さす兄パパにチート転生した龍郎がレされる前の四葉真夜を救済してベロちゅぱ愛人○っちしつつ司波深夜とイチャらぶドスケベ夫婦え○ち生活を送る話   作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ

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 陰謀(大漢)だったり政争(大漢)だったり悲劇の元凶(大漢)だったりをチート恩恵による圧倒的暴力で完全粉砕してヒロインたちと幸せな家庭を築く話が読みたかったので書きました。
























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 二一世紀初頭、さる財団の研究チームが「人類の文明を脅かす12のリスク」についてリポートを公表した。

 

 ①、極端な気候変動。

 ②、核戦争。

 ③、世界規模のパンデミック。

 ④、生態系の崩壊。

 ⑤、国際的システムの崩壊。

 ⑥、巨大隕石の衝突。

 ⑦、大規模な火山噴火。

 ⑧、合成生物学。

 ⑨、ナノテクノロジー。

 ⑩、人工知能。

 ⑪、未知の可能性。

 ⑫、劣悪なグローバル・ガヴァナンス。

 

 ①から⑥は現在進行形のリスク、⑥から⑦は人間の手の及ばない外因的なリスク、⑧から⑪は人類の進歩と共に噴出する新たなリスク、⑫は国際政治のリスクという四つの分類(グループ)に分けられる。

 これらの問題は、リポート公表から半世紀が経過してなお解決されていない。

 

 人類史は血みどろの(みち)を拓き屍の山を築きながら歩を進めてきた。リポートが公表される前から。幾度も危機に見舞われながらも、しぶとく。霊長の座を譲っていない。

 

 パンデミック。人類の文明を脅かす12のリスクその③。

 一四世紀にアフロ・ユーラシア大陸で猛威を(ふる)った黒死病(ペスト)は、七五〇〇万人以上の死者を出したとされている。

 一六世紀に欧州で流行ったインフルエンザでは、二五〇〇万人以上。

 二〇世紀に全世界で流行したスペイン風邪では、五〇〇〇万人以上。

 二一世紀に全世界で流行したコロナウイルスでは、八〇〇万人以上。

 炭疽症。デング熱。エボラ出血熱。世界保健機関が定義する激甚性疾病は二〇を超える。

 

 戦争問題。人類の文明を脅かす12のリスクその⑫。

 第一次世界大戦では、軍民問わず二六〇〇万人以上の犠牲者が。

 第二次世界大戦では、第一次世界大戦を大幅に上回る八〇〇〇万人以上が。

 二〇四五年から始まった第三次世界大戦――“人類の文明を脅かす12のリスクその①極端な気候変動”に該当し、二〇三〇年前後より急速に悪化した寒冷化を端緒とする食糧等エネルギー資源争奪戦争――では、二〇六二年時点において人類史上最大の四〇億人という桁違いの死者を出している。

 

 核は使用されずとも四〇億人が死亡し、九〇億人いる世界人口が仮に半分以下になろうとも、人類が飽くなき争いと発展を止めることはない。

 地球史を紐解けば、そもそも地球に誕生した生命が個体数を減らし絶滅の危機に瀕するのは特段、珍しいことではなかった。

 地上を支配し、海中を支配し、天空を支配すれど危機を乗り越えられずに滅びた種族は数知れず存在する。

 人類が台頭する以前。地質時代。かつて霊長の座についていた恐竜たちの時代を終わらせたのは、太陽系の外側から飛来した小惑星だった。

 

 人類の文明を脅かす12のリスクその⑥。巨大隕石の衝突。

 大気圏を引き裂き断熱圧縮によって光り輝く巨大質量体――のちにチクシュルーブ衝突体と呼称される直径一〇kmの天体――はメキシコ・ユカタン半島の地表に秒速二〇kmで着弾した瞬間、半径一〇〇〇km内の生物を(ことごと)く即死させた。

 ヒロシマ型原子爆弾の約一〇億倍のエネルギーが炸裂した爆心地は瞬時に太陽の表面温度にまで達してあらゆる物質を気化させ、音速を超越した衝撃波が熱線を伴って拡散しながら水平線の果てまで天候を轢き潰し、地殻に向けて穿たれた数一〇kmの大穴に海水が流れ込むと逆流して膨れ上がった高さ数一〇〇mの大津波が内陸部に浸透し、逃げ場のない地表を根こそぎ呑み砕いては洗い流し、それだけでは終わらない。

 マグニチュード10以上の衝撃で巻き上がった岩石たる破片が火球となって降り注いでは森林火災を(もたら)し、舞い上がった粉塵により青空は覆い隠され、それらは数一〇年にわたって大気に滞留して太陽光を遮断すると寒冷化を引き起こし、更に降りしきる強酸性の雨が環境を激変させたことで、適応し切れなかった恐竜や海洋生物といった生物種の七割超を死に絶えさせた。

 五度目の大量絶滅。地球史からすれば、ほんの六六〇〇万年前の事象。

 

 学者は言う。チクシュルーブ衝突体と同規模の隕石が地球に飛来する確率は“一億年から二億年に一回”だと。

 小説家が言う。“人間が想像できることは人間が必ず実現できる”。

 芸術家が言う。“想像できることはすべて現実だ”。

 

 地球の何処かで誰かが呟く。“あした会社に隕石でも降らないかな”。

 

 

 

「証明してよ」

 

 星が瞬いている。

 

 月の光が雲に射し、影を作っている。

 

「本当に安全だって言うのなら、証明してよ」

 

 天に散りばめられた星の輝きから顔を伏せ、少女が言った。

 低い声で。少女を後ろから抱きかかえている少年以外には聞こえないほどに。

 

 周囲に人はいない。物も、何も無い。寒さも無い。あるのは星の輝きと、月の光と、穏やかな風と、流れる雲くらいしか無い。

 仮に空を見上げる者がいたとしても少年と少女に気付くことは無く、会話を聞くことも、ましてや表情を読み解くことはできない。

 

 地表から、五〇〇〇メートル上空。

 夜を飛ぶ双翼の“龍”の背中に跨る少女は、幻想から生じたが如き“黒き龍”を使役する少年に抱えられながら、呪いを吐きこぼした。

 

「あいつ。アイツら。みんな、全員」

 

 子供の癇癪。そう切り捨てるにはあまりにも悲痛な訴え。外傷は残っておらずとも、絶望に圧し潰されかけた恐怖が少女に叫ばせた。

 波打つような黒髪が震えている。鈴を転がすようだった声は罅割れている。愛くるしかった頬は青褪め、智慧といたずらな可憐さを秘めていたはずの双眸は血走り、黯惨(あんさん)たる陰を落としている。

 悪意に壊されかけた幼い心が、少年に助け出された今もなお、血を流し続けている。

 

「わかった」

 

 地平線を遠くに見ながら、少年の声は、年老いた者のように落ち着いていた。

 

「君に証明しよう、真夜(まや)

 

 〈バハムート〉。少年に命じられた“龍”が、高度を上げた。

 

 眼下には、大陸が広がっている。

 

 少女が拉致された研究所は、もはや砂漠に紛れた縫い針のように小さい。別の場所を見やれば、夜間の街灯が数多く光っている。明かりの下では車が行き交い、配達員が走り抜け、シャッターを開けた店では賭け事に興じる老人たち、放課後に溜まり場で談笑する生徒たち、買い物を頼まれた帰宅途中の会社員、こどもの餌を盗み出す野良猫、夫の好物を取り揃えてサプライズを用意する新妻、経営に苦悩する社長や野望を膨らませるエリート官僚などが活き活きと、あるいはしぶしぶと各々の日常を過ごしている。

 

 それらを見下ろす少年の躰から。

 激しい、眼を灼くような光の粒子が、暴風の如く湧き起こった。

 

 光子ではなく、物理以外の光を纏う、“魔法”の源となる粒子。

 想子(サイオン)

 

「【時は来た】」

 

 呟くように少年が詠じる。

 活性化した想子が渦を巻き、少年の腕に抱かれている少女は反射的に振り返ろうとし、固まった。

 

「【許されざる者達の頭上に】」

 

 少女が見せてもらったことの無い、少年が得意とする“BS魔法”の一つ〈時魔道士〉の奥義。少年の有する莫大な――加えて通常の魔法師の“それ”とも一致しない異質な――想子が魔法式(マギ・グラム)を構築し、現実世界に対する壮絶な事象改変作用を引き起こす。

 

「【星砕け降り注げ――】」

 

 術を編み上げる少年の声は変わらない。法機(CAD)を使わず、起動式の展開を省き、古式魔法のように詠唱し、しかしそれほど長くは掛からなかった。

 

 事象改変作用により、時空間が歪曲する。

 広漠とした大陸の上空に、存在しないはずの、規格外の(ゲート)が開かれる。

 

 幻想の彼方から招かれるのは、燃え盛る輝き。

 

 

 【時魔法:メテオ】

 

 

 左腕で少女を抱きかかえる少年が、右手で、明るくなった空を指し示す。

 

「ほら」

 

 ハワイ島に観測所を構える小惑星地球衝突最終警報システムの当直者は、画面の前で困惑した。数分前まで宇宙空間に全く在り得なかったはずの小惑星が、突如として観測範囲内に出現したと、システムが報告している。しかも何故だか“大気圏を現在も落下中である”という意味不明な警告つきで、そのあまりの突拍子の無さから当直者はシステムの誤作動を疑い、ひとまずコーヒーを淹れ直そうと席を立った。

 

 同時刻、大陸の誇る防空監視システムは大陸上空を目掛けて飛来する【物体】を即座に感知し、軍に対して冷静に緊急警告を発していた。通知を受け取った軍人たちは、ところがシステムが算出した情報があまりにも異質な内容であったために、驚愕と困惑に見舞われることになった。

 核兵器を搭載可能な大陸間弾道極超音速ミサイルの速度はマッハ三〇前後。飛来する【物体】の速度はマッハ五八であり、しかも【物体】の大きさは、数一〇メートルどころではない。

 システムが正しければ、直径が八〇〇メートルはある。

 そして【物体】は、あと数秒後に中間圏を突破する。

 落下地点は、自分たちの大陸。

 明らかな誤作動でなければ逆におかしくありながらも、大陸の軍人たちは、急いで警戒態勢に入ろうとした。

 だが誤作動は起きていない。システムは正常に機能していた。ただ単純な事実として、既に手遅れだった。

 ミサイルによる迎撃は間に合わない。シェルターに退避することは叶わない。

 

 たとえ先進国で狂信者集団が企んだ核兵器テロを未然に防いだ一九九九年の超能力者(サイキッカー)のような英雄的存在がいたとしても、マッハ五八で落下する数一〇〇億トンの巨大質量体を受け止めるのは、二一世紀の人類には不可能だった。

 

「よく見ていてごらん」

 

 少年が指差す先で。

 (そら)を、引き裂くようにして。

 

 光輝(クライマックス)が訪れる。

 赫耀とまばゆい、炎の柱(・・・)が降りてくる。

 

 すべてを塗り潰すように。人間が、機械が、建物が、文明が、歴史が。

 誰もが揺るぎないと信じて疑わなかった現実が、輝きに染め尽くされる。

 

 隕石(メテオライト)。チクシュルーブ衝突体の僅か八%の大きさに過ぎない、されど人類が過去から現在にまで製造したすべての核兵器を動員した総合熱量値を易々と凌駕する超越的なエネルギーが。逃げ場のない座標に、逃げるすべの無いものたちに、炸裂する。

 

 一瞬だった。

 

 光、

 音、

 風、塵。

 

 すべてが呑み砕かれ、すべては一瞬で、藁のように燃え失せてゆく。

 

「――――」

 

 飛行する“龍”の力場に守られている少女は、抱かれる腕のなかで。

 息を止めて。

 

 すべてを見下ろし、目を閉じることも忘れて、すべてを焼き付けた。

 

 悲鳴は聞こえない。断末魔も、阿鼻叫喚の怨嗟も、神仏への祈りも。

 伸ばした手は届かない。子供も、老人も。悪党も、善人も、白痴も世捨て人も。

 悉盡(すべて)

 例外はない。誰ひとりとして、輝きからは(のが)れられずに。滅尽した。

 

 あかぐろく光る、地獄の釜蓋(ふた)が開かれたような剥き出しの絶景(・・)を、あざやかに残して。

 

 千切れ飛んだ雲と、押し寄せる高波と、降り止まぬ瓦礫と、停電(くらやみ)の拡がる地域を見渡した少年の“龍”が、ゆらりと大翼を動かす。飛行する方角を変えて。

 

「よし、次だ」

 

 少年が言った。

 かけらも重さを感じさせない口調で。普段とあまり変わらない、それでも少しだけ弾んだような声をして。

 

「どんどん落としていこう。奴らがいなくなるまで」

 

 

「――――――――」

 

 

 少女は。

 

 ひきつるように。よじれるように。

 狂ったように。堰を切ったように、まばゆい夜に、わらい声をはじけさせた。

 

 

 けたたましくわらっている少女を抱きながら、燎原の炎と月の光に照らし出される少年の横顔には、笑みが浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

   【 蛮神きたりて魔女わらう 】

 

 

 

 

 

 1.

 

 

 

 分割された画面に、開発第二課主任である古葉小百合(こばさゆり)の顔が映っている。

 

「以上が、“ループ・キャスト”……起動式の高速反復発動実験の結果になります」

 

 古葉小百合以外にも、魔法工学部品メーカーであるFLT(フォア・リーブス・テクノロジー)技術部の開発第一課課長や開発第三課主任の牛山欣治(うしやまきんじ)、管理課や法務課の役職持ちの面々も揃っており、開発第二課から共有された部外秘の資料内容に、それぞれが感嘆を示している。

 

「こいつはすげえな」

 

 資料を読み込んでいた牛山欣治が、映像の背景にCADの観測テストを行う作業員たちを映しながら、呆れ顔になっていた。「またアンタがやったんですかい、本部長?」

 

 画面越しに職人たちの視線が集中すると、自宅の書斎から量子暗号化された通話会議に参加している龍郎(たつろう)は、肩をすくめてみせた。

 

「製品に落とし込んでくれたのは二課の皆だ。私は机上の理論を現実的に組み直したに過ぎないよ。古葉くん、よくやってくれたね」

 

「は、はいっ」

 

 尊敬する本部長から技術者たちの前で直々に褒められた古葉小百合は、画面からはみ出るほどに深々と頭を下げ、気を抜くとニヤけてしまいそうになる表情筋を必死に我慢している。

 開発第二課は、本社付属の研究室であると同時にFLT開発本部長である龍郎のアイデアを実現するための個人研究所のような側面も――会長の御用命で――あるので、既存の枠に囚われない斬新な発想をかたちにした第二課の発表は、他の技術者らを驚かせることがたびたびあった。

 

「ただよお、このデータだと使ってるハードが貧弱過ぎる。もっとまともなヤツは用意できなかったのか? こいつが本当なら、起動式の展開速度はこれまでよりも飛躍的に向上する。特化型なら二〇%は上げられるかもだ、革命なんてもんじゃねえ――」

 

 ハードウェア部分がダメダメだめ、と牛山欣治からさっそく指摘された古葉小百合が眉を寄せ、それを皮切りに、他の課からも質問が噴出した。

 これまで理論上でしか存在し得なかった“ループ・キャスト”が実現したことの影響について「あーだこーだ」と白熱した議論が飛び交わされ、予定時刻を超過したオンライン会議が終了すると、龍郎は電子粉流体ディスプレイのスイッチを切り、固くなった身体をほぐすように伸びをした。

 

 人工工学に基づいたチェアから立ち上がり、書斎を出る。

 廊下は吹き抜け構造となっており、じゅうぶんに確保された採光で明るい。階段でリビングまで降りると、人影が立っていた。

 

「あら、ちょうど持っていこうと思っていたのだけど」

 

 ブラウスを着た、深窓の令嬢然とした美貌の司波深夜(しばみや)が、台所のエスプレッソマシンの前でちらと顔を上げた。

 

「あなたは座っていて、今できるから」

 

 深煎りで挽かれた粉末を詰めたホルダーと、タンピング用のタンパーを両手に持っていて、横には護衛である桜井穂波(さくらいほなみ)が控えている。司波深夜は真剣な様子で、粉をこぼさないようにタンピング――ホルダーのバスケット内に粉末を均等に敷き詰める作業――に取り掛かろうとしており、しかしその手付きがじゃっかん危ないので、ちらちらと桜井穂波が手伝いたそうに見ていた。

 

「奥さま……」

「いらないわ。慣れているから」

 

 ぴしゃりと断られた桜井穂波の、なんとも言い難いびみょうな表情に苦笑しつつ、龍郎は一階に設置してあるベビーサークルへ近づいた。

 生後六か月で、鼻立ちのはっきりした、黒髪が生えつつある赤子が寝転んでいる。餅のような肌だった。首は据わっている。両目は開いていて、泣き出す気配はない。頭の上でふわふわ浮遊している白いモノを、好奇心のまま視線で追いかけている。

 

達也(たつや)

 

 龍郎が呼びかけると、一瞬だけ反応した赤子は、すぐに白くフワフワしたモノを観察する行為に戻った。

 白くフワフワしたモノ――ぬいぐるみのような身体のそれは、背中に小さな羽根を生やしている。頭に赤いポンポンを伸ばし、狐のような細目と赤鼻を持つ、マスコットめいた見せかけの〈化成体〉や“SB魔法”とは異なり「本物の実体」である幻想から生じたが如き存在は、紅葉のように小さな掌を伸ばそうとする赤子の周りを、触れるか触れないかの距離で浮遊している。

 

「モーグリ、助かるよ」

 

 クポ? と鳴き声を発した〈モーグリ〉は、赤子とたわむれながら、こてんと小首を傾げた。その瞬間に、がしっと赤子の両手がポンポンを掴んでしまい、掴まれた〈モーグリ〉は困ったようにふるふると身体を揺らした。

 

「はい、どうぞ」

 

 完成したエスプレッソをトレイに載せ、司波深夜がテーブルまで運んでくる。ソファーに腰を下ろして待っていた龍郎は礼を言って受け取ると、隣に座った司波深夜からの「じぃー」という視線を浴びながら、香り高いカップに口を付けた。

 

「うん。美味いな」

 

「豆の配合比率を変えてみたの」

 

「君はセンスが冴えてる」

 

 司波深夜が、くすりと微笑んだ。赤子を産んだ今も細身な体型は変わらない。しかし腹部に関しては、ブラウスを押し上げるように膨らみが目立ちつつある。

 ふくらかな部分にそっと龍郎が触れると、司波深夜はやんわりと目尻を下げ、撫でる手のひらを受け入れた。

 

「最新作は順調?」

 

「悪くないよ。このあいだ開発したコード、あれが使えそうでね。詳しくは話せないけど」

 

 龍郎の手先の器用さは、生まれつきだった。幼少期に“BS魔法”の一つ〈アイテム士〉の常駐型系統外魔法(パッシブアビリティ)を自覚してからは機械の整備(メンテナンス)プログラム(ソフトウェア)の組み立てを試すのは日々の習慣(ルーティーン)となっている。開発本部長として統括すると同時に、FLTの研究員としても新しい商品を作り出す今の仕事は、龍郎の気質に合っていた。

 もっとも守秘義務があるため、いくら家族といえど話せないラインは存在する。

 

「筆頭株主の私にも内緒なの?」

 

 妻の揶揄うような上目遣いに、龍郎は静かな笑みを返した。そうだなあ、と悩むふりをしてから、耳元に口を近づける。

 

「なら今度、みんなが寝静まったあとに、君にだけ教えよう」

 

 ふたりきりでね。そう囁いて手を握ると、司波深夜のかたちのよい耳が赤らんだ。ほっそりとした白い(はだえ)にも朱が差し、内面の動揺を隠すように、つんとした眼差しに変化する。

 とても“忘却の川の支配者(レテ・ミストレス)”などという大仰な異名で畏怖される女の反応ではない。仕えるあるじと夫のやり取りを邪魔しないよう、すみやかに気配を消した桜井穂波は、にこやかに背景(かべ)と化していた。

 

「さて、もうひと仕事だ」

 

 龍郎はエスプレッソを飲み干すと、立ち上がった。

 

「頑張ってね、あなた」

 

 頷くと、〈モーグリ〉にあやされている赤子を覗いてから、龍郎は仕事部屋に戻った。

 

 脳波アシストを使わない光学式キーボードを使い、タスクと向き合う。打鍵。集中は途切れない。

 

 作業台の横に置いていたプライベート用の端末に通知が灯った。「ディナーを楽しみにしています」。送り主を確認した龍郎は、簡単に返信して仕事を続けた。

 

 時間が過ぎる。

 陽が傾き始める。

 

 たん、とキーを押し、本日ぶんのタスクを処理し終えた龍郎は、デジタル時計を確認した。

 書斎のクローゼットを開く。格式ばった場所ではないのでカジュアルなものを選び、グレーのジャケットに腕を通して鏡の前に立つと、龍郎とはもう二〇年以上の付き合いになる、よく見慣れた男が映っている。

 

 リビングに降りたとき、司波深夜はどことなく不満を滲ませていた。玄関で靴を履く、他の女とのディナーのために着替えた龍郎に、わざわざ見せつけるように胸に赤子を抱いて見送りに来る。

 

「行ってきます」

 

 龍郎は振り返ると、嫉妬心を覗かせる妊娠中の妻の頬に手を添え、口づけを交わした。

 

 んちゅっ、ちゅ、

 ちゅっ、ちゅぷ、あむっ…ちゅ…♡♡

 

 眼を閉じた司波深夜は、龍郎が唇を離そうとすると、さりげなく袖を掴んで引き止める。

 

 ちゅぅ、ちゅ、

 ちゅむ、…ん…っ♡♡

 

 赤子が、頭上で(まじ)わる両親の接吻を見ていた。

 

「ちゅっ、……気を付けてね」

 

「わかってる」

 

 そこはかとなく機嫌が回復した司波深夜に見送られ、龍郎は駐車場に停めてある、二台目(セカンドカー)のセダンに乗り込んだ。

 

 ミラーを調整し、クラッチペダルを踏んで水素エンジンに火を入れる。ステアリングを握り、滑らかに発進した。この時代では珍しいMT(マニュアル)車であり、自動運転機能は切ってある。

 完全に趣味枠の車だった。操作に手間が多いMT車を好んで乗る龍郎を、司波深夜は道楽として呆れながらも受け入れており、出かけに龍郎が誘うと、三回に一回くらいの頻度で夫のドライブに付き合っていた。毎回のように司波深夜は助手席に座り、護衛である桜井穂波も毎回別の車で――夫婦の時間を邪魔するわけにはいかないからと――後ろから追いかけることになるため、司波家の駐車場には、防弾加工を施された目立たないデザインの車両が何台も並んでいる。

 

 ナビを確認した龍郎は、続いてラジオ・チャンネルを操作した。骨董品のような曲ばかりセレクトする番組が幾つかある。R&B。アル・グリーンの「テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー」を流している局を見つけると、ボリュームを調節した。

 ジャクソンズの「ブレイム・イット・オン・ザ・ブギー」、アース・ウインド&ファイアの「シャイニング・スター」、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「イフ・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ステイ」。

 古くとも輝きを失わない名曲の数々。

 

「ん――」

 

 指でリズムを取っていた龍郎は、微かに顔を持ち上げると、ステアリングから手を離した。

 

 窓側のスイッチを押す。強化ガラスが降り始め、血を垂らしたような夕焼けが隙間から差し込む。車内に入ってきた生温い風が、薄膜を剥がすように横顔を撫ぜる。

 対向車はいない。後ろから競ってくる車も無い。

 

「【まばゆき光彩を刃となして】」

 

 想子の光が、龍郎の躰から朧に浮き出す。

 

 〈召喚士:消費MP半減〉

 〈時魔道士:魔法詠唱短縮〉

 〈黒魔道士:魔法攻撃アップ〉

 

「【地を引き裂かん――】」

 

 【黒魔法:サンダー】

 

 裂け目のような雷閃が、晴天に奔った。

 

 セダンの後方。空中で追尾して来ていた鳥型の“使い魔”が、術者の認識を上回る速度で【黄光】に塗り潰される。

 一撃だった。紐付けられた遠隔術式と構成するサイオン粒子、いずれも剛砕された“使い魔”が存在を維持できずに焼滅してゆく様子を、龍郎は〈時魔道士〉の常駐型系統外魔法(パッシブアビリティ)の副次効果として疑似的に会得した〈マルチスコープ〉により知覚している。

 

 ミラーに映る表情に変化はない。運転は変わりなく、風景と音楽だけが流れている。暫くすると、曲が変わった。リトル・ウィリー・ジョンの「ノー・リグレッツ」。陽気で、前向きで、どこか物悲しい。

 殺人を起こして獄中で死んだ男の、一〇〇年以上も昔の歌だった。

 

後悔はない(No Regrets)、か」

 

 坂道に入る。龍郎は窓を戻し、アクセルを踏み込んだ。ターボの咆哮。背中がシートに押し付けられる。ヘッドライトの光が、薄闇の先を照らしている。

 

 

 一時間ほど走らせ、特に新たな妨害も無く、目的の屋敷に到着した。

 

 司波深夜の実家である、四葉(よつば)家の本家――ではなく四葉家が所有する村落のうちの、特殊な結界の護りを敷かれた屋敷の一つ。 

 今はそこに、ひとりの女主人が暮らしている。

 

 龍郎を出迎えたのは、桜井穂波と容姿がよく似た女だった。調整体魔法師“桜”シリーズの守護者(ガーディアン)。年齢も桜井穂波に近く、ただし龍郎に対しては表情を消している。

 脱いだジャケットを渡し、本家の屋敷と構造が近い平屋建ての和洋折衷な廊下を、使用人たちの窺うような視線を浴びながら歩こうとしたときだった。

 

「――龍郎さん」

 

 客間の扉が開かれ、赤いドレスの女が姿を見せた。四葉真夜(よつばまや)。司波深夜の双子の妹にして四葉家の次期当主最有力候補でもある屋敷の主人は、目的の人物を視界に収めると、逸る気持ちを抑えるような足取りで近づいてくる。

 

「待っていたわ」

 

 龍郎の前に立つと、紅を塗った唇を開き、花のように微笑んだ。

 

「真夜。少し間が空いてしまったけど、変わり無いようで何よりだ」

 

「龍郎さんこそ。活躍は耳に届いていますわ、相変わらずですってね」

 

 真夜さま、と護衛の女が奔放な主人を諫めようとするが、四葉真夜に気にした様子は無い。

 自然に龍郎の腕をとった四葉真夜からは、香水ではない、ほんのりと佳い香りがした。

 

真昼(まひる)の様子はどうかな。もう寝ちゃったかい?」

 

「ええ。でも起きているかも」

 

「顔を見ても?」

 

 龍郎が訊くと、四葉真夜はいっそう笑みを深め、ウェーブの掛かった黒髪を揺らした。

 

「もちろん。顔を見せてあげて」

 

 落ち着いた壁紙の子供部屋だった。中に入ると普段から詰めている乳母が立ち上がり、頭を下げる。

 ベビーベッドのなかで、赤子が寝かされていた。

 

 生後四か月。無垢であどけない寝顔。隔世遺伝の影響で、髪は灰色(・・)かかっている。親戚たちの間では、将来は四葉真夜に似て美人になるだろうと評判だった。現当主である四葉英作(よつばえいさく)も、“精神干渉系魔法”を駆使して解析したのちに「秘める素質は母親に匹敵し得る」と太鼓判を押している。

 

「お父さまですよ、真昼さん」

 

 四葉真夜が声を掛けると、赤子がうずうずと腕を動かした。ぱちりと目を開ける。

 

「やあ真昼」

 

 龍郎を見て、あー、あー、と声を上げた。くすくす笑いながら、慣れた手つきで四葉真夜が抱き上げる。母親の豊かな胸元のなかで、赤子は泣くでもなく、しっかりと龍郎を見ていた。

 赤子が、小さな手を伸ばす。「抱いてあげて」四葉真夜に促された龍郎は、そっと赤子を受け取った。

 

「四か月か。それにしては」

 

「ええ。ちゃんと龍郎さんを分かっているみたいね」

 

 無垢なはずの瞳には、はやくも知性の片鱗があった。じっと見つめている。ふくふくとした頬をやさしく突くと、赤子は龍郎の指を掴まえてしゃぶり始めた。しゃぶりながらも、まだ見ている。

 

「あまり顔を出せなくて、すまない」

 

 四葉真夜の唇から、息が漏れた。短い沈黙のあと、口元に静かな感情が灯る。

 

「シワが寄っているわよ、お義兄さま」

 

 つんつんつん、と龍郎の眉間を指で押した。四葉真夜の二重瞼(ふたえまぶた)の双眸は、笑みをたたえている。そこに恨む色はない。

 

「仕方ありませんわ。今はまだ」

 

 企むような、囁く声だった。

 

「真昼はお父さまが大好きね」

 

 四葉真夜が、目付きを柔らかくさせる。司波深夜とそっくりな麗貌だが、その雰囲気は姉妹でありながら見る者に正反対の印象を与えることが多い。

 清楚で風雅な空気を醸す司波深夜に対し、可憐で妖艶な気配を纏う四葉真夜。しかし我が子に向ける情には、共通したものがあった。

 

 龍郎たちは子供部屋をあとにすると、客間へ向かった。

 賓客を招いて会食に使う際の食堂のような長テーブルではなく、二脚の背もたれの高い椅子とモダンデザインのダイニングテーブルが用意されている。

 四葉真夜は使用人が引いた椅子に腰を下ろすが、龍郎は断って自分で椅子を引いて座ると、改めて向かい合った。

 

「今日は洋風のコースを用意してみたの。いいお肉が入ったのよ」

 

 四葉真夜が目配せすると、前菜(オードブル)が運ばれてくる。

 

 ワイングラスを触れ合わせた。

 

「達也さんはどう?」

 

「日に日に大きくなるよ」

 

「手伝えることがあったら言ってね。手を回すから」

 

 主食(メイン)

 

「そういえば、開発は順調のようね」

 

「どれのことかな」

 

「例の、アレよ」

 

「俺には、“例のアレ”って案件がいくつもあってね」

 

 龍郎が笑うと、四葉真夜も笑った。

 

「技研で作っている、アレよ。生体型CAD」

 

「アレか。実証実験にはまだ掛かりそうだけど、確かに順調といっていいかな」

 

 四葉家が運営する、旧魔法技能師開発第四研究所の現民間研究所で取り組んでいる、機密性の高い案件だった。

 従来の起動式を魔法師に提供するだけのCADとは一線を画す、魔法式の構築過程をも補助する機能を持たせた、新機軸のCADの開発。厳密にはCADの中枢部品に用いる“感応石”の新素材生成を目的とした“SB魔法”と“精神干渉系魔法”と“妖魔(パラノーマル・パラサイト)”の三要素を組み合わせた研究であり、仮に実現できれば、魔法師は単独で“乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)”に近い恩恵を得ることが可能になる。

 

「後押しした甲斐があったわね」

 

「感謝してる。君にも、深夜にも、色々と助けてもらっているし」

 

「女性との食事で、他の方の名前を出すのは如何なモノかしら」

 

「実の姉でも?」

 

「だとしても、です」

 

 四葉真夜の声は、甘える響きを含んでいた。

 

「今は姉さんじゃなくて、私のことを見て」

 

 (よい)が深まっている。“夜の女王”や“極東の魔王”の異名を持つ四葉真夜の怜悧な眼差しは、対面に座る龍郎だけを映し、醒めない酔いにも似た深い熱を帯びている。

 

 龍郎は、手元の皿に視線をやった。食事はまだ終わっていない。甘いもの(デザート)が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 劇場版「魔法科高校の劣等生 四葉継承編」は絶賛上映中!!











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