「ぐっ!?」
魔妖によって打ち上げられた俺の身体は、銀鏡の翼龍めがけて一直線に突き進んでいた。
速い。
あまりにも速すぎる。
「う、うおおおおおおおおおおおっ!?」
想像以上の速度に、俺の身体が悲鳴を上げていた。
「ぐっ……!?」
風圧が凄まじい。
空気抵抗で息をすることすらままならない。
頬の肉が風に引っ張られ、顔の皮膚が剥がれてしまうんじゃないかと思うほど激しく揺れている。
目もまともに開けていられない。
「くっ……!」
涙が出そうになる。
というか、もう出ているかもしれない。
空を飛ぶって、こんなに苦しいものだったのか。
今まで空を飛ぶ魔法を使える奴らを羨ましいと思ったこともあったが、前言撤回。
俺は二度とこんな飛び方をしたくない。
――などと考えているうちに。
「うおっ!?」
突然、身体の勢いが止まった。
いや。
正確には、上昇が終わったのだ。
「……マジかよ」
気が付けば、俺は銀鏡の翼龍の頭上まで到達していた。
……本当にギリギリだったな。
マヒロの言った通り、ちょうど七十メートル。
俺の身体は、翼龍の頭上で上昇を終えた。
その姿を確認した銀鏡の翼龍も、さすがに驚いているようだった。
まさか、突然自分の頭上に人間が現れるとは思ってもいなかったのだろう。
――――――――――!!
だが。
驚いていたのは一瞬だった。
銀鏡の翼龍はすぐに状況を理解したらしい。
俺を敵と認識した瞬間、その巨大な口を大きく開いた。
「ッ!?」
来る!
――――――――――!!!
次の瞬間。
凄まじい咆哮が空中を震わせた。
「ぐっ!?」
鼓膜が破れそうだ。
至近距離から放たれた咆哮は、ただの音ではない。
まるで衝撃波そのものだった。
「くっそ……!」
だが、こんなところで怯んでいる暇はない。
俺の身体は、すでに落下を始めようとしている。
上昇が止まったということは、あとは落ちるだけ。
このまま何もしなければ、俺は地面へ真っ逆さまだ。
その前に。
なんとしてでも一撃を叩き込む!
――――――――――!!!
「……ッ!?」
その瞬間だった。
銀鏡の翼龍を足止めしていたロープが、限界を迎えた。
ブチンッ!!
「マズい!」
ロープが千切れた。
翼龍を拘束していた最後の枷が消えた。
これで、奴の身体は完全に自由だ。
「落ち着け……!」
俺は必死に頭を働かせる。
俺と奴との距離は、十メートル弱。
このまま落下すれば、奴との距離はすぐに縮まる。
逆に言えば――。
俺にはまだ、攻撃を叩き込む時間が残っている。
問題は――何を使うかだ。
「……」
火球《フレール》か?
いや。
この距離で最大火力の火球《フレール》を撃つのは危険すぎる。
俺自身も巻き込まれる可能性がある。
それに、以前放った時の感覚を考えると、俺の最大火力をもってしても、こいつを地上まで叩き落とせるかどうかは怪しい。
だったら――。
「やっぱり……【火球・炎衝拳】か」
俺が持つ攻撃の中で、最も火力を出せる技。
【火球・炎衝拳】。
だが、この技にも問題がある。
この技は地上でこそ最大の威力を発揮する。
地面を踏みしめ。
全身の力を使い。
その反動を受け止めながら拳を叩き込む。
だからこそ、高い威力を生み出せる。
だが――。
「ここは……空中だ」
足場がない。
踏ん張れない。
この状態で、いつも通りの威力を出せるとは思えない。
仮に翼龍の背中へ乗ることができたとしても、こいつは生き物だ。
動く。
暴れる。
しかも、俺を振り落とそうとするだろう。
そんな不安定な足場で、果たして【火球・炎衝拳】をまともに撃てるのか。
そもそも――。
これだけ頑丈な肉体を持つ相手に、たった一発でダメージを与えられるのか。
「……」
――たった一発?
「……そうか」
その瞬間。
俺は、自分の思考に引っかかった。
何故だ?
何故、俺は最初から「一発だけ」と決めつけていた?
威力が高いから?
一発で決めなければならないと思っていたから?
確かに【火球・炎衝拳】は強力だ。
だが――。
俺はこの技を、何度も何度も練習してきた。
威力を調整する練習もした。
魔力の制御も。
反動の抑え方も。
【部分魔力強化《パージング》】だって身につけた。
なら。
今の俺なら――。
「……できる」
できるはずだ。
最大火力で撃つ必要なんてない。
威力を調整すればいい。
この状況で一発の威力が足りないというのなら――。
単純な話だ。
「一発で駄目なら……」
俺は両手を構える。
左右それぞれに魔力を集中させる。
「二発撃ちゃあいいだろ!」
ここに来て。
俺は新たな可能性に気づいた。
今まで俺は、【火球・炎衝拳】を片方の拳でしか撃っていなかった。
なら――。
両方の拳で撃てばいい。
しかも。
同じ威力で。
同じタイミングで。
左右同時に叩き込む。
「一発で足りないなら……二発だ!」