ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
『未来へ残してくれ』
その一文が全員の胸に重く響いていた。
ジョイボーイ。
巨大な王国の王。
世界最大の戦争の中心にいた男。
その男が親友に託した願い。
それが今、自分たちの目の前にある。
レインは静かに息を吐いた。
そして次のページを開く。
紙が擦れる音だけが地下に響いた。
『その頼みを聞いた時』
『私は怒った』
全員が少し意外そうな顔をした。
レインも続きを読む。
『何を馬鹿なことを言っている』
『私はそう言った』
『お前は死なない』
『必ず生き残る』
『そう言った』
『すると』
『あいつは笑った』
『昔と変わらない笑顔だった』
ロジャーの口元が少しだけ上がる。
レイリーも静かに聞いていた。
『ルーメン』
『俺だって生き残りたい』
『だが』
『もしもの話だ』
『未来には保険が必要だろ?』
ルークが小さく呟く。
「保険ですか……」
レインは何も言わなかった。
ただ日誌を見つめている。
『私は納得できなかった』
『だから言った』
『縁起でもないことを言うな』
『そんな役目はお前が自分で果たせ』
『未来はお前自身が見るべきだ』
『だが』
『ジョイボーイは首を横に振った』
地下の空気が再び重くなる。
『俺には分かる』
『時間が足りない』
その一文に全員が固まった。
ロジャーも。
レイリーも。
おでんも。
その言葉の意味を理解していた。
『その時の私は理解できなかった』
『何故そんなことを言うのか』
『何故そんな顔をするのか』
『だが』
『今なら分かる』
『あいつはあの時』
『既に自分の最後を見ていたのだ』
レインは拳を握る。
未来を託す。
それはつまり。
自分では辿り着けないと理解していたということだ。
『その日から』
『私は記録を残し始めた』
『戦争の記録』
『歴史の記録』
『人々の記録』
『そして』
『ジョイボーイの記録』
レイリーが静かに目を細める。
「なるほどな」
小さく呟いた。
その意味を理解したのだろう。
『誰かが残さなければならなかった』
『敗者の歴史を』
『消される側の歴史を』
『勝者は必ず自分に都合良く書き換える』
『だから私は残した』
『未来のために』
『そして親友との約束のために』
地下に沈黙が落ちる。
誰も言葉を発しない。
今、自分たちが読んでいるこの日誌。
その存在そのものがジョイボーイとの約束だった。
『だが』
『記録を残すだけでは足りなかった』
『未来へ確実に届ける方法が必要だった』
レインの目が僅かに見開かれる。
父も。
長老も。
同じだった。
ここから先は恐らく。
ポーネグリフの話だ。
『紙は燃える』
『木は朽ちる』
『金属は錆びる』
『だが』
『石は残る』
地下にいる全員が息を呑む。
『私は光月家を訪ねた』
おでんが目を見開いた。
『世界最高の石工たち』
『私の親友たち』
『彼らなら出来ると思った』
『歴史を未来へ残すことが』
おでんは静かに拳を握る。
自分の祖先の話なのだ。
聞き逃すはずがない。
『最初は反対された』
『当然だ』
『これは世界政府の前身となる二十の王への反逆だった』
『見つかれば一族ごと消される』
『だが』
『それでも彼らは引き受けてくれた』
『友だからだ』
レインは静かに目を閉じた。
ヴェルク家。
光月家。
八百年前から続く縁。
それが今、繋がった。
『私たちは石に歴史を刻んだ』
『消せないように』
『壊せないように』
『未来へ届くように』
『そして』
『最後の希望を託した』
地下の空気が張り詰める。
ロジャーも身を乗り出していた。
『最後の希望』
その言葉はあまりにも重かった。
『ジョイボーイは最後まで諦めなかった』
『敗北を理解しても』
『仲間を失っても』
『国が滅びようとしても』
『最後まで笑っていた』
『だから私も諦めなかった』
『そして』
『私たちは一つの決断をした』
レインの鼓動が速くなる。
全員が日誌を見つめていた。
『世界の全てを』
『最後の島へ残すことを』
地下が静まり返る。
ロジャーの目が見開かれる。
レイリーも同じだった。
おでんも息を呑む。
『ジョイボーイの宝』
『私たちの記録』
『私たちの夢』
『私たちの希望』
『全てを一つの場所へ残した』
『いつか』
『未来の誰かが辿り着くと信じて』
レインの脳裏に一つの場所が浮かぶ。
最後の島。
ロジャーがまだ辿り着いていない場所。
未来にラフテルと呼ばれる島。
『そして…もしその場所へ辿り着いた者がいるなら』
『頼みがある』
全員の視線が日誌へ集中する。
ルーメンから未来への願い。
八百年越しの言葉。
レインはゆっくりと続きを読もうとした。
だが、そこで文章は途切れていた。
次のページへ続いている。
地下に長い沈黙が落ちる。
誰も動かなかった。
誰も喋らなかった。
そしてロジャーが小さく笑う。
「ガハハ……」
その笑い声はいつもより静かだった。
「面白くなってきたな」
レインはゆっくりと次のページへ手を伸ばく。
八百年前の真実。
ジョイボーイが最後に託した願い。
その核心が、すぐ目の前まで迫っていた。