直死の魔眼持ちとなんか英霊になってる奴のブルーアーカイブ 作:夜月詠
「まさか、あの二人が突破されるなんて。……戦力差は歴然、指揮能力も、そう変わらない」
薄暗いモニタールーム。エリドゥ中央タワーの一角で、セミナーの制服に身を包んだ少女は、そう呟く。
「いえ、これは、運の良さ? ……偶然、攻撃が先生たちを避け、偶然、流れ弾が彼らを妨害している……」
モニターに映っている映像は、先程まで繰り広げられていたエリドゥ防衛チームと、先生一行の戦闘風景だ。
調月リオはエリドゥ各所に仕込まれた監視カメラで撮影したその映像に目を通して、彼我の戦況分析をしていたのだが、ふと、そう云う、奇跡じみた運の良さによって先生一行が防衛戦を突破するのを確認したのだ。
「不発だった手榴弾やスモークが、流れ弾によって突発的に起動し、アヴェンジャーが喚んだサーヴァント達を妨害し、サーヴァント達の魔術や攻撃は、偶然、砕けたビルの破片や、割れたアスファルトによって防がれている」
戦場に振り注いだビルの破片によって魔術攻撃が妨害され、割れたアスファルトによって偶然に狙撃が防がれ、荒れ果てた路面で躓いたかと思えば、偶然、サーヴァントの攻撃を回避したカタチになる。
先生一行が、その
「これが、"大人のカード"の力だとでも言うの……? いや、あのカードは増援を呼んでいた。この
モニターの前で分析を続ける調月リオの後頭部に、カチャリと、銃口が突き付けられた。手元のタブレット端末に目を落とせば、自分のすぐ後ろに、発信機の反応が一つ。
「そう悩むのは悪い癖ですよ、リオ。運命が……幸運の女神が彼らに味方している、とそう考えるべきでは?」
其処に在るは、雪の様に透いた白の少女。長く尖った耳の、その片方に何処から拾ってきたのか黒いインカムを付けている。
彼女の名は、明星ヒマリ。"全知"を冠するミレニアム最高のハッカーだ。
「先生がこのタワーを的確に攻略していると思えば……貴方の仕業だったのね、ヒマリ」
「えぇ。傲慢ちきな貴方が、私の邪魔一つしなかったお陰ですよ。一応、感謝しておきますね?」
険のある刺々しい言葉に対し、調月リオは尚も冷静そのものを保ち、コンソールパネルの上で、ピアノを弾くかの様に流麗に指を走らせる。
「不要よ。邪魔しなかったのは、貴方では中枢部はどうにも出来ないから。捨て置いて問題無かったのよ」
そして、最後のキーが叩かれた。
「召喚式起動──ヒュージゴースト、召喚。ヒマリを拘束して」
仮想パネルに顕現する、複雑怪奇なる魔法陣。
それは、キャスタークラスのサーヴァントが総出で仕込んだ防衛機構の一つ。英霊に遠く及ぶべくも無い使い魔を呼び出し、時間稼ぎをするためだけのもの。
されど、此処に在るは決して戦闘に秀でているとは言えない少女が一人。
「な───」
半透明の、骸骨じみた
必死に身体を──上半身を動かして抵抗する彼女だが、その出力差は歴然。拘束から抜け出すどころか、締め付けを緩める事すら出来なかった。
「貴方のナビゲートの無い先生は、此処に辿り着けるのかしらね」
中央タワー内部を映し出す監視カメラ。そこには先生と、ゲーム開発部の一行を取り囲う様に召喚された無数の使い魔の姿があった。
「バロール、そちらの状況は?」
『制圧完了。これから、アヴェンジャーと飛鳥馬トキを連れて中央に戻る。そして、先生一行を制圧する』
「了解よ。……こちらも、ヒマリを拘束したわ。残ったのは、先生とゲーム開発部だけ。貴方達"傭兵バロール"に適う脅威では無いわ。制圧完了次第、速やかにAL-1Sを解体しましょう」
「リオ……! 貴方、本当にあの娘を
「私は、ミレニアムサイエンススクールの会長。この学区の全てを背負う者であり、また、キヴォトスに対して責任を持つ者でもある。……不確定要素は排除し、最大多数の幸福を護ります」
そして、と、続けて一言。
「ヴェリタス部長にして、特異現象捜査部部長、明星ヒマリに要請します。ミレニアムに所属する技術者として、『名もなき神々』の技術解析に協力して貰うわ」
「……何故、私が貴方に手を貸すと思ったんですか? 見下げ果てましたよ、リオ。貴方の蛮行には、決して協力したりしま──」
「そう。残念ね。
「……!」
「AL-1S──天童アリスは、機械。アンドロイド、オートマタ……そのどちらでも構わないけれど、機械である事には変わりない。
ならば、このキヴォトスにとって脅威となるパーツを
「……そう、できなければ?」
「破壊するしか無いわね」
恐らくは、そんな簡単に分離できる様な構造では無いのだけれど、と言葉を飲み込んで隠し、努めて平坦な声色で語り掛ける。
「オーパーツを構築する未知の技術体系。それが、どれほど価値のあるものか、分かるでしょう? あの精度で自律する機械がどれだけの分野で活躍するか。医療技術、工業技術……あらゆる分野に転用できる。多くの人の助けになる」
天童アリスなんて、どうでも良い。どうでも良いのだ。
けれど、その機体を構築する技術には価値がある。解体を先延ばしし続けたのは、その技術を解析する為。迷い、躊躇い、本当にこれで良いのか躊躇していたから──などでは、無い。無い筈なのだ、と調月リオは自分に言い聞かせ。
ミレニアムのビッグシスター──セミナー会長として、一つの学園を預かる者として。自治区の一つを預かる行政の長として、より多くの
少女は、冷たい仮面を被る。
「──それで、返答は?」
歯を噛み締めた際、諸共に噛み切ったのか、唇の端から血を零しつつも、明星ヒマリはゆっくりと首を縦に振った。