転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第9章ー77

 「……スゥゥゥゥゥ……ハァァァァァ……」

 

 胸いっぱいに空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

 それだけの単純な動作を繰り返しながら、荒れかけた心拍を無理やり平常へと引き戻していく。

 

 落ち着け。

 

 焦るな。

 

 余計なことを考えるな。

 

 今からやることだけを考えろ。

 

 頭の中で、すべてを正確に思い描くんだ。

 

 そうすれば――きっと、できる。

 

 俺はゆっくりと目を閉じた。

 

 外界から意識を切り離し、自分の内側へと沈めていく。

 

 イメージする。

 

 【火球《フレール》・炎衝拳《インパクト》】を、両腕で同時に放つ。

 

 片腕で放っていた炎衝拳を、左右二つ。

 

 しかも、どちらも威力を一切落とさない。

 

 完全な双撃として完成させる。

 

 炎が渦巻く。

 

 魔力が圧縮される。

 

 そして、限界まで高められた力を一気に解放する。

 

 頭の中で、何度も何度もその一連の動作を繰り返す。

 

 イメージそのものは、難しくない。

 

 問題は――。

 

 「……調整だ」

 

 あれほどの威力を誇る魔法を、片腕ではなく両腕で同時に扱う。

 

 当然、必要となる魔力量も単純に倍になる。

 

 しかも、二つの炎衝拳をまったく同じ威力で制御しなければならない。

 

 少しでも片方の出力が狂えば、もう片方とのバランスが崩れる。

 

 右腕だけ威力が強くなれば、右側へ反動が偏る。

 

 左腕だけが強くなれば、今度は左腕が耐えられない。

 

 最悪の場合――。

 

 反動で腕そのものが砕ける。

 

 あるいは、強すぎる熱量に耐えきれず、魔力が腕の内部で暴走する。

 

 そうなれば、腕が焼き切れるどころか――。

 

 自分自身が、この場で命を落とす可能性すらある。

 

 最大火力を維持しながら。

 

 二つの魔法を完全に同時制御し。

 

 なおかつ、反動を極限まで抑える。

 

 冷静に考えれば――無茶にもほどがある。

 

 普通なら、こんなことをやろうとは思わないだろう。

 

 だが。

 

 「……大丈夫だ」

 

 俺は自分に言い聞かせる。

 

 「俺なら……できる」

 

 調整の訓練なら、嫌というほど積んできた。

 

 何度も失敗した。

 

 何度も魔力を暴発させた。

 

 何度も身体を痛めた。

 

 それでも。

 

 その度に立ち上がって、また繰り返した。

 

 あの時の訓練は、決して無駄じゃない。

 

 今、この瞬間のためにあったんだ。

 

 だから――。

 

 「自分を信じろ」

 

 静かに両腕を構える。

 

 意識を一点へ集中させる。

 

 余計な思考を捨てる。

 

 恐怖も。

 

 不安も。

 

 全部、頭の片隅へ追いやる。

 

 今の俺に必要なのは、ただ一つ。

 

 この魔法を成功させることだけだ。

 

 そして――。

 

 「――爆ぜる焔よ」

 

 静かな声で、詠唱を開始する。

 

 「火《か》の球《きゅう》として、両腕に聚合《しゅうごう》し――」

 

 詠唱と同時に、周囲の炎の魔力が一斉に両腕へと引き寄せられていく。

 

 右腕。

 

 左腕。

 

 二つの腕に、それぞれ炎の魔力が集まっていく。

 

 じわじわと。

 

 しかし、確実に。

 

 「……っ」

 

 熱い。

 

 皮膚の表面だけではない。

 

 まるで身体の内側から焼かれているような熱だ。

 

 腕そのものが、今にも燃え落ちてしまいそうだった。

 

 だが――。

 

 それでいい。

 

 この灼熱こそが、魔力が限界まで高まっている証拠なのだから。

 

 問題は、この力を暴走させないこと。

 

 炎の魔力が少しでも乱れれば、すぐにでも制御を失う。

 

 だからこそ、慎重に。

 

 それでいて大胆に。

 

 炎の流れを一つ一つ確認しながら、両腕の魔力を微調整していく。

 

 右。

 

 左。

 

 右。

 

 左。

 

 互いの出力を確認しながら、二つの炎を同じ領域へと揃えていく。

 

 「――眼前に移りし標的に、双炎の爆撃を与えん」

 

 詠唱が終盤へ差しかかる。

 

 両腕が赤く輝き始めた。

 

 「……ぐっ」

 

 腕の内部に圧縮された炎が、今にも外へ噴き出そうとしている。

 

 圧力で腕が張り裂けそうだ。

 

 骨の内側から、悲鳴が聞こえる。

 

 限界。

 

 もう、これ以上は耐えられない。

 

 ――だからこそ。

 

 「ここだ……!」

 

 このギリギリこそが、狙い通りだった。

 

 これ以上でも駄目。

 

 これ以下でも駄目。

 

 最大火力を維持しながら、魔力を完全に制御できる限界。

 

 そこへ、両腕の出力を揃える。

 

 右腕と左腕。

 

 二つの炎が、完全に同じ威力へ到達した。

 

 成功だ。

 

 炎衝拳《インパクト》を超える。

 

 俺自身が考案した、火球・炎衝拳の改良魔法。

 

 一発では足りないなら。

 

 二発同時に叩き込めばいい。

 

 ならば――。

 

 この技の名は。

 

 「……爆ぜろ」

 

 両腕に集まった炎が、凄まじい熱量を放つ。

 

 そして、俺は叫んだ。

 

 「【火球《フレール》・双爆拳《ブラスト》】ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 爆発を意味する言葉。

 

 Blast《ブラスト》。

 

 その名を冠した、新たなる双撃。

 

 俺は両腕を前方へ突き出した。

 

 狙いは――。

 

 眼前に迫る、銀鏡の翼龍。

 

 その巨大な頭部。

 

 次の瞬間。

 

 二つの拳から、同時に爆炎が解き放たれた。

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