どんなプレイヤーにも始まりはある。これは作中に登場するあるプレイヤーの最初のゲームをそのプレイヤー視点で書きました。
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目を覚ました時、私は蒼い部屋にいた。
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壁も床も天井も家具もすべてが暗い蒼色で統一されていた。
まるで海の底に沈んでしまったのではないかと思えるほど暗い蒼だった。
不思議と不快感がないのは、私が存外にこういう場所が好きだからかもしれない。自分というものがわかっていない私にとっては意外な発見だ。
そんな発見にとくに喜びを感じることもなくベッドから起き上がった。寝心地は悪くなかった。いや、むしろ良かった。普段寝ているベッドよりも何倍も良いくらいだ。
起き上がった私は自分の姿を確認した。
「へえ・・・」
自分で着た覚えのない服だった。首から下げられたロザリオに黒く長いワンピースのような服、そして頭に被らされた頭巾。足元は蒼いブーツだった。
「シスターかな?」
誰もいないのに呟いてしまった。別にこの服装に不満があったわけじゃない。寧ろこういう服は嫌いじゃなかった。
私はゆっくりとベッドから降りると部屋を改めて見回した。蒼いこと以外だと非常に質素な部屋だと思った。ベッドの寝心地が良かったのに部屋はあまりにも質素だった。小さなチェストと何か書き物をするための机、それに付属している椅子。カーペットも敷かれていないフローリング。
蒼いことを除けば随分と殺風景な部屋だ。
窓もないこの部屋から出る手段は壁や床と同じように蒼く塗られたドアだけだった。
少しためらいはあったがいつまでもここにじっとしている訳にはいかないので部屋から出ることにした。
見た目の重厚さに反してドアは簡単に開いた。
廊下に出るとやはり蒼かった。蒼くて質素な廊下が続いていた。
奥に自分の部屋のドアより大きな観音開きの扉があることに気づきそこまで進んでみることにした。
さほど距離があるわけではなかったが、思ったより疲れてしまった。
そしてゆっくりと扉を開けた。
そこには3人のシスターがいた。
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その部屋は先ほど私がいた部屋よりも何倍も広く豪華だった。高い天井にステンドグラスまでついている。そして例にも漏れず蒼かった。
それは部屋というより講堂と言った方が正しいかもしれない。複数のベンチが均一な距離に並んでいてそのベンチの正面には蒼いステンドグラスがついてた。
先着してた3人のシスターたちはバラバラに腰かけていた。
「アンタで最後みたいやな」
その中で一番小柄で黒髪ショートカットのシスターがそう訊いてきた。
「だと思います・・・」
私は少し自信なさげに答えた。
「まあ揃ったってことで始めるで。といってもこれを観るだけやけどな」
そう言うと彼女はステンドグラスの下にあった大きな映写機のスイッチを入れた。
映写機からは味気ない映像と無機質な声で説明がはじまった。
これは人が死ぬゲームであること、参加者は合計で12人いること。その12人は紅・蒼・翠の陣営に分かれていて自分たち4人は蒼の陣営であることが伝えられ各陣営はそれぞれイメージカラーの聖堂を拠点として活動することが説明された。どうやらここは聖堂というらしい。
そして次に何をするかが伝えられた。私たちがすることはこの聖堂に巣くっているモンスターたちを倒すことらしい。各陣営ごとにモンスターを倒しもっとも多くのモンスターを駆除した陣営の勝利。
ただし、他の2陣営が制限時間を待たずして全滅した場合はモンスターの駆除数に関係なく勝利となる。
次はモンスターについての説明へと移った。
モンスターの数は3種類、狼の頭をした獣人と鱗だらけの魚人、翅の生えた蟲人それぞれの姿を模したロボットであるらしく、行動範囲は各陣営の拠点となる聖堂以外の全てとのことだった。
モンスターたちはそれぞれ特性に沿った攻撃を仕掛けてくるという。獣人は火を使った攻撃、魚人は水を使った攻撃、蟲人は風を用いて攻撃してくる。そして各陣営が持っている武器はその3種類のモンスターのうち1種類には2倍のダメージ、他の2種類にはそれぞれ等倍・0.5倍のダメージであること、モンスター側の攻撃もそれは同じである。それぞれの相性については各プレイヤーが状況を見極めて判断することが告げられた。
そして最後に制限時間は4日間であることが告げられると映写機は停止した。
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無機質な説明が終わると映写機を操作していた、小柄なシスターが音頭を取った。
「まあ、最初は自己紹介から始めることにしましょか?」
その言葉に私も含めた他の三人は頷いた。
「ウチは[[rb: 黒依> クロエ]]っちゅうプレイヤーネームでやらしてもろてます。よろしゅうな! 一応今回が48回目や」
その言葉に私は驚いたが他の二人はそれほど驚いてはいなかった。どうやら彼女ほどではないが経験者のようだ。他の二人もそれぞれ自分のプレイヤーネームと経験回数を告げた。
最後は私の番だ。自分のプレイヤーネームと今回が初めてであることを告げた。
「アンタ初心者さんなんやな?」
そう言いながら私の顔を覗き込んできた。それはまるで面白いものを見るような笑顔だった。少し不快な気持ちを感じながら彼女の顔を改めてみた。
癖のない黒髪のショートカットに大きく黒目がちな瞳、それでいて少し釣り目なのが猫やキツネを連想させるが不思議ととっつきづらさは感じなかった。
黒依さんは私の手を握ると屈託のない笑みを浮かべていった。
「初心者さんはウチと組むでよろしいかな?」
私は突然の申し出に面を喰らった。
「二人もそれでええよな?」
黒依さんの言葉に他の二人もそこまで躊躇いもなく頷いた。初心者の世話をしたくないという意思表示だったのかもしれない。
私は彼女に手を引かれて聖堂の一角にある武器庫へと引き込まれた。蒼いドアを開けると壁には様々な武器がかけられていた。正確にはすべてが銃だった。小型の拳銃もあれば軍人が使うようなもの、ハンターが使うライフルもあった。そのどれもが私たちの陣営と同じ蒼色に塗装されていた。
「そういえばさっき説明でモンスターや武器には相性があるって言ってましたけどあれってどういう理屈なんですか?ゲームとかファンタジーならわかりますけど・・・」
私がそう訊ねると黒依はそんなことかといった顔をして口を開いた。
「まず、武器はな特殊な弾丸を使っとるねん。Aのモンスターのロボットに簡単に貫通できるけどBやと穴をあけるだけ、Cやったら凹ますぐらいって感じでな」
「なるほど・・・、じゃあモンスターの攻撃は?」
「ウチらの身体はな、もう普通の身体やないんよ」
「えっ・・・」
困惑した私を気にせず黒依さんは続けた。
「ウチらの身体はどういう技術かはわからへんけど、防腐処理っていってなウチらの身体はな死んでも腐らへんのよ」
彼女の説明に私は言葉を失った。そんなことがあるのか?
「ま、まさか・・・そんなSFじゃあるまいし・・・」
そう狼狽える私に黒依さんは仕方ないって顔をして武器庫にかけてある銃剣を手に取った。
「まあ信じられへんのもしゃーないな。嬢ちゃんよう見とけな」
そう言うと黒依さんは自分の腕に銃剣の刃を当て思いっきり引いた。
「!?」
私が声にならない声をあげるのと対照的に黒依さんは淡々としていた。
「見てみ?この通りや」
黒依さんの傷口には赤い血はなかった。ただ綿のようなものが乗っているだけだった。
「まあこういうことやウチらの体はAのモンスターの攻撃には強く、Bのモンスターには等倍、Cのモンスターの攻撃には弱い。そんな体に改造されてるんや!もしドナーカード持ってるなら帰ったら捨てた方がええで。こんな身体臓器移植なんてできへんからな」
呆気に取られている私にそんなことを伝えると黒依さんは私に向き直って笑みを浮かべながら言った。
「呆けてるのもそのくらいにしていくつか武器を選ぶで」
「えっ?」
「チュートリアルがてら探索に行くで。ウチの仮説が合ってるかも確認せなあかんしなぁ」
そういうと黒依さんは壁にかけられている銃を選び始めた。
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私たちは延々と白い廊下を歩き回っていた。腰に巻いた蒼いベルトには小型の拳銃が2丁と黒依さん曰く発煙筒だろうという筒が3つぶら下げていた。それに黒依さんは海外ドラマで特殊部隊が持っているようなショットガンを構えていた。私はというと先ほど黒依さんが腕を切るのに使った銃剣を肩からぶら下げていた。
「アンタはなんでこのゲームに参加したんや?」
唐突に世間話を振ってきた黒依さんに戸惑いながら私は答えた。
「突然黒服の方がきて、『貴女にもしかしたら向いていることが見つかるかもしれません』と言ってきてそれに乗ったんです」
「へぇ、スカウト組かいな!」
「スカウト組?」
「プレイヤーのごく少数しかおらん選ばれしメンバーや! アンタ別嬪さんやしなぁ」
「はぁ……」
気のない返事をしてしまったが、私も話を振ることにした。
「あの…黒依さんはどうして?」
黒依さんが口を開く前に、曲がり角の向こうから音がした。その瞬間、先程までの人懐っこい笑顔は消えた。
「黒依さん?」
私の言葉に彼女は言葉ではなく人差し指を口の前で当てるジェスチャーで答えた。
暫しの沈黙の後、銃声が聞こえそのすぐ後に戸惑いの声、そして獣の咆哮と女の断末魔が聞こえた。
私はあまりの衝撃に思わず黒依さんの片腕を掴んでしまった
「嬢ちゃん、腕を掴むのはええけどそのまま動くには堪忍な」
そう釘を刺された私はゆっくりと手を離した。
「ゆっくりあの角の先を覗くで」
淡々とそう言いながら黒依さんは足を進め私も後をついて行った。
その先には紅い銃を握った2人のシスターの亡骸が転がっていた。
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不思議と死体への恐怖心はなかった。血も出てない人間の形を保っていたからだろうか?それとも……。
しかし私は体を強張らせた。この先に2人を殺したモンスターがいる。こんなにあっさりと殺してしまうような化け物が…。
「足元にきぃつけや。嬢ちゃん」
そういうと黒依さんはゆっくりと前へ足を進めた。
私も彼女について行った。そして次の角の先に奴はいた。
ハエの頭をした悍ましい姿をした蟲人。
私は焦った今の武器では勝てないそう思ったから。黒依さんに一度撤退しようと言おうとした時だった。
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廊下に鈍い銃声が響いた。
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銃声に驚きながら黒依さんを見ると構えていたショットガンの銃口から硝煙が上がっていた。
そして、再び蟲人の方を見るとハエを模した頭は綺麗に吹き飛んでいた。
「なんで?」
私は想像と違う光景に純粋な疑問の声を漏らした。それを察してか黒依さんは再び笑みを浮かべながら私に話しかけた。
「嬢ちゃん、ぶら下げとる銃の裏側みてみぃ」
私は急いでベルトにかけいる銃の裏側を見てみた。そこには小さなマークが刻まれていた。
「これって火の玉のマーク?」
「嬢ちゃん、このゲーム続けるんなら先入観は捨てなあかんで」
不敵に黒依さんはそう言った。
「先入観?」
「そや、アンタ自分の武器があの敵には不利やって思ったんやろ?」
図星だった。それを見越して彼女は続ける。
「火・水・風の三竦み。ソシャゲなんかやとようある設定や。今回のゲームも根本は一緒や。でも問題は色や」
「色?」
「普通に考えたら火は紅、水は蒼、風は翠って考えるやろ」
「はい…」
「でもなそれは勝手な思い込みや。別にそんなことルールで決められてるわけやないってことや」
私はハッとした。
「まさか、陣営の色と武器の属性は関係ない?」
「そういうことや。その思い込みでやられてしもうたんがそっちの曲がり角でくたばっとるお二人さんや」
私は曲がり角を戻り倒れているシスターの亡骸が握りしめている銃を手にした。
紅い銃の裏側には水滴を模したマークが小さく刻まれていた。
それを見つめていると黒依さんが歩み寄ると私にこう告げた。
「せっかくやしその銃ももろてこか」
「えっいいんですか?」
「当たり前や、それこそルールに死体の持ち物を盗むなとは言ってへんしな」
そう言うと黒依さんはシスターたちの亡骸から銃と弾を失敬しポケットに入れた。
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それから再じ廊下を道なりに探索して行った。途中攻撃有利なモンスターを倒しながら進んでいくと開けた広場のような場所に出た。
「見通しもええしちょうどええな。ここで休憩にしよか?」
私が同意すると黒依さんは出っ張りに腰を下ろした。私は床に腰を下ろし一息をついた。
そこで私は先ほどの話がまだ途中であることを思い出した。
「そういえば黒依さんはどうしてこのゲームを48回もやってるんですか?」
「ああそのことなぁ」
「見た感じお金が欲しいわけじゃなさそうですし、他に何か目的があるのかなって思ったんですけど」
そう自分の思ったことを伝えると黒依さんは表情を少しだけ厳しくした。
「聞きたい?」
「できれば聞かせてほしいです」
私がそう言うと彼女は
「引かない?」と返してきたので私は否定した。
すると黒依さんはゆっくりと口を開いた
「ウチはなある女を殺すために続とるんや」
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一瞬空気が凍ったのを感じ取った。彼女の口調は決して冗談ではないということを物語っていた。
「殺すため?」
「そうや。アイツを殺さんとウチは終われへん」
「理由って教えてもらえたりしますか?」
「かまへんよ」
そう言うと彼女は一呼吸おいて口を開いた。
「あれはウチが30回目の壁を越える少し前のゲームや。鬼ごっこやったなあれは。ウチは鬼側やった。ルールはウチらは制限時間内に規定数を殺したら勝ち、あっち側はその時間逃げ切れば勝ち。まあそんなシンプルなルールや」
「はぁ…でも勝ったは勝ったんですよね? じゃなきゃここにいませんし…」
「アホ!確かに勝った!でも完全勝利じゃない!私は完全勝利じゃなかった!」
今まで聞いたことないほど声を荒げた黒依さんはさらに続けた。
「こっちだって楽しみってもんがあるんだよ。それなのにあのクソ女、私とは戦えないってほざいて逃げ回りやがったんだ!お前のイかれた目標なんて知ったことか!」
黒依さんの怒りはヒートアップしていくの私は唖然としながら見ていた。
「何が『このゲームを99回クリアする』だ! 絶対にお前を99回前に殺してその目標を潰してやる!」
そこまで叫ぶと彼女は話すのを止めた。
私は彼女の話を聞いて最初の感想を口にすることにした。
「関西弁忘れてますよ」
その言葉に黒依さんはきょとんとした顔をした後、少しだけはにかみながら返した。
「かんにんね。忘れてな」
「いや、正直今の告白より衝撃でしたよ」
「恥ずかしいわ。つい気分が昂るとうっかり出てしまうんや」
これ以上踏み込んで揶揄うのも悪くないがそれではつまらないので話題を戻すことにした。
「それでその99回達成する人ってどんな人だったんですか?」
「ああ、肌も髪も白い女やったなぁ」
「それだけですか?」
「飄々としとったな」
これ以上特徴を掴むのは厳しいと思ったので話題を変えることにした。
「黒依さんってこれが48回目何ですよね? そのたびに衣装って違うんですか?」
「そやでぇ」
「どんなのがあったんですか?」
「どんなのかぁ。いろいろあったで、セーラー服に振袖、ナース服に巫女服。変わったところやと無しってのもあったな」
「無しってまさか・・・」
「せや、すっぽんぽんや」
「それは…遠慮したいですね…」
「まああれはウチも二度とやりたくないな」
「衣装って貰えるんですか?」
「貰えるで。なんなら着てるのがボロボロになったらわざわざ新品を用意してくれるで」
「へぇ…」
そんな当たり障りのない談笑をしばらく続けていると黒依さんは何かを思い出したようで立ち上がると口を開いた。
「さぁて、このゲームのクリアに動くとするか!」
「クリアって、モンスター退治に本腰をいれるんですか?
私がそう訊ねると黒依さんは笑いながら首を横に振った。
「ちゃうちゃう。そんなのキリないで。言ってたやろゲームの説明で」
「説明?」
最初に映写機から流れてきたあの説明だろうか?確か勝利条件は制限時間以内にモンスターを多く倒した陣営が勝利だったはず…いやまさか…。
私が結論に辿りついたことを察したの黒依さんは今までとは違う邪悪な笑みを浮かべてこう言った。
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「他の陣営を全滅させればええねん。そうすれば自動的にウチらのチームの勝利や!」
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私は少し動揺しながら黒依さんが続ける説明に耳を傾けた。
「そもそも、モンスターの絶対数も少ないねん。ファンタジーのダンジョンやないんやから本物のモンスターが湧いてくるわけやないし。だったら他の二つの陣営にいる8人を始末してしまった方がよっぽど効率的や!」
(正確にはもう二人死んでいるので6人か)、そんなことを考えているとふと疑問がよぎった。
「あのそれって私たちの陣営の4人全員でってことですか?」
その疑問を口にすると彼女はさも当然のように笑いながだから嬢ちゃんにはら言った。
「何言うとんねん、ウチと嬢ちゃんと二人でや!」
唖然としている私に黒依さんは続けた。
「そもそもあの2人はアカンよ。回数は重ねてるかも知れへんけどただ強いやつに金魚のフンとしてついてきたから生き残ってるだけの奴や。戦力にならへん」
「いや、私も初心者で戦力にはなりませんけど」
「うん、せやろな。だから嬢ちゃんにはウチのアシストをして欲しいんや」
「アシスト?」
「殺すんはウチがやる」
そう言った彼女の顔には狂暴さが出始めていた。
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先ほどからの探索でこのステージの構造は理解したつもりだ。私は黒依さんの後をついていく形で廊下を進んでいく。モンスターを倒したりやり過ごしたりしながら目的地まで足を進めた。
「さてついたで」
私たちの前には翠色の大きな扉が聳えていた。
「ここって…」
「翠陣営の本拠地やで」
まさか本拠地から襲うとは…。しかも人数的に不利な陣営とは…。驚くと同時にこの人はそういうことやりそうと思った。でも一応聞いておくことにしよう。
「なんでわざわざ翠陣営から狙うんですか? 人数的には2人減っている紅陣営から狙うのがセオリーな気がしますけど?」
そういうと黒依さんはニヤリと笑いながら言った。
「なあおかしいと思わへんか?」
「えっ?」
「ここまで動き回って翠陣営の連中と出会ってへんの」
「あっ」
「各陣営にとって本拠地の聖堂はモンスターが襲ってこない安全地帯や。だとしたら一陣営くらいおるんちゃうかな」
「他の陣営が潰れるまで動かない陣営ですか?」
「そういうこっちゃ。油断しとる奴らなら殺しやすいってもんや」
「それでどうするんすか?」
そんな私に黒依さんは一つだけ指示を出した。
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私は黒依さんが合図をした瞬間に扉を少しだけ開けそこから発煙筒を二つ投げ入れた。
そこからはあっという間だった。相手側の困惑の声と絶叫。銃声と鈍い音。そしてうめき声が4人分聞こえるとすぐに翠の聖堂は静寂に包まれた。
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煙が晴れると翠の聖堂には4体の綿だらけの死体と1人の人間が立っていた。
「あっという間でしたね」
「せやろ、じゃあ武器庫から目ぼしいもんでも持って行こか」
彼女はそう言うと私を武器庫へと誘った。
武器庫の中は聖堂の内装と同じく翠の武器が並んでいた。
「ほぼ私たちの武器庫と変わらないですね?」
「まあ予想通りやな。消耗品とちょっとだけ持って帰ろか」
私は武器庫から先ほど使った発煙筒や銃弾を補給し黒依さんは私が持っているのと同じ型の銃剣を肩にかけると翠の聖堂を足早に立ち去った。
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私とあっさりと翠陣営を壊滅させた彼女はその足で紅の聖堂へと向かった。
すでに二人を失っている紅陣営はどうなっているかを考えながら歩いていると紅の扉へとたどり着いた。紅の聖堂だ。
「どうでしょう?」
「紅の連中は意外とアクティブかもしれへんな」
そう言うと黒依さんはゆっくりと扉を開けた。
何の作戦もなく急に行動に出た黒依さんに声をかけようとしたがそれよりも紅の聖堂の中を見てそれを止めた。
そこには誰もおらず伽藍洞だった。
「思った通り、アクティブな奴らみたいやな」
黒依さんはそう言いながら聖堂を一通りみて立ち去った。私も静かにドアを閉めて後を追った。
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「アテが外れましたけどどうするんですか?」
「こうなったら、相手より先に見つけるしかあらへんよ。嬢ちゃん」
「モンスターを狩ってるなら何らかのアクションがあってもよさそうですけど?」
「相手さんがそんなフェアな奴らやったら、ウチも苦労せんけどな。
黒依さんは笑顔を引きつらせながら言った。
「それってどういう―――」
私がそう言おうとした時、黒依さんは私の口を押さえた。
「シッ!」
そうだけいうとあの時の広場の陰へと引き込んだ。
そうしていると向こうから誰かがやって来るのが見えた。
あの時モンスターにやられて死んでいた2人のシスターと同じく紅い銃を持ったシスターの二人組だった。
何かを話しているようで私は2人の会話に耳をそばだてた。
「翠の連中やられてましたね」
「ああ、完全に先を越された! せっかく目くらましに素人2人を送り出したのに失敗よ!」
「希炊さん? 今回が30回目でしたよね?まさか気負ってるんじゃ?」
「馬鹿言わないでよ。あんなオカルトを信じてないし、大体沙空も変わらないじゃないか!」
「まあそうですけど、なんか嫌な予感がしますよね。たまにとんでもないプレイヤーが紛れ込んでるっていうじゃないですか?」
希炊と沙空。そういう名前らしいことは分かったがどうやら彼女たちも私たちと同じ方法で勝とうとしているようだ。しかも初心者を目くらましに使って。ここはやり過ごしてしまうのがいいのではないかと黒依さんの方を見た。
黒依さんはもうその場所にはいなかった
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「残念やな。三十の壁はあるでぇ」
その声が聞こえてからはすぐに沙空の首元から白い綿が噴き出してきた。
「なっ!?」
声にならない驚嘆の声を上げた希吹は急いで下げていた銃をその声の方向へと向けた。
沙空の傍には小柄なシスターが緑色の銃剣を持って立っていた。その顔には不敵で凶暴な笑みを浮かべていた。
「こ、こいつ!」
希炊がそう悪態をつきながら狙いを定めて銃を小柄なシスターめがけて撃った。
しかし、小柄なシスターは素早く沙空の身体を引っ張るとその物言わぬ死体を盾にして弾を防いだ。
「あかんでぇ。仲間に銃撃っちゃ」
そう煽った小柄なシスターは半歩後ろに下がると素早く持っていた銃剣を希炊に投げつけた。
希炊は一瞬戸惑ったがすぐに小柄なシスターに銃の狙いを定めた。
あの距離から銃剣を自分の元に届かせるのは不可能だ。そう思ったから。
しかしすぐにそれ慢心だと悟ることになった。狙いを定めた先にもう小柄なシスターはいなかった。
次に希炊が彼女を捉えた時、彼女は希炊の目の前にいた。手に蒼い銃剣を持って。
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黒依さんの動きは素早かった。不意をついて沙空の間合いに入ると即座に銃剣で首を切り裂き、死体を弾除けに使いながら逆に間合いから離れた。
そして翠の銃剣を囮にして私からいつのまにか拝借したらしい蒼の銃剣を拾い上げるとそれで隙のできた希炊に近づいてその胸に突き立てた。
動かなくなったのを確認した彼女は私に声をかけた。
「嬢ちゃん、出てきてええよ」
私が物陰から出てくるとそこには2人のシスターの亡骸が横たわっていた。防腐処理のせいかグロテスクさはなかった。
「ずいぶん呆気なかったですね」
「まあな。予想よりは全然弱かったわ。まあそれでも上手いこと今までやってきとったんやろうけどな。29回までクリアできとるのは普通に凄いことやし」
そう言いながら彼女は綿まみれの死体を一瞥した。
「これで、私たちの陣営以外のメンバーは全滅。つまり勝利ってことですか?」
私が彼女にそう確認する。
「いやぁ、それはどうやろなぁ」
彼女は袖口から紅色の銃を取り出し引き金を引いた。
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乾いた銃声が響いたのはその直後だった。
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私が瞬間的に右に跳んだのはその直前だった。そして彼女から拝借していた蒼いショットガンを彼女に向かって撃ったのは彼女が撃った直後だった。
彼女、黒依がよろけて倒れたのは私が撃った直後だった。しかし、それが安心できるものではないと気づいたのはそれから間もなくのことだった。
黒依はゆっくりと立ち上がった。顔には散弾が傷つけたのだろう綿の筋があった。
「ふふ、いきなりショットガンとは中々容赦ないね。いいよそうでなくちゃ」
関西弁を止めた彼女は平然と立っていた。
「なんで・・・」
実際に撃ったのははじめてだがショットガンがどれだけの威力があるかは知っているつもりだ。それを受けて平然と立っている、化け物なのかこいつは?
そう思っていたが黒依が被弾したであろう場所に違和感があった。銀色に光っていた。
「ああこれ? 鎧って奴よ。こんなゲーム何度も続けてたらさぁ、こうでもしないとダメなんだよ」
「反則よ、そんなの!」
「はぁ、ふざけたこと言ってんじゃないよ。義足だって義手だってなんでもありなんだよ!そもそも生身で48回も生きて来れると思ってんのか? 相手より強いために改造することはこのゲームで勝つために必要なこと。行儀よくゲームができるわけないだろ!」
正論だ。こんなゲームに一般常識を持ち込むのはダメだった。
「さっきの感じだと、私が撃ってくること予測してたみたいだけ、どこで気づいた?」
「何時ってのは別に。ただ参加理由話してる時からちょっと引っかかっていたかな」
「へぇ?」
「あと単純にアンタに結構ムカついたのもある」
「ずいぶん嫌われたもんだ。私どこかアンタの気に障ることした?」
「細々としたこと挙げたらきりがないわ。でも一番カチンと来たのは、嬢ちゃんって呼んだことさ!」
「あら、意外と心狭いのね。 あと敬語止めたんだ?」
「アンタが敬語使うに値しなくなったもんでね。そっちこそ関西弁止めたじゃん」
「こっちも本性隠す必要なくったし、まあ元々そんな上手くないけどね」
そんなことやり取りをしながらゆっくりと私は間合いを取った。相手は銃を持っているからほとんど意味がないことは解っている。逆に黒依はゆっくりと間を詰めてくる。意を決して私は腰につけた銃を構えながら彼女に間合いに入った。胸と頭を狙って3発撃ったがどうやらそこにも埋め込まれているらしく彼女には効果がなかった。
そこで銃は弾切れになったがその銃で黒依の頬を思いっ切り殴りつけた。
「いいよ、いいよ! なんでも使えるもんは使わないとね!」
心無しか喜んでいるようにも感じた。それがまたこの女への不快さに拍車をかけた。怒りに任せながら再び彼女に近づき持っていた剣を彼女の首をめがけて振り下ろした。
「へえ! 首も狙ってくるか! 益々らしくなってきたな。『嬢ちゃん』!」
彼女は私の剣を持っている紅の拳銃で受け止めた。
「さっき武器庫に行ったと思ったらまさか銃剣の剣を拝借してるとはね!」
感心したような口ぶりをしたと思ったら彼女は逆の手から翠の銃を出して私に撃った。
「くっ…」
弾丸は耳をかすめただけだったが激痛と銃声の耳鳴りで後退せざる得なかった。
そんな私に彼女は面白いものを見つけたような顔をしながら言った。
「やっぱり私の見立て通りだ。アンタ最高だよ! 私と同じ、いやそれ以上の殺人鬼の素質あるよ! わざわざ怒らせた甲斐があるってもんだ」
「誰が…」
「エージェントが言ってたんだろ?『向いてることを見つけられる』って見立て通りだよ。アンタは根っからこのイカれた世界の住人だよ!」
そろそろ決着をつけないとマズい。
「受け入れろよ! 自分がどんな人間かはっきりわかって来ただろ?」
そんな講釈はどうでもいい。目の前のこの女を殺さないと気が収まらない。何かないか…。そう思いながらポケットを探ると何かが当たった。そうかこれだ! あとはあれは…あそこか!
私はアイツと正対しながら少しだけ動いた。そしてポケットの中にある円筒状の物を床に投げつけた。
発煙筒だ。翠の聖堂で奪っておいたのが役に立った。
辺りは煙に覆いつくされた。しかしこれでアイツが動きを止めるとは考えていなかった。私は狙いを定めてある場所へと走った。アイツが私を追うのがうっすらと見えた。私は目的の場所を走り抜けアイツも走り抜けると私は即座に急旋回、目的の場所へ戻った。その動きに焦ったのようで私を探しているようだ。今だ!私は目的の場所に転がっている希炊の亡骸に刺さったままになっている銃剣を引き抜き、あの女、黒依の背中に思いっ切り突き立てた。
背中には特に防御はしていなかったのか偶然鎧の位置から外れたのかはわからないが剣は刃の部分が全て収まるまで身体にめり込んだ。身長差も幸いしたのだろう。私は170㎝くらいで黒依は150㎝代、銃剣に体重を思いっ切りかけながら刺せた。
さらに相手は膝をついてくれた。私は黒依の肩に足をかけると思いっ切り引き抜くとそのまま仰向けに倒した。
そこからはただただ彼女の身体に銃剣を刺し続けた。どんどんどんどん、白い綿があふれてくる。それでも黒依は笑っていた。最期まで気に食わない女だ。ただ最後に辛うじて聞き取れた言葉が異様に耳に残った。
「チュートリアルは終了、なにすりゃいいかわかるだろ?」
(21/24)
私が黒依を刺すのを止めたのはもう彼女が動かない、肉と綿の塊になったのに気づいてからだった。
おかしい…全く怒りが収まらない。それどころかまだ足りないとさえ感じる。これを収めるにはどうしたらいいか。
私はすぐにどうすればいいかを理解した。そして広場にあった2つの銃剣を両手に持って駆け出した。
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走ってきた私の目の前には最初に出た蒼い扉があった。私は少しだけ扉を開け、中の人間がどこにいるかを確認すると最後の発煙筒を投げ込んだ。
困惑の声が聞こえたのが合図だ。私は一気に片方の女に銃剣を突き立てた。そしてもう1人も同様に銃剣を刺した。どちらもあっさりと死んでくれた。何て簡単なんだ。
そこから私はそのまま感情の赴くままに2人の身体に剣を刺し続けた。
気がつくとそこにはデタラメバラバラになった肉と綿の山が2つあるだけだった。
気持ちがある程度治まった私を襲ったのは痛みと疲労感だった。撃たれた耳が今になってさらに傷んできた。出血の心配はなさそうだがこの耳が前の様に戻るのか心配だった。
「あいつ…改造して鎧入れたっていってたよね…試してみようかな?」
もう次のゲームに参加することだけは決めている。確かにこのゲームに私は向いているようだ。
あとはとにかく疲れていた。体力というより精神的にだいぶ無理をしていたのかもしれない。
「はぁ…やっぱり我慢は体に毒だなぁ」
そんなことを呟いていると次第に眠気が襲ってきた。このゲームが終わるまでどれくらいあるかわからないが少しくらい眠る時間はあるだろう。そう思って私はベンチに腰掛けるとずっと締め付けが嫌だった頭巾を外しゆっくりと意識を手放した。
(23/24)
天窓から心地よい冷風が入る蒼い聖堂は非常に静かだった。
ただあるのは人の形を失った肉と綿の塊が2つ。
そしてベンチに腰掛けて疲労から来る眠気に身を任せ居眠りをする1人のシスターが伽羅色の髪をたなびかせて佇んでいるだけだった。
(24/24)