~トレセン学園 喫煙所~
「はぁ…世知辛いねぇ…」
俺はこの間の残念なイケメンって書きやがったクソみたいな雑誌を読んでいる。
てかなんで俺が入ってるんだ?って思ったがどうやらトレセン関係者(トレーナーを除いた)ランキングだったらしい。
俺に関するコメントはどれもこれも酷い。
『顔はカッコイイけどヤニカス』
『コンビニの喫煙所でよく見かけるけどタバコを吸う度にニヤニヤしてて気持ち悪い』
『タバコ吸った後にミンティア舐めて臭いを消してるつもりなのが残念』
うっせぇな!
臭い対策をやらないより微々たるもんでもやってた方がいいだろ!
後ヤニカスっていうんじゃねぇ!
「はぁ…溜め息しか出ねぇよ…て、もうこんな時間かそろそろ校門前に待機しとくか」
今日は予約の乗務がある。
パーマーの選抜レースだ。
正直いうが…あのままだと1位どころか好成績は残せないだろうな。
トレーナーや親族なら慰めの一言を言うだろうが…
「俺はトレーナーでもなければアイツの身内じゃねぇしな。乗務に不必要な同情は要らない」
誰も居ない喫煙所で呟いた。
~トレセン学園 校門前~
「ごめんワタリさん!待たせたかな?」
「いや時間ピッタリだ、ドライバーとしてすげぇ助かるよ」
予約の時間ちょうどにパーマーが来た。
パーマーにドアサービスをして運転席に座る。
「じゃ、選抜レース会場の入り口前でいいよな?」
「うん、大丈夫だよ!」
「分かった。パーマー降ろした後に適当な場所に車停めて、観戦席に入ってレースを見るわ」
俺はそう言ってエンジンを入れ出発した。
~タクシー 移動中~
「………」
「緊張してるのか?パーマー」
「そりゃあね…なんかこう…上手くは言い表せないけどさ…あはは」
苦笑いを浮かべるパーマー。
「ま、なる様になるさ。このレースでキミの全てが決まる訳じゃないんだ。あんまし肩に力が入りすぎると…って何言ってんだ俺は」
「ワタリさんからそんな言葉が出てくるなんて意外!よっ!流石残念なイケメン!」
残念は余計だ…
「でもありがとう。少しだけ…ほんの少しだけ…リラックスはできたと思う」
嘘だ。
本当に少しでもリラックス出来たのならそんな顔はしない。
もうこれ以上踏み込むな俺。
「パーマー、そろそろ到着する。今のうちに忘れ物とかチケットとか色々確認してくれ」
「あ、うん!わかった!」
そう言うとパーマーは鞄を漁る。
普段のタクシーなら時間や距離を計算してメーターが金額を表示してくれるが、トレセン学園のタクシーは違う。
予め学園側が用意してくれた支払い用のチケットに理事長が金額を書きそれを利用者に渡す。
これなら俺のタクシーに乗るヤツはチケットを貰えさえすればタダで乗れるし俺も乗務が増えれば増えるほど給与に加算される。
ウィン・ウィンの関係ってやつだな。
「着いたぜ。じゃ、チケット下さいな。」
「はいチケット!いつもありがとうねワタリさん!」
俺は車から降り、パーマーが座ってる方のドアを開ける。
「頭と足元気をつけてな」
「はーい」
少し距離が長かったからか、パーマーは降りてすぐに身体を伸ばす。
彼女は身体を伸ばしたあとに入口へと入ろうとする。
「…パーマー!」
「え!?何ワタリさん!忘れ物!?」
「行ってらっしゃい」
「…うん!行ってきます!」
そう言って俺は彼女を見送る。
さてさて、とっととタクシーを駐車場に停めてくるか。
基本的にトレセン学園のタクシーはレース場近くに専用の駐車場がある。
そこはトレセン学園関係者のIDが登録されている為、関係者しか停められない仕組みになってる。
金の力ってすげぇなおい。
~選抜レース会場~
結果だけ言おう。
最下位だった。
走り方があまりにもパーマーに合っていない。
他の観客達やトレーナー達は同じ選抜レースを走った『メジロライアン』を注目している。
そして予想通り何処のトレーナーかわからんヤツらがライアンに声を掛けていく。
「やっぱりあなたが1番かぁ!メジロの名は伊達じゃないね!早速だけど、お話いいかな?」
「うんうん、さっすがメジロ家!期待通りの強さだよ!ぜひうちのチームに…!」
「あわわ…じゅ、順番にいいですか?ここじゃ邪魔になっちゃうので、あっちでお話を!」
残酷だがレースの結果が全てだ。
メジロメジロ五月蝿いヤツらに苛立ちを隠しながらパーマーの方へ歩み寄る。
…ん?アイツは…この間入ったばかりの新人トレーナーか?
「もっとキミに合うスタイルがあるかも…」
!!
俺は足を止める。
「私に合う…スタイル…?それって…や、ありがと!ちょっと…考えてみるよ」
そういうパーマーと目が合ってしまった。
「あ、ワタリさん!あはは…最下位になっちゃった…でも私諦めないよ?帰って直ぐにトレーニングしなきゃ!」
パーマーは足早に控え室の方へと去っていく。
ちょうど良かった、この新人と話がしたかったんだ。
「お前最近トレセン学園に入った新人トレーナーだろ?俺はワタリ。トレセン学園で雑用兼ドライバーを担っている。気軽に声をかけてくれよな」
「え?あぁ貴方がワタリさんですか!よろしくお願いします!」
「んで?パーマーに声を掛けていたのは何でだい?彼女がメジロ家の令嬢だからとかかい?」
「い、いえ!そんなことは無いです!えっと、話すとその長くなるのですが…」
~かくかくしかじか~
「はぁ…お前さぁ生徒に慰められてどうすんのさ…」
「返す言葉もございません…」
「とまぁ冗談は置いておいて…悪かったなカマかけるようなことして」
「え?」
「いや盗み聞きするつもりはなかったんだが、お前とパーマーの会話を聞いちゃってね。スタイルに関して隠さずに言うなんて漢気あるじゃねぇか」
「あ、ありがとうございます?」
俺が心配しなくても問題なかったみたいだ。
この新人トレーナーはきっとパーマーの理解者になってくれるはずだ。
あとは時間が解決してくれるはずだ。
「ワタリさんお待たせ…って…もしかしてお話中だった?」
タイミングよくパーマーが現れる。
「いや、こいつがトレセン学園の新人だったからさ。揶揄ってたところ」
「え!?自分揶揄われてたんですか!?」
反応が面白いなこいつ。
「あぁゴメンね!ワタリさんの言うことは8割流していいから!」
「ヒデェな、流し過ぎだろ!…はぁ、まぁ新人さんよ今度あったら飯でも食べながらまたお話しようぜ?」
「は、はい!是非!」
俺とパーマーは新人トレーナーに手を振りレース場を出る。
パーマーを入口前で待機させて駐車場に向かう。
車を出発させて入口前に停車する。
「待たせたな、それじゃ帰るか」
「うん…そうだね…」
~タクシー 移動中~
「……」
「……」
学園を出発した時の会話は何処へやら。
沈黙が続いてる。
「ねぇワタリさん」
気まずい空気だからかは分からないが沈黙を破ったのはパーマーの方からだった。
「ワタリさんってさ、自分に合ってるものだったりらしさとかって分かる?」
「タバコ」
「それ以外で」
「トレーナーにならなかったことじゃないか?」
「トレーナーにならなかった…?」
「そう、仮に俺がトレーナーだったとしよう。俺は正直教え子が何を考えていようがどれだけ無茶をしようがレースで勝てればそれ以外は全部どうでもいいと思ってる。けどキミのようなメジロ家の令嬢だったり他の令嬢とかは絶対に教え子に選ばないし関わりたくない。それに集る蛆虫のようなトレーナー達もな。俺は名家や歴だけのトレーナーが大嫌いなんだ。それこそトレーナーをしていたら、そいつらを殺しても何とも思わないくらいに…ね」
「じゃあワタリさん私や他の娘達も嫌いだったの…?」
「トレーナーだったら嫌いってだけで、今はお前達のことは大事な存在だぜ?じゃなきゃこんな仕事やってないって!」
「…今は…って」ボソッ
「ん?何か言った?」
「あ、ううんなんでもないよ!私さ、自分に合ったスタイルを考えていこうって思ったの。でも何にも思い浮かばなくてさ…」
その後の言葉がパーマーから出ることはなかった。
無理もない、あんな悲惨な結果になったのだ。
自分に関すること全てが疑心暗鬼になってしまう気持ちは痛いほど分かる。
ただ、
だからこれだけは言える。
「パーマー、それは時間が解決してくれるさ。大丈夫、意外とお天道様って俺達のこと見てくれてるんだぜ?」
じゃなきゃ俺は今頃生きていない
その言葉は飲み込んだ。
「ふふっ、何それ。まぁでもワタリさんらしいなその言い方。ありがとう」
「どういたしまして、お礼なら是非ともメンソールをだね…」
「私が買えるわけないでしょ!もう…」
「ちっ、上手くいくと思ったんだがな」
程なくしてトレセン学園についた。
「今日はホントにありがとうね!また今度予約するね!じゃ、またね!」
「おう、気をつけてな〜」
今日は喋り過ぎた。
俺のどうでもいい感情なんてなんで吐き出してしまったんだろうな。
同情してしまったから?
いや、考えない方がいい。
もう何もかもどうでもいい事なんだから。
一パーマー視点一
今は
その言葉が私の頭の中にこびり付く。
例え冗談であってもあの時のワタリさんの目は本気だった。
一緒にお茶した時も笑いあった時も、あの時の感情は本当は嘘だったんじゃないかって…
そんな不安を抱えてしまう。
だってそう思っちゃうんだもん。
だって…だってワタリさんは…ワタリさんの瞳には…
いつも私達が映っていないのだから
僕はね、曇らせが大好きなんだな