*主人公視点*
もうすぐ翼のライブが始まってしまう。
ミラアルクによって10万人もの死者を出してしまうライブが。
俺はどうすべきかずっと悩んでいた。本音を言えば助けたい。だが、そうすることで未来がいい方へ向かうのかが分からなかった。
もし観客たちが襲われるのを阻止できた場合、翼に
この先のずっと未来で、シェム・ハによる知性体の統合を起こさせないためにも、出来ることならシェム・ハには元の物語と同様に、これからの世界を人に託してほしいと思っている。
だけど、本来ならそこに行き着くまでに10万人もの命が失われてしまう。
......正直、自分でも思ってるんだ。この世界でエルフナインはキャロルの身体を借りていない。だから、たとえ敵がエルフナインを攫ったとしても、シャトーの認証を突破することはできない。既に物語は変わっているから、俺がここに介入しても影響はそれほど無いんじゃないかって。
それでも未来を変えようとしないのは
──────結局は保身のためだ。
人を助けたいって気持ちに嘘はない。けど胸の奥底にあるのは、変わる未来に対処できなくなるのが怖いという気持ちだ。
俺が知る未来からこれ以上ズレないために、10万人を犠牲にしようか迷っている。......最低だな。楽な道に逃げようとする臆病者。
こんな自分が情けないと思う。
決心のつかない自分が、本当にどうしようもなく。
「今日の見回りに行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい。気をつけてね」
......了子。元の世界では既にいない人物。
彼女だけではない。奏、セレナ、ウェル、キャロル、オートスコアラー、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。俺が関わったことで、本来とは違う人生を歩んでいる人たち。
全員が俺にとって特別だったから、無茶をしてでも助けた。
じゃあ、特別じゃないなら見捨ててもいいのか?襲撃される場所も、時間も分かってるのに。本当にそれでいいのか?
「明日の凱旋ライブ楽しみだね!」
「だね!風邪をひかないように暖かくして寝ないと!」
外を歩いていると、翼のライブを楽しみにしている人たちの会話があちこちから聞こえてくる。
「チケット当たらなかったんだよなぁ。お前!当たったんならライブに行った感想聞かせろよな!」
「たっぷり聞かせてやるよ。お前の分まで楽しんでくるわ」
俺が守りたいのは......変わらなければならないのは......
「私、ライブに行くの初めてなの。早く始まらないかなぁ」
俺は......俺は───
*ミラアルク視点*
風鳴翼のライブが始まったようだゼ。
......ウチはこのライブを地獄に変える。ウチらの目的のために、ここにいる観客たちを利用させてもらうんだゼ。
「悪く思わないでほしいんだゼ」
他の奴らにバレないよう、空から会場の様子を見る。
全員がライブに釘付けになるところを───
「そこで何をやっている」
「───ッ!誰だ!!」
「誰だ、なんて......結社残党のあなたなら、あーしたちのことはよく知ってるんじゃない?」
どうしてここに......こんなの聞いてないんだゼ!?
「こそこそ何をしているのか、とっとと捕まえて吐かせるワケダ」
そう言うと、三人はスペルキャスターを取り出して起動させる。
「それはっ!ぐぅっ」
光に包まれると、三人はファウストローブを身に纏った姿へと変わる。
「ファウストローブッ!ウチ一人を相手に本気を出しすぎなんだゼ!」
「せっかく新調したおべべなんだから、使わなきゃ損よね」
見せびらかしてくれるゼ。......いや、それよりもこの状況をどう切り抜けるか考えるのが先なんだゼ。ここにアルカノイズを出せば、そっちに気を取られて......
「動くな。変な真似をしようと思わないことだ」
「チッ......」
そう簡単にはさせてくれないゼ。
『ミラアルクちゃん、私もそっちに向かうわ。もう少し時間を稼げる?』
(ヴァネッサ!?ありがたいけど、無茶を言わないでほしいんだゼ。一人相手でも勝てないのに、三人は不可能なんだゼ)
『どうにか頑張って!あと10分もあれば着けるから!』
(10分!?この状況じゃ長すぎるんだゼ!)
「急に大人しくなったわね。そのまま捕まってくれれば、悪いようにはしないわ」
戦えば瞬殺されるのは目に見えてるゼ。だったら───
「少し聞きたいことがあるんだゼ。どうしてウチが来ることが分かったんだゼ?」
「さぁな。私たちも言われてここに来たワケダ」
「それはS.O.N.G.の奴らにか?」
「答える義理はない。捕まるお前には関係のないことだ」
「まっ、待ってほしいんだゼ!まだ──」
「待たない。大方時間稼ぎだろう?それに付き合うつもりはない」
普通にバレてるんだゼ!まだ1分も経ってないのに。
まずい......サンジェルマンが捕まえようと近づいて来る。こうなったら一か八か、
ウチが賭けに出る覚悟を決めた時──
「──ッ!サンジェルマン!ビーストがこちらに向かって来るワケダ!」
「何だと!?このタイミングで......」
ウチへの注意が少し逸れた!
今発動すれば!
キィィィン
「ぐっ、これは一体......」
「サンジェルマン!?」
ちょっとした不意打ち程度じゃ刻印を付与するまではいかなかったか。けど、かなりの隙ができたゼ。
「今のうちに逃げさせてもらうんだゼ!」
「しまっ──」
奴らから離れてテレポートジェムを使う。
絶体絶命の状況だったが、運良く逃げることができたんだゼ。
奴らが気を取られなきゃ、こうも簡単にいかなかったゼ。今だけはビーストに感謝するゼ。
*主人公視点*
ライブが終わる。
観客は割れんばかりの歓声を上げ、会場は熱気に包まれていた。ミラアルクの襲撃もなく、10万人の命が失われることもない。
「みんな!今日は私のライブに来てくれてありがとう!
みんなへの感謝の気持ち、私の歌で伝わっていると嬉しい!」
『ワアァァァァ!!』
翼にマリア、それに観客たちが笑顔を浮かべている。全員がこのライブを心から楽しんでいる証。
......これでいい。この世界に生きる人たちの幸せが、俺の守りたいものなんだから。あんな悲劇は生まない方がいい。
この光景を見ると、よりそう思えるよ。
未来が変わろうが何だ!こちとら本来なら交わらなかった人たちが互いに手を取り合ってるんだ。どんな困難が待ち構えていようと、一緒なら必ず乗り越えられるって信じてる。
そんな頼れる仲間が大勢いるんだ。
っと、サンジェルマンからの通信か。
振動波の反応もなくなったし、その連絡かな。
「サンジェルマンか。ビーストを倒し終わったんだな」
『ああ。だがすまない、結社の残党には逃げられてしまった』
「偶然見つけて狙いを阻止できただけでも大手柄じゃないか。それに、お前たちでビーストがここに近づく前に倒してくれたおかげで、ライブは無事に終わったんだ。責めるところなんて一つもない」
『そうか......それは良かった』
「S.O.N.G.には今起こったことを説明したい。お前たちも一緒に向かってくれ」
『分かった。すぐに合流しよう』
俺とサンジェルマンたちはS.O.N.G.へと向かい、何があったのかを全て話した。
「......なるほど、そんなことが。ビーストの反応はこちらでも確認できていたが、結社の残党までも来ていたとは。もし撤退させていなければと考えると、ゾッとするよ。心から感謝する」
「偶然そうなっただけだ。彼から『以前ライブ会場がビーストに襲われたことがあるから、念のため空から監視してくれ』なんて言われなければ、見つけることはなかった」
俺も完全に阻止できるかは賭けだったがな。会場に隠れられていたら、アルカノイズを出されていただろう。
そうなったとしても、三人がいれば被害はかなり抑えられていただろうがな。
「ホントにビーストが来ちゃうし、敵の狙いも防げちゃったわよね。もしかしてあなた、未来が見えてたりして」
「もしも未来が見えていたなら、お前たちに殺されかけることはなかっただろうな」
「ちょっ、その時はメンゴ!鬼メンゴ!」
「ははっ、冗談だよ。少しからかっただけで、全く気にしてないさ」
「笑えない冗談なワケダ」
「ま、まぁ一件落着としよう。装者たちには、明日俺から伝えておく。
とにかく今日は助かった。翼のライブが無事に終わったのは、君たちのおかげだ」
「そうなって良かったよ。それじゃあ俺たちは帰るか」
「そうだな」
テレポートジェムを使って家へと戻る。
これで一つの山場は乗り越えたな。あとは敵の動きだが、このまま終わるとは思えない。何かしら手は打ってくるだろう。
被害者は少なく、そんでもってシェム・ハとの和解を最終目標に。
かなりハードだがやってやるぞ!
*ノーブルレッドのアジト*
そこでは、ノーブルレッドの三人が風鳴訃堂と連絡を取っていた。
『作戦は失敗したようだな。
翼に刻印を施す絶好の機会だったというのに』
「申し訳ありません。ですが、結社の幹部三人が出てくるなんて想定外です。
それさえなければ───」
『もうよい。言い訳など不要だ。
......うむ、そうさな。その力を使うのは業腹であるが、致し方あるまい』
「一人で何を話しているでありますか?」
風鳴訃堂は、まるでその場にもう一人いるかのように話していた。
『お主たちには追って指令を下す。次は抜かるなよ?
でなければ血の供給は無いものと知れ』
「分かっています。次こそは必ず」
そこで連絡が切れる。
「全く、好き勝手言ってくれるゼ。あの三人が急に出てきたんじゃどうしようもないってもんだゼ」
「敵は強大。ですが、この体を人間に戻すためにも乗り越えるしかないであります」
「そうね。私たち三人なら絶対にできるわ。
必ず神の力を手に入れましょう。お姉ちゃんも頑張るから」
彼女たちはどれだけ手を汚すことになろうと、人間の肉体へと戻るために止まることはない。
そんな決意を新たにし、三人は眠りについた。
-いよいよだ。あと少しで俺の計画は達成する-