やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「山内、お前が犯人だったのかよ」
鞄の中から軽井沢のパンツが出てきた。
これだけならまだ俺と平田だけの間で終わったことだ。
それなのに寛治のやつが目ざとく見つけて、大声で指摘してきた。
くっそー、なんてことをしやがるコイツ。
「はああああ!? 俺じゃねえし」
「ならなんでお前の鞄から出てきたんだよ」
「最悪だな、お前」
寛治の俺批判に、健まで乗っかりやがった。
くっそー、好感度が足りなかったのか。過去の親友を売るんじゃねえよ。
寛治よりも声がデカい健の参戦は致命的だ。
平田が止める間もなく、周囲にクラスメイトが集まってきやがった。
ひっくり返した俺の鞄。山になった荷物の頂に君臨するパンツ。
「山内、最低」
女子の急先鋒の篠原が詰め寄ってくる。
ちょっと鞄から下着が出てきたからって決めつけるなよ。
もしかしたら俺の下着かもしれないじゃないか。
ほら、俺ってかわいい下着好きだしさ。
とか言ったら状況が余計に悪化しそうだ。
どうする、どうやって切り抜ければいいんだ。
「ち、違う、俺じゃねえし」
「はあ? どう見てもあんたの荷物から出て切るでしょ」
「知らなかったんだって、俺がいれたんじゃねえよ」
「あんたの鞄でしょうが」
「そうだけど、そうじゃねえっつーか。俺が盗んだって証拠があるのかよ」
「これが証拠以外の何っていうのよ」
くっそー、俺じゃねえのに俺じゃないっていう証明が出来ねえ。
「みんな落ち着いて。山内くんが犯人だと決まったわけじゃないよ」
平田ぁ。お前は神か? 神なのか?
うぜえ、さわやか野郎とか思ってたの謝りたい気分だぜ。
「平田くん。でも下着は山内の鞄から出てきたんでしょ」
「……それはそうだけど」
よええよ、平田。もうちょっと頑張れよ。
実はお前も俺が犯人だと思ってるんじゃねえだろうな。
やっぱ謝るのなしだわ。むしろお前が俺に謝れ。
「山内、鞄は外に置いていたのか?」
「そうだぜ。つーか、みんなそうだろ。テントの中入れてたら邪魔になるし」
「いつの間にか入っていたと」
「俺は本当に知らねえんだって」
綾小路がなんか言い出したけど、何の意味があるんだよ。
お前もやっぱり疑ってんのか。
違うっつーの。
「外に置いてあった鞄に入れるのは、山内じゃなくてもできるかもしれない」
「綾小路……」
信じてたぜ綾小路。
お前こそが俺の救世主だ。
「わざわざ山内の鞄に入れる理由はないと思うが」
あやのこうじぃいいいいい。
お前、やっぱり救世主じゃねえわ。
俺に止めを刺しに行ってねえか?
「ほら、たまたまじゃね?」
「たまたま」
「犯人は、池の鞄に入れようとしたけど間違えたとか」
「なんで池なのよ」
「怪しい」
しまった。墓穴を掘ったかもしれない。
だって毎回パンツが入ってるのは寛治の鞄だし、間違えたに違いねえんだよ。
ほら、真犯人の伊吹ちゃんも俺の鞄から出てきて焦って──ねえな。
なんでだよ。私、関係ないって顔してるけど、お前が間違えたせいだろうが。
「と、となりだったんだ、鞄。だからさ」
「池の理由になってないし」
「犯人は池だったって言いたいわけ?」
「はあ? 俺に罪をなすりつけるのかよ」
「山内、それはねえわ。言い逃れしたいからって、適当なこというなよ」
寛治と健からの好感度がさらに下がってしまった。
仕方ねえじゃんか、だって本当に寛治の鞄から出てくるパンツなんだから。
駄目だ。俺が何か言えば言うほど、俺が犯人になってる気がする。
なんでだよ。
俺がなにをしたっていうんだ。
諦めかけたその時だった。
「山内は、犯人じゃないと思う」
俺を囲む輪の外側からそんな声が聞こえた。
人垣が割れて、声の主があらわになる。
「東さん。じゃあ、誰が犯人だっていうのよ」
「私が知るわけないでしょ」
「は?」
「夜中に鞄の中に入れられたら誰だって気づかない。違う?」
「それは……でも、出てきたのは事実でしょ」
「明日、篠原さんの鞄から誰かの下着が出てきたら犯人じゃないって証明できる?」
「はーー? 私が盗むわけないでしょ」
「山内も同じこと言ってる」
「一緒にしないでよ。山内なら盗む可能性が高いし」
ひでえ話だ。俺ってそんなに信用ねえのかな。
「山内はそんなことしない」
「は? 男子ってそういうもんでしょ」
「つまり男子なら誰でも犯人になりうるって認めるわけ?」
おおお。東が押し気味だ。
そうだよな。篠原って気に食わない男子にズカズカ言う系だし、別に俺じゃなくて寛治の鞄から出てきたから寛治を犯人だと思っただろうし、綾小路の鞄から出てきてもそうだっただろうな。
こういうやつが一番厄介なんだよなぁ。
寛治の好きな相手にこんなこと言いたくねえけど、篠原って性格ドブスだ。
自分が優位の立場に立ったら、それを利用してえげつねえことやりだしそう。『土下座しろ』とか言い出すタイプ。で、結局相手が土下座しても、許さないまでがセットっつーかさ。
「それとこれとは話が別でしょ、軽井沢さん泣いてるのはいいの?」
「泣いてるとか、それこそ別の話でしょ。山内は犯人じゃない」
「なにそれ、なんでそんなこと言えるのよ」
東が戦ってくれている。
あんまり目立つタイプじゃないのに。
今もこうやって注目を浴びてるのは不本意なんだろう。ちょっと足が震えてね?
俺は応援するしかできねえし、頑張れ東。勝って俺の無実を証明してくれ。
「山内がそんな奴じゃないって知ってるから」
「はあ? 今の意味分かった人?」
個人では不利と見たのか、篠原が周囲に呼びかけた。
頼む、みんな頷いてくれ、という俺の願いは虚しく首は左右に振られてばかりだ。
「みんなに伝わるように言ってくれない?」
「もしかして、東さんって山内のことが好きなんじゃない?」
「あーー、だからこうやって庇ってるんだ」
おい、なんで急に矛先が東に向かってるんだよ。
俺をかばってくれただけじゃねえか。
「めんどくさい。そういうのは小学校で卒業してよ」
「は? 図星をつかれたからってバカにしてるわけ?」
「茶番がめんどくさいって言ってるの、これで通じないのならバカにされても仕方ないでしょ」
「何よ?」
「ああ、本当にバカだったんだ」
「ストップーーーー、俺のために争うのはやめてええええええええ」
今にもつかみかかりそうな勢いになったから、俺は大慌てで間に割って入った。
「ああああ、もういいよ。俺が犯人だと思うなら好きにしろよ」
「ふざけないでよ、そんなんで許されると思ってるの」
「だからもう争うのはやめろ、東は悪くねえだろ」
「へー、東さんのことをかばうんだ」
「2人でかばい合うって付き合ってるとか?」
ああ、もう本当にめんどくせえ。
もういいや、さっさと終わらせてやる。
「俺が東に告白してフラれただけ、付き合ってねえから誤解すんな。俺が惚れてるのは東だから軽井沢の下着とか興味ねえから取らねえよ、バーカ。でも、お前らが俺が犯人だと思うのなら勝手にしろ」
葛城さん、すみません。葛城さんの教えを破ります。
もうDクラスのレベルが低すぎて無理だ。
我慢できねえよ。
これで東のことを庇えたらいいけど、どうなんだろう。
あーあ、これで停学、下手したら退学かもなぁ。
この場にはいられなくなって、俺はこの場を離れていった。
「……高円寺を見習ってリタイアするか?」
でも、そうなったらマイナスだしなぁ。
◇◇◇
色々考えて、結局点呼ギリギリになって戻ったが、すっかり女子からはクラスの腫物扱いだ。
あーあ、なんでこうなっちまったんだろうな。
俺は別にいいけどさ、東まで浮いてるのが見ててキツイって。
東は俺を守ってくれようとしただけなのにさ。
堀北を泥だらけにするとかしないとか、それどころではなく。
無人島試験は、Dクラスの敗北で終わった。