魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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母親=ヒロインの構図はよくあること

《ヤミノマー》

「ご苦労。よく連れてきた」

 

 《ヤミノマ》に捕まった恵が連れていかれたのは、とある建物の上であった。周囲の人々が既に逃げ去ったにも関わらず、一人《ヤミノマ》を見ても逃げもせずに、労いの言葉すらかける眼鏡を掛けた青い肌の男。

 

「あなたは、人、なんですか?」

「人? 失笑。君たちのような弱い存在と同じにしないでもらいたい。僕らは《セブンスター》、人の及ばぬ上位存在だ。《ヤミノマ》だって我々の手先に過ぎない」

「《ヤミノマ》を、操る存在? そんなのがいるだなんて」

 

 《ヤミノマ》という存在について、恵が知っていることは少ない。

 

 突如として現れた異形の怪物で人々を襲う。それらに対抗できるのは魔法少女だけ。

 

 彼女が知るのはそこまで。

 

 自らの娘が魔法少女であることは当然知らないし、ましてや《ヤミノマ》を操る存在がいるなんて想像だにしなかった。

 

 ましてや《ディスナンド》が銀河を闇に包んでいく組織であることや、《ヤミノマ》を操る《トライデント》や《セブンスター》といった存在がいるなどは想像の埒外であった。

 

「どうして人を襲うのですか?」

「情弱。普段なら語る必要もないのだが、良いだろう」

 

 メラックは得意げに語り始める。

 

「提示。我々の目的は、すべての銀河を闇に包むことである」

「闇に包む……? そんなことをして、何になるというの? そもそも、宇宙ってほとんど暗闇なんじゃ……」

「そういう次元の話ではない。ありとあらゆるものを、真の意味で闇に包むのだ。所詮は、君たちには理解できぬ話か」

「は、はぁ……」

 

 よくわからないことを得意げに言われても……、と恵は思いつつもメラックが語っている間は隔離空間(コンサート)に閉じ込められた人たち、八雲も遠くに逃げられるはずだと耳を傾ける。

 

 その間も、つらつらと語り続けるメラック。

 

「結論。君たち人間は弱い。だが、その感情は我々に対して有用なのだ。それこそ、これまで滅ぼしてきた星々のどれよりも。とはいえだ。最近の負のエネルギーを集めるのはうまくいかない。それもこれも魔法少女のせいだ。人間の感情は裏表。我々が負のエネルギーを集めれば、逆にそれを打開しようとミラクルパワーを開花させる者が現れる。故、従来のやり方じゃ、効率が悪過ぎる。」

 

 メラックが恵を見た。

 

 眼鏡の奥にある瞳。全く光を宿さない、無機物とも言えるものに恵が反射的に身体が怖気つく。

 

「熟考。僕は考えた。考えて考えて考えて……思いついたのだ。()に、負のエネルギーを集める手伝いをさせようと。結論。きみには新しき《ヤミノマ》となってもらう」

「《ヤミノマ》って……!? そんなこと、いやよっ!」

「却下。これは決定だ。単なる人ではだめだ。善人が必要なのだ。人を傷つけることに、傷つく善人が。きみは先ほど、一人の少年を庇った。つまりは、まごうことなき善の心を持つものだ」

「あぐぅぅ……!」

 

 恵の身体が締め付けられる。

 《ヤミノマ》が逃げられないように拘束を強めたのだ。

 

「きみがやるのだ。きみが、この場にいる人々を傷つけろ。そうすれば、絶望した貴方はより良い負のエネルギーを《ヤミノマ》へと供給してくれる。まさに妙案! こんなこと、あのアクラーツにだって出来ない! 僕はダークネス様に賞賛されるのは間違いない!」

 

 絶体絶命の危機。

 

 その危機に、恵は。

 

(八雲くん、逃げられたかしら。焔、ごめんなさい。お母さん、ここまでみたい)

 

 ただただ、子どもたちのことを案じていた。

 

 メラックの手が恵に向けられる。

 迫り来る最期に、ギュッと目を閉じた。

 

《ヤミィッ!!?》

「えっ? きゃあぁぁっっっ!?」

 

 聞こえてきたのは絶叫。

 次いで宙に浮く感覚に思わず悲鳴をあげた。この高さから落ちれば、骨折は免れない。

 

 しかし、覚悟した痛みはこなかった。

 代わりに、何かに抱き止められる感覚。恐る恐る目を開ける。

 

「ご無事ですか、可憐な奥さん」

 

 目元を隠す仮面のせいで表情はわからない。だけど、その声色は間違いなく恵の身を案じていた。

 

 そして、その光景は恵にとって何よりも輝いてみえて。

 

「あ、あなたは……」

 

 年甲斐もなく、顔が赤くなり、心臓が高鳴る音がした。

 

 

 

 

 

 恵さんを助けられたことに安堵する。

 

 あの動き、メラックは恵さんを《ヤミノマ》と化そうとしていた。それを見た時、肝が冷えた。

 ばかやろう、それは《スタートゥインクル》が終わった後の、《ディスナンド》のライバル組織(・・・・・・)がしてくる技術だっただろ! 何、お前らまでしようとしてるんだ。

 

「驚嘆! 何者だ、貴様! 《ヤミノマ》に対抗出来るのは魔法少女だけのはず。その禍々しい気はなんだ? 何故男の貴様が我々に対して刃向かえる? 知りたい、知りたいぞ!」

《うぇぇ……。ワガハイにねっとりした視線を向けてくるのいやなんじゃが》

 

 メラックが驚愕と興奮の混じった声色で喋ってくる。日本刀形態のムラサメもうんざりしている。俺はそれに、冷ややかな視線をむける。

 

「ごちゃごちゃと喋ってばかりでうるさいな。俺がお前に答えるのはただ一つ。今すぐ去れ」

「戯言! ここまで邪魔されて、素直に帰るとでも!?」

「あぁ、知っているよ。お前たちは、そう言うヤツらだ」

 

 去れ、と言われて帰るような奴らでないのは百も承知。あのワープ技術を使わせないために煽っただけだ。メラックの指示に、《ヤミノマ》が動き出す。

 

《ヤミノマー!》

「ひっ」

 

 恵さんが悲鳴をあげる。

 (須佐八雲)の時はやっぱり無理をしていたのだろう。

 

「大丈夫」

 

 安堵させるように、語りかける。

 恵さんが、俺を見てくる。ギュッ、と服を強く握られた。

 

 俺はすぐに《ヤミノマ》に目を向けて、恵さんを抱えながら片手でムラサメを抜いた。

 

「〝羅刹廻り〟」

《ノ゛ッマ゛!!!?》

 

 斬ることだけに特化した飛ぶ斬撃を放ち、斬り刻む。

 

「な、なぁ!?」

「失せろ。この人はお前如きが容易く触れて良い人ではない」

 

 ボトボトと、《ヤミノマ》の残骸が落ちる。

 

 ……妙だな。《ヤミノマ》が倒された時に発生し、どこかに散っていく小さな《ヤミノマ》たちが出てこない。その疑問に答えるように、メラックが眼鏡をあげながら答える。

 

「浅慮! 僕の《ヤミノマ》は元となった素体の力を大きく引き出すことに長けている! この程度、あの団子の粘り強さがあればすぐに元に戻る!」

《ヤァ〜ミノマ〜……!》

 

 《ヤミノマ》が唸りながら、別れたハズの身体が再び再生し始める。

 みたらし団子を素体にした《ヤミノマ》は、耐久性に難があれども、再生力に優れているみたいだな。

 

 まぁ、関係ない(・・・・)が《・》。

 

「憤懣! 実験が中途半端に終わったのは残念だが、今は貴様の方が興味深い。突撃! 《ヤミノマ》よ、ヤツを押さえつけろ!」

《ヤミ〜 「無駄だよ。もう終わっている」ノマッッッ!!?》

「《ヤミノマ》!? ばかな!? いったいなぜ!?」

 

 ムラサメの刀身を鞘に納めると同時に、《ヤミノマ》が炎に包まれた。

 

 〝羅刹廻り〟は、初めに飛ぶ斬撃が走り、対象を斬り刻む。その後に紫の炎が迸る二段構えの技だ。たとえ斬られて無事であろうと、鞘に納めると共に発火し、焼き尽くす。斬られた時点で導火線に火がついたようなモノであるから、防ごうとしても無駄だ。

 

《あれでは最早焼き団子じゃな。もっとも食えたものじゃないが》

「それは今から斬る奴も同じだろ?」

 

 ムラサメの言葉に、小声で答える。

 恵さんを降ろし、メラックを見た。《ヤミノマ》が倒された以上、奴に護衛はいない。そしてメラックは、《セブンスター》の中でも戦闘能力はない。その分析力が売りのキャラだからだ。

 

「制止! 待て! 話をッ」

「〝鬼祓門〟」

 

 メラックは声を上げ、手を前にして制止の声をあげる。紫色の炎が、怒りを露わにするようにごうごうと燃え上がり、構わず斬り裂いた。

 

「この僕が、フェックよりも先にッ……!? すまない、メス、レス……」

 

 そんな言葉を残し、メラックは紫の炎に包まれ消えた。

 

 その紫の炎がこちらに向かい、受け止めると同時に刀身を鞘に収める。

 

《まずーい! ぺっぺっ、はよう帰ってみたらし団子を食べたいのじゃ》

 

 アクラーツの時もだが、《ヤミノマ》や〝呪負具〟はともかく、人型の異星人相手はムラサメにとってお気に召さないらしい。

 

 まぁ、良いか。

 

 あまりにも不意な遭遇だったが、一人だったのが幸いしたな。これで《セブンスター》は残り四人。リーダーのドン・ドゥーベンと厄介なミザリィーンは残っているが、他二人は武闘派でもない。

 

 悪くない戦果だ。

 これなら、今月中にでも決着がついても……。

 

「あの」

 

 俺はそっと、恵さんを下ろした。恵さんは、慎重に地に足をつけた。

 

「あ、ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」

「構わない。見過ごせなかっただけのことだ」

「それでも、ありがとうございます。……えと、あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「どうして、顔をあわせてくれないのですか?」 

 

 今の俺は無頼だ。

 八雲じゃない。だからぶっきらぼうに振る舞っていたのだが……。

 

 いや、やっぱり無理ぃ!

 

 焔ちゃんや澪とか、凪沙の前ならともかく恵さんの前で格好つけるのは気恥ずかし過ぎる!

 これはあれだ、母親の前だと変に悪ぶる思春期の男の子と同じだ! 前世含めてなったことないけど、多分そう!

 

 俺は必死になって顔を逸らす。

 

《主様は、意外とうぶよな》

 

 やかましいわ!

 

 凪沙の気持ちがわかった、知り合いにコスプレみたいな衣装を見られるとか羞恥にもほどがある! 《天川事変》の時に固まったのも、これが原因か! ごめん、ほんとうにごめん!

 

 今度凪沙に会ったら、何か奢ろう!

 

 と、とにかく早くこの場を離れよう。これ以上はもたない。主に俺の方が。

 

「じきに魔法少女が来る。怪我はしていないだろうが、何かしら異常があれば彼女たちに治してもらってくれ」

「え? あ、あの」

「失礼!」

「あぁっ、せ、せめてお名前を!」

 

 懇願する恵さんを無碍にするのも忍びなく、答える。

 

「俺の名は、無頼。ではな、可憐な奥さん。次は《ヤミノマ》に巻き込まれないように気をつけることだ」

 

 そうして全力疾走でその場を去っていった。

 あ、危なかった。あのままじゃ何かぼろが出てもおかしくなかった。

 

《のう、主様よ。カッコつけたは良いが、この後、きちんと無事な姿をあの者に見せなきゃならぬのだが大丈夫か?》

 

 そうだった!

 

 ひぃ〜! はやく表情を整えなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無頼さん……か」

「うへぇ〜、とうちゃ〜く。って、あれ?」

「お〜ほっほぉ〜! わたくしの華麗なる活躍を……もう終わってますわぁ!?」

 

 到着した魔法少女が騒ぐ中、恵はただ自分の胸元に手を置く。

 とくとく、と心臓が高鳴る。頬が熱くなる。ただ、ぽぉ〜とその名前を反芻し、自らの心に刻み込むのだった。

 

 

 

 

「ただいまぁ〜。今日も疲れたよぉ」

 

 夕方、天照家。

 帰宅途中にまたも《ヤミノマ》と遭遇し、交戦する羽目になった焔はへとへとになりながらも帰ってきた。《セブンスター》もいない、ただ召喚され放置されただけの《ヤミノマ》だった。

 なので苦戦はしなかったが、遅くなってしまった。

 

「すんすん……あれ、なんか焦げくさ、ちょ、ちょっとおかあさん!?」

「ほけぇ〜……」

 

 恵は心ここに在らずといった様子で、おたまを持ったままかき回しもしていなかった。火をつけたままの鍋も、そのままであった。

 

「あ、あら、焔帰ってきたの? おかえりぃ」

「ただいま! それよりも火! 危ないって、焦げてるよ!」

 

 慌てて鍋の火を切る。

 鍋底に焦げた跡はあるが、どうやら具の方は大丈夫そうだ。

 

「もう〜、おかあさんがホワホワしてるのは昔からだけど今日は一段とひどいよ。どうしたの?」

「あ、あらぁ。ちょっと色々あってねぇ。でも、心配しないで。大丈夫よぉ」

「その言葉言って大丈夫だった試しないよ!」

 

 プリプリしながら焔は鞄などをおろしていく。

 その間に恵は、野菜を包丁で切っていく。さっきと違い、きちんとした手つきだ。そしてふと、焔に語りかける。

 

「そうそう、焔。お母さん、今日《ヤミノマ》に襲われちゃったわ」

「へー、そうなん……え?」

「やっぱりこわいわね、《ヤミノマ》って」

「まってまってまって!? 追いつかない! 頭が追いついてないよぉ!? 《ヤミノマ》!? おかあさん、け、けがとかしてないよね!? ね!?」

「大丈夫よぉ。むしろ、今しちゃいそう」

 

 包丁を持った恵に抱きつきながら、ぶんぶんと揺らす焔。一方で恵はのほほんとしている。

 

「すぐに《ヤミノマ》は倒されたから問題はないわよぉ。ほら、いつも通り元気満々なおかあさんでしょう?」

「あ、そうなんだ……。よかったぁ。ねぇねぇ、どんな魔法少女に助けられたの? 今日、《ヤミノマ》が出たなんてあたし聞いてなっ、し、知らなかったんだけど?」

「魔法少女じゃないわよぉ」

「え」

「日本刀を持った男の人だったわぁ。お姫様みたいに抱えられちゃった。私、年甲斐もなく心が高鳴っちゃったわ」

 

 きゃ〜、と顔を赤くしながら語る恵はまるで推しの俳優と会ったかのような乙女のような顔で。父親が、焔が生まれる前に亡くなり、そんな母親の乙女の顔を一度たりとも見たことがない焔にとって衝撃で。

 

 そして、その相手が目下得体の知れない謎の男であることに。

 

「え、……え? えぇ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!?」

 

 焔は声にならない悲鳴をあげたのだった。

 

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