第一章は十八歳の時の話となります。
宜しくお願いします!
十八歳の時
――ピピピピピピッ!
「……ん」
耳元で鳴り響く電子音に、俺は布団の中で目を開けた。
うるさい。
手を伸ばし、枕元に置いてある目覚ましを適当に叩く。
ピッ、と音が止まった。
「……朝か」
大きく欠伸をしながら身体を起こす。
十八歳になっても、朝が得意になったわけじゃない。
別に寝起きが悪いわけでもないんだけどな。
眠れるなら寝ていたい。
それは人間なら当然だと思う。
「んー……!」
両腕を上げ、大きく身体を伸ばす。
そのままベッドから降りようとして、ふと壁が目に入った。
『地球を救った少年! マザー・グリードの脅威を退ける!』
新聞の切り抜き。
そこには、随分と疲れた顔をした俺の写真が大きく載っている。
その隣にも一枚。
『史上最年少! 最上位美食屋ライセンス取得!』
さらにその下には、額に入れられたライセンス取得証。
棚の上にはトロフィーまで置かれていた。
「……いつ見ても恥ずかしいな」
ちなみに、俺が飾ったものではない。
全部母さんだ。
一度外したこともある。
翌日には元の場所に戻っていた。
しかも新聞の切り抜きが一枚増えていた。
諦めた。
「アマジーン! 朝ご飯できてるわよー!」
「今行くー!」
階下から母さんの声。
俺は適当に着替え、部屋を出た。
・・・
「おはよー」
「おはよう」
「おはよう。随分ゆっくりだったな」
「目覚まし止めてからちょっとぼーっとしてた」
リビングには父さんと母さん。
そして――。
「キュッ!」
「……はむまる」
すでに食卓についているはむまる。
いや、ついているというか。
テーブルの上にいる。
しかも俺の席の前で。
「お前、それ俺の肉じゃないか?」
「キュ?」
「首傾げても駄目だからな」
皿の上に用意されていた焼き肉が一枚減っている。
はむまるの頬は僅かに膨らんでいた。
どう考えても犯人だ。
「もう一枚焼いてあげるから座りなさい」
「はーい」
母さんが笑いながら追加の肉を焼いている。
俺は椅子に座り、朝食へ手を伸ばした。
「いただきます」
「キュッ!」
はむまるも元気よく鳴く。
こいつ絶対、意味分かってるよな。
焼きたての肉を口へ運ぶ。
脂が舌の上で溶け、甘い肉汁が広がった。
「うまっ」
「今日は霜降りモーニングバッファローよ」
「朝から豪華だな」
「昨日安かったのよ」
安かったのか。
なら仕方ない。
もう一枚。
俺が肉へ箸を伸ばした時、壁に設置されたテレビから明るい声が聞こえてきた。
『続いて宇宙ニュースです!』
画面が切り替わる。
巨大な会場。
地球人。
そして緑色の身体を持つグリーントロルたち。
その中央に、見慣れた二人が立っていた。
『本日、第三回地球とグルディアの和平協定締結記念式典が開催されました!』
「あ、メリスタさん」
画面の中。
壇上で手を振っている男。
IGO会長――メリスタ。
元第二宇宙研究所の所長だった男だ。
今じゃIGOのトップ。
人生、何があるか分からない。
『地球代表メリスタIGO会長と、グルディア代表グリドーズ氏が揃って式典へ出席! 両星の友好関係が改めて確認されました!』
メリスタさんの隣。
巨大な身体で立っているのはグリドーズ。
グリーントロルたちの星。
グルディアの代表だ。
二人が握手を交わす。
会場から大きな歓声が上がった。
『そして今年も開催されます! 地球・グルディア星間フルコース交換!』
画面いっぱいに料理が映し出された。
地球の食材。
グルディアの食材。
見たことのない料理が次々に並ぶ。
『互いの星を代表するフルコースが盛大に交換されます! 昨年はグルディアから提供された前菜、流星苔のジュレが地球で大流行! 今年は一体どんな食材が登場するのでしょうか!』
「流星苔、美味しかったわね」
「うん」
母さんの言葉に頷く。
少し苦味があるけど、その後に強烈な甘味が来る。
俺も好きだ。
テレビではメリスタさんが何か話している。
『食卓を囲めるなら、もう敵ではない!』
会場が沸いた。
「……メリスタさんらしいな」
「知り合いが会長って不思議な感じね」
「俺もそう思う」
数年前。
地球とグルディアは敵同士だった。
正確には、グリーントロルたちの多くがマザー・グリードに支配されていた。
種族そのものを食った悪魔。
マザー・グリード。
あいつとの戦いが終わり。
グリーントロルたちは自由になった。
そして今。
互いの星の料理を食べている。
変な話だ。
でも。
「悪くないな」
「何が?」
「いや、何でもない」
俺は残っていた肉を口へ放り込んだ。
「ところでアマジン」
「ん?」
「今日はどうするの?」
母さんが尋ねる。
俺は水を飲みながら答えた。
「今日はグルディアに行ってくる」
「あら。また遠いところね」
「暴走してる猛獣がいるらしいんだ。依頼が来てる」
「危険なのか?」
父さんが新聞から目を上げる。
「そこまでじゃないと思う。まだ詳しい資料見てないけど」
「そうか」
「それにワープロードが繋がってるから、すぐ着くよ」
ワープロード。
星と星を繋ぐ転移交通網。
互いがフルコースでつながった結果だ。
グルディアまでなら、駅を二つ経由するだけだ。
「夕飯は?」
「多分帰れる」
「多分?」
「ブラウスと一緒だから、何か見つけたら料理始めるかも」
「ああ」
母さんが納得したように頷いた。
「じゃあ夕飯はいらないわね」
「なんで!?」
「ブラウス君と一緒なんでしょう?」
「一緒だけど!」
「なら絶対何か食べるじゃない」
「……否定できない」
ブラウスが料理人である以上。
現地で未知の食材を見つけた場合。
まず料理する。
ほぼ確実だ。
「キュ!」
「お前も行くんだからな」
「キュッ!」
はむまるが胸を張る。
何を威張ってるんだ。
「ご馳走様!」
俺は立ち上がった。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
「キュー!」
「はむまる。お前はこっちだ」
玄関とは逆方向へ走ろうとしたはむまるを掴み上げる。
相変わらずだ。
・・・
『間もなく、グルディア方面行きグルメシップが到着します』
駅構内にアナウンスが流れる。
巨大な駅だった。
頭上には無数の案内板。
『月方面』
『火星方面』
『グルメ海王星方面』
『グルディア方面』
グルメシップが忙しそうに飛び交う。
地球上の都市名に混じり、当たり前のように星の名前が並んでいる。
グルディアの技術のおかげで一気に進化している。
改めて考えると凄い時代だな。
「キュ」
「ん?」
俺の肩に乗っているはむまるが前を指差す。
「あ」
いた。
一人の男が立っている。
手には細長い料理ケース。
見慣れた姿だ。
「ブラウス!」
俺が手を上げる。
ブラウスがこちらを向いた。
「おはようございます。アマジン」
「先に着いてたんだな!」
「今着いたところですよ」
ブラウスが微笑む。
その背後。
巨大なリング状の設備に青白い光が走った。
『グルディア方面行きワープロード、接続を開始します』
空間が歪む。
リングの向こうに、地球とは違う空が映し出された。
緑色の雲。
紫色の大地。
遥か彼方を飛ぶ、巨大な猛獣の影。
惑星グルディア。
二年前まで。
俺たちの敵だった星。
「準備は?」
ブラウスが聞く。
俺は笑った。
「当然!」
はむまるが肩の上で鳴く。
「キュッ!」
「よし、行こうぜ!」
俺たちは並んで。
グルディアへ続く光の中へ足を踏み入れた。
いつも感想など頂きありがとうございます。
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