僕と全裸とスピリタス   作:チキンうまうま

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僕と入学と全裸の変態

 

 ─春。それは出会いと別れの季節。

 

 晴れて高校という学び舎を卒業した僕は新天地である伊豆大学へと進学し、そして今日、満開の桜の下で夢と希望にあふれた大学生活を始める──

 

「「「グォォォ………」」」

 

 はずだったんだけど。

 

 大学初日ということもあって少し早めにアパートを出た僕の前にいるのは3人の全裸とパンイチの男たち。その周りには大量の酒瓶が転がっている。

 

「……ふぅ。」

 

 まさか大学で半裸で酒盛りをする奴がいるわけもあるまいし、どうやら慣れない環境で幻覚でも見たらしい。強がっていても僕はまだ18歳。親元を離れた不安というのは根強かったようだ。そう結論を下して目をゴシゴシと擦るが、以前醜い酔い潰れた男たちの姿は消えない。

 

「うわあ!?なんだこれは!?」

 

 もしかしたらこれは現実なのかもしれない。そう思い始めたその時、僕の横でに来た男(イケメン)が声を上げた。気持ちはわかる。しかし、彼もまた悲鳴をあげたということは─

 

「まさかこれか現実だとでもいうのか…?」

 

 ドン引きしながらパンイチたちから距離を置こうとして、そこで初めて周りに人垣ができていることに気がついた。一部の女子に至っては悲鳴をあげている。

 ふむ。どうやらこれは僕の幻覚ではないらしい。ようやくそこに確信を得たところで、

 

「ねえ、ちょっといいかい?」

「…ああ、俺か?」

 

 隣のイケメンに声をかけた。というか今気がついたけどこいつのTシャツやばいな。ゴリゴリにアニメ系の女の子がプリントされている。彼は俗にいうオープンオタクってやつなんだろうか。

 

「うん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

「内容によるな。何をする気だ?」

「いや、ちょっとね。これを隠そうかと思ってさ」

 

 そう言って僕は眠り続けるパンイチたちを指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なあ」

「………なんだい?」

「これ、何か間違ってないか?」

 

 5分後。俺とイケメン(名前は耕平というらしい)は2人で首を傾げていた。

 

「おかしいなぁ…方向性は間違っていないはずなんけど」

「それは俺もそう思うんだが…」

 

 耕平は2人で地面を彩る真っ青なブルーシートを眺めながらつぶやいた。

 

「これじゃまるで死体を隠しているみたいにならないか?」

 

 そう、僕たちはとりあえずこの汚物を世間の目から隠すべく、とりあえずその辺に転がっていたブルーシートをこいつらの上に被せたのだ。だが、どうもブルーシートが小さかったようで足先だけが隠せていない状況にあった。はたから見れば言い訳のしようもないほどに死体安置の現場である。

 

「けどこれ以外に方法はないと思うんだよね」

 

 少なくともこの目に毒な連中を世間の目から隠せたというだけで僕は満足だ。周りの女子の悲鳴も少なくなった気がするし。

 

「それもそうか。ぱっと見で隠れていれば問題はないしな」

 

 僕の言い分に耕平は頷いた。どうやら俺と耕平の感性は似通っているらしい。彼とはいい友人になれそうだ─と思ったその時、一陣の風が吹いた。

 

 春風らしく温かいその風は吹くのと同時に桜の花びらを散らし、キャンパス内に幻想的な雰囲気を作りながらブルーシートをめくる。そう、めくってしまった。

 

『うわあああああ!!』

 

 そのせいで本来風情のあるはずの春風はブルーシートの下の野郎の大事なところを衆目に晒すことに成功していた。その途端に巻き起こる悲鳴。急いでブルーシートを直してリカバリーを図るが、それを間近で見てしまった僕と耕平といえば。

 

「くそっ目が腐る…!なまじさっきまで隠れていたばかりに突然まろびでた時の破壊力がとんでもないことに…!」

「助けてららこたん…!俺はこんなチラリズム理解したくなんてなかった…!」

 

 まあ当然最前列にいた僕たちの方がダメージがでかいわけで。2人して地面に膝をついて苦しみに耐え抜いていた。くそっ、なんで大学生活初日からこんな目に…!

 

「…はあっはあっ。目が潰れるところだった。危うく朝食がマーライオン(Nice Boat)するところだったよ」

「…ああ。今後こんなことが起こらないように対策を講じるべきだ」

「その通りだ耕平。けど何か作戦でもあるのかい?」

「当然だ。俺に任せろ」

 

 僕が尋ねると、耕平は力強く頷いた。すごい、なんて頼りになる男なんだ!

 

 

 

 

 

 

 

「…ねえ耕平」

「なんだ、原田」

 

 原田というのは僕の苗字である。本名は原田和彦。

 

「これ、さっきより悪化してないかい?」

 

 耕平の策に従って僕たちが探したのはブルーシートが風で飛ばないような重しだった。その条件としてはその辺に転がっていて、ある程度の重さがあるものなのだが…耕平が見つけたのは

 

「シャベルはまずいよこれ。まさに今から死体埋めますって雰囲気が出てきちゃったじゃないか」

 

 掃除用具と一緒に立てかけてあった大型のシャベルであった。それをブルーシートの四隅においた、までは良かったんだけどもそこで新しい問題が浮上したというわけだ。

 

「こんなはずじゃなかったんだが…おかしいな、一体なにを間違えたというんだ?」

「選んだものじゃないかな」

 

 周囲の人たちの悲鳴がカメラの撮影音に変わっていく中で2人して顔を見合わせていると、

 

「う、うう…」

 

 ブルーシートの下から呻き声が聞こえた。それが聞こえるのと同時にその場から慌てて距離を取る。全裸とパンイチ、目を覚したのはどっちだ…?せめてパンイチの方であってくれ…!

 

「…うん?なんだ夢か…ブルーシート?」

 

 ガサガサと音を立ててブルーシートの下から這って出たのはパンイチの男だった。うん、まだマシと言ったところか。その男が出てくるのと同時に周りのシャッター音の勢いも加速していく。

 

「なんでブルーシートが…?くそっ、頭も痛いしそもそも今何時…8時54分!?遅刻寸前じゃんか!なにが『絶対に遅刻しない』だ!どうしてくれるんだ!」

 

 彼の心配すべきなのは人としての在り方であって少なくとも遅刻云々じゃあないと思う。

 

 そこまで言ってパンイチの男は初めて周りを見回した。そして自分の服装を見て─ようやく自分の状況を理解したらしい。それを見届けたところで耕平が僕の肩を叩いた。

 

「原田、これ以上は俺たちも遅刻するぞ」

「…そうだね。それにもう僕たちにできることはなさそうだ」

 

 そう言って僕たちは講堂の方へ向けて足早に歩き始める。できればあの連中と違う学部でありますようにと、切実な願いを込めながら。

 

『待って!待ってくれ!誰か服を…!』

 

「そういえば耕平はサークルはどうするんだい?僕はまだ何も決めてないんだけど」

「それなら探しているサークルがあってな。心当たりがあれば教えて欲しいんだが…」

 

 後ろから聞こえる声を無視しながら歩いていく。最初こそ碌でもないことがあったけど、少なくとも耕平とは仲良くなれそうだしきっといい4年間が送れるはず─

 

「へえ、どんなサークルを探してるんだい?」

「ああ。俺を中心にした女子高生美少女ハーレムサークルだ。心当たりがあれば是非教えて欲しい」

「…高校生からやり直すしかないんじゃないのかな」

 

 前言撤回。こいつとも距離を置いた方がいいのかもしれない。

 

「…大学選び、ミスったかなあ」

 

『この恨み、忘れませんからねぇぇぇぇ!!!!』

 

 僕のため息とパンイチ男の恨みの困った声は春の空に消えていった。

 

 

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