ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
リリィ王女の手紙。
Dの意味。
そして未来への願い。
八百年前から届けられた想いは、確かに全員の胸へ届いていた。
レインは静かに息を吐く。
だが、まだ日誌は終わっていなかった。
最後の数ページが残されている。
レインはゆっくりと次のページを開いた。
そこには再びルーメンの筆跡が刻まれていた。
『私は最後に黄金都市シャンドラへ向かった』
おでんが顔を上げる。
ロジャーも反応した。
シャンドラ。
空島へ消えた伝説の黄金都市。
『黄金には興味が無かった』
『元々私は技術者だ』
『金よりも鉄』
『宝石よりも工具の方が好きだった』
地下に小さな笑いが起きる。
何となくレインに似ている。
父も苦笑していた。
『だが、シャンドラなら都合が良かった』
『人の目が少ない』
『歴史を残すには最適だった』
『私は光月家と協力し』
『ポセイドンの在処を示すポーネグリフを残した』
ルークが思わず息を呑む。
「ポーネグリフ……」
「そういうことだったんですね」
レイリーも静かに頷いた。
『本当にリリィ王女はよくやってくれた』
『彼女が世界中へポーネグリフを散らしてくれたお陰で』
『希望は消えなかった』
『だが、もう会えないのは残念だった』
『彼女は友人だった』
『最後まで自由を信じた仲間だった』
地下に静寂が落ちる。
『だが、彼女が残した未来は決して無駄にしない』
『私はそう誓った』
レインは続きを読む。
『シャンドラでの仕事を終えた後』
『私は光月家の者達と別れた』
『恐らくもう二度と会うことは無い』
『そう分かっていた』
『だから別れは辛かった』
『だが、皆笑っていた』
『ジョイボーイがそうだったように』
ロジャーの口元が少しだけ上がった。
『そして私は東の海へ向かった』
『世界の果て』
『誰も知らない島へ』
『未来へ希望を残すために』
地下にいる全員が周囲を見回す。
今、自分達が立っているこの島。
全ての始まりの場所。
『島へ着いた私は山を改造した』
『未来へ残すための地下施設を建設した』
『一人ではない』
『私を慕ってくれた者達も手伝ってくれた』
『皆』
『ジョイボーイを知る者達だった』
『未来を信じる者達だった』
父が静かに目を閉じる。
長老も同じだった。
ヴェルク家の始まり。
その瞬間が語られている。
『建設は二年続いた』
『岩を削り』
『通路を掘り』
『部屋を造った』
『そして完成した』
レインは無意識に周囲を見る。
今いる場所そのものだ。
『私は三つの部屋を造った』
地下にいた全員が息を呑んだ。
『一つ目』
『ポーネグリフと設計図を保管する部屋』
『未来へ技術を残すための部屋だ』
ロジャーが振り返る。
先程までいた部屋。
あそこには確かに設計図が大量に残されていた。
『二つ目』
『私の日誌』
『書物』
『歴史』
『知識を残す書斎』
レイン達が今いる部屋だ。
全てが繋がった。
『そして』
『三つ目』
地下の空気が張り詰める。
『その奥に私は残すことにした』
『未来の誰かが作れることを祈って』
『未来の誰かが空へ届くことを祈って』
『ジョイボーイが夢見た世界へ辿り着けることを祈って』
レインの鼓動が速くなる。
『私の最高傑作を』
『私が生涯をかけて研究した全てを』
そして、それが日誌の最後だった。
文章はそこで終わっていた。
地下に沈黙が落ちる。
誰も動かない。
誰も喋らない。
八百年前の男が残した最後の言葉。
未来への願い。
その全てが胸に響いていた。
やがて、ロジャーが静かに口を開く。
「終わったな」
その声はどこか寂しそうだった。
レイリーも頷く。
おでんも何も言わない。
レインはゆっくりと日誌を閉じた。
八百年間眠っていた物語が終わった。
だが、その瞬間だった。
奥の壁のさらに向こうに続く通路を見つけたのは...
「……あった」
レインが呟く。
全員が顔を上げる。
書斎の奥。
今まで気付かなかった隠し扉。
それがゆっくりと開いていた。
ロジャー達も立ち上がる。
レインは先頭に立った。
そして全員で奥へ進む。
扉の先、そこに広がっていた光景を見た瞬間、レインは言葉を失った。
「……は?」
思わず前世の言葉が漏れる。
そこには大量の金属が並んでいた。
見たことがある。
いや、見間違えるはずがない。
前世で何度も見た材料だった。
「嘘だろ……」
レインの手が震える。
チタン合金。
アルミ合金。
高強度特殊鋼。
強化プラスチック。
軽量複合素材。
どう考えてもこの時代に存在してはいけない物ばかりだった。
ロジャー達には価値が分からない。
だがレインだけは理解していた。
理解してしまった。
「これ……」
「空飛ぶ船が作れる……」
地下に沈黙が落ちる。
レインの瞳は目の前の材料へ釘付けになっていた。
ルーメン...あんたはどこまで先を見ていたんだ。
八百年前、世界が滅ぶ中、この男は未来の船を作ろうとしていた。
そして、その夢を未来へ託したのだ。
レインという、八百年後の船大工へ...