暗部にいる犬塚一族のあんまやる気ないやつ。   作:犬犬犬

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犬塚一族の困ったやつ。

 

 木ノ葉隠れの里の暗部に、犬塚コマというくノ一がいる。

 一言で表すなら、あんまりやる気のない困った女である。

 

 まず、犬塚一族の癖に忍犬を使わない。

 「いやだって、木ノ葉の忍で犬連れてる時点で犬塚丸出しじゃないッスか。」とのことで(それはそうかも、と不覚にも思ってしまった)、嗅覚が必要な時は自前でどうにかしている。一度口寄せの術を提案したが、「いちいち指先嚙み切って血出すの嫌ッス。」と怠がられたので、一周回って犬嫌い説が仲間内で横行した(因みに犬塚一族特有のあの頬のペイントは、流石にしないと一族の偉い人に怒られるらしく、毎朝文句を言いながら渋々やっていた)

 

「いや普通に犬は好きッスね。」

 

 まだはたけカカシが、暗部で部隊長なんて地位を預かっていた頃のことである。

 「今も家に二匹いるんで。見ますか、あずきちゃんときなこちゃん。」とすかさず写真を懐から出した部下に、カカシは「じゃあ何で任務で使わないの、お前。」と素朴な質問を投げかけた。

 

「だって犬が怪我したら可哀想じゃないスか。」

「愛玩犬じゃあるまいし、忍犬なら任務で使ってやらない方が可哀想だろ。」

「あ、愛玩犬ッス。私忍犬飼ってないんで今。」

「……つくづく変な犬塚だね、お前。」

「よく言われるッス。」

 

 犬塚コマは十三歳で上忍昇格、同時に暗部入隊を果たした優秀な忍びである。

 そして優秀な忍者というやつは、カカシの経験上どっかしら頭のネジがとんでいた。彼女もまたその例に漏れず、随分と上司の手を焼いてくれたものである。

 なんせ「じゃ、何が嫌いなの?」というカカシの問いに「年下のガキッスね。」と答えるクソガキっぷりだ。ついでに「自分だってガキだろ、」と五歳下のくノ一をへらべったい目で見た上司のケツを普通に蹴飛ばしてくる。歯に衣着せぬし媚びぬし顧みぬ女なのである。

 

 そんなわけだから、コマは嫌われるやつには徹底的に嫌われた。

 これにはカカシもほとほと困った。だってコマは一度敵と認識した相手には容赦なく噛みつきにいくので。

 

 

「ハ?なんスか先輩もっぺん言って下さいよ、えいや今九尾事件起こしたうちは一族なんかを暗部に入れるって正気かみたいなこと言ったじゃないスか。っていうか先輩九尾事件の犯人うちは一族が犯人だと思ってるんスね、里のみいんながそう噂してるから?へー先輩って忍者でもなんでもない一般市民サマのソースの不確かな噂まともに取り合って行動しちゃうタイプなんスね暗部の癖に情報の精査とかしない感じスか(笑)」

 

 

 特に一番揉めたのは、そう。

 彼女が入隊してから三年後のこと──うちは一族史上初にして、最後の暗殺戦術特殊部隊配属となった異端児、うちはイタチの暗部入りが決まった時だったか。

 

「ハイハイハイコマお前はそこまでにしなさい、待ーて!ステイ!」

 

 暗部の詰所にて。

 声音に半笑いを浮かべたまま、上記の件への不満を垂れ流していたらしい隊員へ詰め寄るコマを、カカシは慌てて羽交い絞めにした。じゃないとこいつは止まらない。経験上知っている。

 

「隊長、私犬じゃないッス。」

「犬より厄介だよお前はホント。」

 

 よりにもよってセンシティブな問題に噛みつくんじゃない。カカシはゲンナリした。

 九尾事件──四代目火影の死をもって鎮められたあの惨劇が、里内に未だ色濃く残る時代である。そもそも親兄弟、恋人、友人……近しい者らを奪い、一夜にして木ノ葉隠れの里を瓦礫へ変えた大災害だ。早々記憶から消えるものではない。せっかくあの大戦を生き抜いたのに、九尾の暴走で命を落とした者も沢山いた。

 そして人と言うのは、この手の理不尽に理由を求める。曰く、九尾事件は何者かによる陰謀だったのではないか、と。

 では誰がやったのか。チャクラの化け物たる尾獣をコントロール下へ置ける能力は限られる。初代火影、千手柱間しか扱えなかったという木遁か。そんな柱間と唯一渡りあえた木ノ葉隠れの里最悪の抜け忍、うちはマダラの瞳術か。前者は兎も角、後者──写輪眼を持つ者はこの時、里に多くいた。

 

 幸運にも九尾事件でただの一人の死傷者も出さなかったという、うちは一族が。

 

「だとしても、忍者が憶測で物を言うな。コマの言うことにも一理ある、反省しろ。」

「……はい。」

 

 カカシは一端コマと口論していた部下へ一喝すると、次に厄介な方をぺいっと壁際へ放って「で、お前はもう少し言い方ってもんがあるだろうが。」と説教を始めた。

 

「例え思うところがあろうと仲間なんだ、必要以上にキツくあたるな。俺は確かにお前の上司だが、先生じゃない。人間関係や処世術まで教える気はないぞ。」

「必要だと判断したからわざとキツく当たったんじゃないスか。」

「コマ。」

 

 窘める口調で言ったカカシに、コマは「チッ反省してまーす。」とそっぽを向いた。つまりしていなかった。その様子に先の部下が鼻白んだ様子を見せる。それを知ってか知らずか、コマは更に火に油を注いだ。

 

「けど忍者の癖に公私分けられねぇやつも反省すべきだと思うッス。第一あいつらうちは一族(、、、、、)ッスよ、仮に黒幕でもそんなすぐ捜査線上へ上がるようなヘマしないですって。」

「このチビ、本ッ当にこちらが言わせておけば好き勝手言いやがって。大体犬塚、お前も九尾事件で家族を……ッ」

 

 激しい舌打ちが部下のセリフを遮った。

 一歩、コマが踏み出す。そしてその小柄な体躯が倍に見えるほどの、毛を逆立てた闘犬を幻視せんほどの気迫で、飢えた狼すら尾を丸めるような唸り声で、「そーですけど、それが何か?」と告げた。

 

 

「それとこれとは関係ないと、今言いました。」

 

 

 再び睨みあう両者に、カカシは「おい。」と低く言った。

 流石に潮時と悟ったのだろう。二人とも口を噤む……否、コマは大人しく引いたふりをしてこっそり相手へ中指を立てた。馬鹿である。カカシはコマにだけ拳骨を落とした。

 カカシは喧嘩両成敗派ではあれど、それはそれとして忍者の里の人間でもあるので、不貞腐れたガキの躾には多少の暴力も良しとするスタンスだったのである。

 閑話休題。

 

 

「今回はあいつが悪いんですよ。元から妹が九尾事件で死んだからってんで、イタチ入隊の話聞いてから気が立ってて。それでわざわざコマんところに行って、怒らせるようなこと言ったんです。」

 

 とはいえカカシは上司であったから、後その場へ居あわせた第三者に事情を聞いた。まあ乗っかったコマもコマですが、と言った別の部下の言葉に頷きながら質問を重ねる。

 

「動機は分かったが、なんだってコマに八つ当たりを?」

「なんだ、隊長知らないんですか?コマのやつ、アカデミー卒業後すぐに”瞬身のシスイ”とスリーマンセル組んでたんですって。聞いた時納得しましたよ、ああそりゃ強いわって。」

あの(、、)うちはシスイか。」

 

 第三次忍界大戦後、よく聞いた名だ。三代目火影も信を置いているという。

 しかし把握していなかったな、とカカシは思案した。部下の経歴は一応形式くらいは頭の中に叩き込んである。

 犬塚コマ。父は犬塚一族出身の忍び、母は一般家庭の専業主婦。前者は幼少期に殉職、後者は病死したため母方の祖母の元で育つ。九歳でアカデミーを修了し同年下忍班へ配属。そこから戦争終結前後には中忍になり、翌年九尾事件の際祖母が死亡。自身も負傷し、二年の療養期間を経て復帰する。その後三代目から暗部入りの声がかかり、二つ返事でそれを拝領した────。

 

(……全快するまで二年間もかかるような大怪我を負ったのか。)

 

 現在のコマの、体術を得手とする犬塚一族らしい俊敏な身のこなしを思い出し、よくあそこまで体を戻せたなとカカシは感嘆した。なかなかどうして、あいつも苦労している。

 

「ええ……スリーマンセルの残り一人は任務で殉職したそうですが。シスイとコマはまだ交流があるようで、こないだも二人で歩いてるところを見ましたよ。」

 

 そうか。

 とカカシは相槌を打った。「ひょっとして付き合ってたりしてるんすかね。」と戯けた調子で言った部下に肩を竦める。

 

「やめとけ。それで噛みつかれてもオレは庇ってやらないよ。」

「えー?気にならないんですか、カカシ隊長。部下の恋路ですよ。」

「恋路ってあのねぇ。」

 

 呆れたカカシへ、「けどそんくらいじゃありませんか?」と今度は部下の方が肩を竦めた。

 

「今のうちは一族を庇いだてする理由なんざ、俺は好意以外に思いつきませんがね。仮に九尾事件を起こせる人間がいるとしたら写輪眼を持ってる人間以外にない。加えて暗部からの秘密裏な監視のついている不名誉な一族なんて、里始まって以来うちはだけだ。それに最初に組んだ下忍班ってのは、みんな結構愛着持ってるもんじゃないですか。」

 

 カカシはしげしげと目の前の部下を見た。木ノ葉の暗部は配属と同時に獣の白面を与えられ、基本的にそれを被って過ごす。件のコマも「犬が良かった。」と文句を垂れそうなところ、意外なことに下賜された狐面をきちんと身につけていた。要は同僚であっても素顔を見るのは稀なのである。

 それが故に、暗部というのは声やら息遣いやらで相手の感情を推し量る術を、自然と覚えるのだ。カカシも例外なくそのセンサーが備わっていて、それによるとどうも彼の発言に悪意はないらしい。

 

「写輪眼ならオレも持っているが。」

「あ、」

「それともう下忍じゃなかったが、一番思い入れのある班ではうちは一族の忍者と一緒だったよ。彼も殉職したけどね。」

「スミマセン隊長、そういう意味じゃなくて。」

「いや。その理論でいくと、オレも九尾事件の容疑者にならないと道理が通らないと思っただけだ。気にするな。」

 

 仮面の下で部下が無茶苦茶気にする、という顔をした気がした。カカシは苦笑する。

 コマは扱いにくい部下である反面、あれはあれで、常に一本筋が通っているのだ。

 

 

「────と、いうわけでコマ。お前今日からイタチと組むように。」

「いやどういう訳スか。」

 

 それはそれとして、部下の社会性は育てなくてはなるまい。

 そう思ったカカシは数週間後。は???と威嚇してくる部下を指し示しながら、「あいつはコマ、今度からツーマンセルを組んでもらう。感知タイプ、特技は体術。」と新しく部下になった少年に説明した。

 真新しい狐面をした少年こと、うちはイタチは「わかりました。」とこくんと頷く。素直で良い。

 

「嫌ッス、私年下苦手ってこの間言ったじゃないッスか。絶対無理スよ。」

「この通り、思ったことを全部口に出す。が代わりに裏表はないから信用していいよ。コマ、こっちは新しく入ったイタチ。幻術が得意だそうだ。」

「おう新入りうちの隊長見ての通り時々耳遠くなるぞ、気をつけろよこの調子で時々非番が消えてくからな。」

「覚えておきます。」

 

 イタチはもう一度素直に頷いた。

 まるきり嘘とは言い切れなかったのでカカシは何とも言えず仮面の中で気まずい顔をした。尚一応述べておくと、部下の休暇が消えるような事態においてはカカシの休みもなくなっている。

 

「そもそもイタチとはカカシ隊長が組むって話だったじゃないスか、私テンゾウ先輩とコンビ解散するんですか?」

「ま、そうなるね。テンゾウはまたオレとペアに戻るから、コマとイタチは暫く若手同士で組んでくれ。」

「ゲッ……めんどくさそー。」

 

 溜息をついたコマはがしがし肩口あたりで切りそろえられた髪をかき混ぜると、イタチへ視線をやった。

 

「まあいいや。あんたシスイと仲の良いおチビさんッスよね、なら相応には動けると考えていいんだよね。」

 

 ガラの悪い年上に微塵もひるむことなく、イタチは涼やかに肯定の意を返した。

 

「最年少で暗部入隊を許されるくらいには。」

 

 そりゃ重畳、とコマが鼻を鳴らす。カカシは十六歳児と十一歳児のやりとりを一歩引いたところでフーンと見つめた。今のところ後者の方が大人だな、なる感想を抱きながら。

 

「俺も貴女のことをシスイから聞きました。自分より速い若手をこの里の忍から探すとしたら、それは犬塚コマだと。」

「”瞬身”が随分と煽るじゃん。その様子じゃ元気にやってるみたいッスね、あいつ。」

 

 コマの口振りにふと違和感が過る。そんなカカシの意図を拾ったわけでもあるまいに、タイミングよくイタチが疑問を口にした。

 

「シスイとは最近会っていないんですか?」

「っつーかここ数年まともに顔合わせてないスね。」

「……シスイに貴女は友人だと聞きましたが。」

 

 ハ、とコマが短く明確に嘲笑と分かる声をあげた。

 

「全然。シスイ私より二つ下ッスもん。それにさっきも言ったでしょ、私年下は嫌いなの。」

 

 

 ……とはいえコマとイタチの相性は悪くなかったようだ、というのが上司としてのカカシの分析である。

 コマは基本的に生意気なクソガキであったが、それは年上から見ればの話だ。年下からすれば不遜さは余裕に写るし、ガンと己を曲げぬところは尊敬を集める。つまり、当人の好き嫌いに反して元来年少との方が相性がいいのだ。

 お喋りを好まない気質同士、そこまで親しくなるということはなかったようである。が、犬には優しいタイプの不良と神童級の優等生は、如実に任務成績を残していった。

 

「そもそも、コマはなんで年下嫌いなんだい?」

 

 転機が訪れたのは、それから一年後のことだった。

 

「寧ろ好きな人の意見が分からないッスね。あんな生意気で逐一腹立つ生き物好きになる理由あります?」

「凄まじくブーメランだなあ。」

 

 暗部詰所の前である。テンゾウに話しかけられたコマが怠そうに答えるのに、カカシは「お前が言うか。」とぼやいた。

 

「下忍時代は地獄だったッス。うちの班私以外年下ばっかだったんで。」

「ああ、”瞬身のシスイ”か。」

「今でこそそー呼ばれて持て囃されてますけどね、マジであいつガキの頃酷かったんスからね。調子に乗ったクソガキ二人の首根っこ捕まえてた私の身にもなって欲しいッス。うちのあずきちゃんときなこちゃんのが断然聞き分け良かったんスから。」

 

 凄まじく嫌そうな顔をした(と、例によって仮面をしていたため分からなかったが、そう思われる)コマの口振りに、カカシは微苦笑を浮かべる。手のかかる野郎二人と、面倒見の良い女子一人、という構図に心当たりがあったからだった。

 

「あずきちゃんときなこちゃん?」

「あ、テンゾウ先輩知らなかったッスね。うちの犬ッス。見ます?」

「ありがとう……ところでこの写真常に携帯してる感じ?」

「モチのロンすね。」

 

 えぇ……?と僅かに引いているテンゾウを他所に、ピク、とコマが肩を揺らした。

 

「どうした?」

「なんか誰か来るッス、一人と四人。全員里の忍ッスけど、今日来客予定ありましたっけ?」

「無い筈だが……五人じゃなくってか?」

 

 二手に分かれているということか、と言いながら考えたカカシにコマが「一人は暗部なんで、忘れ物取りに来たとかじゃないスかね。」と首を横に振る。

 

「因みにイタチです。」

「ん?ああ、本当だ、いた。」

「イタチ、そんなところで何しているんだ?今日君は非番だろう。」

 

 暗部創設者、ひいては建築を担当した者が何故そうしたのかは分からないが、暗部の詰所は里の地下にあった。大樹が根を張るように張り巡らされた地下トンネルに、アナグマの巣が如き建物が埋め込まれるようにして存在している。

 その影にひそりと隠れるようにして姿を現した少年が、ぺこり、とこちらへ会釈した。

 

「忘れ物なら勝手に入って取って良いんだよ。」

「そうではなくて、コマさんに用があったのですが……今よろしいでしょうか?」

「別によろしくないこたないッスけど。」

 

 イタチは私服で、仮面どころか額当てすらつけていなかった。項で簡素に束ねられた長い黒髪だけが平素と同じで、奇妙な感じがする。そんな彼が躊躇いがちにチラとカカシとテンゾウへ視線を向けたのに、カカシは少し驚いて瞬きをした。

 彼らしくない、年相応の子どものような仕草だった。

 

「──待った。」

 

 逡巡したイタチが、意を決したように「実は、」と口を開く。が、それをコマが制止した。

 

「どうした?」

「他四人がここに来ます、警務部隊の人ッスけど……なんか揉め事スかね?」

「あー……縄張り争いかな、また。」

「暗部と警務部隊は性質上、任務で接触事故を起こしやすいからね。」

 

 ボクが対応しましょうか、と問うたテンゾウにカカシはいやと断った。

 火影直轄部隊として動く暗部と、その名の通り里の警備の主を担う警務部隊は案件によって時折揉めることがある。それでも向こうが直接訴状に来るような事態は相当だ、テンゾウより役職持ちの自分が出て行った方が印象も良いだろう。

 

「お前たち、もう上がっていいよ。」

「頼みましたよ、カカシ先輩。」

「隊長乙でーす。イタチ、場所変えるッスよ。前行った団子屋で良い?」

 

 それは構わないのですが、と呟いたイタチがつと視線をカカシの肩越しの背後へやった。

 

「おそらく父さんたちの用事も、コマさんへだと思います。」

「──突然の来訪失礼する。犬塚コマ、というくノ一はいるか?」

「はあ、まあ……私ッスけど。」

 

 戸惑いがちに言ったコマを他所に振り返ったカカシは、その場に居た忍ら四人の内一際上背のある男を見て戸惑いのまま、問うた。

 

「失礼ですが、フガク殿。うちは警務部隊の隊長がうちの部下になぜ?」

 

 うちはフガク。うちはイタチの実父にして、うちは一族の族長を務める男である。巌を連想させる見目は涼やかなイタチとはかけ離れているが、それでもどこか纏っている雰囲気は通ずるものがあった。二人とも、どこか冬の古木に似ている。

 が、問題はコマとぱっと思いつくような関わりがないことだ。しかも何故部下数名まで引き連れてくるのか。テンゾウもそう思ったのだろう。背後で「今度は何やったの、お前!」「いや知らないッスて。」「さっさと謝りなさい!」「なんで私がやらかした前提なんスか!」と囁きながら怒鳴りあっているのが聞こえた。

 

「本当はわざわざ仕事場へ出向くようなことではないのだが、里の方で捕まらなかったものでな。」

「あーすんません、最近表にはあずきちゃんときなこちゃんの世話に戻るくらいだったから……何かご用ですかね。」

 

 どうも任務関係ではなく、個人的な用向きらしい。それならば狐面を被ったままでは失礼に当たると思ったのか、コマが仮面を取った。

 

「つーかよく私が暗部所属なの知ってたスね。一応機密なんですが。や、機能してない人もちょくちょくいますけど。」

「こちらも忍なのでな。」

 

 ちょくとちょくでそれぞれ指差されたカカシ(片目写輪眼)(とても目立つ)とテンゾウ(木遁使い)(かなり目立つ)は「人が気にしていることを……」「誰が丸ごと機密人間だって?」とボソボソ茶々を入れる。コマはすかさず今来客がいなきゃどつきますという顔をしたが、目の前にいたのでしなかった。命拾いである。

 閑話休題。

 

「今日は警務部隊としてではなく、うちは一族の長として来た……三代目にも話は通している。」

 

 そこで一度、一息区切ったフガクは「先日、我が一族の忍であるうちはシスイが川へ身投げし、その後遺書が見つかった。」と静かに言い切った。

 

 

「宛名のないものが一枚、そしてお前宛のあるものが一通。ことがこと故に中は改めさせて貰ったが、本日はそれを手渡しに来た次第だ。」

「───は、」

 

 

 というコマの声は、静かな地下道にやけによく響いた。

 寝耳に水の話に「あの”瞬身”が⁉いったいなぜ、」とテンゾウも声を裏返す。カカシ自身も多少なりとも衝撃を覚えたが、咄嗟に部下のことが気にかかって年少組へ視線を走らせた。

 俯くイタチと、半ば呆然としたままフガクから封のあいた手紙を受け取るコマの姿に眉根を寄せる……そしてふと、カカシはイタチの用向きを悟った。そうか、彼はこの件をコマへ伝えに来たのか。

 

「不明だ。どちらの遺書にもこれと明瞭に分かることは書かれていなかった……亡骸はまだ見つかっていない。」

「警務部隊では、他殺の線も視野に入れて捜査している。」

 

 と、そこでフガクの言葉を彼の部下が引き継いだ。

 

「あれほどの忍が自死など選ぶものか。」

「ちょっと待ってください、いくら何でも飛躍し過ぎでは。何か心当たりなどがある人はいないんですか?彼が何か悩んでいたとか、任務でも私生活でも。」

「それに関しても今探している。シスイと親しかった者はそこにいるイタチ……一族の者を除けば、お前だ、犬塚コマ。」

 

 不穏な流れを感じたカカシが口を挟む。それへ応じつつも、ひたりとコマへ据えた視線を外すことなく男が問うた。その険のある様子にイタチが「テッカさん。」と眉を顰めた。

 

「何かヤツについて知っているだろう。」

「あー……まあ、そうッスね。」

「包み隠さず話せ。その方がお前のためだ。」

「うーんと。」

 

 口元を片手で覆い、トントン、と人差し指で頬を叩き。亡き友の文面へ目線を落としたまま何事か考えていたコマが、ふと顔を上げた。

 

「なんかあれッスか、シスイと親しかった人間を容疑者として疑ってく方針なんスか?」

「……。」

「もしかしてイタチにも容疑がかかってたり?あ、マジで。ウケるッスね(笑)」

 

 ……コマの声音と顔に乗る半笑いに凄まじく不穏な流れを察知したカカシだが、残念ながら止めるより彼女の方が早かった。というかいつも常に大体そういうことが多い。いわれのない理不尽を感知した途端の瞬発力でコマの右に出る者はないのである。

 

「イタチがシスイを殺した?いやいや、絶対に無理っしょ。ちゃんと考えた?頭使った?感情論は思考から排除した?」

「貴様……!」

「自分が忍者だってこと、おたくらちゃーんと覚えてる?」

 

 ほら、こうなった。テンゾウがオズオズ指示を求めるようにカカシを仰ぎ、カカシは天を仰いだ。

 

「確かにね、フガクさん。おたくの息子さんは強いッスよ。神童だ。私もガキの頃は天才だなんだ褒められましたが、この年齢の頃の私はこれ程洗練されていなかった。彼は特別です、人の数百倍の努力を積み重ね、更にそれをきちんと実らせてるんスから。」

 

 鼻先でいきり立つ部下数名を笑い飛ばしたコマは、やおら真面目な顔になってフガクへ向き直る。言葉の途中でくいっと親指で示されたイタチはといえば、突然の流れに困惑したような表情を浮かべた。

 

「けれど、それでもうちはシスイを殺せるほどじゃない。」

 

 はっきり、きっぱり。

 コマは微塵の迷いもなく言い切った。

 

「今のこいつじゃまだシスイには勝てない。シスイ殺しの犯人足りえません。あと私にもシスイを自殺に見せかけて暗殺するってのは無理です、ここ数日は任務で里を離れてたんでアリバイがある。ちょっと時間かかりますけど、任務記録を提示できるよう火影様へ掛け合ってもいいッス。」

 

 顎を撫でながらコマの弁護を聞いていたフガクが「一理あるな。」とぼそりと言った。テッカ、と呼ばれた男が不満そうな声を上げたが一瞥で黙らせる。

 そのやりとりを見ながら、ふとフガクもどこかでイタチを庇えないものか苦悩していたのではないか、とカカシは思った。管理職の、何かと何かで板挟みになる苦しみは程度は異なれどカカシも知るところだ。

 

「……遺書が残ってるってんなら、自殺したんでしょ。あいつは。」

 

 ふう、と溜息をつくような口調でコマが言った。丁寧に遺書を畳み、封筒へ入れて暗部装束のポケットへ突っ込む。

 

「まあ早死にしそうな男ではあったけどね、昔っからさ。生き急ぎ野郎だったし。」

 

 用事それだけ?じゃ、帰って良いッス?

 と問うたコマに、これ以上引き留めるのは悪手と思ったのだろう。軽く肯って簡単な詫びを述べ去っていったフガクをカカシはなんとなし、黙って見送った。

 

 だからカカシは、それ以上のことを知らない。

 

「災難だったッスね、イタチ。団子でも奢ってやるよ。」

 

 なんて、滅多にしない先輩風をふかしたコマがイタチを連れていった後、どんな会話をしたのだとか。その後すぐに新設部隊の部隊長を任されたために、ろ班から籍を抜いた共通の友を持つ少年を、コマがどう思っていたとか────うちはイタチが起こした、”うちは事件”に何を考えたのだろうとか。

 

 

「カカシ隊長、上忍師になることになったんですって?ガキの世話とかマジ悪夢ッスね。お疲れ様でーす。」

「うん、まあ正直今までやってたこととそう変わらないような気もするんだけどね。」

 

 

 恐らく、問えば答えてくれるのだろう。

 

 が、うちは事件から更に数年後。

 正規へ移動となったカカシを「どういう意味スか。」とへらべったい目で睨んでくる、あんまり人と群れてやる気のない一匹狼のことが嫌いではなかったから、あまり突っついてやらないでおくか、とついカカシの方も手心を加えてしまうのだった。

 




 
■犬塚コマ
暗部にいる犬塚一族のあんまやる気ないやつ(尚父方が犬塚なだけで母方は一般家庭)
原作開始時点で二十代前半。下忍時代はうちはシスイと同班で、九尾事件で重傷を負い二年間療養していた。復帰後、三代目の推薦で十三歳で暗部入りし、ろ班隊長はたけカカシの元で任務を遂行する。一時期うちはイタチとツーマンセルを組んでいた。

現在は保護犬のあずきちゃんときなこちゃんの二匹とともに暮らしている。
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