"汁物屋マジ旨し"~魔法少女の裏側でこっそり怪異狩っちゃいます~ 作:ティファールは邪道
五月雨 公平(さみだれ こうへい)……
この小説の主人公で、年は25歳……
現在、二度目の人生を満喫中である……
何故二度目?っていうと、前世の記憶を持っている……
二次小説やファンタジー小説なんかでよくある転生者というやつである……
前世で二十歳(はたち)を迎え、成人式に参加しようと会場に向かっている途中で交通事故に合って死んでしまったのだ……
しかし、死んだ原因だった事故は、運転中のドライバーの天寿が全うしたことによるものだったらしく、
本来なら彼はまだ50年は生きる筈だったらしい……
あの世が体系化され、株式会社ANOYOとなってからこのような不祥事は初めてらしく、
向こうからお詫びに転生させてくれたのだそうだ……
転生した先の世界は選べず、前世でアニメ化した漫画の作品『株式会社マジルミエ』の世界に来たのだ……
しかも彼自身その気があるなら原作介入や原作ブレイクも出来るとの事……
前世でアニメ・漫画・ゲームが好きだったオタク気味な彼はその作品に関する原作知識はそれなりに持ってはいるが、原作介入や原作ブレイクはする気が無く普通に生きられるならそれでいいかと思っており、特典としてHUNTER×HUNTERの念能力を貰い、準備が終わるまで会社からの紹介で夢仙人という夢の世界で暮らし、時々念能力を伝授させているという好々爺の元で修行した後、転生して来たのである……
転生してから色々あったが、今ではこうして小さいながらもお店を構えることが出来ていた……
そんな彼は、朝の仕込みをやっていた……
「っといっても、既に刻んだりしてたから煮込むだけなんだけどねぇ……」
大きな寸胴鍋、二つあるうちの一つのフタを手に取り開けると、昨日からじっくりとベースを作っていたコンソメの、透き通った優しい香りが店内に広がった……
自分のオーラを鍋の下にある金属板に流して熱に変え、鍋の底をじわじわと温める……
ガス代はタダ……これぞANOYOの特典と、夢仙人のじいさんのシゴキの賜物である……
「よし、火加減(オーラ)はこのくらいで……。あとは開店を待つだけ――」
――カランカラン♪
まだ「OPEN」の札を出す前だというのに、小気味いいドアベルの音が店内に響いた
「あ、すいません、まだ準備中で…って今日ははやいですね?」
言いかけながら振り返った公平の目に飛び込んできたのは、エプロンを身につけた自身より少し歳上の男性だった……
公平が契約しているロールパンとクロワッサンを作ってくれてるお店の店長だ……
その腕には、大きいバットを二つ重ねた状態で持っており、中にはロールパンとクロワッサンがぎっしりである
「おう、おはようさん!!……嫌さ、今日朝の配達少ないから早めに来たんだよ」
彼の言葉になる程、と納得する彼……
カウンターに置いて貰い、サインと共に昨日の空になったバット二つを手渡す公平
ーんじゃ、また明日な!!
ッという彼に、お疲れさまでした!!っと返した彼は、帰っていった彼を見送ってから気付く……
「……あ、スープあげればよかったな……」
ーまぁ、良いか……また今度で...
そう思いながら、時計を確認する公平
時間は現在、七時半……
まだ開店の八時まで時間がある……
「……飯にするか……」
まだ食べていなかった朝御飯の支度をするのだった……
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「……今朝はポトフと米にするか……」
自分用に炊いていたご飯と、分けていたポトフを盛り付けて、カウンター兼厨房で食べることにする公平……
「いただきます……」
そう言うと、まず先にポトフを手に取る……
一口すすると、じっくり煮込まれた野菜と豚肉の優しい旨味が、朝の硬い身体にじんわりと染み渡っていく……
スープのベースにしっかりと溶け込んだキャベツの甘み。スプーンで簡単に崩れるほど柔らかい人参と大根。そして、噛めばジュワッと肉汁が溢れる大きめのベーコン
「うん、美味い。やっぱり朝はポトフに限るな……」
炊きたての白米を口に放り込み、すかさずスープで追いかける
パン屋の店長から仕入れたクロワッサンも最高だが、こうして和洋折衷でご飯と合わせるポトフも、店主だけの密かな特権であり至福の瞬間だった……
これだけの味を引き出せるのは、夢仙人のじいさんに叩き込まれた念の基礎……オーラで火加減を完璧にコントロールしているおかげでもある……
「ANOYOの担当者には悪いことしたけど……まぁ、結果オーライってことで」
不慮の事故からの転生、そしてあの過酷な修行。色々あった二度目の人生だが、この10坪の城で美味いスープを作っている今の時間が、公平はたまらなく好きだった
ぺろりと朝食を平らげ、器を片付ける
時計の針は午前七時五十分
そろそろ開店の時間だ
公平はエプロンの紐をきゅっと結び直し、入り口のドアに向かう
札をくるりとひっくり返し、「OPEN」の文字を外に向けた
と、同時に、カウンターの木目に刻まれた『神字』へと、自然な動作でうっすらとオーラを流し込む
パチ、パチ、と店内のアンティークランプが温かい光を灯す……
それと同時に、店の敷地が「通行人の垂れ流す微量なオーラを優しく回収する空間」へと切り替わる。準備は万端だ
「よし、今日もボチボチいきますか」
カウンターの奥に戻り、おたまを握る
オフィス街が本格的に動き出す時間
通勤途中の会社員たちが、一人、また一人と、店の前を漂うコンソメのいい匂いに足を止め、入って来ては注文する……
公平はそれを受けて、渡し、お金を受けとる……
そんな中――
――カランカラン♪
本日最初のお客さんを告げるドアベルが鳴る
「いらっしゃいませ」
公平がいつもの人当たりのいい笑顔で顔を上げると、そこに立っていたのは、リクルートスーツをきっちりと着込んだ、少し緊張した面持ちの濃い茶色の髪をツインテールにした、少女にしか見えない女性……
株式会社マジルミエの主人公、桜木カナだった……