ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
誰も口を開かなかった。
ジョイボーイの死。
ルーメンの絶望。
そして東の果ての島への到達。
その全てが重く胸にのしかかっていた。
レインは静かにページをめくる。
そこには震えるような文字が刻まれていた。
今までの日誌とは少し違う。
まるで書いている本人の感情が、そのまま紙に刻まれているようだった。
『ジョイボーイは最後まで笑っていた』
『死ぬ瞬間まで笑っていた』
『それでも駄目だった』
地下に沈黙が落ちる。
レインは続きを読んだ。
『勝てなかった』
『私たちは負けた』
『戦士達も』
『仲間達も』
『光月家も』
『誰一人としてジョイボーイが負けるなど考えていなかった』
『それでも負けた』
『私たちは負けたのだ』
ロジャーが静かに目を閉じる。
レイリーも黙ったままだった。
おでんも拳を握っている。
『この先』
『何年も』
『何十年も』
『何百年も』
『この世界に自由は無くなるだろう』
『ジョイボーイがいた世界は希望に満ち溢れていた』
『人々は笑っていた』
『未来を信じていた』
『自由を信じていた』
『だが、ジョイボーイがいなくなった今、世界は絶望へ変わった』
地下の空気が重くなる。
ルーメンの絶望が伝わってくる。
『あの男こそ自由の象徴だった』
『あの男こそ希望だった』
『あの男こそ未来だった』
『だから私は理解した』
『世界はジョイボーイを失ったのだと』
レインは拳を握る。
その感覚は何となく分かる気がした。
ルフィを失った未来。
ロジャーを失った未来。
そんなものを想像したくもない。
『なんて世界は残酷なのだろう』
『この世に神はいないのだろうか』
『私は何度もそう考えた』
『何度も海へ問い掛けた』
『何度も空へ問い掛けた』
『だが答えは返ってこなかった』
『だから私は決めた』
『神がいないなら』
『私が残そうと』
地下にいた全員が顔を上げる。
ロジャーも。
レイリーも。
おでんも。
その言葉の意味を理解し始めていた。
『私は新しい船を設計した』
『人生最高の船だった』
『そして最初に向かった場所は魚人島だった』
おでんが目を見開く。
『そこにはジョイボーイの友人がいた』
『魚人島の王』
『そして人魚姫がいた』
『私は彼女に会った』
『そこで私は頼んだ』
『もし未来に』
『特別な力を持つ人魚姫が生まれたなら』
『その子に一つの名前を与えてほしいと』
地下が静まり返る。
『海の神の名を』
『希望の象徴の名を』
『ポセイドンを』
ルークが息を呑んだ。
レインも同じだった。
古代兵器。
魚人島。
全てが繋がっていく。
『魚人島を出た私は再び旅に出た』
『次の目的地はワノ国だった』
おでんが静かに日誌を見つめる。
『ワノ国は要塞だった』
『高い壁』
『険しい山々』
『外敵を拒む天然の城』
『私は思った』
『ここなら隠せると』
レインは続きを読む。
『私は光月家へ会いに行った』
『そして一隻の軍艦を預かってほしいと頼んだ』
『私がウォータセブンの船大工の友と共に設計した最高傑作』
『世界最強の軍艦』
『その名も』
『プルトン』
地下に衝撃が走る。
レイリーが目を見開く。
ギャバンも固まった。
おでんでさえ驚いている。
『だが光月家は悩んだ』
『それを隠せば国はさらに閉ざされる』
『外との繋がりは失われる』
『すると光月家の殿は静かに言った』
『世界はもう絶望だ』
『今更外と繋がっても意味は無い』
『ならば未来へ託そう』
おでんは静かに目を閉じた。
先祖らしい。
そう思った。
『私は全てを託した』
『プルトンを』
『そして』
『その在処を示すポーネグリフを』
『未来へ残すことを』
レインは静かにページをめくる。
そして、次の文章を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
『最後に向かった場所』
『それはアラバスタだった』
ロジャーが顔を上げる。
レイリーも反応した。
『二十の王の中で』
『唯一最後まで反対してくれた友人がいた国』
『ネフェルタリ家』
『リリィ王女』
地下に沈黙が落ちる。
『私は信じていた』
『彼女なら生きていると』
『彼女なら何か知っていると』
『だが、アラバスタへ着いた私達は絶望した』
『リリィ王女がいなかった』
レインの鼓動が速くなる。
『王族に尋ねた』
『家臣に尋ねた』
『兵士に尋ねた』
『だが、誰も首を横に振るだけだった』
『そして私は一通の手紙を受け取った』
地下にいた全員の視線が日誌へ集まる。
『リリィ王女からだった』
レインは静かに次のページを開いた。
そこには別の筆跡で文字が刻まれていた。
八百年前、最後の手紙、ネフェルタリ・D・リリィの言葉が、そこに残されていた。