オスケモ華奢貴族メスお兄さんボーイズラブ短編 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
オリジナル:SF/恋愛
タグ:R-15 ボーイズラブ BL 純愛 華奢 ♡無し 絆され オスケモ×オスケモ しっとりめ 若干メンヘラ メスおにいさん
異世界&SF風味でストーリーと関係性主体です。
ギリ健全なつもり
前半ケモ貴族お兄さん世界パート、後半現代風SFパートの予定
「…見よ、ここには剣が一振もない。
この意味が分かるか?セフ」
後ろを振り返ることもなく、何も無い広場へ吐き捨てるように放たれたその言葉には、多大な自嘲が込められている。
「知らん。」
また、わけのわからん言葉遊びを思いつきでもしたのだろう。
少し考えた後、無駄な思考を止めて空虚な返事を返す。
「ああ、セフ…
君はいつもそっけないな」
「…何が言いたい」
どうしても話したいようだ。
言わせてやる、と。顎を少し振って続きを促す。
「…セフ、修練場であったはずのここに剣が1本たりともない。あれだけ私と君が競って腕を上げていた剣がだぞ」
「そして見よ、剣の代わりにあの隅に伏せる奇妙な銀色の怪物と、それに写る奇怪な青い空の色を」
「ギュステ…」
ギュステは大袈裟な身振りでスラリとした長い手足を振るい、踊るように周囲の異様な光景を指した。
銀色の怪物は、魚と鳥を混ぜたような、ある意味空からやってきた金属の皮膚を持つ巨大な怪鳥とも表現出来る姿をしていた。
それが乗り物であることは理解できるが、我らの理解の先にある存在であることは疑いようもない。
そして、遠景の大地に等間隔で突き刺さる無数の巨大な鉄棒が現れるまで、空はこんな不気味な真っ青ではなく、美しい金色と輝きの雲を湛えていた。
…もう、その事を覚えているのは我らだけかもしれない。
自分達の世界がテラフォーミング攻撃を受けていることなど、二人は知る由もなかった。
「我々は、剣に加えて黄金の空さえも奪われた。やつらの世界と空と戦いに、我々のそれらは塗り替えられてしまった」
ギュステはステッキを取り落とした。
手の力が抜け落ちて、代わりに鬱屈した絶望が語気に乗る。
ここで感情を露わにしてもなんの意味もない。そう伝えるために口を開いても、ギュステは無視して語りを続けた。
「…ギュステ、落ち着け。」
「つまり、我らの努力は無駄だったのだ。
我らの努力など、なんの意味もなかった」
「奇妙な異界人に押し付けられた怪物に跨って、空を翔けることでしか抗えないのだぞ。…いや、それすらも満足に出来ているか怪しい。我らの友や家族は皆死んだか、捕らえられたのだからな」
必死に見ないようにしてきた事実を、自らの傷を抉り込むように、嫌な雰囲気の最中へ引っかき出す。
内容は事実である。全て事実であるがゆえに、言葉は耳に突き刺さった。
「セフ…我らは異界の魔物どもに蹂躙されるために今まで生きてきたと言ってもいい。あの林立する奇妙な石の塔を見よ、民は既に化け物共に組している」
「…当たり前だ。我らにあのような超常の力はない。民はより豊かな方へ行くものだ」
ギュステは地平線の先に広がる石の森を指した。
林立する醜い灰色の長方形達は、その一つ一つが我らの居城より遥かに大きい。
虫の血のように鮮烈な青い空が、悪夢のような光景を更に引き立てていた。
「…明日、君と私は、きっと死ぬのだろうな」
「死なん。ちょっとした毛無しサルの群れなどに、負けるはずがない」
「…セフ、賢い君ならもう分かっているはずだ。今更強がるな」
「………かもしれんな」
大きな鬣狼の耳が後ろから聞こえる俺の返事にぴくりと動いた。
そしてギュステはこちらに背を向けたまま、明日の最後の反抗作戦について言及を始める。
動員数は2名。俺とギュステのみで、やつらの居城と思しきあの石の森に特攻をかけるというもの。
先程言及した銀色の飛行する怪物に乗り込んで行う。
意味不明かつ目的もよく分からないが、何故か我らに味方する異界人から与えられたものだ。
操作は至極簡単で、席の前にある自在に動く鉄の棒をがちゃがちゃとやると、機体を自由に上下左右へ動かせる。
それで石の森に突っ込み、あとは棒の先端にある凹部を押して、鎧型に変形しつつ、奇怪な爆裂する魔法弾のようなものを放つのみ。
これをくれた
…おそらく、我らは異界人同士の内輪揉めに巻き込まれているだけで、本当は両方我らの存在など歯牙にもかけていないのだろうな。
と、口にしてはならないことが零れそうになるが、今にも泣きそうなギュステの顔を見て思いとどまる。
「…ギュステ、もう中へ入ろう。
これ以上は体を冷やす」
「ああセフ、そうだな…そうしようとも」
異界人が現れ、空が青くなってから、この世界は急に気温が上がっている。
今こうして外にいるだけで、むしむしと汗をかくほどに。
…それでも、風邪をひくことはあるだろう。
俺はギュステを城に入るように促し、背中を向けた。
◇◇◇
…中に入ってからも、ギュステの様子はおかしいままだ。
ヤケを起こしているのか、屋敷中の思い出のある調度品の前に立ち止まっては、なんのかんのと騒ぎ出してしまう。
「…ハ!それ見た事か!
幼き頃より背の高さを競い合っていたが、今宵も私の勝ちは変わらぬようだな!」
やつは今、自らの妹でもある今は亡き姫の自室にて、彼女のお気に入りであった大鏡の前に立ち、何やら格好をつけたポーズを取っていた。
「…煩いぞ。さっさと手を動かすか、部屋に戻って死装束でも選べ」
「つれないことを言うな…最期だぞ?」
確かに俺はギュステより背が低い。
が、それとこれとは話が別。故人の部屋でふざけ遊ぶなど不謹慎であることこの上ない。
しかし、生前の彼女の性格からして、この程度のことは快活に笑い飛ばしてくれるだろうという確信が持てたため、俺は特に目くじらを立てることなくギュステの悪ふざけに付き合っていた。
「で、探し物は見つかったのか?」
「…ああ、見つかったさ。
実は、探し物とは君のことなのだ。セフ」
「……なんだ、今日は気味が悪いほど正面から来るな」
「最期だからな。
素直になることにした」
実はギュステには男色の趣味があり、俺に懸想している。
そして俺はこの部屋の持ち主であるギュステの妹に懸想していた。
早い話、奇妙な三角関係が出来ていたのだ。
「…やはり君の目元は美しい。
理性的な奥深い黄金の瞳に、若い睫毛が木漏れ日のような影を落としている」
「やめろ…気味が悪い」
狼人らしく長いマズルに皺を寄せ、嫌そうな声をこぼす。
無論、ギュステは俺にひっそりと想いを寄せていた訳ではない。
やつは俺が14の誕生日を迎えた頃から非常にストレートな求婚を度々仕掛けてきている。
男同士であったとしても身分の差がありすぎるため誰も気にしないのだ。
俺とギュステの関係は、悪しきように言ってしまえばメイドで遊ぶ豪商のそれにも近かった。
「…ギュステ、お前はまだ本気なのか」
「私の愛は信用できないか…?
すまない、心配させてしまったな…」
本気で悲しそうな表情を浮かべるギュステ。
隈取のような目元の模様が自戒するように歪む。
どうやら未だに本気で俺を手に入れるつもりであるらしい。
…関係性のもとに特別に対等に語り合っているので、普段は身分の差を感じないが、これでもギュステは王侯に連なる貴い血の持ち主であり、反面俺は武闘系の1代貴族であるため、基本ギュステには逆らえない。
なぜそれほど身分差があるのに軽々しく接しているのかと問われれば、俺はギュステの話し相手兼配慮のいらない慰みとしてお着きに任命されたにすぎないと答えることになる。
…なので、俺に夜寝室へ来るよう言いつけてしまえば、それで本懐は達成されるはずである。
ギュステがなぜそうしないのか、俺には未だにわからない。
「…そうか」
「そうとも。悔いを残して死ぬような恥はしない」
「俺はあまり嬉しくないのだが」
この期に及んで減らず口を叩いてしまう俺。
俺に男色の趣味はないのだから、しょうがない。
「…お前は妹に懸想していたな」
無視して語りを進めるギュステ。
「認める。もう隠す意味はない」
「それを踏まえると、正直なところ、私は今の状況に限って言えば、内心少し喜んでいる面もある」
ギュステは俺の顎を扇情的に撫ぜた。
親指の原でキスを落とすように俺の濡れた鼻に触れると、やつの靱やかな細い腕は名残惜しげに離れてゆく。
「ッ、なにをする…」
「………分からないか?」
「…何度も言うようですまないが、あいにく俺にその趣味はない」
…実の所、俺は一応既にギュステに身体を捧げていると言っても間違いではない。
上半身を触ったり、頭を撫でたりするような、性行為を伴わない程度のことではあるが。
そんな事はその後もギュステに病みが入った時などにちょくちょくやっていたので、今ギュステが求めているものが既存の普遍的なものではないことは理解している。
…そう、ギュステは俺の愛が欲しいのだ。
「…クク、そう…そうであったな。私は我が妹ではないのだから当然だ。いくら顔が似ていようとも別人なのだからな…」
もう俺以外誰も見ていないのだから取り繕う必要もないと考えているのか、ヤケになった様子のギュステは女々しく目を潤ませ始める。
「…おい、なぜ泣く」
前も止めずに薄いリネンを羽織るギュステ。
やつはがっくりと頭を垂れ、姫の大鏡の前でしかめ面を浮かべる俺の背中に頭を当てた。
そんな半裸のギュステに対し、俺は未だにかっちりと礼服を着込んでいる。
「…王子は、既にお休みになられ………
…直系の王子は首をくくってしまった。
埋葬する余裕もなく、未だ事切れた格好のまま寝室にぶら下がっている。
「王も王妃も……
王はベランダで夜酒を呷っている時に姿を消した。
王妃は王を攫われて死んだものと考え、翌日に毒杯を飲み干した。
「…姫、私の妹さえも
…姫は修練上に加えて王家の花園をも潰して滑走路に変えた時、心労が祟ったのか、置き手紙を遺した後にどこかへお隠れになってしまった。
……もうここにはいない」
ギュステの口が背中で動くのを感じる。
子が母の懐で駄々をこねるように、やつは俺の背に縋り付く。
「…だからちょっとぐらい、いいじゃないか。
なあ…頼む。セフよ、私からの一生のお願いだ」
「共に夢を見よう。見させてくれ。これが最期なんだ」
「だから頼む。応えてくれ…」
泣いている、さめざめと。
…あの図太いギュステが、みっともなく泣き付いている。
「グ………!?」
驚愕すると同時に迂闊に動くこともできず、戸惑い、硬直してしまう。
やつの腕が俺の後ろ背を抱き締めた。
「…くそっ、今宵だけだぞ!」
自らの首に感じる親友の冷たい鼻の感触と暖かい吐息。
男泣きに拐かされ、俺は誘導されたであろう答えを出力してしまった。
我ながら簡単な男だ。
「!素敵だ…!そうこなくては…っ」
途端にギュステは破顔し、感極まった様子で片手のワイングラスを部屋の隅に放り投げた。
金細工と硝子の砕ける音が夜の帳を鋭く引き裂く。
花酒が血しぶきのように壁の隅に飛び散った。
「おい、なんということを…
…んむっ!?」
あまりにも早い態度の変わりよう。
呆れて肩口のギュステの顔を振り返るように見つめるのもつかの間、やつは唐突に俺の唇を奪い、そのまま背後の姫のベッドへ俺を押し倒してしまった。
共に華奢な貴族らしい体躯であるとはいえ、女性用ベッドのスプリングが男二人分の体重に悲鳴をあげ、沈み込む。
使用人も逃げ去ったため、ベッドメイクはされていない。
姫が抜け出したままの寝具が絡み合う肉体に乱される。
「っ、俺にそのケは無いと何度も伝えたはずだが」
「そう言いながら、案外嫌がらないのだな」
俺を下敷きに、ニヤニヤと減らず口を叩く。
捕まえたと言わんばかりの舌なめずりが俺の顔の真上で披露される。
「気色の悪いことを言うな。
どれほど俺とお前が日々を共にしてきたと思っている。口付け程度で今更何を思うか」
「そうかそうか…ふふふ」
内心を漏らすと、ギュステは嬉しそうにくつくつと笑った。
「…おい、いつまで俺を押し倒している。いい加減どけ」
「何を言う。私の愛しいセフ…」
ギュステは俺の衣服に手をかける。
ジャケットの前止めがぷつぷつと外されてゆく。
「っ、正気か!?」
「……正気だとも。
セフよ、やはり私ではダメなのか」
「く…!もうっ、勝手にしろっ」
なんと返せばよいのか、今自分はどうすればよいのか、もう分からなかった。
俺にできることは、ただ思考を放棄し、そっぽを向いて忌々しげに唸ることで嫌そうな風体を保ち続けることのみ。
跳ね除けて走り去ってしまっては、ギュステのやつ、本当に消えてしまいそうに見える。
正直なところ、俺にそこまでするほどの嫌悪感は無く、ただ男同士であるというスタンダードに反する状況だけが心残りであった。
だが、しかし、
この現場を見る者はとうに存在しないのだから、もうよいのかもしれない。
規範的な思考が冷え、代わりに受け入れるという選択肢の色が濃くなる。
思えばギュステとも長い付き合いである。
想いの尾は収束してゆく。
「嗚呼、私のかわいいちょろっ子狼……
そうだ…今は私に身を預け、ただ私を受け入れてくれ…」
脳を蕩けさせるような危うい低音の貴い声が、へたりと脱力した狼の耳を犯した。
しかし、やつの言葉の一部に違和感を覚え、急激にある1つの重要な疑問が浮かび上がってくる。
「…いや待て、まさか俺がお前に番われるのか?」
俺はギュステの目を真っ直ぐに見つめ、問う。
幸いなことに、自分の尻は未だ何者も知らなかった。
「………あ、ああ。それは大事な事であるな。
結論から先に述べるとするならば、番われるのは私だ」
…つかの間の安心が胸中に広がる。
いや、だからよいという訳でもないが。
俺は睫毛の見える距離にあるギュステの瞳をじとりと睨む。
「…実は既に準備してある。安心して番うがいい」
「あ、ああ、そうか。承服しかねるが…
というか、お前…実は結構作戦を練っていたな?」
「…なぜそう思う」
痛いところを突かれたような表情を浮かべるギュステ。
狼系人特有の黒い唇から白い牙が覗く。
思えば最初から
「お前は周到な男だ。俺には分かる」
「…うむ、結論から述べるとするならば……」
「そうだ。だろうな」
少し照れながら己の顎の下に俺の頭を収めるギュステ。
幼い頃から見知った男がそんな表情をしている所は少し不気味に見える。
「…聡い子だ。やはり私の伴侶に相応しい」
「ふん、数歳しか変わらぬくせに………」
…そんなことを話しつつ。
気が付けば、俺はいつの間にか衣服を全て剥かれていた。
袖から腕を抜き、襟も解き、少し毛並みの倒れた首に新鮮なシーツの肌触りを感じる。
「危うい腰、細い首… 私でなければ女と見紛うぞ」
「…ッうるさい、余計なお世話だ」
つう、と。
腋から骨盤にかけてをいやらしくなぞられる。
気味の悪い感覚に、股の間で大人しくしていたはずの尻尾が震えた。
「ふふふ……」
しばらくの間、されるがままに寝台へ押し倒されていると、少し夜風が冷えるようだ。
窓から抜ける夜の香りが鼻腔を擽り、僅かに肌寒く感じたが、すぐにギュステのよく手入れされた艶やかな毛並みに抱かれ、ぬくめられる。
2人の衣擦れの音に耳をすませば、鈴のように奏でられる虫の類の歌声がいらぬムードを演出した。
「…俺は男では勃たないぞ。」
自分に言い聞かせるように、嗜好の相違問題を再度定義する。
しかし、流石にギュステの方が一枚上手である。
「…時に、ここは我が妹。君の懸想していた姫の部屋であるな」
「…なに?
何が言いたい」
ギュステは俺の頬を両手で掴み、しっかりと自分の方を向かせた。
「ぬむっ、にゃにをする…!?」
「この私の顔を見ろ
そっくりであろう? 我が妹と」
何を馬鹿なことを、と。
まじまじギュステの顔を眺めてみれば、なるほど確かに少し、いやかなり似ていると言っていい。
正直なところ、アクセサリーを外すと顔だけでは区別がつかない。
「…そしてここはどこだ?
そう…我が妹の部屋の、しかもベッドの上だ」
…異様な状況のせいで気にしていなかったが、思えば姫の部屋には初めて入ったのであった。
甘い女性の香りが遺るこの部屋を見回してみれば、彼女の生活の痕跡がいくつも見受けられる。
今己が乗っかっている乱れたシーツや潰れた枕からは、一際濃い初恋の相手の匂いがした。
「……だ、だからなんだ!馬鹿にするな!
お前は姫ではないッ!!!」
馬鹿にするな!
俺は本心からそう思い、寝具を跳ね除け手を振り払おうとする。
しかし、相反する己の肉体に気が付いてもいた。
「ハ…!言われて気が付けばこのザマか!
かわいい。やはり君は素敵だ。私の無様なちょろっ子狼よ…」
若さゆえの醜態を晒す己の分身。
もう、これは致し方のないことなのだろう。
「…子を孕んだとするならば、名はなんとしようか。愛しのセフ」
…壊れたような笑顔を浮かべながら変なことを言うギュステ。
明らかに調子がおかしい。俺が助けてやらなければ。
使命感にも似た保護欲が己の中にじわりと滲む
「…男同士だぞ。
それに我々は明日…」
「しー…それ以上言ってはならぬ…!
お願いだ、今だけは頼むと言ったろう。私のセフ。
共に名を考え、共に生きる未来を思い描こうではないか…」
「…」
「今だけだ、今だけでいい。頼む……」
ギュステは俺の背に縋り付き、肩を震わせる。
ぽたりぽたりと、涙が俺に降り積もる。
…かなり情緒が乱れているようだ。
「………アシタ、などはどうか」
実を言えば、名について聞かれた瞬間、既に俺の中にはその名が浮かび上がっていた。
元は姫と番う時を想って1人密かに考えた名だが、それでも今は、ギュステと分かち合った方が良い物に思えてならなかったのだ。
「く、くくっ、アシタ…アシタか……!
良い名だ…私のセフらしい、素晴らしい名だ…」
◇◇◇
翌日、2人は予定通り宛もなく居城を出陣し、高層ビル群の隙間を縫うように飛翔していた。
全ては姿も知らぬ悲劇の元凶に一矢報いるために。
しかし、明らかな敵の居城は一切見当たらず、2人は当惑するばかり。
「もう触媒が持たない。
あそこに降りよう、セフ」
「………わかった。」
地図も情報もなく、早朝から真昼まで日本上空を彷徨い、なんとか都心らしき場所にはたどり着いたものの、もう燃料が持たない。
更にその間飲まず食わずではどうしようもなく、2人は敵の本拠地発見を諦めた。
「…民は撃つな。貴族を狙うのだ」
「分かっている」
…せめて我らの存在だけでも侵略者の民に知らしめて見せようと、そう考えた2人は、上空から辺りを観察し、最も人が多そうに見えた大広場の真ん中に。
すなわち渋谷スクランブル交差点の中心に向け、戦闘兵器の脚部を差し向ける。
ビル屋上の対空砲は不気味に沈黙していた。
無音かつ排熱なし、完全に自閉した簡易飛行制御装置が川魚のように空間を泳ぎ、足首のショックを全く使用することなく着地を実現させる。
「…不気味であるな。なぜ誰もこちらを見ない」
「ギュス……」
油断なく周囲を見回すギュステ。
セフは不安げにあだ名で幼馴染の名を呼び、電磁警棒を握り締めた。
交差点中心に4mの二足歩行兵器が降ってきたのにも関わらず、人間や獣人の入り交じる周囲数千の市民は全く2人を気にしていないようだった。
それどころか、視界にすら入っていなかった。
彼らは知る由もない。
大気へ散布された計器が社会的脅威を検知した瞬間に、処置済の脳に埋め込まれた装置が五感に干渉することで、犯罪者に関する知覚を消し去ってしまうことを。
「此方の出方を伺っているのかもしれない…
セフ、私は名乗りを上げる。君は構えておけ」
「ああ……!」
2人は真昼のスクランブル交差点の真ん中で、いよいよ勇ましく名乗りをあげる。
この日本において車両による交通はまだない。
侵略初期故に
しかし、知覚操作により市民が車の存在しない現代社会に違和感を抱くことはない。
「我が名は盟主ギュステ!かつてこの大地を納めていた王族に連なる者…!!」
雑踏の音、照りつける太陽、機械的な鳥の鳴き声。
皆が笑顔で、隣にいる誰かと談笑している。
そこにある異物はギュステの口上だけであった。
「………ッなぜ誰も反応しない!?
セフ、何か分かるか!?」
「分からない、何も分からない!
あっ、あれは姫ではないか!?」
お隠れになったはずの姫が、紺色の制服のような異界の装いに身を包み、隣に立つ異界人の女と仲睦まじい様子で談笑している。
もちろんセフとギュステの声には全く気が付いていない。
街灯の用に立つ3つの異なる色を持った機械に黄色い灯りが煌めき、辺りの空気が変わった。
「直ちに自己無力化し、統制してください」
マンホールに偽装された治安装置が至る所のアスファルトから迫り上がり、2人の機体に非致死性兵器を向ける。
「セフよ、何か出てきた!気をつけろッ」
「ギュステ、ここは逃げてしまえ!生きていればどうにでもなる!」
「ッ今更何を………!!」
3つの異なる色を持った機械、つまりは信号機に赤い光が灯る。
治安装置は瞬間硬化式の粘着弾をもって射撃を開始した。
最初に凶器を持っているセフが無力化され、次にギュステが。
「ぐあッ!」
「セフ!?…何っ、ああッ"!!?」
虫けらのようにアスファルトに転がされた2人の脇を、数千人の市民が一瞥もせずに歩き去ってゆく。
白濁色の化学物質に覆われ暗闇に包まれた操縦席の中に、くぐもった雑音として人々の生活の声が漏れ聞こえる。
2017年の7月16日、土曜日。既に数え切れないほど複製された時の流れ。
遠未来にミーム化した人類の技術遺産により、再構築された地球の群れが星々を置き換え続ける。
今日も交通安全は完璧に保たれ、道路障害は存在しない。
…2人はその後すぐに処理室に送られ、普遍的な市民化処置が施された。
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