乾巧は死後の世界で目を覚ます。   作:小虎555

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EP4-2

 

 

 

4-2

 

 

 

 

 

昼12時頃。

 

昼休みが始まったばかりの学食は、いつも通り騒がしかった。

 

食券を持って列へ並ぶ生徒。 席取りで走り回る連中。 皿の音、笑い声、誰かの叫び声。

 

その中で――

 

窓際の一角だけ、妙な空気になっていた。

 

机の上。

 

本来なら昼飯が置かれるはずの場所に、銀色のベルトとガラケー型のデバイスが並んでいる。

 

完全に異物だった。

 

そして、その周囲を囲むように座っている戦線メンバー達。

 

ゆりは腕を組みながら、机の上のファイズギアを見下ろしていた。

 

岩沢は隣で頬杖をつき、巧は少し離れた壁にもたれている。

 

その顔だけは、もう完全に嫌な予感しかしない顔だった。

 

「藤巻くん、それ使ってみて」

 

「おおっ!?それ乾のやつか!?いいのかよそれ!?」

 

藤巻は一気に身を乗り出した。

 

「男ってそういうの好きだよな」

 

岩沢は少し呆れながら言った。

 

「否定はしねぇけどな」

 

巧は壁にもたれたまま短く返す。

 

その視線の先では、藤巻がすでに目を輝かせていた。

 

完全に新しい玩具を見つけた子供の顔だった。

 

「よっしゃあ……!」

 

机の上へ両手を置いて身を乗り出す。

 

「マジで変身できんのかこれ!」

 

周囲の何人かも気付いていた。

 

「あれ何やってんだ?」

 

「また戦線の連中じゃね?」

 

「なんかベルト置いてね?」

 

ひそひそ声が飛ぶ。

 

だが、ゆりは気にしない。

 

いつものことだった。

 

机の上のファイズギアを軽く持ち上げる。

 

「やり方は簡単よ」

 

「数字は“5”」

 

「それを3回入力してEnter。それだけ」

 

「5を3回だな!」

 

藤巻は即答した。

 

「そういうこと」

 

勢いよくファイズフォンを開く。

 

5、5、5。

 

『Stand by』

 

「おおっ!!来た来た来た!!」

 

藤巻の顔が一気に明るくなる。

 

その瞬間――

 

『Error』

 

ガチャッ!!

 

「うおおおおおっ!?」

 

勢いよく身体が吹き飛ぶ。

 

椅子ごと数メートル滑り、そのまま隣の机へ突っ込んだ。

 

ガタガタッ!!

 

「うわっ!?」

 

「何!?」

 

周囲の生徒達が一斉に振り返る。

 

学食が一瞬だけ静かになった。

 

数秒後。

 

「……また戦線か」

 

「なんだ、いつものか」

 

すぐに空気が戻る。

 

誰も深く気にしない。

 

慣れていた。

 

床へ転がった藤巻が、震える手を上げる。

 

「……いってぇ……」

 

ゆりは真顔だった。

 

「今のは失敗ね」

 

「軽く言うなよ」

 

 

岩沢がため息を吐いた。

 

少し離れた席。

 

今の光景を見ていた大山が、目を丸くしていた。

 

「す、すごい……!」

 

吹き飛んだ藤巻より、反応していたのはむしろこっちだった。

 

机の上のファイズギアを見つめる目が、完全に輝いている。

 

「今の何!?変身ベルトだよね!?ね!?」

 

「大山くん」

 

ゆりが即座に呼ぶ。

 

「え、僕!?」

 

「次」

 

あまりにも自然な流れだった。

 

「え、ええっ!?いやいやいや、ちょっと待って!」

 

口では止まりながらも、身体は普通に席を立っていた。

 

結局行くのかよ、と巧は小さく息を吐く。

 

「これ僕もやっていいの!?」

 

「減るもんじゃないし」

 

ゆりは同じ調子で答える。

 

「5を3回、Enter」

 

「わ、分かった!」

 

大山は少し緊張した顔でファイズフォンを開いた。

 

5、5、5。

 

『Stand by』

 

「わっ!ほんとに鳴った!」

 

目を輝かせた次の瞬間。

 

『Error』

 

ガチャッ!!

 

「うわあああっ!!」

 

大山も綺麗に吹き飛んだ。

 

椅子ごと後ろへ滑り、そのまま壁際へ激突する。

 

ゴンッ。

 

数秒。

 

床に転がったまま、大山が小さく手を上げる。

 

「い、痛い……でも今のすごかった……」

 

「感想そこかよ」

 

巧が呆れた声を出す。

 

岩沢は頬杖をついたまま苦笑した。

 

「反応は同じか」

 

「差は無さそうね」

 

ゆりは淡々とメモを取っている。

 

「おい」

 

巧が眉をひそめた。

 

「メモしてんじゃねぇ」

 

「検証だから当然でしょ」

 

即答だった。

 

そして――

 

「次」

 

その頃――廊下。

 

日向は音無を連れたまま歩いていた。

 

「だから野球は人数必要なんだって!」

 

「いや、だから俺に言われてもな……」

 

「藤巻とか大山も誘う予定なんだけどな」

 

「お前、誰でもいいんだな」

 

「人数足りりゃ勝ちなんだよ!」

 

そんなやり取りをしながら歩いていた、その時だった。

 

向こう側の廊下から、ゆり達が歩いてくる。

 

ゆりの手には銀色のケース。

 

日向はすぐ気付いた。

 

「あ、乾のやつじゃねぇか!」

 

「ちょうど良かったわ」

 

ゆりは立ち止まり、そのままケースを開く。

 

中にはファイズギア。

 

昨日、巧が使っていた銀色のベルトとガラケー型のデバイスだった。

 

「やり方は簡単よ」

 

ゆりはベルトを軽く持ち上げながら説明する。

 

「数字は“5”を3回入力してEnter。それだけ」

 

「おおっ、マジか!!」

 

日向の顔が一瞬で明るくなる。

 

さっきまで野球メンバー集めで走り回っていたはずなのに、疲れた様子はまるでない。

 

むしろ逆だった。

 

新しいオモチャを見つけた子供みたいな顔で、勢いよくファイズフォンを受け取る。

 

「ついに俺も変身か~!」

 

「いや待てって……」

 

隣で音無が少し眉をひそめた。

 

何か引っかかる。

 

理由は分からない。

 

ただ、ゆりの様子が妙に静かだった。

 

普段なら「早くしなさい」くらいは言いそうなのに、今日は必要以上に何も言わない。

 

その時だった。

 

コツ、コツ、と規則正しい足音が廊下の奥から聞こえてくる。

 

音無が何となく視線を向ける。

 

天使だった。

 

無表情のまま、いつも通りの速度で廊下を歩いてくる。

 

それを見た瞬間――

 

ゆりの視線がほんの少しだけ動いた。

 

本当に小さい動き。

 

だけど音無の嫌な予感だけが急激に膨らむ。

 

「日向くん」

 

「ん?」

 

「もう少し右」

 

「そこ広いから」

 

「お、おう?」

 

日向は何も疑わない。

 

言われるまま、一歩だけ移動する。

 

その結果――ちょうど天使が通る位置の真横になった。

 

音無の顔が引きつった。

 

(待て)

 

(なんで今そこなんだ……?)

 

(嫌な予感しかしねぇ……!)

 

だが、当の日向はそんな事に一切気付かない。

 

完全に変身テンションへ入っていた。

 

勢いよくファイズフォンを開く。

 

5。

 

5。

 

5。

 

『Enter』

 

『Stand by』

 

低い待機音が廊下へ響く。

 

日向の目が輝いた。

 

「うおっ!!来た来た来た!!」

 

その興奮は、一秒も続かなかった。

 

『Error』

 

「あ?」

 

ガチャッ!!

 

次の瞬間。

 

日向の身体が勢いよく吹き飛んだ。

 

「うおおおおおおおっ!?」

 

突然の衝撃に身体が宙へ浮く。

 

手足をばたつかせながら、そのまま一直線に飛んでいく。

 

飛んでいく先には――天使。

 

「待っ――!!」

 

音無が叫ぶ。

 

だが間に合わない。

 

天使の視線が、空中の日向を捉える。

 

一瞬だった。

 

右手が淡く光る。

 

『ハンドソニック』

 

迷いはない。

 

身体が先に動いていた。

 

 

「え?」

 

日向の間抜けな声。

 

次の瞬間。

 

グサッ。

 

「ぎゃああああああああああっ!!」

 

悲鳴が廊下中へ響き渡る。

 

空中だった身体が力を失い、そのまま床へ落ちた。

 

ドサッ。

 

静寂。

 

「……」

 

「……」

 

日向は大の字のまま動かない。

 

ピクリとも反応がなかった。

 

音無がゆっくり顔を引きつらせる。

 

「……え?」

 

「おい……日向?」

 

返事はない。

 

天使は床の日向を見下ろしたまま、小さく首を傾げた。

 

「……?」

 

数秒考えたあと、静かに言った。

 

「危なかった」

 

「もっと他にやり方あっただろ!!」

 

音無の叫びが響く。

 

その横で、ゆりが小さく舌打ちした。

 

「チッ……失敗ね」

 

空気が止まった。

 

音無がゆっくり振り返る。

 

「……は?今なんつった?」

 

「もう少し飛距離が出れば、ちょうど天使に当たっていたのだけど」

 

「やっぱ狙ってたのかよ!!」

 

少し後ろ。

 

壁にもたれていた巧が深いため息を吐く。

 

「……お前らのリーダー、マジでやべぇな」

 

隣で岩沢も苦笑した。

 

「否定できねぇ」

 

天使は床へ倒れている日向と、ゆりを交互に見ていた。

 

数秒。

 

そして、小さく首を傾げる。

 

「……仲がいい?」

 

 

「よくねぇよ!!」

 

音無のツッコミが即座に飛ぶ。

 

 

「そう、でも楽しそうね」

 

 

「どこがだよ!?」

 

 

だが、ゆりはもう聞いていなかった。

 

視線はすでにケースの中のファイズギアへ向いている。

 

「吹き飛ぶ角度、衝撃の強さ、適性なしの場合の反応――」

 

小さく何かを呟きながら、メモへ書き込んでいく。

 

嫌な沈黙が落ちた。

 

音無が一歩下がる。

 

巧が眉をひそめる。

 

岩沢は察した顔で目を逸らした。

 

そして、ゆりが顔を上げる。

 

「……次」

 

その一言で、近くにいた戦線メンバー達が一斉に後退った。

 

 

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