魔法科高校の【ペルソナ使い】   作:日λ........

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西暦2090年。本来なら近年珍しいことに何も特記することは無かったこの年であるが一人のペルソナ使いの足掻きが、ある変化をもたらした。夢の中の世界の出来事であったそれは、蝶の羽ばたきのように間接的に、現実にも影響を与えていたのだ。

 

その日、とある病院の個室に面会者が一人訪れていた。目立たないように普段の赤を基調にした服装では無く、黒と白を基調にしたスーツを着たその女性は本来ならこの場に居ないはずの存在であった。

 

四葉真夜。日本の魔法師の頂点たる十師族たる四葉家の現当主。十師族としての役割は東海および岐阜・長野方面の監視、及び守護である。

 

が、それに加えて四葉家は極秘裏に国家への反逆行為を働いた魔法師の暗殺、洗脳、粛清行為を国家から依頼される事実上の【国家公認の秘密警察】としての役割を担っている。その為その頂点に立ち統制を行う真夜は本来、多忙の身である事や防犯の観点から四葉本邸に人を向かわせることはあっても、自ら出向いて誰かに会いに行くことなど、魔法協会で行われる師族会談などの行事でもない限りめったに無い。

 

だが、予定を調整してでも出向く理由がその日の真夜にはあった。何故ならこれは、たった一人の同じ血を分けた姉への謝罪の為の行動であったからだ。

 

 

「まずは、今までの事を謝らせてほしいの。……ごめんなさい、姉さん」

「……えっ、な、なんで……なんで貴女が謝るの、真夜……!?」

 

病室のベットに腰掛けて、真夜と対面している真夜と瓜ふたつの女性__司波深夜はその言葉に戸惑った。何故ならば、彼女は真夜にあの日からずっと恨まれていると、本来なら合わせる顔も無いとずっと後悔して生きてきたからだ。本来は仲の良い姉妹であったこの二人の仲を引き裂いた、思い出したくもない忌まわしきあの事件からずっとだ。

 

誘拐され、父が取り戻した後の真夜はまともな手段では手の打ちようがないほどに人として壊れてしまっていた。深く傷ついたのは肉体もだがそれ以上に、悲惨な経験を受けた彼女は精神から生きる意志が完全に無くなってしまっていたのだ。そのままでは一月と保たないだろうと、医者から宣告されてしまう程に。

 

それ故に、苦肉の策として父は深夜に真夜に対して魔法を使うように指示した。彼女の持つ『精神構造干渉魔法』は世界でも他に例のない特殊な物であり、人の精神を作り変える事で記憶への干渉を行う事が可能な魔法だった。

 

だが、当時13歳の魔法師として未熟な腕前であった深夜では誘拐された数日感の記憶を曖昧化させるなどということは出来ず、真夜がそれまで生きた全ての記憶を『記録』に変える事しか出来なかった。

 

人の脳に保存される情報は大まかに分けて二つに分類される。感情や経験などの心の中の印象を司る記憶と客観的な情報を取り扱う記録。記憶とは、行ってしまえばその人間が今まで生きてきたという実感そのものである。それが全て客観的な情報である記録に置き換わってしまった場合、記憶の連続性が絶たれてしまう。

 

分かりやすく言い換えれば、深夜はこの時こう父親に強要されたのだ。『四葉真夜を生かす為に、深夜の妹であった真夜を殺せ』と。当然深夜は拒否感を覚えた。だが、どんどん弱っていく真夜を目のあたりにして時間などないのだと悟り、深夜は真夜に対して記憶の記録化を行った。その日から、深夜は深い罪悪感を抱えて生きていかねばならなくなったのだ。

 

 

「私、昔貴方に言ったわよね。『昨日までの私は姉さんに殺された』って。でもね、少し違かったみたい」

「何が違かったの?私は確かにあの日、あなたの記憶を記録に変えた。だからそう言われても相違無いはずよ」

「……初めの内はね、なんとも思わないと思ってたの。過去の記録に残る自分を見ても、ただ可哀想だとしか……でもね、四葉の復讐戦が終わって、親族の為に喪に服す事が終わった頃……一旦落ち着いた頃に……私はあの日の夜のことを夢で見るようになった」

「っ!?そ、そんな……」

 

人の記憶は、脳のみに残るものではないとされている。全身の細胞や組織にも独自の記憶能力を持つという説だ。それをあの日から死に物狂いになって精神干渉魔法の研鑽を収めた今の深夜ならばともかく、13歳の少女だった頃の深夜にはそれら全てを完全に記録に書き換えてしまうには荷が重すぎた。脳の記憶を記録に変えても、肉体全体にその日の記憶を深く刻まれてしまっていた為に起きた悲劇である。

 

それは、【トラウマ】とも言うべき傷跡であった。

 

 

「あの日からもう20年以上立つのに、つい最近までたまにあの日が夢に出る日があってね……逃げようとしても、その時に限って私はあの日の無力な少女の頃の自分に戻ってしまう。泣き叫んで、ただ耐えるしか無い……そんな夢をずっと、たまに見てしまっていた。私はこの世を呪うしかなかったわ……姉さんの子供に対して、あんな願いをしてしまうほどに」

「……なら、余計になんで私に謝ろうとするのよ!?私を恨めばいいじゃない!!目的すら果たせてなかったのに、それまでの貴女を殺した私を……」

 

殺しても良かったのにと、そう言いそうになった深夜は言葉を詰まらせた。言葉を荒げた深夜に対して、真夜がその肩を持って優しく抱きしめたからだ。

 

「……違うの。姉さんは私を殺して無かったのよ……!!聞いて。私、最近なんの拍子か分からないけれど……あの日の悪夢を見ないようになったの。その代わりに……断片的にだけども、あの日より前の記憶を……思い出せるようになってきたの」

「……本当に?」

「本当よ。あの日のことも思い出してしまって少し辛かったけど……それ以上に、大切な事を沢山思い出せたの」

 

「そうね、姉さんと私で自分たちの服を入れ替えて、成り代わって遊んでた事があったわね。あの日は使用人達や父様や母様の反応がとても楽しくて……弘一さんにもドッキリを仕掛けようとしたけど、彼ったら一瞬で見破ってしまって……つまらないとも思ったけど、私の事をすぐ見抜けた彼の事を、愛おしいとも思っていたわ……今思うと、私姉さんだけじゃなくて、彼にも酷いことをしてしまったわね……実感が無くなって、冷たくあしらってしまったから」

 

 

シャドウとは、自分自身が認めたくない、社会的に受け入れられないと感じて無意識に抑圧した自分の側面である。阿頼耶が夢の中で倒した真夜の【トラウマ】であるそれは、彼女自身が心に封じたトラウマであると同時に、彼女が失った筈の12歳までの四葉真夜の記憶へと繋がる鍵でもあった。

 

深夜は妹である真夜をあの日殺していなかった。ただ傷があまりにも深過ぎたせいで、心の奥底に封じ込めてしまったのだと。抱き締められた深夜は、真夜から聞かされた昔の思い出を聞いて、それが嘘ではなく真実であると確信して感情が抑えきれなくなり、嗚咽を上げて泣いた。

 

「……私ね、あの日から言いたかったけど言えなかったことがあるの……ずっと、あの日からこう言いたかったの……おかえりなさい、真夜……!!」

「……ずっと帰れなくてごめんなさい。ただいま、姉さん……」

 

長い長い時間を経て、二人は姉妹としての絆を取り戻す事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分自身の過去と向き合う、強い心が「力」へと変わる……!!

 

 

 

貴方がそれを望むのであれば、私は貴方の困難に立ち向かう為の心の鎧となりましょう……

 

その時が来たときは、私の名前を呼びなさい。私の名前は__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?あら……?姉さん、何か言った?」

「何も言ってないわよ?どうしたの急に」

 

落ち着いた深夜に、見舞いの品を振る舞おうとフルーツの盛り合わせからりんごを取り出して、病室に備え付けてあったフルーツ包丁とまな板でうさぎの形に切っていた真夜は、急に聞こえた空耳のような何かの声に疑問を抱きながら、2匹目のりんごのうさぎを完成させて皿に置いた。

 

双子の姉妹のように瓜ふたつなそのりんごのうさぎを見て、深夜は安心したのか久方ぶりに穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

病室の扉の前で、護衛に立つ葉山は漏れて聞こえてくる二人の話し声に、思わず流れ出した涙をハンカチで拭った。その様子に彼の部下は若干狼狽えつつも、この場の絶対の安全を確保する為にアリすら見過ごさぬ覚悟で護衛に当たったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの親世代の長い因縁の一つが和解という形で終わりを告げていた頃、椎葉阿頼耶と司波達也の行く道は、一つの事件の元に交差しようとしつつあった。

 

 

__司波深雪の失踪という、四葉全体を揺るがしかねない事件の元に。

 

 

 

 

 

「雪の女王。あの方の対となる悪神。避けられぬ死の化身。ヨモツへグイの国産みの神。そして、愛おしきマイトリックスターによって倒された統制神……」

 

かつてこの部屋に客人として訪れるペルソナ使いが現れる時、必ずと言ってもいい程に元凶となる超常的な存在と対峙してきた。ラヴェンツァは前任者達が残した記録を読む。今回、彼らが抗わなければならない相手を観測するために。

 

「魔法という【幻想】が【現実】にされた世界。かつては陰謀論とされてきた出来事が、現実に起こり得る現代……ああいったものが付け入る隙は、いくらでもあるのが現状ですので断定は出来ませんね。ただ、前回のような醜態を晒さぬよう、準備と警戒は必要でしょう。我が主」

「そうですね。ただ、流石に少々ここは居を構えるには狭すぎるのではありませんかね?」

「仕方ありません。防犯の為です。小さな分かつてのように侵入される入り口も少ないですから」

「……ベルベットルームがジャズが流れるバーであった頃が、懐かしく思えてきますね……」

 

猫の額のように狭い、舞台裏に設置された現在のベルベットルームを見通して、イゴールは思わずため息をついた。

 

 

 

 

 

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