転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー70

 「うっしゃあああああ!!! このギリスケ様に全部任せとけぇぇぇ――――!!」

 

 「……」

 

 ソンジさんとの約束を取り付けた途端、ギリスケのテンションは天井知らずに跳ね上がった。

 

 さっきまで「無理無理!」と叫んでいた男と同一人物とは思えない。

 

 心なしか胸まで張って見える。

 

 ……いや、気のせいじゃなく、本当にたくましく見えてきた。

 

 やる気を出してくれたのはありがたい。

 

 ありがたいんだけど……。

 

 ソンジさんの覚悟を思うと、素直に喜べない自分がいた。

 

 『ギリスケ君、やる気なのはいいけど、あそこまでどうやって行くつもり?』

 

 「あっ!?」

 

 フィーの一言で、ギリスケの動きがぴたりと止まる。

 

 そう。

 

 最大の問題はそこだった。

 

 向こう岸まで送り届けなければ、作戦は始められない。

 

 俺やマヒロのように【脱兎跳躍(ラビット・ジャンプ)】や【部分魔力強化(パージング)】を使えるわけでもない。

 

 かといって連れて行く余裕も時間もない。

 

 自力で渡らせるには、この巨大な穴はあまりにも広すぎた。

 

 「そ、それなら……私に任せて」

 

 「ミオ?」

 

 静かに手を挙げたのはミオだった。

 

 まさか。

 

 また魔法を使うつもりなのか。

 

 『ミオ、これ以上魔法を使っちゃ……』

 

 「大丈夫。すぐ終わるから」

 

 そう言ってミオはゆっくり立ち上がる。

 

 まだ顔色は悪い。

 

 立っているだけでも辛そうなのに、一体何をする気なんだ。

 

 「はあああああっ!!」

 

 「ふえっ?」

 

 ミオは勢いよく右手を突き出した。

 

 掌の前に、拳ほどの大きさの風の塊が渦を巻き始める。

 

 その光景を見た瞬間――。

 

 俺の脳裏を、一つの嫌な予感がよぎった。

 

 いや。

 

 まさか、そんな脳筋な方法じゃないよな……?

 

 「はあっ!!」

 

 「ぶええええええええええっ!?」

 

 次の瞬間。

 

 風の塊が一直線にギリスケの腹へ炸裂した。

 

 「ぐえぇっ!?」

 

 棒立ちだったギリスケはまともに直撃を受け、そのまま砲弾のような勢いで吹き飛ぶ。

 

 悲鳴を上げながら巨大な穴を一気に飛び越え――。

 

 反対側へ見事に到着した。

 

 ……いや。

 

 到着というより、着弾だった。

 

 勢いを殺し切れず床を何度も転がり、そのまま壁へ激突する。

 

 ゴンッ!!

 

 鈍い音が氷の空間に響き渡った。

 

 うん。

 

 あれは、かなり痛い。

 

 「おーい、ギリスケくーん! さっき渡したの、ちゃんと持ってるー!?」

 

 『なくしたら全部無駄になるから気を付けてよー!?』

 

 「さっさと準備しろよ、ギリスケ!」

 

 「まず先に俺の心配してくんない!?」

 

 ギリスケの悲痛な叫びが空しく響く。

 

 だが、誰一人として駆け寄ろうとはしない。

 

 皆が気にしているのはギリスケの無事ではなく、ソンジさんから預かった【自動巻き取り機(オート・ロール)】だけだった。

 

 なくしていたら作戦そのものが瓦解する。

 

 心配する優先順位としては、ある意味当然だった。

 

 ……まあ。

 

 あれだけ派手に吹っ飛ばされても文句を言えるくらい元気なのだから、命に別状はないだろう。

 

 俺はそう判断し、小さく息を吐いた。

 

 多少予定外のハプニングはあったものの、これで必要な配置は整った。

 

 あとは――。

 

 伝説の龍を地上へ引きずり下ろすだけだ。

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