千年後のグルメ時代   作:鳩夜(HATOYA)

117 / 117
有人機の時代

 IGO宇宙戦艦団。

 その主戦力は、大きく分けて三つ。

 

 大型母艦三機。

 岩剛部隊。

 ヘイセン部隊。

 豪迅部隊。

 

 さらに岩剛専用機。

 着家。

 

 有人小型戦闘機。

 そして、大量の無人戦闘機。

 

 宇宙戦艦団の歴史は、兵器の歴史でもあった。

 

 剣。

 銃。

 

 有人戦車。

 有人航空機。

 

 そして無人兵器。

 

 人が乗る必要はない。

 判断は機械が行う。

 操縦ミスもない。

 恐怖もない。

 疲労もない。

 

 一時期、人類の戦争は完全無人化へ向かっていた。

 宇宙戦も同じだった。

 無人機こそが最も効率的。

 

 そう考えられていた時代があった。

 だが。

 

 ここにきて、時代はまた有人機へ回帰している。

 

 理由は単純だった。

 人間そのものが、強くなりすぎた。

 

 グルメ細胞。

 食義。

 食没。

 

 特に宇宙戦艦団に所属し、過酷な食没訓練を突破した兵士たち。

 彼らは、個人で莫大な食欲エネルギーを保有している。

 

 それを。

 

 戦闘機へ供給する。

 機体に食欲を流し込みながら操縦する。

 

 推進力。

 防御。

 砲撃。

 反応速度。

 

 すべてを、操縦者自身の食欲で押し上げる。

 もはや、ただ戦闘機に乗っているのではない。

 

 機体を、体の一部として扱う。

 

 翼。

 腕。

 足。

 目。

 

 操縦桿を動かすより先に、食欲が機体へ流れる。

 思考より速く。

 反射に近い速度で。

 

 その技術は、無人機を凌ぐ回避性能と攻撃性能を生み出した。

 無人戦闘機は。

 今や、囮に近い。

 

・・・

 

 赤い宇宙。

 

 岩剛部隊母艦とヘイセン部隊母艦。

 二機の大型母艦から、無数の小型戦闘機が飛び出している。

 

 無人機。

 有人機。

 混成編隊。

 

 数だけなら、圧倒的だった。

 

「第三区画、無人機二百機展開!」

 

「有人機、第二陣出撃!」

 

「敵母艦へ接近!」

 

 小型機の群れが、赤い宇宙を埋めていく。

 

 その中で。

 有人機は違った。

 

 速い。

 鋭い。

 

 軌道が読めない。

 一機ごとに動きが違う。

 

 操縦者の食欲。

 戦闘経験。

 癖。

 

 それらが、そのまま機体へ反映されている。

 無人機では再現できない動き。

 

 だが。

 

「有人機、撃墜!」

 

「また一機!」

 

「第三編隊、被害甚大!」

 

 落ちていく。

 的確に。

 

 無人機の群れを避けるように。

 有人機だけが。

 

「なぜだ……!」

 

 副官がスクリーンを見る。

 

「無人機にはほとんど攻撃していない!」

 

 岩剛は黙っていた。

 そして、すぐに理解する。

 

「食欲だ」

 

「え?」

 

「奴らの兵器は、食欲に反応している」

 

 有人機。

 

 操縦者が莫大な食欲エネルギーを機体へ流している。

 強い。

 

 だからこそ。

 見つけやすい。

 

「選別は容易いだろうな」

 

 岩剛は低く言った。

 

 無人機。

 食欲反応なし。

 

 有人機。

 巨大な食欲反応。

 

 敵から見れば、どちらを先に潰すべきかは明白だった。

 

「有人機を下げますか?」

 

「いや」

 

 岩剛は即答した。

 

「無人機だけでは押し切れん」

 

 その言葉通り。

 無人機の数も減っていた。

 

 一機。

 十機。

 百機。

 

 食欲を弾丸に変える攻撃。

 グリーントロル側の小型機。

 

 母艦砲撃。

 次々と破壊される。

 

 囮が減る。

 有人機が晒される。

 

 そして。

 また落ちる。

 

「このままでは……」

 

 副官が言う。

 

「豪迅部隊を戻しますか?」

 

 豪迅部隊。

 Aサイトへ先行している第三の大型母艦。

 

「いや」

 

 岩剛は首を横に振った。

 

「ここだけに時間を取られるわけにはいかぬ」

 

「しかし!」

 

「Aサイトで何が起きたのか」

 

 岩剛はスクリーンを見る。

 

「あそこに何が残っているのか」

 

「……」

 

「確認せねばならん」

 

 着家は使えない。

 回復まで丸一日。

 

 有人機は的確に狙われる。

 無人機も減っている。

 

 厳しい。

 それでも。

 

 豪迅部隊は戻さない。

 

「こちらで持たせる」

 

 岩剛は言った。

 その時。

 

「総司令!」

 

 通信士が叫ぶ。

 

「敵小型機、一部がヘイセン部隊母艦へ接触!」

 

 スクリーンが切り替わる。

 ヘイセン部隊母艦。

 外装。

 そこへ。

 

 グリーントロルが降り立っていた。

 

 一体。

 二体。

 十体。

 

 次々と。

 

「白兵戦を仕掛けてきたか……!」

 

 岩剛の顔が険しくなる。

 

・・・

・・

 

 ヘイセン部隊母艦。

 

「ヘイセン隊長!!」

 

 艦内に警報が鳴り響く。

 

「グリーントロルが母艦に着地!」

 

 通信兵の声が震える。

 

「次々と兵士が殺されています!」

 

「ち……!」

 

 ヘイセンは舌打ちした。

 

 最悪だ。

 

 宇宙戦。

 艦隊戦。

 機動戦。

 

 そこなら戦える。

 だが。

 

 白兵戦。

 

 それだけは違う。

 

「小型戦闘機に乗れる者は、すぐに乗り込め!」

 

「え?」

 

「岩剛総司令官の母艦へ移動せよ!」

 

「しかし――」

 

「食糧庫もすぐに搬出!」

 

 ヘイセンの声が艦内に響く。

 

「脱出できる者は急げ!」

 

 早い判断。

 そう思われるかもしれない。

 諦めが早い。

 

 まだ母艦は動く。

 まだ兵士も残っている。

 そう見える。

 

 だが。

 

 グリーントロルを白兵戦で倒せる人間は、ほとんどいない。

 最上位の美食屋。

 

 ガウン。

 メリスタ。

 地上のごく一部。

 

 そのレベルでなければ、まともに相手はできない。

 宇宙戦艦団の兵士は強い。

 

 食没を習得している。

 食欲エネルギーも多い。

 戦闘機へ乗れば、さらに強い。

 

 だが。

 

 生身なら。

 グリーントロル相手には足りない。

 

 白兵戦になれば終わり。

 

 それを前提に、作戦は組まれていた。

 

「第六通路突破されました!」

 

「第七防衛班、全滅!」

 

「敵、中央区画へ進行!」

 

「急げ!」

 

 ヘイセンは怒鳴る。

 

「母艦は捨てる!」

 

「ヘイセン隊長は!?」

 

 若い兵士が叫んだ。

 

「前線で時間を稼ぐ」

 

「そんな!」

 

「私もその後脱出する」

 

 ヘイセンは静かに言った。

 

「急げ!」

 

「……はっ!」

 

 兵士たちが走る。

 

 食糧庫。

 小型戦闘機格納庫。

 脱出設備。

 

 必要なものだけを持つ。

 それ以外は捨てる。

 母艦そのものも。

 

 ヘイセンは一人、艦内を歩く。

 母艦の構造は、いたってシンプルだった。

 大きな入り口が一つ。

 

 そして。

 

 そこからまっすぐ伸びる、幅広の通路。

 分岐は少ない。

 

 居住区。

 食糧庫。

 格納庫。

 指令区画。

 

 必要な区画は壁の奥。

 

 脱出経路はすべて隠されている。

 射出時にしか開かない。

 敵に見つけさせないため。

 

 そして。

 

 侵入した敵を分散させないため。

 

 大きな入り口。

 一本の通路。

 

 そこへ集める。

 全部。

 

 一人で抑えるために。

 

「……来たか」

 

 ヘイセンは立ち止まった。

 幅広の通路。

 

 その奥。

 

 音が聞こえる。

 足音。

 重い。

 

 何十。

 何百。

 

 壁が震える。

 グリーントロルの軍勢。

 

 緑色の巨体。

 牙。

 爪。

 武器。

 食欲。

 

 通路の奥から。

 押し寄せてくる。

 

 ヘイセンは一人。

 

 構える。

 逃げない。

 下がらない。

 

 ここを抜かれれば。

 脱出する兵士たちへ届く。

 

 食糧庫へ届く。

 小型戦闘機へ届く。

 

 なら。

 ここで止める。

 

 ヘイセンは笑った。

 

「来いよ」

 

 拳を握る。

 

「グリーントロル!」

 

 一人。

 一本の通路。

 

 その先に。

 軍勢。

 

 白兵戦が始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

その美食屋、転生者につき(作者:苦笑いの妖精)(原作:トリコ)

トリコの世界を便利な3つのチートと共に生きていく。▼息抜きに書いた習作です。


総合評価:7094/評価:6.72/短編:14話/更新日時:2026年06月04日(木) 22:26 小説情報

グルメ界で、鹿でしかない(作者:トリコ世界の料理食べたい)(原作:トリコ)

起きたら背中に森が生えているシカだった。▼夢かと思ったが、しかしシカだった


総合評価:8858/評価:8.8/連載:5話/更新日時:2026年06月25日(木) 20:15 小説情報

忍の世界とか割と詰みである(作者:こうすけ増田劇場版)(原作:NARUTO)

面白いからを理由に転生させられる極々普通の転生者の話。▼それはそうとこの世界線、アニナルっぽいので割と手厳しいと言うかNARUTOの世界ってチートを貰ってようが普通に厳しくね?な話▼ヒロイン?最終回発情期とかあるし息子世代の話もあるし、まぁ、500話以上あるアニナルを見てどうすんか考えるっぺ。


総合評価:4588/評価:7/連載:32話/更新日時:2026年07月16日(木) 18:00 小説情報

【七色弓箭】で征くポックルに転生した男のハンター道(作者:レインボウ)(原作:HUNTER×HUNTER)

唐突に前世の記憶を思い出したポックル。溢れ出した原作知識は無垢な少年を絶望に落とす。迫り来る不運の絶頂、キメラ=アント、ザザンとパイクに作中最強格のネフェルピトーの脳くちゅ、前世の記憶と原作知識を駆使して走り出す少年は今、ハンターの道を選ぶ!▼アンチヘイトは念の為です。


総合評価:6017/評価:8.22/短編:2話/更新日時:2026年03月22日(日) 02:56 小説情報

落ちてきた地球外高度知的生命体とヒーローやることになった件について(作者:緑茶山)(原作:MARVEL)

多重転生し多数の前世の記憶を持つ高村優李の元に、ある日空から地球外高度知的生命体が落ちてきた。見るからに小さなシロクマの形だが、姿が似ているだけで別物らしい。▼そのシロクマによってマジカルパワーを得た優李は、魔法少女になる……ことは無かったが、なんやかんやでアベンジャーズの仲間入りを果たすことになる。▼真面目だったり不真面目だったり、わりかしシリアスにお送り…


総合評価:9902/評価:8.96/完結:101話/更新日時:2026年05月22日(金) 20:42 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>