英雄の誕生まで駆け抜けて   作:アベンチュリン

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今回は短めです。


二十七話 サプライズコウスケ

「……やっぱり下の階層に落ちているか」

 

【レア・ラーヴァテイン】の魔法円(マジックサークル)には、その内側の人間と怪物(モンスター)を識別する能力がある。それを利用して崩落したルーム越しに探知(サーチ)してみたが、反応はない。どう考えても下の階層に落ちたと結論が出る。

 

「……リリがいるし、【ヴェール・ブレス】も間に合った。ベルたちは問題ないだろ。俺も下に降りよっと」

 

 

「リリッ、無事?……ヴェルフも!」

「はい、バックパックが緩衝材(クッション)になってくれました」

「俺も大丈夫だ。ちょっと背中を打っちまったけどな」

 

 天井の崩落に加えて、逃げた先での足場の崩壊、大量の岩盤にかき混ぜられたというのに、不自然なまでにベル達が受けたダメージは少なかった。

 

(……まさか、コウスケさん?)

 

 ベルが視線を動かせば全員に緑光の『防護魔法』が付与されているのが確認できた。それが大量の岩盤から身を護り、僅かな傷を癒してくれているのだと気付くのに、それほど時間はかからなかった。

 

「ベル様、これは一体」

「初めて見るけど……多分、コウスケさんの魔法だと思う」

「そうですか。改めて、とんでもない方ですね、コウスケ様も」

 

 リリの戸惑う声にベルが答えた。

 

「今の崩落でモンスターが出現する気配は薄くなっています。休憩(レスト)も兼ねて、一度状況を整理しませんか?」

 

 深呼吸の後、リリが口にした言葉はそんな提案だった。

 自若(じじゃく)を訴えるリリの栗色の瞳に、ベルもヴェルフも、荒れかけていた胸の奥が冷える。自分達よりはるかに小さい小人族(パルゥム)の少女に促され、身を起こしてそのまま話し合いを始めた。 

 

 数分の後、リリは『自分達が1()5()()()()()()()()()かもしれない』という分析と共に、安全階層(セーフティポイント)である18階層に避難する案を挙げ、その判断をベルへと(ゆだ)ねた。

 

「それとコウスケ様に関してですが、あの方の実力なら心配は無用でしょう。リリ達が見つからなければお一人で地上に戻って救援を呼ぶことも可能なはずです」

「あはは、確かに」

 

 そしてベルは決断する。

 

「進もう」

 

 

 「っ……【響く十二時のお告げ】、ゲッホゲホ」

 

 15階層に入ってからは、ちょっと知っている狼人(ウェアウルフ)に変身して、ベル達のモノであろう臭いを追っていたのだが、16階層で鼻を刺激した強烈な悪臭に、反射で変身を解除した。

 おそらくリリがナァーザに作らせた『強臭袋(モルブル)』の残り香だろう。

 

「うへぇ、まだ鼻に残ってる……だけど近いな」

 

 いまだに『強臭袋(モルブル)』の臭いが残っているということは、ベル達がここを通過してから、まだそれほど時間が経っていないのだろう。

 鼻が麻痺したまま通路を進めば、その先で通路が撃砕されていた。

 おそらくベルの英雄願望(スキル)

 であればこの辺りで『強臭袋(モルブル)』の効果が切れ、戦闘が発生したのだろう。規模からしておそらく原作通りのミノタウロス。

 

「待ってろベル、もう少しで追いつく」

 

 それにしても運が悪い。ベートに同行した時や、ベル達と13階層を探索した時と打って変わって、『縦穴』が全然見つからない。おのれダンジョン。

 

 

 17階層は、あまりにも()()()()()

 抑えきれなかった疑問が呟きとなってこぼれ、自ずと遠くの方まで反響する。装靴(グリーブ)の蹴った石が音を立てて転がり、静まり返った薄闇に吸い込まれていった。

 モンスターが、現れない。

 不自然なまでに、遭遇(エンカウント)がさっぱり途絶えてしまっている。

 

「……」

 

 進み、進んで、進み続け──次第に届いてくる『衝撃』と『咆哮(ほうこう)』に表情が凍りつき、最悪の予感に膝を折りそうになっても、それでも進むしかなかった。

 そして、突きつけられた。

『絶望』と『戦慄』の文字を。

 17階層最奥の大広間、そこに存在する18階層への連絡路を守るように陣取るゴライアス、そしていつの間にか僕達を追い越し、階層主(ゴライアス)との戦いを始めていた黒髪黒目の少年がそこにいた。

 

「コ、コウスケさん⁉ナンデ⁉」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()17階層に続く縦穴に飛び込んだコウスケは『嘆きの大壁』がある大広間に急行した。

 その先で目にしたのは『嘆きの大壁』から産まれたばかりであろう階層主(ゴライアス)の姿、追っていたはずのベル達の姿は影も形も無かった。

 

(ベル達はゴライアスが生まれる前に18階層に着いた?)

 

 僅かにそんな思考がコウスケの脳裏をよぎったが、ベルとの分断、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、運悪く見つからない次層へ繋がる縦穴、これまでダンジョンの悪意をひしひしと感じていたコウスケはすぐにその思考を否定し、別の結論を導き出した。

 

(俺が、ベル達を追い抜かすように誘導された)

 

「【不変の王。無窮の旅人。万象は廻り、地は砕け、天球は失墜し、開闢を言祝ぐ】【尊き叡智よ、我が声を聞け。我が手に降くだれ】──【スペルズ・マギナ】」

「【あなたの刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】──【シンダー・エラ】」

 

 変身魔法によって嗅覚の優れた獣人に変身し、コウスケはその結論が正しかったことを理解した。

 

(徹底的に俺がいない状況でベル達にモンスターをぶつけるつもりか……なら、こっちにも考えがある)

 

「【永争せよ、不滅の雷兵】──【カウルス・ヒルド】」

 

 階層主と戦うことが避けられない以上、体力と精神力(マインド)の節約は必至、コウスケはしっかりと詠唱を紡いで魔法を行使し、大広間に続く大通路、そこから目視できる範囲に手あたり次第に白雷を打ち込み、ダンジョンの壁面を破壊した。

 

(これでダンジョンからのモンスターの供給は断った)

 

 ダンジョンは地形の修復を優先させ、その地帯(エリア)内からモンスターが産まれ落ちることはなくなる。

 再び大広間に戻り、階層主を前にした。

 

「さあて、やるかゴライアス」

 

 少年が地を蹴るとともに、戦闘の幕が開けた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「チッ、一撃でもまともにもらえば死ぬか」

 

 振り下ろされる大鉄槌を躱したコウスケは、発生した衝撃波だけで吹き飛ばされ、その威力に歯噛みする。

 

「【花開け(アルガ)】──【アガリス・アルヴェシンス】」

 

 赤華の焔を顕現させ、巨大な敵を相手にする時の定法(セオリー)通り、足を叩く。

 

「っ、浅い」

 

 付与魔法(エンチャント)の火力補正をもってしても頑強な体皮に刻めたのは、深さ3C(セルチ)ほどの切り傷、人間相手なら十分だが、ゴライアスの機動力を奪うには足りない。

 

精神力(マインド)が心もとないってのにこのデカブツ……」

 

 魔法(エンチャント)を解除し、精神力(マインド)を温存、並行詠唱の要領で次なる一手を思考する。

 

(やっぱ、ワイヴァーンの時と同じで最強の一撃で仕留めるしかないな)

 

「コウスケさん⁉」

 

 番外から新手が入り込む。

 

「ベル⁉……ッヤベ!」

 

 コウスケがベルの方へ顔を向けた瞬間を穿つようにゴライアスの拳が振るわれる。

 咄嗟に差し込んだ左腕から嫌な音が鳴った。

 

「【ピオスの蛇杖(つえ)、ピオネの母光(ひかり)。治療の権能をもって交わり、全てを癒せ】──【ディア・パナケイア】」

 

 回復するのは()()()()()()()()、左腕が受けた強大な力すら利用してコウスケは後方への大移動を行っていた。

 

「ベル、英雄願望(スキル)は使えるな?」

「っ、はい!」

 

 答えを確信している問いかけにベルは勢いよく肯定を返した。

 

「よし、時間は俺が稼ぐ、限界まで蓄力(チャージ)できたら合図をくれ、()()()()()()

「はい!コウスケさん!」

 

 コウスケが再び駆け出し、第二ラウンドが幕を開ける。

 ベルはヴェルフとリリに一言、ごめん、と謝ってから地面に下ろし、チャージを始めた。

 

 リィン、リィンと鐘の音が鳴る戦場でコウスケも並行詠唱を始める。

 

「【祝福の禍根(かこん)、生誕の(のろ)い。半身()らいし我が身の原罪(げんざい)】」

 

 高まりはじめた魔力に反応して階層主が振るう攻撃を、コウスケは回避し続ける。

 

「【(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色(ねいろ)こそ私の罪】」

 

 本来の使い手より()()()()()、しかし確実に呪文を紡ぐ。

 

「【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪過(ざいか)烙印(らくいん)】」

 

 振り下ろし、踏み潰し、鬨をあげる。本来なら呼び出されるモンスターは現れない。コウスケが破壊した壁面の修復はまだ済んでいなかった。

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ──砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる】」

「コウスケさん!」

「──」

 

 ベルが声を上げた瞬間、コウスケはあっさりと詠唱を中断し、ゴライアスの正面から離脱する。

 そしてゴライアスは目にする。

 コウスケの臨界に向かう魔力によって覆い隠されていた力の奔流を、誘導されていた射線を。

 

 斯くして英雄の一撃は放たれる。

 

「【ファイアボルト】オオオオォォォ!」

 

 ベルが放った一筋の炎雷が階層主の上半身を吹き飛ばす。

 

「やったな、ベル」

「はい、やりましたねコウスケさ……」

精神疲弊(マインドダウン)か、出し尽くしたんだな」

 

 倒れゆくベルを受け止めたコウスケはリリ、ヴェルフに並べて横にする。

 

(……流石に片腕が折れた状態で三人を運ぶのはきついな) 

 

「あの……どうしたらそんなに早く強くなれるんですか?」

「け、【剣姫】……先にベル達を運ぶの手伝ってくれません?」

 

(天然だなぁ、この娘)

 

 

 俺がリリを、アイズがベルとヴェルフを持って18階層への連絡路を(くだ)る。

 男としてちょっとこの絵面はどうかと思うが、流石に諦めた。もう腕を治療するだけの精神力(マインド)も残っていないのだ。

 

「……」

「……」

 

【ロキ・ファミリア】の野営地は階層の南端部、17階層に通じる洞窟の近くに存在している。

 無言の時間はそれほど長くは続かなかった。

 三人を草地の上に寝かせ、俺も仰向けになる。疲れた。

 ……やばい、気を抜いたら眠気が襲ってきた。

 抗いがたい眠気(それ)が、体を(おか)す感覚をそのままに、俺の意識はそこで途絶えた。

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