ブサイク得点王だった俺、最強スペックでサッカー人生やり直し〜今度こそ美女も世界一もすべてを奪い取る〜 作:クズ吉
「俺のこと覚えてる?」
新潟の20番釜山選手が試合前に話しかけてくる。
彼もブロッサム大阪の宮原選手同様に4月の日本代表候補合宿で出会った。
たった数日しか一緒にいなかったので、そこまで話してないが。
「もちろん覚えてますよ、釜山さん」
「そうか。理由は言えないんだが俺は君には負けられないんだ。前回は負けたけど、今日は勝たせてもらう」
釜山選手が俺に対抗意識を持つ理由。前世の知識からすると…
「名古屋アハトからオファーでもありました?」
「!!なんで分かったんだ?」
「いや、釜山さんとの接点なんて移籍絡みの話くらいしかないかなって」
「それもそうか。確かにこの夏名古屋からオファーを貰った。君とケリーの控えが欲しかったらしい」
釜山選手は今世でも名古屋アハトからオファーを貰っていたのか。
「そんな直接的に控えって言われたんですか?」
「いや、FWのレギュラー2人が名古屋にはいますよね?と聞いたら誤魔化されたんだよ。給与の条件は良かったんだけど…」
「それで、なんで俺に負けられないと思ったんです?」
「んー。本人に直接言うのもなんだけど、名古屋に君の控え扱いされたのがムカついたってのが一番かな。だから今日は名古屋に勝って憂さ晴らしがしたい」
ずいぶんと正直に胸の内を明かしてくれるものだ。だが、彼の気持ちはよくわかる。
俺も控え選手になる事が前提のオファーを他のチームから受けたらムカつくだろう。
それに釜山選手は本来なら名古屋アハトのレギュラーになる選手だったはず。
俺が彼の運命を変えてしまった。
でもなんだろう。不思議と罪悪感はない。
それはサッカーという弱肉強食の競技をやってきて散々繰り返してきたことだからだ。
俺が名古屋アハトのアカデミーに入る時も、【クラウチ大雅】がいなければアカデミーに入れた選手が他にいただろう。
そして2014W杯では横浜MSの妻神選手を押しのけて俺がメンバー入りした。
名古屋アハトのスタメン争いだってそうだ。
俺がスタメンで出ることで誰かがベンチ行き、あるいはベンチ外に追いやられることもある。
俺はそうやって沢山の人を蹴落として今ここに立っているのだ。
だから今更他人の運命を変えてしまったことで、自己否定することはない。
けれど蹴落とした人たちに対して、時々俺が人生2度目だということに負い目を感じる事はある。
同じ時間を過ごしていないのだから、彼らと同じ土俵で戦っているとは言えない。
もし俺が前世の記憶を持っていると公表したら、全世界から石でも投げられるかもしれない。
ただ俺がもう1度サッカー選手を志したのはそれでも、反則でもいいから、この世界で頂点に立ちたいと願ったからだ。
俺は誰にどれだけ恨まれようと世界一のサッカー選手になる。
この世界がフェアじゃないことを俺が証明してやる。
だからまずは…
「釜山さん悪いですけど、俺達日本一のチームになるんで、負けられないです」
「言うね〜。いいよ、俺達だって今は12位だけど、ここから全勝して優勝するかもしれないし。名古屋に勝ってその足がかりにさせてもらうわ」
足がかり。俺が世界一のサッカー選手になるにあたってNリーグ優勝はその足がかりに過ぎない。
それでも、だからこそ、この一戦は絶対に負けられないのだ。
もう言葉はいらなかった。俺は釜山選手に頷き、彼と別れる。
今日の天候は晴れ。名古屋瑞穂アスレチックパークでは沢山の観客が今か今かとキックオフの時間を待っている。
少し秋の風が吹いて笛の音を遠くまで運んだ。