セッシー早くアニメで見たい
追記:色々と書き直しました。
ーーセシルス・セグムントはこの世界の花形役者である。
ーーセシルス・セグムントはセシルス・セグムントである。
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此処は、オラリオから遠く離れた大陸の果て、人の足跡などとうの昔に消え失せた、緑の海の最深部。
そこに、その遺跡は眠っていた。
まるで世界から忘れ去られた墓標のように。
巨木の根が複雑に絡み合う森の中で、血のような線が走った石造建築だけが異様な存在感を放っている。
何かを祀っている神殿だろうか。
あるいは神々が地上へ降りる以前の文明の残骸なのか。
今となっては誰にも分からない。
エルソスの遺跡、そこに奴は存在していた。
漆黒の外殻。その体躯は山の如し。表面には赤黒い亀裂が無数に走っている。その裂け目の奥では灼熱の光が脈打ち、まるで怪物の血管そのものが炎でできているかのようだった。
そして何より恐ろしいのは、その存在感だった。目の前にした者は理解するだろう。
これは倒すべき敵ではない。
逃げるべき災害だと。
嵐を剣で斬れないように。
火山を拳で殴れないように。
目の前の怪物は、生物という枠組みを超越した何かだった。
知った者がいれば、三大クエストにも匹敵するだろうと評するだろう。
神代より続く三大クエスト。下界の人間が果たさねばならない約束であり、ダンジョンが生み出した災厄の化身。
【ベヒーモス】、【リヴァイアサン】、【隻眼の黒竜】
その三柱に並び立つ第四の終末の化身。その名は【アンタレス】
人類が立ち向かうにはあまりにも巨大な絶望。その怪物がーー吠えた。
その咆哮一つで大地が裂ける。
「GUUUUUOOOOOOOOO!!」
轟音と共に閃光が遺跡を蹂躙した。
だが、
「おおっ!」
土煙から声が響く。
「すごいですねぇ! 今のは結構危なかったですよ!」
たった一人、青髪の青年が立っていた。青年は長い青髪を頭の後ろでまとめ、極東で見られる和風を思わせる装いを纏っている様は、これまた極東にいるとされる侍そのもの。彼の眼は青く、澄み切った晴天のような眼をしていた。その両手には異質な輝きと見る者を魅了する圧を放つ刀剣を所持している。
彼の名は【セシルス・セグムント】
オラリオではこの名を知らぬ者はいないだろう。いや、オラリオどころか世界中にも存在しないだろう。
世界最強。オラリオ最速の剣士。雷速と表現されるほどの常軌を逸した速度が持ち味であり、神々から【青き雷光】の二つ名を与えられた、Lv7の冒険者。
何故、ここにオラリオ最強がいるのだろうか。彼は旅の途中、道中で出会った神アルテミスから依頼を受け秘境へと立ち寄っていた。
そんな男が今、災厄の前に一人佇んでいた。威風堂々と、傲岸不遜に。
その瞳には恐怖すら浮かんでおらず、目の前の怪物を獲物として認識しているようだった。
「いやぁ」
セシルスは笑う。
「これはこれは、とんでもない怪物ですねぇ!斬られ役にしては目立ち過ぎるとは思いますけど。嫌いじゃないです。むしろ好き」
アンタレスは瞳をセシルスに向ける。それは不遜にも己の前に立つ恐れ知らずの愚者に対する侮蔑か、あるいは強者に対する期待か。その眼差しには一欠片の慈悲もない。ただ一つ、「殺す」という純粋な意思だけが宿っていた。
普通の人間ならその眼差しを見るだけで発狂し、命乞いすらするだろう。
しかし、それを真正面に受けたセシルスの顔には負の感情が一つもなく、その青い眼は新しいオモチャを見る子供のようにキラキラと輝いていた。
まるで子供だった。強敵を前にした純粋な歓喜。セシルスはただ心中にぽつりと湧き出た言葉を喜悦の感情を隠さず、眼前の厄災に問いかけた。
「さてさて、怪物さん!」
二振りの刀を構える。
「ボクを楽しませてくれますか?」
アンタレスの無数の眼が彼を捉える。次の瞬間、大地が爆発した。答えはいらないとばかりに、巨大な尾が振り下ろされたのだ。
数百メートルに渡る地面が消し飛ぶ。その余波だけで大気は震え石畳の床に大きな罅が走る。荒れ狂う暴風を撒き散らし、全てを蹂躙する破壊の権化。直撃を甘んじれば第一級冒険者であろうとも即死は免れない。
その攻撃を受けて、目の前の男は死んだのだろう。そうアンタレスが認識する前に、飄々とした声が聞こえてきた。
「これは凄まじい!舞台の幕開けに相応しい一撃です!まさに僕好みの展開です!では、失礼!」
アンタレスが反応する前にーー
尻尾が切断された。光の一閃に遅れて届いた音が遺跡内の空間を破裂させ、破壊の嵐が切断部分を中心として広まり、周囲一帯を激しく吹き飛ばした。
黒い体液が噴き出し、アンタレスが絶叫した。
「GUAAAAAAA!!」
だが切断面が瞬時に再生する。
セシルスは目を輝かせた。
「再生能力ですか!なんと厄介な!ならば!再生する前に切り落とせばいい!いいですねいいですね流石は漆黒の怪物!打破してこそ!天剣に至れる道を進む事ができます!であればやる事は一つ。僕が天剣に至る壁、それを超える為に貴方には踏み台になってもらいます!怪物さん!」
セシルスの純粋な歓喜を受け、アンタレスは怒り狂った。無数の閃光を空へと打ち上げ、それらが流星群となって降り注ぐ。山脈が消し飛び、大地が蒸発する。遺跡などもはや原型すら残っていないだろう。
その閃光を避けセシルスは、自身の感覚を引き延ばし、脳内空想視野を拡大した。これは彼が持つ圧倒的な脳の処理速度と想像力を活用し、戦場全体を脳内の劇場として構築する能力の応用でもある。
常日頃から世界を舞台と捉え、自身を世界の主演たる【花形役者】と考えているセシルスはこのエルソスの遺跡を今までで一番の大舞台とし、脳内劇場にストーリーを思い描く。一番見栄えがいいように。
役者は舞台の隅から隅まで把握しなければ。
セシルスは主演である自身の立ち位置を中心とし、配役された役者達の立ち回りや舞台効果、風景を自分好みに演出、すなわち世界的に最も映える展開の実現へと奔走する。
自分が演じる舞台の観客たちへ捧げるのだ。
「皆さん僕の晴れ舞台、きちんと観ていてくださいよ。僕を無視してご歓談をするのも構いませんけどね!いや、やっぱりダメです!」
そう言ったセシルスの脳内には無数の観客たちの声が鳴り響いていた。
『⚫️⚫️⬛️⬛️!』 『⬛️⬛️⬛️▼▼▼?』 『⚫️⚫️⚫️⚫️⚫️』
『▼▼▼⬛️⬛️』 『⚫️▼▼⬛️⬛️⬛️』 『⚫️⚫️⚫️⚫️▼⬛️』
『ーー▼⬛️⬛️⬛️』 『⚫️⚫️⚫️⚫️!?』 『▼▼▼!』
彼らの声に内心で頷きながらセシルスは降り注ぐ閃光を避け、死線を走り続ける。光の雨の中を駆ける。跳ぶ。回る。斬る。まるで踊るように、
流星の隙間をすり抜け、アンタレスの体を切り刻んでいく。その姿はまさに雷光。鬼神の如し。
アンタレスは苛立つ。また当たらない。また逃げる。また傷をつけられる。
巨大な尾が振るわれる。大気が裂け、数キロ先の山脈が吹き飛ぶ。だがしかし、雷光と化したセシルスには当たらない。
「遅いですねぇ!雨粒だろうと!砂粒だろうと必要であるなら避けれますとも!」
そのセリフがアンタレスの鼓膜に届いた直後、セシルスは既に頭上にいた。二振りの刀が怪しく煌めき、振り下ろされる。神速ともよばれる速度で。
一瞬で数百の斬撃がアンタレスへ叩き込まれた。
甲殻が裂ける。血が噴き出す。アンタレスは絶叫した。だが、アンタレスは脅威の再生能力持ち。この程度の損傷など傷とは言えないものだ。次の瞬間には傷が消えている。
であれば、セシルスがやる事はただ一つ。再生が間に合う前に切り刻めばいいだけのこと。
次の瞬間、刀を構えたセシルスは常軌を逸した速度でアンタレスの体を切り刻む。その斬撃は同じ第一級冒険者でも見切る事は難しいだろう。
舞台の中心に、無数の光刃が乱舞する。斬撃が漆黒の巨体を甲殻ごと斬り刻み、光刃が背後の壁や柱をも切り裂く。アンタレスの絶叫の声すら掻き消された。
切り裂く。再生する。切り裂く。再生する。切り裂く。再生する。切り裂く。再生する。切り裂く。切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂く切り裂くーーー
音が遅れてやってくる。セシルスの剣技、それは力任せではない、磨かれた純粋な技術。武の神が見れば『剣を極地に至った剣士』たる天剣に到達出来るかもしらないと評するに違いない。
セシルスが手にするのは二振りの特殊武装、邪剣【ムラサメ】と夢剣【マサユメ】
無駄な装飾はない。宝石もない。黄金の飾りもない。だが、美しい。
洗練され尽くした刃は、まるで「斬る」という概念そのものを具現化したかのようだった。その剣は鍛治を司る神をして下界における至上の域に到達している剣であると言われている。
神造兵器と言っても差し支えない名剣ではあるが、セシルスにとって自身を引き立てる剣でしかない。
剣が主役ではなくなる。
剣が彼を飾る道具になる。
まるで剣そのものが理解しているかのように。
「この男こそが主人だ」と。
「GUOOOOOOOOO!!」
体を切り裂かれたアンタレスが身を捩り、絶叫にも似た叫び声を上げながらセシルスへと攻撃を仕掛ける。セシルスは身を捩って回避する。当たらない。アンタレスは理解できない。
なぜだ。なぜ当たらない。なぜ傷つく。なぜこの男は笑っている。
こうなればーーー
アンタレスが思案している中、セシルスは怪物王の胸元へ終幕に相応しい斬撃を放った。胸元にある魔石。怪物の弱点目掛けて。
違和感。
「ふむ...おや?これは一体...」
セシルスは首を傾げた。その瞬間、アンタレスの胸部に刻まれた傷口が大きく裂ける。
黒い甲殻の奥、怪物の核たる魔石が見えた。
セシルスはその核を見て目を見開いた。
セシルスの動きが止まる。ほんの一瞬、戦場では致命的な隙。
隙を見逃せるほど、アンタレスは生温い怪物ではない。振るわれる尻尾。降り注ぐ閃光の流星。しかし、セシルスの反射神経はそれを見切った。紙一重で回避すると、そのまま懐へと入り込むべく踏み込んだ。だが、アンタレスはまるで攻撃を回避させることを想定してたかのように前脚による攻撃を繰り出す。
予想外の反撃に、セシルスは咄嗟に反応して受け流すも、衝撃を殺しきれず大きく後方へと吹き飛ばされる。
アンタレスの胸部は既に再生を終えていた。魔石は既に甲殻に覆われて見えなくなっていた。
だが彼は見ていた。魔石の中、そこに浮かぶ人影を。
そこに浮かぶのはつい先ほど出会った神アルテミス瓜二つの少女であった。いや、アルテミス本神なのだろう。あれからは神性を感じた。それも先ほど出会った神アルテミスと同じ神性を。怪物は神を取り込んだのだ。
アンタレスが彼女の神性を吸い上げている。
少女の身体から溢れる神性が、確かに怪物へ流れ込んでいた。
「そんな事だろうとは思っていましたがなるほどなるほど。これはちょっとまずいですね。」
アンタレスはアルテミスを取り込み、不完全ながら融合している。不滅の神を媒体に、この世界に何度でも復活する。
本調子ではないのだろう。今はアルテミスを取り込んでいる最中であり、完全に融合すれば自分では勝てず、世界そのものが滅んでしまうとセシルスはそう解釈した。つまりーー
「すなわち!囚われのヒロインを僕が颯爽と助ければ良いということですね!まさしく英雄譚のようではありませんか!世界を滅ぼさんとする怪物を打ち倒し、ヒロインを救い出す!実に雅で僕好みの物語!」
セシルスは自分好みのシナリオに大喜び。相手をするのが神に準ずる強さの怪物とはびっくりだが。であればーー
次の瞬間。ズバァァァァン!!
黒い血飛沫が舞った。アンタレスの胸元
そこに深い斬痕が刻まれていた。
セシルスは既に数百メートル先に立っている。
剣を振った様子もない。構えた様子もない。
ただ笑っているだけ。
だが現実には斬られていた。
あまりにも速すぎる。
剣閃そのものが視認不可能だった。
「いやぁ、硬いですねぇ!オリハルコンより硬いです、怪物さん!」
セシルスは肩を回した。
アンタレスが再び咆哮する。
怒り。憎悪。屈辱。怪物王は理解した。この人間は危険だ。そして神を取り込んだことを理解していると。
「GAAAAAッ!」
アンタレスは力を使う事を選んだ。本来なら使うはずのなかった力。神の威。使えば制御できなくなる。使えば自身すら崩壊しかねない。だが、使わなければ負ける。その事実を認めた瞬間には怪物王は本気を出さざるを得なかった。取り込んだばかりの神の力を使い、眼前の人間、『敵』を滅ぼさなければ、と。
大地が悲鳴を上げた。
山脈が沈む。空が歪む。世界そのものが、その誕生を拒絶するかのように歪む。神を喰らい、怪物は新たな領域へ到達した。
その胸の奥、囚われた月の女神。アルテミスの神威が脈打つたび、アンタレスの力は増していく。
神威が収束する。空に巨大な月が現れる。
アルテミスの神力とアンタレスの暴虐が融合した破壊。世界そのものを消し飛ばす光。
空を見上げたセシルスは一言、
「これは...凄まじい。で、あるなら本気を出さざるを得ませんね。流石は漆黒の怪物。それでこそ僕の壁に相応しい。」
終末の化身を前にセシルスは少しばかり気持ちを切り替え、気合いを入れる。誰の目にもわかりやすい気持ちの変化は作劇上でも重要である。このような描写は次のシーンへ移行したと観客たちにも分かりやすく伝えなければならない。
それをしてからセシルスは観客たちにむかって、少しばかりの沈黙を強いた。
常日頃から聞こえる観客たちの声を黙らせるなど、自分でも思いがけない行動である。此度の大舞台に気合いを入れている証拠だろうか。
であるならーー
セシルス•セグムントは証明する。いずれ【天剣】に至る自分を、世界の主演たる自分を。勝者は自分のみであると。セシルス•セグムントはセシルス•セグムントであると。
「観客の皆さん、天上の観覧者たちにご照覧あれ。ーー世界が誰を選ぶかを」
そう述べた直後、セシルスに向かって月光が質量を持って降り注いだ。衝撃が大気に広がり、地表をかき混ぜる。世界を蹂躙しながら覆い被さるように頭上へと降り注ぐ。
だが、セシルスには当たらない。残像すら残らず、音の一つすら残さず死の光線、幾千もの死線を避けて避けて避けて避けて掻い潜り掻い潜り掻い潜り掻い潜り掻い潜るるるるるる。
当たったら最期、骨すら蒸発する光線。最期の一言すら言えない終幕の一撃。そんなものによる幕引きなど、セシルスは認めない。
当たらなければどうということはないのだ。見ろ!これがセシルス•セグムントだ!と言わんばかりに笑う。
厄災に勝ちヒロインを救うと決めたのだ、勝ち取るためにーーー
「ここで覚醒のターン!想像力、進化させます!」
傷から流した血や浅からぬ痛みを無視し、セシルスは自身の思考を超加速させ、一番舞台映えのする演出と勝利へのプランを弾き出すため、全身の機能を舞台映え優先のため諸々カットする。
まず色を識別する機能をカット。世界は白と黒の二色でしかなくなった。様々な色で構成された世界は彩り豊かで美しい。だが、時には情報量の多いと感じる日もある。情報を減らすことで物事の本質を際立たせる事ができるのだ。
続いて、音を聞く機能をカット。音が消えたことで生まれる緊張感や集中力に良さがある。無音の中では、小さな動きが際立つ。
一歩。指先の動き。視線。呼吸。普段なら気にならないものが異様な存在感を持つ。
静寂そのものが演出になるのだ。
最後に、戦いに必要のない体の大部分の機能をカット。痛みとかは要らないし、匂いとかは今の舞台には必要ない。頭の方を舞台のための思考に全集中する事が大事だ。
「さて、参りますか。第二幕の幕開けとしましょう!」
そう言うと、セシルスは白黒の世界で身を低くし、草履を脱ぐ。
覚醒したセシルスを眼前にし、アンタレスの瞳が細くなる。
本能が叫んでいた、危険だと。目の前の存在は変わっていない。
身体能力が上がったわけではない。魔力が増えたわけでもない。神威を得たわけでもない。
それでも、何かが違うと。決定的に。
アンタレスの体が月光の如く光り、感情のまま放たれた光線が今まで以上の速度と威力を伴ってセシルスへと迫る。
アンタレスを中心とした光の雫が雨のように降り注ぎ、一種の結界として機能していた。
しかし、当たらない。眼を凝らして見れば、雷光が走っていた。 光の洪水の中を。神威の中心を。何事もないかのように。アンタレスの瞳が見開かれる。
あり得ない。なぜ当たらない?何故何事もないかのように走っているのだ。
違う。ただ走っているだけではない。
斬っている。光を。熱を。衝撃を。魔力を。神威を。存在する全てを。
退路となる場所は既に無く、道とよぶべきものは正面にしかない。
色も音もない世界に死の可能性が埋め尽くされる。マズいマズいので燃えてきた。死を目前としたセシルスは自身の限界を超えてゆく。
実際に斬るのはぶっつけ本番であるが、セシルスは出来ると確信したのだ。「想像した自分を、僕は必ず超えていける」という思いを込めて。
「残り十歩!」
アンタレスへの距離を目測、音を置き去りにして踏み込む。走り出したセシルスを狙った光線が放たれるのを、紙一重のところで回避する。
セシルスは無限に思える距離をゼロに近付けるために突き進む。全ては勝利のため。自分がヒロインと定めた女神を救うため。
セシルスは必ず成し遂げる。成し遂げたいから成し遂げるのだ。
「残り九歩八歩七歩!」
避けられた苛立ちを隠さずにいたアンタレスは、たまらず大気の壁を突き破らんばかりに接近し、右脚を振り下ろした。
次の瞬間、アンタレスの右脚が切り落とされた。
剣が振るわれるたびに道が開く。終末の光が断ち切られる。
モノクロに見える無音の世界。
セシルスには何も聞こえない。余計な情報もない。痛みもない。だからこそ迷うこともない。あるのは最短距離。最適解。勝利への道筋。
「六歩!」
手にした【邪剣】と【夢剣】で接近してきたアンタレスの甲殻を切り裂き、隠されていた魔石を目測、囚われのヒロインの姿を発見。流石は自分、と脳内で自画自賛をする。
「五歩!以下省略!」
残りの歩数カウントを省略し、空気の面を蹴り、胸部の前へ上がる。
そこから、セシルスの一閃が魔石へ迫らんとーー
「ーーーー」
した瞬間、躱した筈の光線が爆発し、セシルスの頭が爆風に殴られていた。
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『此処は...?』
先ほどまで遺跡の中にいた筈の自分が、気が付けば泉のほとりで立ち尽くしていることに、セシルスは首を傾げた。
きょろきょろと辺りを見回したセシルスは、あることに気が付いた。
『此処は確か、アルテミス様と出会って依頼を受けた場所ですね。もしかして夢?』
直前に何をしていたか忘れるほど自分は阿保ではない。
セシルスはこの場所で、アンタレスの話を彼女から聞き、アルテミス様に殺してくれと頼まれ、神を殺すことが出来る『オリオンの矢』に触れることが出来ず、それにムカッ腹が立ったのでアンタレスを斬ることを決意し、一人エルソスの遺跡へと向かった筈だった。
『あ!矢のこと忘れてました!あははは!選ばれ無かった僕が現実逃避しているみたいに思えてきました。うん、これはよくない』
そしてーー
「いやぁ、封印された古代の怪物が相手だなんて、テンション上がりまくりですよ!なんだか燃えてきた。」
「そう上手くいくものか、【青き雷光】」
そうセシルスに返答する少女の名は神アルテミス。此度の厄災が取り込み、セシルスがヒロインと定めた女神である。
アルテミスはその勢いのまま語る。
エルソスの遺跡内部に封印されたアンタレス。その討伐に赴いた【アルテミス•ファミリア】だったが、圧倒的な力で蹂躙されてしまう。
これを地上に出すわけにはいかないと懸命に戦う【アルテミス•ファミリア】達だったが、眷属が全滅してしまった。
眷属が全滅した事実に耐えられないアルテミスは、神の力を行使して皆を蘇らせた。
地上で神の力を使うことはルール違反であり、天界へと強制送還されてしまう禁忌である。その対価として強制送還される筈のアルテミスだったが、最悪なことにアンタレスに喰われてしまった。
本来であれば怪物に喰われても取り込まれない筈だが、アンタレスは神の力を無効化する漆黒の怪物。アルテミスは送還されずに取り込まれた。
このままアルテミスを取り込んだアンタレスは神にも人にも滅ぼすことの出来ない存在と化し、彼女が愛した下界を滅ぼすだろう。
アルテミスは悲しみの中で【英雄】を求めた。怪物を倒す英雄を。救いを求めて祈った。
アルテミスは最後の力を振り絞って一本の槍、否【オリオンの矢】を造り出した。
下界で唯一、彼女を殺すことが出来る神造兵装。故にアルテミスは探していた。自らを殺せる者を。
そして、セシルスに出会った。彼の名は世界中で知られている。世界最強、英雄候補。
アルテミスは彼に期待した。彼なら必ず自分を殺せると。そして【オリオンの矢】を持たせた。だがーー
「だが、君は【オリオンの矢】を扱うことは出来ない。君ではあの厄災を滅ぼすことすら叶わない。頼む、セシルス。私をオリオンの元へと連れて行ってくれ。」
『いや〜正面から言われると心にくるものがありますね。僕なら倒せるかもしれないのに!』
『セシルス』が唇を尖らせる。そのまま、彼は夢の中のセシルスの言葉を待つ。
「嫌です。ちょう嫌。獲物を前にして逃げ出す僕じゃありません。この【矢】でしか解決出来ないだなんて、そんなシナリオ認めません!」
即答だった。セシルスは手に持った【矢】を手に掲げてポーズを取る。
「何、何故!?」
アルテミスは困惑する。
「やろうと思ったら必ずやる。それが僕のモットーですから。何度言われようとも変わりません。それに僕、オラリオで一番聞く耳を持たない冒険者であるのは貴方も知っている筈。 それに、この【矢】を使えないなら使えるようになればいい!」
『セシルス』はその言葉を聞いて満足そうに頷いている。それからいくつかの問答を重ねた後、アルテミスはこう言った。
「はぁ...分かった。たが、無茶はするな。何かあったらすぐ逃げるんだ。それと...」
「おや?頼み事ですか?それとも説得ですか?一体どのような言葉が来るのか楽しみですねぇ」
そのセシルスの言葉に、アルテミスは目を閉じて一泊おいた。そして、その目に『セシルス』を映しながら。泣きそうな顔で一言。
「下界を頼む」
.......託された。これは流石のセシルスも恐れ入った。
「これは...ズルい」
『パーフェクト!!!』
そう言う『セシルス』の手には、【オリオンの矢】が握られており、それは淡く光っていた。地上では行使されない筈の神の力が溢れ出し、『セシルス』に流れ込む。そしてーーー
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託された。夢の中で、アルテミスに力を。どういう原理かは分からない。これも下界の未知なのだろうか。それとも夢を鞘とする【夢剣】の力によるものだろうか。
「ーーッ!」
セシルスの意識が現実へと回帰する。意識が夢へと飛んでいた時間は、一秒にもその半分にも満たなかった。
手に持つ【夢剣】には月光が迸っていた。柔らかな月光の光。夜空の輝きを凝縮したかのような美しさ。
それはまさしくアルテミスの神威だった。【オリオンの矢】と同じ性質を持つ、今この瞬間にこそ最も輝きを放つ武器である、とセシルスは認識した。
であれば、殺せる筈だ。この剣なら。
怪物を殺すには魔石ごと斬るしかない。魔石の中のアルテミスごと斬ることになる。そんなのは認められない。ヒロインが死ぬことでしか世界が救われないなんて、後味の悪い結末は望まない。思い描いている幕引きとも異なる。
であれば、アルテミスを切り離して斬ればよいのでは?、という考えが頭の中に思い浮かんだ。
それは理を断つ行為である。人の力は神に通じない。
それはまさしく【天剣】の領域、神の力に匹敵するだろう。人の想像力は無限大であるが、神の領域に至るという発想はおこがましい。
たとえいけるとしても立ち塞がる壁は何千にも及ぶだろう。
ではセシルスは諦めるのか。否、諦めない。諦めることができない。壁が立ち塞がるなら超えればいいだけのことだ。
「狙うはーー」
アルテミスとアンタレスの繋がり。それを斬る。やったことはない。だが、出来ると信じ、実現させる。その想いと力が今のセシルスにはある。
アルテミス様の神威も頼もしい。沈黙しているが観客たちもいる。しくじらないしくじらない燃えてくる!
だがしかし、流石は神を取り込んだ怪物。セシルスの手に持つ剣からアルテミスの神性を感じ取ると、それが自身を殺せ物と認識し、叫んだ。
恐怖だろうか、或いは勝ちを確信し勝利に酔う咆哮か。抗うことへの怒りかは分からない。
『GAAAAAAA!!!』
規格外の咆哮。大地を砕き大気を震わせる覇気の嵐。聞いたものを強制停止させる力を持った雄叫びが物理的圧力すら伴ってセシルスの全身へと降り注ぐ。
だがしかし、セシルスは怯まない。咆哮を斬り迷わずアンタレスの胸部前まで到着する。
そして、セシルスは笑い、告げる。
「剣客、セシルス•セグムント」
余分な肩書きなど不要。この身、だだの剣客であり、世界の主演にして、天剣への道を望むもの。
一閃。世界が割れた。たった一振り。閃光が走り、アンタレスの体を切り裂く。アンタレスの巨体が二つに分かれる。
巨大な魔石に亀裂が走る。しかし、アルテミスには一切の傷が無い。
魔石だけ、アンタレスだけが、正確に切断されていた。
理解できないといった声をあげながら、崩落していった。あり得ない。
魔石ごと斬った。なのに、アルテミスだけが無傷。
まるで、最初からそこに存在していなかったかのように。
アンタレスは、最期まで理解できなかった。何故、どうやって、神を取り込んだ己が斬られている?
大地が揺れる、森が震える、終末が崩れた。
セシルスは剣を振り抜いたまま立っている。
月光が溢れ、神威が空へ昇る。閉じ込められていた女神が解放される。
アルテミスの身体が落下すると、セシルスは空中で彼女を抱えて着地した。
「今回はこれにて終幕!観客の皆さん。万雷の拍手を是非!お願いします!あ、もういつも通りにご歓談を再開しても構いませんよ。」
『⚫️⚫️⚫️⚫️⚫️!!』 『▼▼⬛️⬛️⬛️!!』 『⚫️⬛️⬛️⬛️!』
『⚫️⚫️▼▼▼!』 『▼⬛️⬛️⚫️⚫️!!』 『⚫️⬛️▼▼⬛️』
『▼▼⬛️⚫️⚫️!!!』 『⚫️⚫️⚫️▼▼』『⚫️⚫️▼⬛️⬛️▼!』
途端に、沈黙を強いられていた観客たちの声が爆発する。まるで、今回の舞台に万雷の拍手を送っているようにセシルスは感じ、満足そうに頷いた。それからーー
「無事でよかったです。アルテミス様」
そう口にして、セシルスはカットした自身の機能を元に戻し、彩りを取り戻した世界の彼女の顔を見る。
セシルスの腕の中で眠っている彼女。その、美しい彼女の顔を見ていると、ふと、笑ったかのように見えてーー。
「貴女が大事に想う人も、貴女を大事に想っていますよ。」
そう、セシルスにしては優しい口調で紡がれる、悪夢から解放された彼女への言葉。夢は、起きて見るもの、魅せるものであると証明するように。
ーーー月光が2人を照らしていた。
ちょっとセシルスの強さを盛り過ぎたかもしれない。ごめん
今話のセシルスの強さ
元のステータス、lvに加えて各種武器の強さ➕ヒロインを助ける為の覚醒➕オリオンの矢から溢れ出すアルテミスの神性でlv➕3くらいの強さになった。
ステータスとかどうしよう
【邪剣ムラサメ】解説
•捉えた『芯』を両断する魔剣
•形のないものを斬れる
•リゼロ世界に存在する馬鹿みたいに強い剣、通称十代魔剣の一振り。
【夢剣マサユメ】解説
•夢を鞘とする魔剣、この世の理から外れたものを斬ることが出来る
•願いを叶える剣力を宿す
•使用する度に使用者の夢を一つ代償にする必要がある
•同じく十代魔剣の一振り
本作だとダンまちを基準とした感じなので、ここまでは強くない。
ダンまち風
【邪剣ムラサメ】
•第一級特殊武装
•不壊属性
•極東のとある一族に伝わる妖刀。セシルスが獲っていった。
【夢剣マサユメ】
•第一級特殊武装
•不壊属性
•夢を司る邪神の体の一部から造られた武器。一応神造兵装?素材はセシルスがぶった斬って持ってきた。
•夢に関してなんか出来る(今作でやったような感じ)