英雄の誕生まで駆け抜けて 作:アベンチュリン
「……やっぱり下の階層に落ちているか」
【レア・ラーヴァテイン】の
「……リリがいるし、【ヴェール・ブレス】も間に合った。ベルたちは問題ないだろ。俺も下に降りよっと」
♦
「リリッ、無事?……ヴェルフも!」
「はい、バックパックが
「俺も大丈夫だ。ちょっと背中を打っちまったけどな」
天井の崩落に加えて、逃げた先での足場の崩壊、大量の岩盤にかき混ぜられたというのに、不自然なまでにベル達が受けたダメージは少なかった。
(……まさか、コウスケさん?)
ベルが視線を動かせば全員に緑光の『防護魔法』が付与されているのが確認できた。それが大量の岩盤から身を護り、僅かな傷を癒してくれているのだと気付くのに、それほど時間はかからなかった。
「ベル様、これは一体」
「初めて見るけど……多分、コウスケさんの魔法だと思う」
「そうですか。改めて、とんでもない方ですね、コウスケ様も」
リリの戸惑う声にベルが答えた。
「今の崩落でモンスターが出現する気配は薄くなっています。
深呼吸の後、リリが口にした言葉はそんな提案だった。
数分の後、リリは『自分達が
「それとコウスケ様に関してですが、あの方の実力なら心配は無用でしょう。リリ達が見つからなければお一人で地上に戻って救援を呼ぶことも可能なはずです」
「あはは、確かに」
そしてベルは決断する。
「進もう」
♢
「っ……【響く十二時のお告げ】、ゲッホゲホ」
15階層に入ってからは、ちょっと知っている
おそらくリリがナァーザに作らせた『
「うへぇ、まだ鼻に残ってる……だけど近いな」
いまだに『
鼻が麻痺したまま通路を進めば、その先で通路が撃砕されていた。
おそらくベルの
であればこの辺りで『
「待ってろベル、もう少しで追いつく」
それにしても運が悪い。ベートに同行した時や、ベル達と13階層を探索した時と打って変わって、『縦穴』が全然見つからない。おのれダンジョン。
♦
17階層は、あまりにも
抑えきれなかった疑問が呟きとなってこぼれ、自ずと遠くの方まで反響する。
モンスターが、現れない。
不自然なまでに、
「……」
進み、進んで、進み続け──次第に届いてくる『衝撃』と『
そして、突きつけられた。
『絶望』と『戦慄』の文字を。
17階層最奥の大広間、そこに存在する18階層への連絡路を守るように陣取るゴライアス、そしていつの間にか僕達を追い越し、
「コ、コウスケさん⁉ナンデ⁉」
♦
その先で目にしたのは『嘆きの大壁』から産まれたばかりであろう
(ベル達はゴライアスが生まれる前に18階層に着いた?)
僅かにそんな思考がコウスケの脳裏をよぎったが、ベルとの分断、
(俺が、ベル達を追い抜かすように誘導された)
「【不変の王。無窮の旅人。万象は廻り、地は砕け、天球は失墜し、開闢を言祝ぐ】【尊き叡智よ、我が声を聞け。我が手に降くだれ】──【スペルズ・マギナ】」
「【あなたの
変身魔法によって嗅覚の優れた獣人に変身し、コウスケはその結論が正しかったことを理解した。
(徹底的に俺がいない状況でベル達にモンスターをぶつけるつもりか……なら、こっちにも考えがある)
「【永争せよ、不滅の雷兵】──【カウルス・ヒルド】」
階層主と戦うことが避けられない以上、体力と
(これでダンジョンからのモンスターの供給は断った)
ダンジョンは地形の修復を優先させ、その
再び大広間に戻り、階層主を前にした。
「さあて、やるかゴライアス」
少年が地を蹴るとともに、戦闘の幕が開けた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
「チッ、一撃でもまともにもらえば死ぬか」
振り下ろされる大鉄槌を躱したコウスケは、発生した衝撃波だけで吹き飛ばされ、その威力に歯噛みする。
「【
赤華の焔を顕現させ、巨大な敵を相手にする時の
「っ、浅い」
「
(やっぱ、ワイヴァーンの時と同じで最強の一撃で仕留めるしかないな)
「コウスケさん⁉」
番外から新手が入り込む。
「ベル⁉……ッヤベ!」
コウスケがベルの方へ顔を向けた瞬間を穿つようにゴライアスの拳が振るわれる。
咄嗟に差し込んだ左腕から嫌な音が鳴った。
「【ピオスの
回復するのは
「ベル、
「っ、はい!」
答えを確信している問いかけにベルは勢いよく肯定を返した。
「よし、時間は俺が稼ぐ、限界まで
「はい!コウスケさん!」
コウスケが再び駆け出し、第二ラウンドが幕を開ける。
ベルはヴェルフとリリに一言、ごめん、と謝ってから地面に下ろし、チャージを始めた。
リィン、リィンと鐘の音が鳴る戦場でコウスケも並行詠唱を始める。
「【祝福の
高まりはじめた魔力に反応して階層主が振るう攻撃を、コウスケは回避し続ける。
「【
本来の使い手より
「【神々の
振り下ろし、踏み潰し、鬨をあげる。本来なら呼び出されるモンスターは現れない。コウスケが破壊した壁面の修復はまだ済んでいなかった。
「【箱庭に愛されし我が
「コウスケさん!」
「──」
ベルが声を上げた瞬間、コウスケはあっさりと詠唱を中断し、ゴライアスの正面から離脱する。
そしてゴライアスは目にする。
コウスケの臨界に向かう魔力によって覆い隠されていた力の奔流を、誘導されていた射線を。
斯くして英雄の一撃は放たれる。
「【ファイアボルト】オオオオォォォ!」
ベルが放った一筋の炎雷が階層主の上半身を吹き飛ばす。
「やったな、ベル」
「はい、やりましたねコウスケさ……」
「
倒れゆくベルを受け止めたコウスケはリリ、ヴェルフに並べて横にする。
(……流石に片腕が折れた状態で三人を運ぶのはきついな)
「あの……どうしたらそんなに早く強くなれるんですか?」
「け、【剣姫】……先にベル達を運ぶの手伝ってくれません?」
(天然だなぁ、この娘)
♢
俺がリリを、アイズがベルとヴェルフを持って18階層への連絡路を
男としてちょっとこの絵面はどうかと思うが、流石に諦めた。もう腕を治療するだけの
「……」
「……」
【ロキ・ファミリア】の野営地は階層の南端部、17階層に通じる洞窟の近くに存在している。
無言の時間はそれほど長くは続かなかった。
三人を草地の上に寝かせ、俺も仰向けになる。疲れた。
……やばい、気を抜いたら眠気が襲ってきた。
抗いがたい