やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「いいニュースと悪いニュースがあるどっちから聞きたい?」
誰も伝える相手がいないから、鏡に向かって言ってみた。
どうよ? かっこよくね?
でもさ、言ってみたかった台詞だけど、正直自分がその状況に追い込まれたらそれどころじゃねえっつーの。
はい、つーわけで優待者試験が始まったんだが。
優待者に選ばれませんでした!!!
これで何回目だよ。
どうなってんだよ、もう公平じゃねえだろ、これ。
俺、今回も結構徳積んだはずなんだけどなぁ。
あ、これは別に悪いニュースじゃねえぞ。もう当たり前に選ばれなかったら悪いニュースだとも思わなかったっつーか。それはそれで悲しいけど。
良いニュースは、無人島試験でDクラスが結果を出せなかったことで、犯人は伊吹ちゃんじゃね?
ってので俺の下着泥の疑いが低くなったこと。
そういや前に下着泥扱いされた時もそんなことがあった気がする。
で、悪いニュースが優待者試験で鳥グループ所属なんだが。
Dクラスが俺と東咲菜と篠原さつきっていう今一番一緒にしたくない組み合わせってどういうことだよ。
これも前にあったことだけどさ、今回は違うメンバーにして欲しかったぜ。
ルール説明の時とか空気が重すぎてマジでないわ。
東からしたらウザ絡みしてきた相手だし、篠原からしても小学生ってバカにされた因縁の相手。
2人の間に会話があるはずもねえし。
俺も心情的には、東寄りだ。だって篠原はパンツ泥棒扱いしてきたんだぜ。当たり前じゃん。
けどよ、このままだと問題あるよな。
どうにかしようと俺なりに話しかけてみたんだ。
「篠原は優待者が有利だと思わね?」
「話しかけてこないで」
終了。
俺の気遣いとか無駄に終わった。
仕方ないから篠原は諦める。
「東はどう思う?」
「篠原さんに聞けば?」
くっそー、東までこんな感じかよ。
さっき篠原に聞いて遮断されたの見てただろうが。
ってので、大した収穫もなく説明会は終わったと。
おまけに翌日は、優待者に選ばれませんでしたメールで踏んだり蹴ったりよ。
泣きっ面にハチってやつ?
まあいい。ここからどうにか逆転しないと。
うっし、いっちょ俺が優待者の推理をしてやるか。
出来たためしねえけどさ。
◇◇◇
「東、少し時間良いか?」
「何?」
3日目の話し合い終了後、ようやく東を捕まえることが出来た。
篠原がさっさと部屋を出て行ってくれたおかげだ。
Dクラスの微妙な空気は隠しきれるはずもなく、鳥グループは各自が1時間好きに過ごすという優待者探しどころじゃない状況に陥っている。
元々Aクラスは、話し合いに不参加。
Dクラスも話し合いどころじゃねえ。
そうなると残ったBクラスとCクラスがなにをやったところでって感じで、何のために集まってんだか誰か教えて欲しい。
他クラスの生徒も部屋を出ていったので、勝手に試験会場を占拠させてもらおう。
「あの時は、ありがとな。味方が一人でもいて助かったぜ」
「今更?」
「今更でも礼は必要だろ」
お礼って大事なんだぜ。
葛城さんも感謝の心を忘れるなってよく言ってたし。
東には感謝しても感謝しきれないまである。
「別に、おかしいことはおかしいって言っただけだし」
「それに助けられたんだって」
誰も味方がいなかったら、俺も諦めてたかもしんねー。
東のおかげでかろうじて致命傷で済んだ。
致命傷だったけどさ。下着泥の汚名は重いって。
篠原みてえに頑なになってるやつもいるけど、日が経つにつれてDクラス生徒に話しかけられることも増えてきた。
中には下着泥扱いしたことを謝ってきてくれた人もいる。
寛治とか健とかな。
あいつらって別に悪いやつじゃねえんだよなぁ。ただ思考が浅いだけでさ。
これがきっかけで一緒に飯を食いに行ったりもした。ループをはじめてからいつになく二人と仲良くやれてるんだから、何がきっかけになるのか分っかんねーなぁ。
「なあ、どうして信じてくれたんだ?」
分かんねえついでに、東に聞いてみた。
「山内が言ったんでしょ」
「下着どろじゃねえって言ったのを信じてくれたのか?」
「……あんたってラインハルト山内なんでしょ。ラインハルトは下着泥なんかしない、違う?」
「そっかー、そうだよなぁ。ラインハルトって絶対に卑怯なことはしないもんなー、正々堂々戦う王者の風格っていうかさ」
そんなやりとりしてたっけ。
そっかー、東は俺をラインハルトだと認めてくれてたんだ。
だったら納得だ。下着泥棒をするラインハルトとか想像できねえもんな。
「え? 焦土作戦は?」
「あ、あれはやむを得なかったっていうか」
なんだよ。敵を引き込んで補給を困難にするのは常道だろ。
正々堂々の王者の戦いの範囲だぞ、たぶん。
「ヴェスターラン──」
「──それ以上言ったら戦争だからな」
絶対に触れてはいけないところを触れやがったな、コイツ。
やっぱ同盟派はダメだ。敵認定しないと。
あれはあれよ。
あれであれであれだっただけであれなんだよなぁ。
分かってくれとは言わないけどあれなんだ。
「私も聞きたいことあるんだけど」
「何でも聞けよ」
こっちから質問しておいて、東からの質問は拒否とか出来るわけねえし。
「山内ってさ、私のこと好きなの?」
「はぁあああああ!?」
思わず声がひっくり返っちまった。
俺が東のことを好き!?
なんでそんな話が出てくるんだ。
「そんな大声出さなくても聞こえてるって、私に告ってフラれたんでしょ」
「あれはあれだっただけであれなんだよなぁ」
「説明になってないし」
「うるせえ」
その場の流れっつーか、ノリっつーか。
東が責められてたから矛先を変えるためには、ああするしかなかったじゃん。
そこは触れないお約束だろうが。
って東の顔、よく見たらニヤニヤしてやがる。
コイツ分かってて質問しやがったな。
そっちがその気なら、こっちだって考えがある。
「好きに決まってるじゃん。なんだかんだ話し合うし、俺のこと助けてくれたし」
「は?」
「東と付き合えたら最高だって」
どうよ。俺の逆切れ告白。
これで焦るのは俺のターンから東のターンに切り替わったはず。
どうだ、東の動揺した顔は。
ってあれ? 顔が赤くなってない?
ちょっとカワイイ。
どういうリアクションだよ、もうちょっと怒ったりしないと。
「じゃあ付き合う?」
「当然だろ」
「分かった。そういうことで」
あれ?
今、何が起きた。
「山内」
「なんだよ」
「明日部屋の前で、バラの花束持って立ってるとかやめてよね」
「あれが可愛いところだろうが」
ダメだ。やっぱり同盟派は敵だ。
こうして俺に敵の彼女が出来た。
どうしてこうなった!?
◇◇◇
「つーわけで、彼女が出来たんだ」
「はあ? なんだよ裏切りかよ山内」
「下着泥から彼女作るってどんだけだ」
「だから盗んでねえっつーの」
早速、寛治と健に報告したぜ。
「いやー、せっかくお前らと仲良くできたのにさ、彼女で忙しくなるかもなぁ」
「調子に乗ってんなぁ。健殴っていいぞ」
「そうか。よし、歯を食いしばれ」
「なんでだよ。暴力反対。それで1学期大変なことになったんだろ」
「忘れろ」
「ぐふ……」
健から暴力を振るわれるとかいつ以来だろう。
この痛みも懐かしいぜ。思い出したくなんか無かったけど。
「で、自慢しにきたのか?」
「ちげえし。彼女出来たら何やったらいいんだ?」
自慢しに来たってのが本音だけど、相談もある。
彼女が出来て嬉しいよりもさ、困惑の方が優ってる感じだ。
急に降ってわいたかのような彼女だからな。どうしたらいいのかさっぱり分かんねえ。
「そりゃお前アレだろ」
「デートとか?」
「東とデートって想像できねえんだよなぁ」
相談する相手を間違ったか。
モテなさそうな健や寛治だとなぁ。
やっぱこういうのは平田か。
葛城さんに教わりたいけど、別クラスだしなぁ。
「抜け駆け野郎とかどうでもいいし」
「ひでえ」
「俺は応援すっから、お前も俺と鈴音が上手くいくように応援しろよ」
「堀北かぁ」
あいつ場合によっては、殺人鬼だぞ。
健みたいなゴリラにはお似合いといえばお似合いか。
「なんだよ、何か言いたいのかよ」
「いや、堀北と付き合ったら何かやりたいとかあるのか?」
「そりゃ、やりてえに決まってるだろうが」
「だよなぁ。やりてえに決まってる」
「決まってるのか」
二人の圧がすごい。
これが余裕のない彼女持ちじゃない男子二人ってやつか。
あーあ、これだからもてない男ってやつはさ。
ほら、俺はゆとりのある男だし、こいつらとは違うっつーの。
のんびりやっていけばいいか。
とりあえず、豪華客船が使えるうちに1回飯食いに行くくらい頑張りたい。
明日の話し合い終わったら誘ってみよっと。