三秒先の未来   作:ロデオT

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4年前
11月7日ふたたび


あの壮絶だった11月7日から4年の歳月が過ぎようとしていた。

爆弾犯は複数いたと思われ、テレビ中継を見てまだ

爆弾が動いていると勘違いし、解体方法を連絡してきた犯人の1人が待ち伏せしていた警察官から逃げる際に交通事故で死亡。

だがその後、タイマーが止まっていた萩原が解体中の爆弾が遠隔操作で起動し爆発したことから、少なくとももう1人はいると考えられた。

そして事件から1年後より、警視庁宛に謎のファックスが送られてくるようになった。

その情報は、捜査一課だけではなく、松田や復帰した萩原のいる機動隊にも伝わっていた。

警視庁内にて久しぶりに顔を合わせた3人の話題は、

「陣平ちゃん、凱ちゃん聞いてる?例のファックスの話。」

萩原が切り出せば、

「3年前から来ている数字だけのファックスのことか?」

榊も知っていると頷く。

「3年前が3、2年前が2、そして去年が1。」

「まるで爆弾のカウントダウンみてぇだな。」

松田がそう零す。

「とすると0になる今年は爆発することになるけど。」

「例の爆弾犯の仕業だと思うか?」

萩原と松田はそう榊に問いかける。

「まだ捕まってない以上、その可能性が高いだろうな。」

「果たして今年はどんなファックスが来るのかがわからんのが腹立たしいことこの上ない。」

溜息をつきながら榊が愚痴る。

「まぁ来たら来たときじゃないかな。」

「それより凱ちゃん、最近姉ちゃんとはどうなのさ?」

萩原が話題を変えると、

「俺は業務外の不条理なからかいには応じないと言ったはずだが。」

露骨に榊が顔を顰める。

「まぁまぁ固いこと言わないでよ。」

「最近姉ちゃんにも言われるんだよ、凱は元気にしてるのかって。」

「榊お前千速からのメッセージも碌な返信してないらしいじゃねえか?」

2人からそう詰め寄られる。

「確かにそれは認める。」

「ただ正直に言えば、女性からのメッセージに気の利いた返信など思いつかんのだが…」

これを聞いた2人は思った。

(凱ちゃん、意外と女性経験少ない?)

(まぁこの堅物がそういった気遣いができるとは

思えんが。)

2人の表情をみて

「何を言いたいかはわかるが否定はしない。」

「おいおい、自覚はあったのかよ」

松田が呆れたように笑い、手元にあった缶コーヒーを榊に放り投げる。

榊はそれを片手で正確に受け止めると、冷ややかな視線を松田に返した。

「事実を言ったまでだ。千速さんからの連絡は、生存確認や日常の他愛のない報告が主だからな。事件の報告書ならいくらでも書けるが、私的な近況報告に対してどう言葉を返せばいいのか、最適解が見当たらん」

「いやいや凱ちゃん、最適解なんて求めなくていいのよ」

萩原が苦笑しながら、榊の肩にポンと手を置く。

「姉ちゃんが聞きたいのは、凱ちゃんが『元気にやってるかどうか』。それだけなんだから。例えば『今日も相変わらず陣平ちゃんと萩原がうるさいです』とか、そんな一言でも大喜びすると思うよ?」

「……そんな内容でいいのか?」

真剣な顔で考え込む榊を見て、松田は

「あーあ、こりゃ重症だな」と前髪をかき上げた。

「お前なぁ、犯人の思考を読み解く頭はあるくせに、女心に関しては配線が一本も繋がってねぇんじゃねえか?

千速だけじゃねぇ、捜査一課の連中もお前のそのカタブツっぷりには手を焼いてるぜ」

「捜査一課の任務に俺の私生活は関係ない。」

「それに、今はそんな話をしている場合ではないだろう。」

榊は手の中の缶コーヒーをじっと見つめ、

一瞬で表情を刑事のそれへと戻した。

その鋭い眼光に、松田と萩原もわずかに表情を引き締める。「……話が戻るが、あのファックスの件だ。カウントダウンが本当なら、今年の11月7日は『0』になる。何かが起きる、それも確実に、4年前のあの時以上の規模でな」

榊の言葉に、萩原はふっと視線を落とした。4年前。自分が解体していた爆弾のタイマーが突然動き出し、死を覚悟したあの瞬間。

もしあの時、榊が規則を無視して踏み込んで来なければ今ここに自分はいない。

「……そうだね。あの犯人は、警察を、俺たちを嘲笑うために4年間も息を潜めていた。今度こそ、絶対に尻尾を掴んで引きずり出してやらないと」

萩原の言葉には、いつもの軽薄さは一切なかった。

「あぁ、4年前の借りをきっちり返してやる。……凱、お前も一課の意地を見せろよ」

松田が不敵な笑みを浮かべて榊の胸を軽く叩く。

榊は小さく鼻で笑うと、缶コーヒーのプルタブを引いた。

「言われずとも。警視庁捜査一課、そして機動隊の威信にかけて、あの男のカウントダウンをここで終わらせる」

決意を秘めた3人の視線が交差する。

11月7日まで、残り時間はあとわずか。

警視庁を包む嵐の前の静けさの中、彼らはそれぞれの戦場へ戻るべく、歩き出そうとしていた。

その時、榊のポケットの中で、不意に携帯電話が短いバイブ音を鳴らした。画面を見ると、そこには『萩原千速』の名前。

「……」

無言で画面を見つめる榊に、松田と萩原がニヤニヤしながら顔を覗き込もうとする。

「ほら凱ちゃん、さっそく実践のチャンスだよ。なんて返す?」「『爆弾犯を捕まえたら連絡する』とだけ打つ気か? あ?」

2人の茶化しを無視するように、榊はふいっと背を向け、不器用な手つきで画面を操作し始めた。

 

 

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