確実に押されてきている。
IGO宇宙戦艦団。
現在、前線に残る大型母艦は岩剛部隊の一機だけ。
対してグリーントロル側は二機。
一機は後方に構え、前線へ出てきてはいない。
だが、そこから射出された小型戦闘機は既に戦場へ合流している。
数の差は大きかった。
「有人機、第八編隊後退!」
「無人機残存数、二十七パーセント!」
「敵小型機、さらに接近!」
艦橋に次々と報告が飛ぶ。
無人戦闘機は減った。
有人戦闘機も、敵の食欲に反応する攻撃によって的確に狙われている。
ヘイセン部隊から脱出した戦闘機も補給を終え、既に戦線へ加わっていた。
それでも足りない。
「岩剛総司令!」
副官が声を上げる。
「このままでは……!」
「……」
岩剛は正面の宇宙図を見ていた。
敵母艦。
二機。
このまま戦えば、こちらが先に尽きる。
「着家を用意せよ」
「……!」
艦橋の空気が変わった。
「だめです!」
副官がすぐに否定する。
「まだ動かせるまで半日以上はかかります!」
「方法はある」
岩剛は静かに言った。
「すぐに用意せよ」
「……」
副官は岩剛を見た。
長い付き合いだった。
だからこそ。
分かった。
「悪魔の名を呼ぶ気ですね」
「……」
「賛成できません」
岩剛は答えない。
「岩剛総司令。我々には、あなたが必要です」
「どのみち!」
岩剛が怒鳴る。
「ここで止めねば、我々は終わりなのだ!!」
艦橋が静まり返った。
「敵を地球へ通す」
「地上で白兵戦になる」
「その後に何が起きるか、ヘイセンの母艦で見ただろう」
「……」
「わし一人の命と地球を比べるな」
「しかし……!」
副官は拳を握った。
「それでも……!」
その時だった。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
「……!?」
咆哮。
それは確かに。
音だった。
宇宙が鳴り響く。
空気など存在しないはずの空間で。
艦橋の壁が震えた。
機体が軋む。
全員のグルメ細胞が、一斉に反応する。
「な、なんだ!?」
「音響反応ではありません!」
「では、この音は!?」
「分かりません!」
岩剛は目を見開いた。
「まさか……」
そして。
一瞬だった。
光。
遥か彼方から。
一本の光輝くレーザーが赤い宇宙を走った。
速い。
認識した時には。
既に終わっていた。
グリーントロル第六部隊母艦。
貫通。
さらにその後方。
第五部隊母艦。
貫通。
二機。
同時に。
巨大な穴が開いた。
「……」
艦橋の誰も声を出せない。
次の瞬間。
「高エネルギー反応!!」
オペレーターが叫ぶ。
「我々もこの場にいると危険です!!!」
「全機防御!」
「防御フィールド最大!」
「食欲炉出力上げろ!」
遅れて。
膨大なエネルギーの余波が押し寄せる。
母艦全体が大きく揺れた。
「ぐっ……!」
「推進出力低下!」
「各部電装系に異常!」
「何が起きた!?」
岩剛は前方を見る。
母艦二機。
撃ち抜かれている。
見覚えがあった。
いや。
直接見たことはない。
だが。
記録ならある。
「これは……」
岩剛の声が低くなる。
「まさか……異次元レーザー……!」
「異次元レーザー?」
「八王の称号を捨て、宇宙へと進出した竜王」
岩剛は目を細める。
「いや」
思い出す。
「今は竜神だったか」
艦橋がざわついた。
「りゅ、竜神……」
「我々を助けた……ということですか?」
「分からん」
岩剛は即答する。
「ただの気まぐれの可能性もある」
あの存在に。
人類の事情など関係ない。
「あるいは、遥か遠くでの戦い」
岩剛は撃ち抜かれた二機の母艦を見る。
「ただの流れ弾かもしれぬ」
「……」
「そちらの可能性の方が恐ろしいですね」
「ああ」
直撃。
二機同時。
だが。
本当に狙ったのか。
誰にも分からない。
「総司令!」
「何だ!」
「母艦のエンジンが、まるで強大な電磁波を受けたかのように動かなくなっています!」
「……!」
推進器。
停止。
制御系。
異常。
補助動力も不安定。
異次元レーザーの余波。
それだけで。
IGOの大型母艦が動けなくなっている。
「すぐに復旧作業にかかれ!」
「はい!」
「それから知らせろ!!」
岩剛は正面を見る。
撃ち抜かれた二機。
「二機は任せたとな」
「どこへですか?」
「地上だ!」
岩剛は葉巻を噛んだ。
「最後の二機が向かっている!」
「了解!」
通信が飛ぶ。
メリスタ。
IGO地上部隊。
地球防衛網。
そして。
美食屋たちへ。
宇宙戦艦団は。
この場から動けない。
・・・
・・
・
・
グリーントロル第一部隊母艦。
指令室。
「状況報告です」
「言え」
グリドーズは椅子に座っていた。
「現在、行動可能な大型母艦は……」
報告役が一度言葉を詰まらせる。
「この第一部隊と、グリガード率いる第二部隊だけです……」
「……」
「第五、第六部隊母艦は先ほどの攻撃により大破」
「第七部隊は人類側の家型兵器により轟沈」
「第三、第四部隊は……」
グリドーズの目が動く。
「主に……」
「食われたか」
「……はい」
指令室が静かになる。
グリドーズは何も言わなかった。
しばらく。
本当に静かだった。
そして。
「敵にやられた数と」
低い声。
「主に食われた数が、変わらないではないか」
「……」
誰も答えない。
グリドーズは静かに怒っていた。
大声を出さない。
物も壊さない。
ただ。
椅子の肘掛けに置いた指が、少しだけ食い込んでいる。
「第五部隊も落ちました」
別の兵が報告する。
「大型槍兵器は……」
「どうした」
「もうこの第一母艦にしか搭載されていません」
「……そうか」
センターへ直接到達するための槍。
残るのは一基。
「第二部隊を前に出しますか?」
「ならん」
グリドーズは即答した。
「あちらには……」
一瞬。
目を閉じる。
「主が乗っている」
第三、第四部隊の兵士を食らい。
仮の器を得たマザーグリード。
現在は第二部隊母艦へ移っている。
グリガードは嬉々として主を迎え入れた。
「第二部隊を盾にはできん」
「では……」
「このまま第二部隊から送られてくる指示で進行する」
「……了解」
グリドーズは立ち上がった。
正面スクリーン。
遠くに見える地球。
「人間……」
九百年前。
あの星にいた者たち。
強い者はいた。
異常な者もいた。
だが。
文明そのものは。
今ほどではなかった。
「たった九百年で、ここまで力を付けるとはな……」
宇宙戦艦。
悪魔共食。
有人戦闘機。
そして。
遥か宇宙の怪物まで通り過ぎる。
予想外。
想定外。
何もかも。
グリドーズは口元を歪めた。
「久しぶりに」
牙が見える。
「本気で食い合えそうだ」
にやりと。
笑った。