ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百五話「希望を残す者」

 

『未来へ残してくれ』

 

その一文が全員の胸に重く響いていた。

 

ジョイボーイ。

 

巨大な王国の王。

 

世界最大の戦争の中心にいた男。

 

その男が親友に託した願い。

 

それが今、自分たちの目の前にある。

 

レインは静かに息を吐いた。

 

そして次のページを開く。

 

紙が擦れる音だけが地下に響いた。

 

『その頼みを聞いた時』

 

『私は怒った』

 

全員が少し意外そうな顔をした。

 

レインも続きを読む。

 

『何を馬鹿なことを言っている』

 

『私はそう言った』

 

『お前は死なない』

 

『必ず生き残る』

 

『そう言った』

 

『すると』

 

『あいつは笑った』

 

『昔と変わらない笑顔だった』

 

ロジャーの口元が少しだけ上がる。

 

レイリーも静かに聞いていた。

 

『ルーメン』

 

『俺だって生き残りたい』

 

『だが』

 

『もしもの話だ』

 

『未来には保険が必要だろ?』

 

ルークが小さく呟く。

 

「保険ですか……」

 

レインは何も言わなかった。

 

ただ日誌を見つめている。

 

『私は納得できなかった』

 

『だから言った』

 

『縁起でもないことを言うな』

 

『そんな役目はお前が自分で果たせ』

 

『未来はお前自身が見るべきだ』

 

『だが』

 

『ジョイボーイは首を横に振った』

 

地下の空気が再び重くなる。

 

『俺には分かる』

 

『時間が足りない』

 

その一文に全員が固まった。

 

ロジャーも。

 

レイリーも。

 

おでんも。

 

その言葉の意味を理解していた。

 

『その時の私は理解できなかった』

 

『何故そんなことを言うのか』

 

『何故そんな顔をするのか』

 

『だが』

 

『今なら分かる』

 

『あいつはあの時』

 

『既に自分の最後を見ていたのだ』

 

レインは拳を握る。

 

未来を託す。

 

それはつまり。

 

自分では辿り着けないと理解していたということだ。

 

『その日から』

 

『私は記録を残し始めた』

 

『戦争の記録』

 

『歴史の記録』

 

『人々の記録』

 

『そして』

 

『ジョイボーイの記録』

 

レイリーが静かに目を細める。

 

「なるほどな」

 

小さく呟いた。

 

その意味を理解したのだろう。

 

『誰かが残さなければならなかった』

 

『敗者の歴史を』

 

『消される側の歴史を』

 

『勝者は必ず自分に都合良く書き換える』

 

『だから私は残した』

 

『未来のために』

 

『そして親友との約束のために』

 

地下に沈黙が落ちる。

 

誰も言葉を発しない。

 

今、自分たちが読んでいるこの日誌。

 

その存在そのものがジョイボーイとの約束だった。

 

『だが』

 

『記録を残すだけでは足りなかった』

 

『未来へ確実に届ける方法が必要だった』

 

レインの目が僅かに見開かれる。

 

父も。

 

長老も。

 

同じだった。

 

ここから先は恐らく。

 

ポーネグリフの話だ。

 

『紙は燃える』

 

『木は朽ちる』

 

『金属は錆びる』

 

『だが』

 

『石は残る』

 

地下にいる全員が息を呑む。

 

『私は光月家を訪ねた』

 

おでんが目を見開いた。

 

『世界最高の石工たち』

 

『私の親友たち』

 

『彼らなら出来ると思った』

 

『歴史を未来へ残すことが』

 

おでんは静かに拳を握る。

 

自分の祖先の話なのだ。

 

聞き逃すはずがない。

 

『最初は反対された』

 

『当然だ』

 

『これは世界政府の前身となる二十の王への反逆だった』

 

『見つかれば一族ごと消される』

 

『だが』

 

『それでも彼らは引き受けてくれた』

 

『友だからだ』

 

レインは静かに目を閉じた。

 

ヴェルク家。

 

光月家。

 

八百年前から続く縁。

 

それが今、繋がった。

 

『私たちは石に歴史を刻んだ』

 

『消せないように』

 

『壊せないように』

 

『未来へ届くように』

 

『そして』

 

『最後の希望を託した』

 

地下の空気が張り詰める。

 

ロジャーも身を乗り出していた。

 

『最後の希望』

 

その言葉はあまりにも重かった。

 

『ジョイボーイは最後まで諦めなかった』

 

『敗北を理解しても』

 

『仲間を失っても』

 

『国が滅びようとしても』

 

『最後まで笑っていた』

 

『だから私も諦めなかった』

 

『そして』

 

『私たちは一つの決断をした』

 

レインの鼓動が速くなる。

 

全員が日誌を見つめていた。

 

『世界の全てを』

 

『最後の島へ残すことを』

 

地下が静まり返る。

 

ロジャーの目が見開かれる。

 

レイリーも同じだった。

 

おでんも息を呑む。

 

『ジョイボーイの宝』

 

『私たちの記録』

 

『私たちの夢』

 

『私たちの希望』

 

『全てを一つの場所へ残した』

 

『いつか』

 

『未来の誰かが辿り着くと信じて』

 

レインの脳裏に一つの場所が浮かぶ。

 

最後の島。

 

ロジャーがまだ辿り着いていない場所。

 

未来にラフテルと呼ばれる島。

 

『そして…もしその場所へ辿り着いた者がいるなら』

 

『頼みがある』

 

全員の視線が日誌へ集中する。

 

ルーメンから未来への願い。

 

八百年越しの言葉。

 

レインはゆっくりと続きを読もうとした。

 

だが、そこで文章は途切れていた。

 

次のページへ続いている。

 

地下に長い沈黙が落ちる。

 

誰も動かなかった。

 

誰も喋らなかった。

 

そしてロジャーが小さく笑う。

 

「ガハハ……」

 

その笑い声はいつもより静かだった。

 

「面白くなってきたな」

 

レインはゆっくりと次のページへ手を伸ばく。

 

八百年前の真実。

 

ジョイボーイが最後に託した願い。

 

その核心が、すぐ目の前まで迫っていた。

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