の衝撃はそれこそ精神が崩壊するレベルだった。ちなみに<✝︎聖域✝︎>は一郎と二郎が所属するクランの名前。

吉川二郎:兄思いのいい子。兄が中二病でもそうでなくても慕ってくれるマジいい子。エンブリオは支援に特化したテリトリー系列。

アズリエル:【極夜天使 アズリエル】 TYPE:メイデンwithエルダーアームズ    
何でメイデンなのかというと中二病最初期の一郎が自分こそがこの世界を救う人間だという使命感を持ってプレイしていたから。(あとメイデン出るような世界派の人間の方がデンドロ内での中二病的言動で悶えてくれそうだなという都合から。)

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