BLACK LAGOON Maid's Salvation 作:AI太郎
ロベルタの話
夜のイエローフラッグは騒がしかった。
昼とは別の生き物だった。
酒。
煙草。
怒鳴り声。
笑い声。
そして時折聞こえる銃声。
ロアナプラでは珍しくもない。
バオも気にしていなかった。
「ほらよ」
ガルシアの前に皿が置かれる。
炒飯だった。
「ありがとう」
「最近よく食うな」
「美味しいから」
バオは鼻を鳴らした。
褒め言葉として受け取ったらしい。
テーブルにはロック。
ベニー。
ダッチ。
そしてレヴィ。
いつもの顔ぶれだった。
二階から女達が降りてくる。
派手な化粧。
派手な服。
夜の仕事を終えたばかりなのだろう。
そのうちの一人がガルシアを見つけた。
「あら坊や!」
途端に顔が明るくなる。
「また来てたのね」
「こんばんは」
ガルシアが会釈する。
それだけだった。
それだけなのに。
「ああもう!」
女は頭を抱えた。
「何でそんなに良い子なのよ!」
「苦しい」
次の瞬間。
ガルシアは抱き締められていた。
「離して」
「嫌」
即答だった。
レヴィが吹き出した。
「捕まってるじゃねぇか」
「助けて」
「嫌だ」
やはり即答だった。
さらに別の女も寄ってくる。
「今日も可愛いわねぇ」
頭を撫でる。
「子供扱いしないでよ」
「子供じゃないわ」
真顔だった。
「天使よ」
「意味が分からない」
ガルシアは本気で分かっていなかった。
すると。
「ほんと綺麗な顔してるわね」
女が軽く頬へキスをする。
ガルシアが固まる。
数秒。
完全停止。
その様子を見て。
店中が笑った。
「真っ赤じゃねぇか」
レヴィが腹を抱える。
「慣れてないのねぇ」
「当たり前だよ!」
ガルシアが抗議する。
すると別の女が笑う。
「可愛い」
「やめて」
「嫌」
全然話を聞いてくれない。
さらに頭を抱き寄せられる。
ガルシアは諦めた。
ロックは額を押さえている。
ベニーは苦笑している。
ダッチは煙草を吸っている。
レヴィだけが心の底から楽しそうだった。
「人気者じゃねぇか」
「何でこうなるんだろう」
ガルシアは本気で困惑していた。
「ロベルタに怒られるよ」
沈黙。
「ロベルタ?」
ロックが首を傾げる。
「誰だい?」
ベニーも聞く。
「僕のメイド」
「ああ」
何となく全員納得する。
「過保護なのか?」
レヴィが聞く。
「かなり」
ガルシアは頷いた。
「どのくらいだい?」
ベニーが面白そうに聞く。
ガルシアは少し考える。
「銃を持ったら怒る」
レヴィ
「もう怒られてるな」
「車を運転したら怒る」
ダッチ
「それは普通だ」
「パソコンも怒ると思う」
ベニー
「何で僕を見るんだい?」
全員笑う。
「あとイエローフラッグも」
沈黙。
全員二階を見る。
理解した。
「ああ」
ロックが頷く。
「それは怒るな」
「普通怒る」
バオまで会話に参加した。
「だよね」
ガルシアも頷く。
レヴィだけが面白そうに笑っていた。
「会ってみてぇな、そのメイド」
「優しいよ」
ガルシアは即答した。
「怖くない」
「へぇ」
「でも強い」
レヴィが鼻で笑う。
「メイドがか?」
「うん」
ガルシアは頷く。
「どのくらいだ」
ガルシアは少し考えた。
そして。
「多分」
「ん?」
「この街の誰よりも強い」
沈黙。
数秒後。
レヴィが吹き出した。
「ははははっ!」
ベニーも笑う。
ロックも苦笑した。
「愛情込みの評価じゃないかい?」
「違うよ」
ガルシアは真面目だった。
「本当に強い」
「この街の誰より?」
ロックが聞く。
「うん」
即答だった。
「ロベルタが負けるところは想像できない」
その言葉には迷いがなかった。
レヴィはまだ笑っている。
「そんなにか」
「うん」
ガルシアは頷く。
「絶対迎えに来てくれるし」
その言葉に。
ロックが少しだけ視線を落とした。
ガルシアはずっとそうだった。
不安にならない。
絶望しない。
最初からずっと。
父を信じていた。
そして。
ロベルタを信じていた。
だから今もここにいる。
レヴィは煙草を咥える。
「じゃあその最強のメイドが来たら紹介しろ」
「うん」
ガルシアは笑った。
「多分みんな驚くと思う」
それはそうだろう。
だが。
この場にいる誰一人として。
その言葉の意味を理解していなかった。
ただ一人。
ダッチだけが黙ったまま煙を吐く。
世界には時折。
常識の外にいる人間が存在する。
元軍人である彼は、それを知っていた。
もっとも。
その"常識の外"が。
黒いメイド服を着て。
ピンクの日傘を差し。
アタッシュケースを持って。
今まさにロアナプラへ向かっているとは。
ダッチですら思っていなかった。