棺桶戦記 〜こんなのコズミック・イラじゃない!〜   作:王子の犬

3 / 3
見上げれば、神々の戦い

 

 

 

「おーい、班長! 早く片付けてくれよ!

 次のパトロールが来ちまう!」

「やかましい!

 こびりついた肉と油がそう簡単に落ちるかッ!」

 

 北アフリカ戦線、地球連合軍前線基地の野戦ドック。

 砂塵と血の匂いが充満する中、特務曹長の老整備班長は高圧洗浄機のホースを握りしめながら悪態をついた。

 彼が洗い流しているのは、先ほど回収されてきたダガーヘッドのコックピットだ。

 乗っていた補充兵――つい数時間前まで「俺は主人公だ」などと意味不明な譫言(うわごと)を叫んでいた青年――の身体は、今はただの赤い染みと化している。

 運良く『M1アストレイ互換の超高性能モニター』だけが無傷だった。

 

「おい、そこ! 中の配線は切るなよ!

 座席と駆動系だけ繋ぎ直して予備機に回すんだ!」

 

 共食い整備は日常茶飯事だ。

 死体を洗い流し、別の機体から生きたパーツを引っこ抜く。

 明日には、見ず知らずの若者を、この「歩けない棺桶(ダガーヘッド)」に詰め込む。

 狂気と罪悪感に押しつぶされそうになるたびに、老整備兵はわざと声を荒げて自分を誤魔化すしかなかった。

 

「班長。ちょっと……上を見てくださいよ!」

 

 新しく補充されてきたばかりの二等兵——トビー・セルウッドが、ぶかぶかのヘルメットを小脇に抱えながら、夜空を指差した。

 

「んあ……?」

 

 老整備班長が手を止め、汗と油にまみれた顔を上げる。

 澄み切った夜空に、幾筋もの激しい「流れ星」が瞬いていた。

 流星群などではなく、低軌道上で艦隊同士が命を削りながら殴り合う光であった。

 

「第八艦隊の軌道降下作戦……か」

 

 傍らの無線機からノイズ混じりの通信が、上空の状況を断片的に伝えている。

 どうやら『アークエンジェル』と随伴する工作艦が、ザフトの追撃を振り切って地球へ降下しようとしているらしい。

 

「すげえ……。

 あれが、僕らの軍の本当の最新鋭機なんですよね!

 指揮官のアストレイより強くて、ザフトのモビルスーツとも互角に戦えるっていう!」

 

 トビーは無垢な瞳を輝かせ、夜空で閃く光に感嘆の声を漏らしていた。

 

「さっき聞いた噂じゃ、乗ってるのはコーディネーターの子なんですよね!?

 工作艦から直接エネルギーをもらって、ビームランチャーをぶっ放すんだとか……!

 彼らが地上に降りてくれば、この戦争も一気にひっくり返りますよね!」

 

 神の如き力を持つ『CFR-X』と、それを操る少年少女たちのヒロイズムは、血湧き肉躍るドラマに違いない……。

 トビーのような新兵にとって、夜空の閃光は文字通り「希望の星」だった。

 

「さあな。……俺たちには縁のない話だ」

 

 だが、老整備班長はホースのバルブをひねり、ドック内の現実へと視線を戻した。

 

「あの上にどんな神様や天才が乗っていようが、明日の朝、お前が乗る機体はあの中の奴だ。

 コンマ5秒の応答遅延(ラグ)があって、重心移動の演算もろくにできない、ローラー付きの鉄屑だ」

 

 容赦ない宣告に、トビーの顔が微かに引き攣り、笑顔が曇った。

 

「ああ、そうだ。

 お前の着任祝いに、あの機体にいいプログラムを一つ組んでおいてやったぞ」

「えっ、大尉のUIのアップデートですか!?」

「いいや……」

 

 老整備兵は、コックピットの奥を親指で差した。

 

「『遺書自動送信マクロ』だ。

 敵のバクゥにロックオンされ、回避不能とシステムが判断した瞬間に、事前に入力しておいた遺書が、司令部経由で実家へ自動送信される」

 

 絶句するトビー。

 老整備班長は汚れたツナギの裾で額の汗を拭い、もう一度だけ夜空の光を見た。

 (そら)で、英雄たちがどれほど美しく世界を救おうとも、泥濘の底にいる自分たちを助けには来ない。

 地上(した)にあるのは、規格違いの配線を無理やり繋ぎ合わせ、無垢な若者を騙して「弾薬消費の函数」としてすりつぶす、最低な消耗戦だけだ。

 

「おい、二等兵! 星空のロマンに浸るのは終わりだ。

 パクリUIの液晶をすぐ磨け!

 大尉に見咎められたらどやされるぞ!」

「は、はいっ!」

 

 低軌道上でアークエンジェルが閃光を放ったその瞬間、鈍色の棺桶がローラーを唸らせながら荒野へと押し出されていった。

 

 

 




本話の投稿準備中に第1話内の時系列記述の間違いに気づいて修正しました。
低軌道会戦は2月でしたね……。

次回はアークエンジェルが降下したあとの現場の話です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ようこそ鑑定者のいる教室へ(作者:アキラ2002)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

ある日高度教育育成学校に登校してた俺に鑑定能力が目覚めた。原因は思い出せない。その能力を駆使して青春を謳歌する話


総合評価:245/評価:6.27/連載:3話/更新日時:2026年05月28日(木) 20:54 小説情報

トンカツがまた食べたい。そんな人生だった(作者:ロースカツおいしい)(原作:Muv-Luv)

トンカツを食べる事に幸福を感じそれが生きがいのヒトががんばるおはなし▼主人公はメカオタクとしてマブラブ本編は履修してますが、キャラに興味を持っていないのでマブラブ本編の登場人物の出番は、ほぼなく淡々と話を進む予定です。▼このお話を書いてる私はマブラブ、マブラブオルタネィティブ、トータルイクリプスの18禁版を履修してますが遊んだのはだいぶ前で忘れてる事多いので…


総合評価:567/評価:7.03/完結:41話/更新日時:2026年03月25日(水) 18:19 小説情報

よう実でおにぎり売ってみた(作者:ちあさ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

よう実に転生したから、とりあえずおにぎり売ってみた。


総合評価:3643/評価:8.1/短編:6話/更新日時:2026年05月22日(金) 21:01 小説情報

自己加速しすぎてスタープラチナ・ザ・ワールド(作者:常谷 優大)(原作:魔法科高校の劣等生)

‐自己加速術式‐▼術者自身の運動速度を向上させ、移動速度や白兵戦の攻撃速度を爆発的に高める魔法である。▼魔法師の中では初歩的な魔法...▼のはずだった。▼西暦2095年、国立魔法大学付属第一校--通称"第一高校"に入学した一人の少年、▼「比企谷八幡」▼彼の使う自己加速魔法は、世界の理さえ覆す。▼「魔法科高校×やはり俺の青春ラブコメは間違っ…


総合評価:976/評価:6.72/連載:3話/更新日時:2026年05月27日(水) 21:31 小説情報

ゼーリエ「やれ」(作者:目玉焼きは胡椒)(原作:葬送のフリーレン)

オリ主「はい…」▼大体こんな感じの話


総合評価:1638/評価:8.15/連載:7話/更新日時:2026年03月11日(水) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>