昼下がり。アディサック邸の居間で、ロローリャは日本語の勉強と称して時代劇映画を見ていた。
「ほーう……あんな細い杖から、シャキンと出ますか!」
盲目の男が杖に仕込んだ刀を抜き、襲いかかるヤクザ者どもを次々と斬り伏せていく。はじめは台詞を聞き取ろうとしていたはずが、いつしか剣の動きに夢中である。そうして画面の刀を眺めているうちに、ふと別の剣のことを思い出した。
「そういえば夫人、あの剣ってどうなったのかな?」
「大伯父様のサーベル? 父が少し手入れをすると言っていましたけれど……そうね、せっかくだから父に会ってみる? 前からあなたには一度会いたがっていたのよ」
「えっ、将軍さんに? そりゃ会ってみたいな。どんな人なの?」
「少々、気難しいところはあるけれど……あなたなら、きっと大丈夫よ」
シリナパーは父とロローリャが顔を合わせるところを想像したのか、どこか楽しそうに微笑んだ。
◇
数日後、シリナパーに伴われて訪ねた屋敷で、ロローリャはタナコンと向かい合っていた。
六十代半ばになるタナコンは、白髪と口髭をきちんと整えた、いかにも頑固そうな男だった。背筋を伸ばして腰掛け、ロローリャを見据える眼差しにも鋭いものがある。
タナコンはタイ王国陸軍の退役中将で、かつては北部を管轄する第3軍管区に所属し、国境警備を担うパームアン部隊の指揮官も務めていた。ミャンマーやラオスと国境を接するタイ北部では、山岳地帯を経由する麻薬密輸が長年の問題となっており、彼もその取り締まりに深く携わってきた。退役後も軍との縁は深く、屋敷には今なお軍関係者が頻繁に訪れるという。
応接室には、息子のプラチャーも同席していた。シリナパーの弟にあたり、現在は父と同じパームアン部隊で大佐を務めている。日に焼けた精悍な顔立ちは父親譲りともいえそうだが、受け答えは穏やかで、親子でもずいぶん雰囲気が違っていた。
「伯父の遺骨が、あのような場所に眠っておったとはのう。おぬしのおかげで、ようやく弔うことができた。礼を言わせてくれ」
「それに、甥のアーティットを救っていただいたこと、私からもお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
立派な軍人親子から改まって礼を言われると、さすがのロローリャも少々照れくさくなり、フォークを手に目の前の焼き菓子を頬ばるばかりである。
やがて話が一段落したところで、彼女は例のサーベルについて尋ねた。
「あの剣、ここにあるんでしょ? どうなったか見せてもらってもいい?」
タナコンが持ってきたサーベルは、汚れを落とされ、柔らかな布に包まれていた。鞘と柄には長い年月の跡が残り、鍔には見覚えのある紋章が浮かんでいる。
「おお、懐かしい。ちょっときれいになったね!」
「保存のための手入れはさせた。だが、剣として使えるように修復するとなれば話は別じゃ。刃にも柄にも問題がある」
「直さないの?」
「職人に調べさせるつもりではいるが、そもそも一族の遺品じゃからな。再び武器として使う必要があるとも思えん」
「そっか……」
ロローリャはサーベルを眺めながら、少し考え込んだ。
「ねえ、将軍。もし直ったら、また使わせてもらえないかな? 一度返したものを借りたいなんて、虫のいい話だけどさ」
「ほう。もう一度、これを使いたいと? しかし、なぜ剣が必要なのじゃ? おぬしがこれまで危険な目に遭ってきたことは聞いておる。しかし、今は娘たちの世話になっておるのじゃろう。剣を持ち歩く必要が、まだあるのかの?」
「あるに決まってるじゃん!」
あまりにも即座の返答に、タナコンは思わずシリナパーの方を見た。娘は穏やかな笑みを浮かべている。
「いい、将軍。襲われたとき、素手で何ができると思う? 相手が刃物を持ってたら、こっちはどうするのさ。たとえ棒一本でも、あるのとないのとじゃ大違いなんだから。敵が来てから探したって遅いんだよ」
歴戦の退役中将をつかまえて、ロローリャはまるで新兵に教え諭すように武具の大切さを説いていた。タナコンも、このとんでもない講釈が面白くなってきたらしい。
「ほう、なるほどな。だが、剣を持っているばかりに、かえって争いを招くこともあるぞ?」
「でも、見せるだけで相手が諦めてくれるかもしれないでしょ。そうなれば戦わずに済むし、それでも襲ってくるなら、やるしかないよ」
「では、最後に一つ聞こう。おぬしは何のために戦う?」
「何のためって……自分と大事な人を守るためだよ!」
彼女にとっては、ごく当たり前のことを話したつもりだった。
「……なるほど。少なくとも、剣を持ちたい理由は分かった。ただし、それでこの剣を渡してよいという話にはならん」
タナコンは口髭を撫でながら、しばらく考え込んでいたが、ふと思いついたように膝をぽんと叩いた。
「よし。では、わしがおぬしを見極めてやろう」
「……へ?」
「剣を持つにふさわしい腕があるかどうか。このわしが直々に確かめてやると言っておる。おぬしは先ほど、わしに向かって武具の大切さを説いておったではないか。なかなか立派な口ぶりじゃったからのう」
「もう、お父様ったら……お客様にいきなり勝負を申し込むなんて、非常識ですわよ!」
「何を言う、シリ。わしはこの娘に武器の扱いを教わるところなのじゃぞ。ぜひ実地で学ばせてもらわねばな」
「もう、プラチャー。あなたからも何とか言ってちょうだい」
「姉上、父上はこうなると聞きませんから……」
親子のやり取りを聞いているうちに、ロローリャまで愉快になってきた。
「あはは! いいね、将軍。こういうの、映画みたいで嫌いじゃないよ!」
「ほう。受けるかの?」
「もちろん。でもさ、将軍、歳はいくつ? 腰とか大丈夫なの? うっかり怪我させたら夫人に怒られちゃうじゃん!」
「……おぬし、なかなか減らず口を叩く娘じゃな。わしを年寄り扱いして挑発するとは。よかろう、覚悟しておけ!」
タナコンは立ち上がったところで、ロローリャの杖に目を留めた。
「ところで、その杖はいつも使っておるのか?」
「そうだよ。歩くのに必要だからね」
「ふむ。では、おぬしにはその杖を使ってもらおうかの。棒一本でも、あるのとないのとでは大違いなのだろう?」
「……将軍、なかなか言うじゃん」
「おぬしの教えを実践するだけじゃ。さぁ、ついてまいれ」
タナコンは上機嫌でプラチャーを連れ、応接室を出ていく。ロローリャも杖を手に後を追おうとしたところで、ふと菓子の皿が目に入った。
「あっ、最後にもう一個だけ!」
「ああ、もう。どうしてこんなことになってしまったのかしら……」
シリナパーの嘆きをよそに、ロローリャは残っていたタルトをひょいと口へ運ぶ。最後の一口まで堪能してから、今度こそシリナパーとともに二人の後を追った。
◇
屋敷の奥には、広々とした道場が設けられていた。
タイの武術といえば、拳や肘、膝、蹴りを駆使するムエタイが広く知られている。そのため、この国で剣術を教えていると聞けば、意外に思う者もいるかもしれない。しかし、タイには武器を用いた武術も古くから伝わっており、『クラビー・クラボーン』と総称されている。すなわち、剣(クラビー)と棒(クラボーン)である。
さらに十七世紀のアユタヤ王朝には、日本から海を渡った武士たちが仕えていた。なかでも山田長政は日本人義勇兵を率い、王朝の軍事にも深く関わったことで知られている。
タナコンの道場には、そうした日本人武士たちが持ち込んだ剣術の理も、一部が受け継がれているという。長い年月のうちにタイ古来の武技と混ざり合い、間合いの取り方や剣筋の読み合い、相手の攻撃を利用する技法などが独自に磨かれてきた。
その稽古は、観光客の前で披露されるクラビー・クラボーンの華やかな演舞とは一線を画していた。儀礼的な型も伝えているが、重視されるのは実際の攻防であり、相手を制する技術である。タナコン自身も長い軍歴で培った経験をそこへ加え、実戦を意識した指導を行っていた。
現在も彼の教えを求めて軍人たちが訪れ、勤務の合間を縫って稽古に励んでいる。とりわけ国境警備に携わる兵士たちにとって、足場の悪い場所での体さばきや、とっさの状況に対応する技術を学べる貴重な場所となっていた。
道場の壁には長短さまざまな木剣や棒が並び、奥には使い込まれた防具も置かれている。床には長年の稽古で刻まれた細かな傷が幾筋も走り、この場所で繰り返されてきた立ち合いの激しさを物語っていた。
「さて、始めるとするか」
タナコンは壁際から木剣を一本取って道場の中央へ進むと、息子へ声をかけた。
「プラチャー。まずはおぬしが一本相手をしてやれ」
「……私が、ですか? しかし、父上が直々にお相手をなさるのでは?」
「この娘はずいぶんと実戦をくぐっておるそうじゃ。おぬしにとっても、よい勉強になるじゃろう。せっかくの機会じゃ、一本相手をしてやれ」
「……承知しました、父上」
プラチャーは渋々うなずくと、壁際に掛けられた木剣を一本取り、ロローリャへ向き直った。
「では、まず――」
その言葉が終わるより早く、ロローリャの杖が勢いよく飛んできた。
「うおっ!」
プラチャーは咄嗟に木剣を振るい、飛んできた杖を払い落とした。
ところが、続けざまに飛んできた何かが喉元を打った。
カラン、と乾いた金属音が道場に響く。
足元に落ちたのは、先ほど客間でタルトを食べたときのフォークだった。
「やったぁ! これは私の勝ちだよね!」
プラチャーは喉元を押さえ、得意満面の少女を見つめた。
「こらっ! こういうのは、ちゃんとお辞儀をしてから始めるものだ!」
「えー? でも、敵がこれから始めますって教えてくれると思ってるの?」
「敵って……これは試し合いだぞ!」
「はっはっは! プラチャー、おぬしも油断したのう!」
タナコンは愉快そうに笑いながら、息子の肩を叩いた。
「杖を払い落としたまでは見事じゃったが、その後がいかん。実戦なら、今ので命を落としておったぞ」
「しかし父上、このような場で卑怯を許すのは、教育上この娘のためにも良くないと思います!」
「まあ、よいではないか。今のは娘の一本としておこう。なかなか面白いものを見せてもらったわい!」
「父上!」
プラチャーが抗議する傍らで、ロローリャは「やったあ!」と歓声を上げた。
タナコンは床の杖を拾って彼女に渡すと、息子から木剣を受け取った。
「ご苦労じゃった。さて、次はわしが相手をしよう」
二本の木剣を手に悠然と道場の中央へ進むタナコンだったが、実のところ、先ほどの奇襲には少々肝を冷やしていた。
最初の杖は囮で、相手がそれを払い落とす動作に合わせてフォークを投げつける。しかも、試合開始前という意表を突いた瞬間を選んでいる。実戦経験があると聞いていても、あのような手を躊躇なく使うとは想像がつかなかった。片腕片脚のあどけなさを残した娘の姿に、自分もいささか油断していたのである。
(まったくなんという娘じゃ! 最初の一本をプラチャーに任せたのは、我ながらよい判断じゃった。危うく初対面の小娘に一本取られた、間抜けな爺になるところであったわい)
息子をいけにえに捧げて危機を免れた、とんでもない爺さんである。
もちろん、そんな胸の内などおくびにも出さず、タナコンは威厳たっぷりに口髭を撫でた。
「さて、ロローリャ。今度はきちんと礼をするのじゃぞ」
「はーい! ……あれ? 将軍、二本持ってるじゃん! 私は一本しか持てないのに、ずるくない?」
「二刀流とはそういうものじゃ。おぬしこそ、さっきは杖とフォークを投げつけてきたではないか!」
「それとこれとは話が別だよ!」
「どの口が言うか! ほれ、まずは礼じゃ!」
タナコンに促され、ロローリャは渋々頭を下げた。互いに構えを取ると、老人は二本の木剣をゆったりと掲げた。
「では、始めるぞ」
ロローリャは杖を握り直し、相手の動きをうかがった。
西双版納の森で白猿と打ち合っていた頃、彼女は相手の肩や腰の動き、重心の移り方から、次の一撃を察する術を身につけた。あの虎と対峙したときにも、その感覚が命を救ってくれたのである。
ところが、目の前の老人はどうにも勝手が違った。
タナコンの右肩がわずかに動き、右から来ると見て身を引いた途端、左の木剣が杖を押さえ、右の剣が肩口へ伸びてくる。
「うわっ!」
ロローリャは慌てて杖を引き戻したが、タナコンは深追いすることなく、再び間合いを整えた。
今度はロローリャが先に仕掛け、杖を振り上げ相手の胴を狙って踏み込むが、老人は半歩だけ身を引いてこれをかわし、続く一撃も左の木剣で受け流す。そして打ち込むと見せては誘い、こちらが反応したところへ別の剣を差し込んでくる。わずかな体重移動にも巧妙な駆け引きが潜んでおり、ロローリャは次第に、どの動きを信じればよいのか分からなくなっていた。
「どうした。先ほどの威勢はどこへ行った?」
「ふぬぅっ!」
ロローリャは低く身を沈め、懐へ潜り込もうとした。しかし、踏み込む先へ木剣が滑り込み、慌てて身を引いたところへ、もう一本が肩口を軽く打った。
「一本。そこまでじゃ」
「あいたっ! もう、将軍、強すぎるよ!」
ここまで立ち合ってみて、タナコンにもこの娘の戦い方が少しずつ分かってきた。剣術らしい剣術を習った様子はなく、杖の振り方も独特で、足運びには無駄が多い。それでも、相手の肩や腰の動きに合わせて身体を動かす勘のよさは、ずば抜けたものだった。
「ところで、おぬし、その戦い方は誰に習った?」
「白猿。中国の森で暮らしてた頃、真っ白な猿がいてさ。そいつが毎日、枝で私を叩いてくるんだよ。私も杖でやり返してたんだけど、全然当たらなくてさ。でも二年くらいやってたら、肩とか腰の動きを見て、次にどこを叩いてくるか分かるようになったんだ」
「なんと、猿に鍛えられたとな! 世の中には不思議な師匠もおるものじゃのう……」
「師匠か……あはは、そうかもね。たしかにあいつは何度も私とノイを助けてくれたね。最期も、虎がいるって教えてくれたんだ。自分はひどい怪我をしてたのにさ……」
白猿との奇妙な修行も、その最期も、タナコンは静かに聞いていた。
「そうか。よい師匠に出会ったのう」
「うん!」
ロローリャは杖を握り直すと、再び勝負をせがんだ。
「じゃあ、もう一本やろうよ、将軍!」
「ほう。まだ懲りておらんのか」
「当たり前じゃん! 今度こそ勝つからね!」
三本目。ロローリャはさらに腰を落とし、剣先ばかりでなく老人の肩や腰へ目を凝らした。白猿相手に培った読みを働かせても、タナコンの剣はその一歩先から迫ってくる。右の剣を誘って逆側へ回り込んでみても、そこにはすでに左の剣が待ち受けていた。しかも老人の息は一向に乱れず、こちらの反応を楽しんでいるようにさえ見えた。
何度か打ち合ううちに、ロローリャはふと動きを止めた。
「降参か?」
「違うよ。どうやったら勝てるかなって考えてたの。……よし!」
そう言うなり、真正面から飛び込んだ。
「うおおおっ!」
タナコンの木剣が肩を捉えたが、ロローリャは勢いを止めず、懐へ潜り込んで老人の腕へしがみついた。
「なっ、おぬし!」
次の瞬間、がぶりと噛みついた。
「いだだだっ! こら、離さんか! おぬしは獣か!」
「んががぁーーーーっ!」
「分かった、参った! わしの負けじゃ、だから離せ!」
ようやく口を離したロローリャは、満面の笑みを浮かべた。
「二本! 私の勝ちだね!」
「待て! わしの剣が先に肩へ当たっておるから無効! まったく、最後は噛みつきとは、おぬしはまるで猿か虎じゃのう」
「ひっどいなあ! でも参ったって言ったじゃん。普通に戦ってたら勝てないんだから仕方ないでしょ!」
タナコンは噛まれた腕をさすりながら、呆れたように首を振った。実際、剣術の勝負としては最初から最後まで自分の優勢だった。しかし、木剣を当てても止まらず、最後には歯まで使って食らいついてくるとは。無茶な娘ではあるが、勝負を投げ出さぬ根性には感心せざるを得なかった。口元にはいつしか笑みが浮かんでいる。
「将軍の剣、すごかったよ。右を避けたら左から来るし、隙があったと思ったら、もう剣があるんだもん」
「おぬしの攻めは正直すぎるからのう。構えを見れば、どこを狙っておるか分かる」
ロローリャは老人の二本の剣を眺め、感心したように頷いた。
「そっかあ。やっぱり剣術ってすごいねえ。そういえばさ、昔、ハイフォンですごい剣士に会ったんだよ」
「ほう、どんな男じゃ?」
「拳銃で撃たれたのに、剣で弾をはじいたんだ! あれ、すごかったなあ」
ロローリャは興奮気味に、そのときの剣士の動きを真似てみせた。
「もう一瞬だったよ。剣が光ったと思ったら、弾が横に飛んでいってさ。どうやったのか、今でも全然分かんないんだ」
「ふむ。その程度なら、わしにもできるぞ」
「えっ!? 本当に!?」
「わしを誰じゃと思っておる」
タナコンは得意げに口髭を撫でた。
「ええーっ! すごい! ねえ、どうやるの? 私にも教えてよ!」
「おぬし、まずは剣の握り方から覚えんか」
「えーっ、握り方くらい知ってるよ!」
「ほう。では、先ほどの杖をもう一度握ってみい」
ロローリャがいつものように杖を握ると、タナコンはその手元を確かめた。
「ほら、こんな感じでしょ?」
「ふむ。少し手首が寝ておるのう。それでは打ち込んだときに力が逃げるぞ」
「えっ、そうなの?」
「おぬしは片手で扱うのじゃから、なおさら握りが肝心じゃ。手首の角度ひとつで、剣の働きも変わってくる」
「へえ……」
言われたとおりに握りを直して何度か振ってみると、先ほどまでとは少し感触が違う。
「おおっ! なんか振りやすくなった気がする!」
「そうじゃろう。もっとも、剣となれば重さも釣り合いも違う。おぬしの手に合うよう、柄にも工夫が必要じゃな」
「あっ、そういえば、あのサーベルも柄がぐらぐらだったんだよ」
「うむ。あれは拵えから直さねばなるまい。刃の錆も深いしのう……そうじゃな。おぬしのように片手で扱うなら、柄の太さも重心もよく考えねばならん。今度、馴染みの鍛冶屋のところへ行くから、おぬしも一緒に来るのじゃ。実際に握る者の手を見せた方が話が早いからのう」
「うん! 行く行く!」
「それと、これからは時々ここへ稽古に来るがよい。おぬしには教えることが山ほどあるわい」
「ほんと? じゃあ、まずは弾を斬るやつ教えて?」
「気が早いわ! まずは握りと礼節からじゃ!」
「えーっ! 礼儀まで習うの?」
「当たり前じゃ! まったく、先が思いやられるわい!」
そんな二人のやり取りを傍らで聞いていたシリナパーは、思わず口元を緩めた。
あらまあ。
先ほどまで一族の遺品だからと修理を渋っていた父が、今ではすっかり、ロローリャのためにどんな剣を仕立てるかという話に夢中になっている。そればかりか、自分から稽古に誘い、剣術まで教える気になったらしい。
かと思えば、ロローリャもロローリャである。姉を探すための勉強を始めたばかりだというのに、いつの間にか道場へ通うつもりになっている。
剣の様子を見に来ただけのはずが、二人とも勝手に話を進めて、すっかり師匠と弟子になってしまった。
まったく、どちらも似た者同士なのかしら。