ゼロの使い魔 虚無の少女と英雄王の宝物庫   作:あかちゅきぼちゃん

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第6話 ゼロの少女は、メイドを渡さない

 

シエスタは、朝の洗い場にいた。

 

白いエプロンの袖を少しだけまくり、洗い終えた布を手際よく籠へ移している。動きに無駄はない。水を絞る角度も、腰の入れ方も、足の運びも、ただの給仕にしては整いすぎていた。

 

けれど、それに気づく者はほとんどいない。

 

平賀才人も、その一人だった。

 

「昨日は、ありがとうございました」

 

シエスタにそう言われて、才人は洗濯物を抱えたまま固まった。

 

「え? いや、俺、そんな礼言われるようなことしてないけど」

 

「ギーシュ様のことです。わたしのせいで、才人さんが決闘することになってしまいましたから」

 

「いや、あれはあいつが悪いだろ。シエスタは瓶拾っただけだし」

 

シエスタは少しだけ目を伏せた。

 

「それでも、平民が貴族の方に逆らうのは、簡単なことではありません」

 

「そういうの、やっぱり変だよな」

 

才人は洗濯物を籠に入れ、濡れた手を振った。

 

「悪いことしたら謝る。それだけの話だろ。貴族とか平民とか関係なく」

 

シエスタは、その言葉を少し眩しそうに聞いていた。

 

「才人さんは、不思議な方ですね」

 

「俺のいた国だと、そっちの方が普通なんだけどな」

 

「その普通を、ここで言える方は少ないです」

 

才人は気まずそうに頬を掻いた。

 

「そんな大げさな話じゃないって。ただ、見てて腹立っただけだし」

 

「それでも、嬉しかったです」

 

シエスタは深く頭を下げた。

 

少し離れた柱の影で、ルイズはそのやりとりを見ていた。才人に洗濯物を持たせたのは、学院の空気を知るため。シエスタと接する機会を作るためでもあった。だから、二人が話していること自体は想定内だ。

 

想定内なのに、胸の奥が微妙に面白くない。

 

シエスタが才人に向ける笑みは穏やかだった。才人も、貴族に囲まれている時よりずっと自然に話している。

 

分かっている。シエスタは優しい。才人にとって、この世界で最初に安心できる平民の少女だ。そうなるのは当然だ。

 

それでも、当然だからといって平静でいられるほど、ルイズは大人ではなかった。

 

「……何を見ているんですか、私は」

 

小さく呟き、ルイズはその場を離れようとした。

 

その時、学院の正門の方が少し騒がしくなった。

 

馬車の音。使用人たちの慌ただしい足取り。王宮からの使者が来た時のような、少し硬い空気。

 

ルイズは足を止めた。

 

嫌な予感がした。

 

正門前に現れたのは、豪奢な馬車だった。降りてきたのは、丸みのある体つきの貴族の男。仕立ての良い服を着て、指にはいくつもの指輪をはめている。顔には愛想のよい笑みを浮かべているが、その視線は人を値踏みするように動いていた。

 

モット伯。

 

ルイズは、その名を思い出した瞬間、表情を消した。

 

王宮からの使者という名目で学院に訪れた男。書物を好む貴族。そして、若い女性使用人へ妙な目を向ける男。

 

知っていた。

 

この流れの先に、シエスタがいることも。

 

「まずいわね」

 

呟きは、誰にも聞こえなかった。

 

モット伯は、オスマン学院長や教師たちと何かを話していた。最近、怪盗フーケが出没している。学院の宝物庫も警戒を強めるべきだ。王宮からの連絡。そんな表向きの話が聞こえてくる。

 

だが、ルイズの意識は別のものへ向いていた。

 

モット伯の視線が、洗い場へ向かう。

 

そこには、才人とシエスタがいた。

 

シエスタは、貴族の視線に気づいた。気づいたうえで、何も知らないふりをして頭を下げる。才人はまだ気づいていない。

 

ルイズは奥歯を噛んだ。

 

今すぐ割って入りたい。

 

だが、それはできない。ここでルイズが過剰に反応すれば、シエスタがただの学院メイドではないと示すようなものだ。ヴァリエール家の娘が、なぜ平民のメイド一人にそこまで反応するのか。余計な詮索を招く。

 

シエスタも、それを分かっている。

 

だから彼女は、ただ静かに頭を下げていた。

 

その日の昼過ぎ、シエスタが学院を去るという話が才人の耳に入った。

 

最初は、使用人たちの間の小さな噂だった。

 

「シエスタがモット伯のお屋敷へ?」

 

「ええ。伯爵様がお気に召したとかで」

 

「急な話ね」

 

「断れるわけがないでしょう。相手は貴族様よ」

 

才人はその言葉を聞いた瞬間、顔色を変えた。

 

「ちょっと待てよ。シエスタが? なんで?」

 

使用人の一人が困ったように眉を下げる。

 

「才人さん、声が大きいです」

 

「だって、本人は行きたいって言ってるのかよ」

 

誰も答えなかった。

 

答えられない沈黙が、答えだった。

 

才人はそのままルイズの部屋へ駆け戻った。

 

扉を開けるなり、彼は叫んだ。

 

「ルイズ! シエスタが連れていかれるってどういうことだよ!」

 

ルイズは窓辺に立っていた。驚いた顔はしない。分かっていたのだと、その横顔が告げていた。

 

才人はさらに声を荒げる。

 

「知ってたのか?」

 

「今、知ったところよ」

 

嘘ではない。正確には、起こる可能性を知っていただけだ。

 

「貴族が気に入ったからって、そんな簡単に連れていけるのかよ」

 

「この世界では、ありえるわ」

 

「ふざけんなよ!」

 

才人の怒りはまっすぐだった。

 

ルイズはそれを眩しいと思い、同時に危ういと思った。

 

「落ち着きなさい」

 

「落ち着けるかよ。シエスタは嫌がってるんだろ? なら止めないと」

 

「正面から止めれば、あんたが潰される」

 

「じゃあ放っておけって言うのかよ」

 

「言ってない」

 

ルイズの声は低かった。

 

才人が言葉を止める。

 

「いいわけないでしょ」

 

それは、ほとんど吐き捨てるような声だった。いつもの高飛車なルイズではない。怒りを奥に押し込めた、冷たい声。

 

才人は少しだけたじろいだ。

 

「じゃあ、助けに行こうぜ」

 

「行くにしても、考えなしに突っ込めば終わるわ。相手は伯爵。あんたは平民の使い魔。剣を持って押しかけたら、シエスタを助けるどころか、学院ごと問題になる」

 

「でも!」

 

「分かってる!」

 

声が響いた。

 

ルイズは自分の声に少し驚き、すぐに息を整えた。

 

「分かってるわよ。だから、動くなら考えて動くの」

 

才人は黙った。怒りは消えていない。だが、ルイズも本気で怒っていることは伝わったらしい。

 

その時、控えめなノックが聞こえた。

 

扉の向こうから、シエスタの声がする。

 

「ミス・ヴァリエール。少しだけ、よろしいでしょうか」

 

ルイズは扉を開けた。

 

シエスタは旅支度をしていた。小さな鞄一つ。学院のメイド服のまま、いつも通りの静かな顔で立っている。

 

才人が息を呑んだ。

 

「シエスタ、本当に行くのかよ」

 

「はい」

 

「嫌なんだろ?」

 

シエスタは答えなかった。

 

それだけで十分だった。

 

ルイズは彼女を見つめる。

 

「断れないの?」

 

「わたしは平民です。学院の決定に逆らうことはできません」

 

「私に頼る気はないの」

 

シエスタの瞳がわずかに揺れた。

 

才人には分からない程度の変化。だが、ルイズには分かる。シエスタは頼りたくないのではない。ルイズに迷惑をかけたくないのだ。

 

「ミス・ヴァリエールにご迷惑をおかけするわけにはまいりません」

 

「迷惑かどうかは、私が決めることよ」

 

「ですが」

 

「シエスタ」

 

ルイズの声が、少しだけ硬くなる。

 

シエスタは目を伏せた。

 

「……はい」

 

「勝手に諦めないで」

 

その一言に、シエスタの手が小さく震えた。

 

才人は二人を見比べていた。何かを感じ取っている。ルイズとシエスタの距離が、ただの貴族令嬢とメイドのものではないことに、少しずつ気づき始めているのだろう。

 

シエスタは深く一礼した。

 

「才人さん。昨日のこと、本当にありがとうございました」

 

「礼なんていいから、待ってろ。絶対なんとかする」

 

「無茶はなさらないでください」

 

「それ、最近よく言われる」

 

「言われる理由があるからです」

 

才人は苦笑した。

 

シエスタは最後に、ルイズへ向き直った。誰にも見えない角度で、ほんのわずかに目を伏せる。それは、昔から二人の間にある合図だった。

 

すみません。

 

そう言っている。

 

ルイズは唇を引き結んだ。

 

謝るな。

 

そう言い返す代わりに、ただ頷いた。

 

シエスタが去った後、才人はすぐにデルフリンガーを手にした。

 

「俺、行ってくる」

 

「待ちなさい」

 

「待てない」

 

「才人」

 

ルイズの声に、才人は足を止める。

 

「一人で行けば、相手にされない。下手をすれば捕まるわ」

 

「でも、何もしないよりましだ」

 

「何もしないなんて言ってない」

 

ルイズは机の上から外套を取った。

 

「私も行く」

 

才人は驚いたように目を見開いた。

 

「いいのか?」

 

「いいわけないでしょ。だから、面倒にならないように動くの」

 

「……ありがとな」

 

「まだ助けたわけじゃないわ。礼は後」

 

二人は学院を出た。

 

モット伯の屋敷は、街の外れにあった。成金趣味と貴族趣味が混ざったような館だった。門番は才人を見た瞬間に眉をひそめたが、ルイズの身分を見て態度を変えた。

 

貴族の力は、こういう時に嫌になるほど分かりやすい。

 

通された応接間で、モット伯は愛想よく笑っていた。

 

「これはこれは、ヴァリエール家のご令嬢。何用かな?」

 

ルイズは淑女らしく礼をする。

 

「突然の訪問、失礼いたします。学院より移されたメイドについて、お話がございます」

 

「シエスタのことかね? いや、実に良い娘だ。働き者で、控えめで、なかなか見どころがある」

 

才人の手がぴくりと動いた。

 

ルイズは視線だけで止める。

 

「彼女を学院へ戻していただけませんか」

 

「ほう。なぜかね?」

 

「学院でも必要な者ですから」

 

「学院には他にも使用人がいるだろう。私は正式に話を通している。問題はあるまい」

 

モット伯の口調は穏やかだった。だが、その下にあるものは明らかだった。

 

平民一人の意思など問題ではない。

 

才人が一歩前へ出た。

 

「本人が嫌がってるなら問題だろ」

 

モット伯は初めて才人を見た。

 

「君は?」

 

「平賀才人。ルイズの使い魔だ」

 

「使い魔が口を挟む話ではないな」

 

「人間だ」

 

「人間であっても、平民だろう」

 

空気が冷えた。

 

才人の手がデルフリンガーの柄へ伸びかける。

 

ルイズは素早くその腕を押さえた。

 

「才人」

 

「でも」

 

「駄目」

 

モット伯はその様子を面白そうに眺めていた。

 

「若いな。だが、勇気と無礼は違う。シエスタを返してほしいなら、相応の対価を示したまえ」

 

「対価?」

 

才人が睨む。

 

モット伯は指輪のついた手で、壁一面の本棚を示した。

 

「私は珍しい書物を集めるのが趣味でね。ゲルマニアのツェルプストー家に伝わる古い書物がある。あれを持ってくるなら、考えてもいい」

 

ルイズは目を細めた。

 

キュルケの家宝。

 

知っている流れだった。腹立たしいほどに。

 

才人はすぐに言った。

 

「本一冊でいいのか?」

 

「本一冊とは言わないでほしい。あれは実に貴重なものだ。まあ、平民には分からないだろうが」

 

「……分かった。持ってくる」

 

「才人」

 

「持ってくれば返すんだな」

 

モット伯は笑った。

 

「約束しよう」

 

その笑みが信用できないことなど、ルイズには分かっていた。けれど、才人の行動をここで否定することはできない。彼はシエスタを助けるために、今できる手を伸ばしている。

 

なら、ルイズはその手が踏みにじられないようにするだけだ。

 

屋敷を出る直前、ルイズは一度だけ振り返った。

 

「伯爵」

 

「何かな」

 

「約束は、お守りください」

 

「もちろんだとも」

 

「なら、よろしいです」

 

微笑む。

 

貴族令嬢らしく。

 

けれど、モット伯の笑みが一瞬だけ引きつった。

 

ルイズの目を見たからだ。

 

そこに浮かんでいたものは、怒りではない。脅しでもない。ただ、静かな確認だった。

 

破れば、裁く。

 

言葉にせずとも、そう告げる目。

 

才人は気づかなかった。デルフリンガーだけが、かたりと小さく鳴った。

 

「嬢ちゃん、怖えな」

 

「黙りなさい」

 

「へいへい」

 

学院へ戻ると、才人はすぐにキュルケの元へ向かった。

 

事情を聞いたキュルケは、最初こそ面白がっていた。だが、シエスタのことだと分かると、表情を少しだけ変えた。

 

「モット伯ね。あの人、趣味が悪いことで有名よ」

 

「本当に家宝の本、持ってるのか?」

 

「あるわよ。ゲルマニアの実家から持ってきたものがね」

 

キュルケは才人を見て、にやりと笑う。

 

「でも、ただで貸すと思う?」

 

才人が身構える。

 

「何すればいい?」

 

「そうねえ。夜、わたしの部屋に――」

 

「キュルケ」

 

ルイズの声が割り込んだ。

 

キュルケは楽しそうに振り返る。

 

「あら、ルイズ。怖い顔」

 

「今はふざけている場合じゃないわ」

 

「分かってるわよ。冗談」

 

本当に冗談だったのかは怪しいが、キュルケはそれ以上からかわなかった。彼女は部屋から一冊の古い本を持ってきた。装丁は立派だが、ところどころ擦り切れている。

 

「はい。これでいいはずよ」

 

才人は驚いた顔をした。

 

「いいのか?」

 

「いいわ。シエスタには、わたしもよくしてもらっているもの」

 

キュルケは軽く肩をすくめる。

 

「それに、あなたがどこまでやるのか興味があるし」

 

「ありがとう」

 

才人が素直に礼を言うと、キュルケは少しだけ目を丸くし、それから微笑んだ。

 

「どういたしまして、勇敢な使い魔さん」

 

ルイズはそのやりとりを横目で見て、微妙に面白くなかった。

 

だが、今はそれどころではない。

 

再びモット伯の屋敷へ向かう途中、ルイズは考えていた。

 

宝物庫を使えば、もっと珍しい本などいくらでも出せる。モット伯が欲しがるような書物を用意することは難しくない。だが、それをすれば余計な疑念を呼ぶ。ルイズがどこからそんな物を出したのか、説明できない。

 

だから今は原作に近い手順を取る。

 

ただし、表向きだけだ。

 

モット伯は、本を見た瞬間に目を輝かせた。

 

「おお、これだ。まさか本当に持ってくるとは」

 

「約束通り、シエスタを返してもらうぞ」

 

才人が言う。

 

モット伯は本を撫でながら満足げに頷いた。

 

「よかろう。あの娘は学院へ戻そう」

 

部屋の奥から、シエスタが連れてこられた。服装は朝のままだが、顔色は少し悪い。けれど怪我はない。それを確認した瞬間、ルイズの肩からわずかに力が抜けた。

 

才人が駆け寄る。

 

「シエスタ、大丈夫か?」

 

「はい。才人さん、ありがとうございます」

 

シエスタは頭を下げた。

 

その後ろで、モット伯は本に夢中になっているように見えた。

 

ルイズはシエスタを才人に任せ、静かに一歩下がった。

 

「伯爵」

 

モット伯が顔を上げる。

 

「何かな。約束は守っただろう」

 

「ええ。ですから、これは別の話です」

 

ルイズは微笑んだ。

 

「今後、学院の使用人に不用意に手を伸ばすことはお控えください」

 

「何を言っているのかな」

 

「そのままの意味です」

 

部屋の空気が変わった。

 

才人はまだシエスタと話している。気づいていない。だが、デルフリンガーがかすかに鳴った。

 

モット伯は笑おうとした。

 

「ヴァリエール嬢。君はまだ学生だ。大人の話に――」

 

「聞こえませんでしたか」

 

ルイズの声は静かだった。

 

腰の奥で、王律鍵が熱を持つ。

 

開くつもりはない。だが、感情に反応している。庇護下の者へ手を伸ばされた怒り。守ると決めた者が軽く扱われた不快感。

 

その奥で、王の声が囁く。

 

裁け。

 

ルイズはその声を押し込めた。

 

今ここで裁く必要はない。

 

ただ、覚えさせればいい。

 

「二度はありません」

 

モット伯の顔色が変わった。

 

ルイズは何もしていない。杖も抜いていない。王律鍵も見せていない。ただ、目を見て告げただけだ。

 

それでも、モット伯は一歩後ろへ下がった。

 

この少女の背後に、何か理解できないものがあると感じたのだろう。

 

「……分かった。学院には今後、無理な要求はしない」

 

「賢明です」

 

ルイズは礼をした。

 

何事もなかったように。

 

屋敷を出る頃には、才人はようやく少し落ち着いていた。シエスタが戻ってきたことで、怒りよりも安堵が勝ったのだろう。

 

帰り道、シエスタは才人へ何度も礼を言った。

 

「才人さん、本当にありがとうございました」

 

「俺だけじゃないよ。ルイズも、キュルケも」

 

「はい」

 

シエスタはルイズへ向き直る。

 

人目のない一瞬を選び、深く頭を下げた。

 

「ミス・ヴァリエール。ありがとうございました」

 

「別に」

 

ルイズは顔を背けた。

 

「私のものに、勝手に手を伸ばされるのが気に入らなかっただけよ」

 

言ってから、ルイズは口を閉じた。

 

今の言葉は、少し危うかった。

 

シエスタは目を伏せる。

 

才人は不思議そうに首を傾げた。

 

「私のものって、シエスタが?」

 

「庇護下にあるって意味よ!」

 

「なんで怒るんだよ」

 

「うるさい」

 

シエスタは小さく笑った。

 

その笑みを見て、ルイズは少しだけ救われた気がした。

 

だが、胸の奥ではまだ王律鍵の熱が残っている。

 

守りたいと思う気持ちと、所有したいという傲慢な感情。その境目は、思っていたよりずっと曖昧だった。

 

夜、才人が眠った後、デルフリンガーが小さく呟いた。

 

「相棒も無茶するが、嬢ちゃんも大概だな」

 

「何が言いたいの」

 

ルイズはベッドから低く返す。

 

「いやなに。手を出しちゃいけねえもんに手を伸ばすと、痛い目見るって話さ」

 

「モット伯のこと?」

 

「さあな」

 

デルフリンガーは笑うように鍔を鳴らした。

 

「お前さんのことかもしれねえぜ、嬢ちゃん」

 

ルイズは答えなかった。

 

腰の奥で、王律鍵が静かに沈黙している。

 

だが、その沈黙は眠りではなかった。

 

次に誰かがシエスタへ手を伸ばした時、自分は本当に抑えられるのか。

 

ルイズには、まだ分からなかった。

 

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