狼ボコりました
「お疲れ様。ほんとよく頑張ったね」
どこからともなく現れた族長はそういうと武器を背中から持ち上げ地面に突き刺した。
「試験はこれでおしまい、もちろん2人とも合格だよ。それじゃ、森の中は危ないから帰ろうか。帰り道はちゃんとみんなで護るから安心してね」
四方を囲むようにほかの戦士の人たちも現れた。確かに守ってくれるという安心感とともに、試験の終わりを実感する。
無事に合格できて安堵のため息が漏れてくる。
家に帰るまでが遠足とは言うが、族長が子守りしてくれるのならそれは戦車で家に帰るのと同義だ。
これで死ぬのなら何やっても無理なので割り切って自分の手当を始める。
「ところで、その……帰れそうかな?今の状態で」
この族長の質問は別に私の体調を案じて、ではない。私が現在進行形で右腕をニーチェに占領されているから、の問いだ……
あのオオカミを倒した時に抱き抱えてからずっとこれで、首の後ろに手を回してしがみついて離れようとしない。
「まぁ……大丈夫よ……」
若干諦めをまじえて返答した。
何を言っても離れようとしないし、ニコニコ笑うニーチェを引き剥がすような真似は私には出来なかった。
▽
「ニーチェ?もう着いてるわよ?」
無事に帰ってきてからもニーチェは変わらず抱きついている。随分疲れてしまったようで、ほとんど目は閉じられていた。
「もうちょっとだけ……」
顔が近い。
吐息が当たる。
いい匂いがする。
柔らかい。
温かい。
完全に緊張を解いた今、私はダイレクトに攻撃を食らっている。
理性が、と言うよりは母性が。
帰ってきてからというもの、族長は「証持ってくるから少しここら辺で待っててね」とか言って離れていくし、部隊の人たちもなんか生暖かいモノを見る目をして仕事に戻ってしまったし。
二人っきりになってから腰を落ち着けるために適当に座ったのだけれど、体勢がもう完全に子供に抱きつかれているような感じで……。
将来子供ができたとしたらこんなに可愛いのかなんて思いながら見ていたら、ニーチェに睨まれてしまった。考えが見透かされてしまったみたいだ。子供扱いはNGらしい。
誤魔化すために頭を撫でてみたら嫌がらずに上機嫌に戻ったから良かったが、むしろ子供っぽさが一層強まっただけのような気がするのは気の所為だろうか。
満足気に頬を綻ばせるニーチェを見ているとそんなことはどうでも良くなってきた。
静かに時が流れ、自然の香りが頬を撫でていく。
思えば前世を思い出してからまともに休んだのは今日が初めてかもしれない。
平日は訓練詰めだったし休日も身体は動かしてないけど図書館通いしてたし。
この1年はめちゃくちゃニーチェに助けられて生きてきた。生活も、訓練も、さっきの戦闘でも、ずっとニーチェはそばに居て助けてくれた。
だからこうやって抱き締めて撫でるだけでご機嫌が取れるならばいくらでもご機嫌を取ろう。
私はニーチェには甘いんだ。甘えられたら応える以外の選択肢を持ち合わせていない。
集落の入り口は人気もなくほとんどが自然でどこか安心する。
流し目に閑散とした様子を眺めていても族長が居るくらいで特に代わり映えはしない。人が住んでいるとは思えない薄い青緑に染まっていて、そこはかとなく物静かな雰囲気に安心感を感じ………………族長?
「戻ったのならちゃんと教えて欲しいわね」
「邪魔すると悪いかなって」
私は立ち上がろうとしたらそれを族長に止められた。別に戦士になったあれこれは格式ばってないから適当に証を渡して終わりなんだと。それでいいのか、とは思うけど族長が言うなら良いのだろう。
「じゃあ、はいこれ。戦士の証ね」
随分と軽いノリである。一応その証のために命懸けで戦ったのだけれど…………
手渡された証は、名前が掘られたプレート付きの金属製のネックレスだった。丁寧な模様が彫り込まれていることを除けば、前世の軍隊が持っていたらしいドッグタグみたいなものだ。
何故かニーチェの分まで手渡しされたのでニーチェにもかけてあげる。
「ほら、ニーチェ。顔上げて」
顔を上げたニーチェを正面に据えてネックレスをかける。
それを見届けた族長は満足気に頷き今後についての説明を始めた。
「さて、まずはおめでとう。これで2人は名実ともに戦士となった。それと同時に、これからは今日みたいに魔物と戦うのが日常になる。それは分かってるかな?」
私は即座に頷き、ニーチェも後を追うように頷いた。
「それで今後の話ね。悪いけど今二人と組める子達は居ないんだよね。リファとニーチェを分かれさせて別々の部隊のリーダーに配置だと摩擦が怖いし、かといって纏めて六人部隊にするのは過剰すぎる。人手不足なのに余らせている余裕はないんだ。───────だから思いきって二人だけの部隊として動いてもらうよ」
なるほど、二人だけでいいのは嬉しい配慮だ。私は未だにニーチェと族長以外まともに話したことがない。
やろうと思えばできると思えるようなコミュ障のレベルはとうに過ぎ去っているので本当に助かる。
しかし人手不足なのに半年も集落のTOP2を訓練に拘束して良かったのだろうか……?
「それじゃ、伝えることは伝えたし今日は解散!二人ともお疲れ様」
なんか明らかに情報が足りなかった気がする。戦士の仕事とかの説明は?
というか終始ニーチェがしがみついたままだったのはいいのだろうか?
と思っていたら慌てて族長が戻ってきた。色々説明不足だったのに気づいたのだろう。
「ごめんごめんもう一つあった。二人はこれから同じ家で暮らすことになるから。ああ、家はここ真っ直ぐ行ったとこにあるからね。それじゃ、改めてお疲れ様」
…………??????
…………はい?!????
ひとまず唖然として口を開けていた私たちは理解が追いつかないまま、とぼとぼと解散した。情報が衝撃的すぎて、くっついて離れなかったニーチェもいとも簡単に剥がせた。
自分の家に戻ってみればご丁寧に手紙で、ちゃんと同居するようにという旨が書かれた催促が来ていた。ついでに仕事内容とか諸々の説明も同封されていた。要は逃げられないということだ。
いや、なぜ同居???
考えても仕方が無いので数少ない私物をカバンに詰め込んで家を出ていく。ちなみにこのカバンは将来外に出ていきたいと言ったら集落のベンおじさんという職人が作ってくれた。タダである。
というか私の持ち物は全て集落の人達の善意でできている。
コミュニケーションが下手で迷惑をかけっぱなしだ。本当に申し訳ない。
二十年と少しの間一人で住んでいたこの家ともお別れとなる。いつもの家、がもういつものじゃなくなるのは、少し寂しさを感じる。
さて、気持ちを切り替えてニーチェとの同居生活について考え……られる訳ない。当たり前だ。
前世の記憶のせいでい私の思考回路の四、五割は男だ。性自認は女性だが純粋な女性かと言われればNOと答える。
ニーチェのような見た目麗しいうら若き少女とひとつ屋根の下に暮らすというのは…………いや年齢は同じかもしれないがまあ気持ち的にはダメだ。
でもダメな理由は気持ちだけ。理論で武装すると惨敗である。
私は男の記憶が混ざっているが、生まれてこの方女なのだ。そして記憶について言ったことはないし言うこともない。だから否定することができない。
でもなぁ……私の中のモラルが反発してくる……
答えの出ない問題に自問自答していると、気づけば同居予定の家まで着いてしまった。二階建てで私が元々住んでいたとこのちょうど二倍くらいの広さがありそうな大きさだ。
私は玄関の前でいつ入るか、どう入るか決めかねてウロウロしている。
そんなの玄関まで来ておいて今更だとは、頭では分かっているが気持ちが追いついていない。
いつまでも先送りにはできないなと意を決して扉を開けようとした時、かなり後ろの方からほんのり私を呼ぶ声がした気がする。
振り向けば三百メートルくらい先に小さくまん丸としたシルエットが見えた。
随分遠いが目をよく凝らして見るとそれはかなり大きな荷物を背負ったニーチェだった。
げんなりして口を大きく動かしている様子から何か困っているようだったので助けに向かう。
「リ〜〜~ちゃ〜ん.....助けてぇぇ.....」
開口一番に助けを求めてきたニーチェに私は思わず呆れた目を向けてしまう。
ニーチェは自分の背中を覆い尽くすほどの見たこともないような大きなリュックと、さらに両腕にもパンパンの荷物を抱えており重量は数十kgを軽く超えているだろう。
それ故に歩みの速度は亀にも劣らない鈍足さで、一歩踏み出してもその歩幅は靴一つ分にも満たない。
その様子にはもう呆れて物も言えない。それは別に荷物が多いからという訳では無い。
「リーちゃん?」
私の様子に気づいたニーチェは歩みを止め不思議そうにこちらを見あげてきた。
どうやらなぜ呆れているか分からないらしい。
「…………ニーチェ。身体強化は?」
「あ。」
魔法の基礎たる身体強化は人によって上がり幅が違うが、戦いの最中に弓の弦を思いっきり引けるニーチェが使えば、数十kgなんて軽々運べないとおかしいのだ。
「あ、あはは……日常生活で身体強化することなんてないからさ……つい、ね?忘れちゃったというか……だからぁ……お願いだからその目を向けるのやめて欲しいなぁ……なんて」
「はぁ…………その両腕の荷物渡して。運ぶから」
「ありがと!!!」
「ちょっ…ばッッ…!」
ニーチェはその場で身体強化を使ったと思えばあろうことか私に抱きついてきた。咄嗟に私も身体強化したから良かったものの、普通に体重百キロの人のタックルと同じだ。死人が出るレベルだろう。
この瞬間からニーチェに対してのレッテルに新しくアホを追加したのも仕方が無いと思う。
おかしいな、訓練の時はしっかり者だったんだけど……
これから先の生活が一気に不安になってきた……
▽
新しい家に来てから自分の部屋に物を持ち込んで整理していると既に日は落ちきっていた。
そろそろ夕食の時間だなと思い持ってきていた食材を冷蔵庫から取り出していると、冷蔵庫の下段の冷凍室にそれとは別の食材が入っていることに気づいた。
取り出してみればそれは保存用の葉に包まれた肉だった。丁寧な処理が施されたオオカミの肉に書き置きの紙が付いている。
───────
二人へ
今日は試験お疲れ様。これで晴れて2人とも戦士として集落の防衛と狩りを担うことになる。おめでとう。
このお肉はリファとニーチェが戦ったオオカミの魔物の肉だよ。丸ごと持って帰れたら集落全体で宴でも開いたんだけど、流石にっていうことで許して欲しい。2人の初めての戦果だから味わって食べてね。
追伸
戸棚に出来が良かった果実酒を1本入れて置いたよ。2人の戦士祝いと同居祝いだから楽しんで。
───────
族長は知らない内に倒したオオカミを捌いていたらしい。いつ捌いたのかとか色々気になることはあるけどひとまずそれは置いておいてありがたく頂く。
これで今日のメニューは決まりだ。族長の用意したオオカミ肉の香草ステーキに野菜スープ、パン、サラダ。まあ簡単に作れるものだが美味しいからいいだろう。
これらを手際よく作っていく。野菜とオオカミの肉だを手頃なサイズに切って鍋の水が沸騰したらいれて煮込む。スープを作る際に手が余った時間でステーキの下ごしらえを終わらせておく。これで準備はおしまい。
あとは多少時間を遅らせてニーチェが来る頃にステーキが焼き上がるよう調整する。
スープが煮込み終わりステーキも焼き終えて、盛り付け始めた頃にニーチェは階段をおりてきた。読み通り、タイミングバッチリだ。
階段から見えてきたニーチェは気だるげな表情で欠伸をしながらこっちにやってくる。今日は初めて魔物と戦った日で、道中も船を漕いでいたしかなり疲れているんだろう。
ただ私の顔を見てからはすごい目を見開いてさっきまでの眠たそうな表情は無くなったけど。
多分同居することを忘れてたんだと思う。
族長がくれた果実酒も開けて、そこそこ豪華になった夕食を一緒に食べる。思えばニーチェと最後に食卓を囲んだのは一年前だからかなり久々だ。
酔いが回って口も回る。酔うと多少は喋れるみたいだ。
前世今世合わせて初めてのお酒だったのもあって、全く加減が分からず飲み進めていくとすぐに酔いが回っていってしまった。
私が覚えていた最後の記憶はニーチェの笑顔に絆されて共に笑ったことだった。
そして目が覚めればニーチェと同じベッドで寝ていた。ニーチェは私に抱きついて起きないし、私は抱きつかれて身動きが取れない。
手を出したの……?と思ったけど、まあ裸じゃないからセーフ。多分してない。ギリセーフ。
いやアウトでしょう。ここ私の部屋だし。ダメでしょう普通に考えて。
ニーチェが寝ながら何故か身体強化しているせいで本当に動けないし、勘弁して欲しい。
というか日常生活では使わなかったのに寝てる時は使えるんだ、すご。
結局私はニーチェが起きるまでの間ずっと抱き枕にされていた。起きたあとも一緒に摂った朝食の時間は、ずっとドギマギしていたせいで昨夜の私について聞くことは出来なかった。
丸一日この気まずさなのかと今日が休日なことに少し毒づいたが、ニーチェがいつも通りに話してくれてなんとか助かった。ニーチェが話してくれなかったら無限に続いていたと思うと感謝しかない。私から改善させるなんて不可能だからね。
◆
sideニーチェ
今の私はちょっと、いやだいぶずるい子だ。
助けられた流れに乗ってリーちゃんにずっと抱きついている。リーちゃんが無理やり引き剥がさないのをいいことに、迷惑だとわかっているのに。
甘えに甘えてしまっている。甘えが許されてしまっている。ずっと甘えていたい。この時間をもっと長く続けたい。
煩悩や欲にまみれている私のことは露知らず、リーちゃんは温かく抱き返してくれる。
集落に帰ってからもずっと。腰を落ち着けてからは動きが穏やかになって、背中を撫でる風に、リーちゃんの静かな呼吸音が聞こえてきてすごく安心する。
魔物と初めて戦ったせいで、どうも頭が上手く回らない。疲れてすごく眠たい……
「ニーチェ?もう着いてるわよ?」
リーちゃんが優しく囁くように教えてくれたけど、当然知ってる。私が抱きついているのはただのわがままなんだ。この心地良さをもっと味わっていたいっていう身勝手なわがまま。
「もうちょっとだけ……」
今の私はストッパーが効いてなかった。それは疲れているからか、眠気で意識が薄いからか、それとも恋を自覚したからか。
私の甘えを逃さず受け止めてくれる好きな人に欲望のままに甘えてしまう。
ふと気づけばリーちゃんが優しい目で私を見つめていた。それは友達とか同世代に向けるものと言うよりは、パパとか族長がよくする子供を見るような…………
それはイヤだ、ただでさえ勝ち目の薄い恋なのに勝負すら成り立たなくなってしまう。
思わずムッとして睨むとリーちゃんは「ごめんごめん」と言いながら頭を撫でてきた。より子供扱いが悪化してるけどあまりに心地よくて頬が緩んでしまう。
こればっかりはいくら気を張り直してもどんどん緩んでしまった。
これは眠気のせいだ。断じて子供っぽくはない。
撫でられてると眠気がどんどんと登ってくる。気づけばリーちゃんは戦士の証を私にかけていて、族長も戻ってきていた。
無理やり顔を起こして立とうとしたけど、なんか立たなくてもいいらしい。
すぐにでも寝そうな頭をなんとか保たせて族長の話を聞く。が、正直殆ど覚えていない。
なんとか話を聞き切り、無事に今日を終えることができた。これまでで一番疲れたかもしれない。
もっともこれからは戦士として魔物と戦うのが日常になってくるから、より一層大変になっていくけど。
そろそろ解散か〜と思っていたらなにか伝え忘れがあったらしく小走りで族長が戻ってきた。
「ごめんもう一つあった。二人はこれから同じ家で暮らすことになるから。ああ、家はここ真っ直ぐ行ったとこにあるからね。それじゃ、改めてお疲れ様」
……???リーちゃんと………同居…………?
▽
族長の投下した急な爆弾発言に私の意識は一気に戻された。いや情報は処理できてないんだけど、処理できてないままに解散した。
時刻は夕方時に入っていて、帰宅した直後に渡された手紙によると今日から同居らしいから大慌てだ。とりあえず服に化粧関連、整備道具に教本に日用品と私物をどんどんカバンに詰め込んでいく。
気づけば二つのカバンに一つのバックパックがパンパンに膨らんでおり、持ち上げれば相当な重量になっていた。確実に服と装備が悪さをしている。
ひとまずは気合いでどうにかなる!と思って背負って歩き出した。伊達に鍛えてきていないのだ。
まあ物の見事に身体は限界を迎えていた。三分の二の道のりを超えた頃には一歩が信じられないほど小さくなるくらいには、それはもう限界だ。
ただその甲斐あって、なんとか同居予定の家の玄関が見えてきていた。そしてそこにいるリーちゃんも。
丁度リーちゃんが家に入ろうとしていることに気づいて慌てて全力で呼ぶ。
「リ〜〜〜〜ちゃ〜〜〜〜ん!!!!!」
正直大声で呼んだとして聞こえるか分からないくらい距離ではあったけど、リーちゃんなら聞こえる気がした。
ちゃんと私の声は届いたようで、リーちゃんは振り返って私に気づいた。
「助けて!リーちゃん!」
もう一度呼ぶとすぐに駆け寄ってくれる。なんかヒーローみたい。
こっちに来てくれたリーちゃんはなんかすごい呆れ顔をしていた。今まで見た中で一番豊かな表情をしている。
だけど心当たりがない。なにか呆れさせることをしたのか、何も思いつかない。
というか荷物が重すぎてそれどころじゃない。
理由を直接聞こうと思って顔を上げたら丁度リーちゃんが口を開いた。
「…………ニーチェ。身体強化は?」
「あ。」
あ。
▽
恥ずかしさと申し訳なさで心がごちゃごちゃしたまま二階へと上っていく。もちろん今はちゃんと身体強化している。
二階は二部屋あってそれぞれが私とリーちゃんの部屋だ。
荷物を部屋にドサッと置いて荷解きを始める。持ってきた量が量なだけにかなり時間がかかってしまう。ただ新しい部屋は実家よりも広くて思ったより多くスペースが余りそうだった。
衣服に装備に日用品に化粧品……荷解きをようやく終えて、そういえばご飯まだだったなと台所に向かう。
眠気がピークだった私は完全に実家にいる気分で一階に降りていた。眠過ぎて家の構造が違うことにも気づいていない。
一つ折り返しのある階段で、折り返しの角を出るとエプロン姿で料理を作っているリーちゃんがいた。
私の分まで作ってくれたらしい。完全に忘れていたせいでこの不意打ちはクリーンヒット、さっきまでの眠気が冗談みたいに晴れた。
リーちゃんに手招きされて同じ食卓に着く。どの料理からも食欲をそそる香りがしてきていて、疲れた身体から控えめにお腹の音が鳴った。
族長がくれたらしい果実酒をコップに注いで乾杯して、二人きりの小さな宴が始まる。相も変わらず私が色々と話題を出してリーちゃんは相槌を打ちながら聞いてくれる……と思ったんだけど…………
後ろを向けば見たことない笑顔のリーちゃんが身体を密着させている。顔は酔いが回りに回っていて真っ赤だった。私はそんなリーちゃんと一緒に、リーちゃんの部屋に来ていた。しかもベッドの上で膝に乗せられている。
どうしてこうなった……?
そもそもリーちゃんは数口飲んだだけで出来上がっていた。ほんの一瞬、気づいたら笑顔だった。
全部の行動がオーバーになっていて身振り手振りまで追加されていた。少なかった口数は見る影もなく饒舌になっていてすごい可愛い。というか笑顔があまりにも可愛くて役得すぎる。
リーちゃんが先に食べ終わったと思えば、突然私の周りをうろついてきて、私も食べ終えた直後に抱き上げてきた。唐突な行動に思わず「うへぁっ?!」って変な声を上げたけどどう考えても私は悪くない。
ご丁寧に身体強化まで使って抱き上げたリーちゃんは、機嫌の良さそうな足並みでリビングのソファへと向かっていって私を抱きしめたまま座る。そして眠ろうとしていた。
……本当にちょっと待って?急な抱きつきで私はドキドキしてるのに寝ようとしないで欲しい。もう少し心臓に対して配慮して欲しい。
力の抜けたリーちゃんの頭が私の肩に倒れかかってくる。サラサラの銀髪が私の頬を撫でてきてくすぐったい。
人肌の温かさが丁度良くて私も忘れていた眠気が戻ってくる。このままソファで仲良く眠ってもいいんじゃない?
そんな悪魔の囁きが脳みそを支配しそうになるけどなんとか耐え抜いて体を動かす。
一旦拘束から逃れようとしたら悲しそうにするせいでリーちゃんを引っ付けたまま行動することになった。
食器を片付けて服を脱いで、脱がせて一緒にシャワーに………………
別に仕方がなく、だよ?決して下心があった訳じゃなくてこんな状態だと一人じゃシャワー浴びれないからであって別に私がリーちゃんと一緒にシャワーを浴びたいわけでは決してなくて、いや浴びたくないとは言って無いけど………………誰に言い訳してるんだろう……
シャワーでリーちゃんが溺れかけるアクシデントはあったけど、何事もなくシャワーから出たら魔法で水分を飛ばす。酔いが覚めたりしてないかな?と思ったが俄然として笑顔で舟を漕いでいる。
あとは自分の部屋でパジャマを着て、やっぱり付いてきているリーちゃんをリーちゃんの部屋まで連れてってパジャマ着させて。
そして今。ベッドに座ったリーちゃんに抱き寄せられていた。
リーちゃんはしっかり身体強化しているせいでまるで抜け出せない。そりゃそうだ。前衛の身体強化は私のモノとはレベルが違うんだから。
既に心臓は爆発しそうな程に高鳴ってる。距離が近すぎる。呼吸の音がありありと聞こえる。
けれど離れさせてくれない。離れようとしても腰をガッチリ掴んでまたひざの上に戻してくる。
頑張って体を捻りリーちゃんを確認すると、既に目は空いてなくて半分以上寝ていた。さらにうつらうつらして時折顔を肩に押し付け、抱きしめる腕は徐々に強まり、なんならベッドに倒れこもうと動いていた。
もはや抜け出すことは出来ないな。
そう察した私はしかたなーく一緒に寝ることにした。ほんとに抜け出す方法が無いからしかたな〜くだ。
倒れ込む過程で身体を回転させて向き合う形にしたのも、しかたな〜くなのだから別にいいよね、少しくらい。
抱きしめられながら少しずつ微睡む視界に身を委ねつつ、寝る直前までリーちゃんを見つめていた。寝顔は綺麗で、静かで、穏やかで、眠る寸前まで私が視線を外すことを許してくれなかった。