ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
診察が終わった後、レイン達は工房の応接室へ移動していた。
ロジャーは椅子へ座りながら笑っている。
まるで自分の病気の話ではないかのようだった。
クロッカスは腕を組み、静かに考え込んでいる。
そしてレインは机へ向かい、診察結果を書き留めていた。
部屋の中は静かだった。
そんな中、ルークがぽつりと呟く。
「初めて見ました」
レインが顔を上げる。
「何を?」
「レインさんが出来ないって首を横に振るところです」
部屋が静かになる。
ロジャーが笑う。
クロッカスも少しだけ驚いた顔をした。
確かにそうだった。
レインは今まで様々な問題を解決してきた。
船。
鍛冶。
工房経営。
覇気。
医学。
地下遺跡。
資源開発。
どんな問題でも何かしら答えを見つけてきた。
だが今回は違った。
レインはため息を吐く。
「思ったより厄介だった」
本音だった。
いや、厄介などという言葉では足りない。
意味が分からなかった。
医者として絶対に言ってはいけない言葉だが。
正直な感想は一つだった。
「呪いって言われた方がまだ納得できる」
クロッカスが思わず苦笑する。
「全く同じことを考えたことがある」
レインが驚いて顔を上げる。
クロッカスほどの医者が同じ結論に至っていた。
それだけ異常なのだ。
「症状はある」
「身体は蝕まれている」
「確実に進行している」
「だが原因が見えない」
クロッカスは静かに言う。
「何なんだこの病気はとな」
レインも深く頷いた。
前世の医学知識。
今世で学んだ医学。
両方を総動員しても分からない。
ロジャーだけが大笑いしていた。
「ガハハハハ!」
「面白い病気じゃろ!」
「全然面白くない」
レインが即答する。
ルークも頷いた。
「全然面白くないですね」
「そうか?」
「そうです!」
二人に同時に言われ、ロジャーはまた笑った。
そんな時だった。
レインが何かを思いつく。
そしてロジャーを見る。
「一つ頼みがある」
「何じゃ?」
「血を少し分けてくれ」
ロジャーが首を傾げる。
「血?」
「ああ」
レインは真剣だった。
「研究したい」
部屋が静かになる。
「不治の病を」
ロジャーは数秒だけ考えた。
そして、
「良いぞ」
あっさりだった。
レイリーならもっと悩む。
クロッカスならもっと警戒する。
だがロジャーは違った。
「本当に良いのか?」
「構わん」
ロジャーは笑う。
「お前なら悪いことには使わんじゃろ」
レインも笑う。
「当然だ」
その後、採血が始まった。
必要な量だけ採取する。
ロジャーは終始平然としていた。
採血が終わる頃には、むしろ退屈そうだった。
「終わったか?」
「終わった」
「なら寝る」
そう言って長椅子へ横になる。
相変わらず自由な男だった。
やがて寝息が聞こえ始める。
その間、レインは机へ向かった。
目の前にはノート。
そしてクロッカス。
「クロッカスさん」
「何だ?」
「知っていることを全部教えてください」
クロッカスの目が少し変わる。
医者の顔だった。
「全部か」
「ああ」
「長くなるぞ」
「構わない」
クロッカスは頷いた。
そして話し始める。
最初に症状が出た時期。
進行速度。
発作の有無。
薬への反応。
食事との関係。
睡眠との関係。
過去の検査結果。
考えられる原因。
否定された仮説。
試した治療法。
全て、レインは一言も聞き漏らすまいと必死に記録していく。
ノートが一冊埋まる。
二冊目も埋まる。
ルークは隣で驚いていた。
これほど真剣なレインを見るのは久しぶりだった。
夕方、窓から差し込む光が赤くなる頃にようやく話は終わった。
レインはノートを閉じる。
そこには膨大な記録が残されていた。
だが、答えはまだ見つからない。
それでも、レインは諦めなかった。
机の上にはロジャーの血液。
そして大量の記録。
「絶対に調べてやる」
小さく呟く。
その言葉を聞いたクロッカスは静かに笑った。
もしかしたら。
この少年なら。
自分達が辿り着けなかった場所へ辿り着くかもしれない。
そんな予感がしていた。
そして長椅子では、当の本人が大いびきをかいて眠っていた。
「ガー……ガー……」
レインとクロッカスは顔を見合わせる。
そして同時にため息を吐いた。
「本当に病人か?」
「私もたまにそう思う」
二人の言葉が綺麗に重なるのだった。