IGO宇宙戦艦団。
その主戦力は、大きく分けて三つ。
大型母艦三機。
岩剛部隊。
ヘイセン部隊。
豪迅部隊。
さらに岩剛専用機。
着家。
有人小型戦闘機。
そして、大量の無人戦闘機。
宇宙戦艦団の歴史は、兵器の歴史でもあった。
剣。
銃。
有人戦車。
有人航空機。
そして無人兵器。
人が乗る必要はない。
判断は機械が行う。
操縦ミスもない。
恐怖もない。
疲労もない。
一時期、人類の戦争は完全無人化へ向かっていた。
宇宙戦も同じだった。
無人機こそが最も効率的。
そう考えられていた時代があった。
だが。
ここにきて、時代はまた有人機へ回帰している。
理由は単純だった。
人間そのものが、強くなりすぎた。
グルメ細胞。
食義。
食没。
特に宇宙戦艦団に所属し、過酷な食没訓練を突破した兵士たち。
彼らは、個人で莫大な食欲エネルギーを保有している。
それを。
戦闘機へ供給する。
機体に食欲を流し込みながら操縦する。
推進力。
防御。
砲撃。
反応速度。
すべてを、操縦者自身の食欲で押し上げる。
もはや、ただ戦闘機に乗っているのではない。
機体を、体の一部として扱う。
翼。
腕。
足。
目。
操縦桿を動かすより先に、食欲が機体へ流れる。
思考より速く。
反射に近い速度で。
その技術は、無人機を凌ぐ回避性能と攻撃性能を生み出した。
無人戦闘機は。
今や、囮に近い。
・・・
赤い宇宙。
岩剛部隊母艦とヘイセン部隊母艦。
二機の大型母艦から、無数の小型戦闘機が飛び出している。
無人機。
有人機。
混成編隊。
数だけなら、圧倒的だった。
「第三区画、無人機二百機展開!」
「有人機、第二陣出撃!」
「敵母艦へ接近!」
小型機の群れが、赤い宇宙を埋めていく。
その中で。
有人機は違った。
速い。
鋭い。
軌道が読めない。
一機ごとに動きが違う。
操縦者の食欲。
戦闘経験。
癖。
それらが、そのまま機体へ反映されている。
無人機では再現できない動き。
だが。
「有人機、撃墜!」
「また一機!」
「第三編隊、被害甚大!」
落ちていく。
的確に。
無人機の群れを避けるように。
有人機だけが。
「なぜだ……!」
副官がスクリーンを見る。
「無人機にはほとんど攻撃していない!」
岩剛は黙っていた。
そして、すぐに理解する。
「食欲だ」
「え?」
「奴らの兵器は、食欲に反応している」
有人機。
操縦者が莫大な食欲エネルギーを機体へ流している。
強い。
だからこそ。
見つけやすい。
「選別は容易いだろうな」
岩剛は低く言った。
無人機。
食欲反応なし。
有人機。
巨大な食欲反応。
敵から見れば、どちらを先に潰すべきかは明白だった。
「有人機を下げますか?」
「いや」
岩剛は即答した。
「無人機だけでは押し切れん」
その言葉通り。
無人機の数も減っていた。
一機。
十機。
百機。
食欲を弾丸に変える攻撃。
グリーントロル側の小型機。
母艦砲撃。
次々と破壊される。
囮が減る。
有人機が晒される。
そして。
また落ちる。
「このままでは……」
副官が言う。
「豪迅部隊を戻しますか?」
豪迅部隊。
Aサイトへ先行している第三の大型母艦。
「いや」
岩剛は首を横に振った。
「ここだけに時間を取られるわけにはいかぬ」
「しかし!」
「Aサイトで何が起きたのか」
岩剛はスクリーンを見る。
「あそこに何が残っているのか」
「……」
「確認せねばならん」
着家は使えない。
回復まで丸一日。
有人機は的確に狙われる。
無人機も減っている。
厳しい。
それでも。
豪迅部隊は戻さない。
「こちらで持たせる」
岩剛は言った。
その時。
「総司令!」
通信士が叫ぶ。
「敵小型機、一部がヘイセン部隊母艦へ接触!」
スクリーンが切り替わる。
ヘイセン部隊母艦。
外装。
そこへ。
グリーントロルが降り立っていた。
一体。
二体。
十体。
次々と。
「白兵戦を仕掛けてきたか……!」
岩剛の顔が険しくなる。
・・・
・・
・
ヘイセン部隊母艦。
「ヘイセン隊長!!」
艦内に警報が鳴り響く。
「グリーントロルが母艦に着地!」
通信兵の声が震える。
「次々と兵士が殺されています!」
「ち……!」
ヘイセンは舌打ちした。
最悪だ。
宇宙戦。
艦隊戦。
機動戦。
そこなら戦える。
だが。
白兵戦。
それだけは違う。
「小型戦闘機に乗れる者は、すぐに乗り込め!」
「え?」
「岩剛総司令官の母艦へ移動せよ!」
「しかし――」
「食糧庫もすぐに搬出!」
ヘイセンの声が艦内に響く。
「脱出できる者は急げ!」
早い判断。
そう思われるかもしれない。
諦めが早い。
まだ母艦は動く。
まだ兵士も残っている。
そう見える。
だが。
グリーントロルを白兵戦で倒せる人間は、ほとんどいない。
最上位の美食屋。
ガウン。
メリスタ。
地上のごく一部。
そのレベルでなければ、まともに相手はできない。
宇宙戦艦団の兵士は強い。
食没を習得している。
食欲エネルギーも多い。
戦闘機へ乗れば、さらに強い。
だが。
生身なら。
グリーントロル相手には足りない。
白兵戦になれば終わり。
それを前提に、作戦は組まれていた。
「第六通路突破されました!」
「第七防衛班、全滅!」
「敵、中央区画へ進行!」
「急げ!」
ヘイセンは怒鳴る。
「母艦は捨てる!」
「ヘイセン隊長は!?」
若い兵士が叫んだ。
「前線で時間を稼ぐ」
「そんな!」
「私もその後脱出する」
ヘイセンは静かに言った。
「急げ!」
「……はっ!」
兵士たちが走る。
食糧庫。
小型戦闘機格納庫。
脱出設備。
必要なものだけを持つ。
それ以外は捨てる。
母艦そのものも。
ヘイセンは一人、艦内を歩く。
母艦の構造は、いたってシンプルだった。
大きな入り口が一つ。
そして。
そこからまっすぐ伸びる、幅広の通路。
分岐は少ない。
居住区。
食糧庫。
格納庫。
指令区画。
必要な区画は壁の奥。
脱出経路はすべて隠されている。
射出時にしか開かない。
敵に見つけさせないため。
そして。
侵入した敵を分散させないため。
大きな入り口。
一本の通路。
そこへ集める。
全部。
一人で抑えるために。
「……来たか」
ヘイセンは立ち止まった。
幅広の通路。
その奥。
音が聞こえる。
足音。
重い。
何十。
何百。
壁が震える。
グリーントロルの軍勢。
緑色の巨体。
牙。
爪。
武器。
食欲。
通路の奥から。
押し寄せてくる。
ヘイセンは一人。
構える。
逃げない。
下がらない。
ここを抜かれれば。
脱出する兵士たちへ届く。
食糧庫へ届く。
小型戦闘機へ届く。
なら。
ここで止める。
ヘイセンは笑った。
「来いよ」
拳を握る。
「グリーントロル!」
一人。
一本の通路。
その先に。
軍勢。
白兵戦が始まる。