「ヘイズさ〜ん、布団干しておきましたよ〜。あとなんかありましたっけ〜」
「別にそれ以外の家事はヘルンに投げといてへーきですよ〜。それより朝ごはん食べましょうよ〜、出発何時でしたっけ〜」
「10時頃ですね〜……って、うわっ!?急に抱き着いてきたら危ないですよヘイズさん!」
「妻を待たせる旦那の方が悪くないですか〜?布団洗うのに時間かけすぎだと思いますけど〜」
「え。今日もめっちゃ可愛いですね、ヘイズさん」
「んふふ〜♪許〜す♪」
「さ、行きますよ姫様。どうぞそのまま」
「きゃ〜!ベッドヤクザに連れ込まれます〜!」
「本物のベッドヤクザが朝から何言ってんですか……」
今日も変わらずご機嫌な陽気、少し前までの態度が嘘のような2人の関係性。その場には2人以外の誰も居ない、だからこその関係性。誰にも見せることはない、誰にもバレることがない、だから帰ってきたら次に外へ足を踏み出すまではいつもこう。
甘えん坊で我儘なお姫様、この世界の中では彼女こそが世界で一番のお姫様。如何なる例外も存在しない。彼女こそが世界で一番美しく、世界で一番可愛くて、世界で一番愛されている。外の世界でどうであろうと、この空間においてはそれが絶対だ。
「ええと……椅子に着きましたけど、降りないんですか?」
「やーです」
「え、じゃあどうしたら……」
「あなたが座ればいいじゃないですか」
「あ、そういう……姫様の仰せのままに。ただこの前みたいに急にヘルンさんが入ってきても知りませんよ?オレは放しませんからね?」
「大丈夫ですよ、ヘルンがあの後に『次からはちゃんとノックするわ……』って言ってましたし」
「なんかそれヘルンさんゲッソリしてません?」
「あ、キスマークみっけ」
「その犯人オレ知ってますよ」
「付き合う人は考えた方がいいですよー?」
「たくさん考えたので大丈夫ですよ」
「っ〜!」
「おっと……」
彼の発する一言一言が、以前よりずっと深く心に刺さる。そしてその理由も今なら分かる。その言葉を疑わなくなった、彼の言葉を受け入れられる自分になった。だからそれまでの自分であれば反発していたであろう言葉にも、こうして嬉しさ極まって行動にまで現れてしまう。
……いや本当に、正直ヘルンにこれだけ呆れられているのも仕方ないと自覚している。自覚してはいるが、仕方ないのだ。止められない、止めるつもりもないのだから。
「さ、食べたら最後の確認しましょう。せっかくフレイヤ様まで見送りをしてくれるということなんですから、遅れるわけにはいかないすからね」
「心配性ですね〜、私の旦那様は。時間に余裕はあるんですからまだまだ大丈夫ですよ〜」
「ん、美味しい……机の上に皿が1人分しかないので不思議に思ってたんですけど、最初からこのつもりでしたね?」
「ほらほら、あ〜ん」
「うわ、可愛い……あ〜ん」
「んふ〜♪」
甘やかされて、褒められて、愛されて、慈しまれて……自身の理想とした幸福を誰しもが手に入れられる訳ではないし、自身が望んでいなかった幸福を手にしてしまうことも多い。けれどそれを不満に思うかは人それぞれで、望みとは違っていても幸福は幸福であることに間違いはない。
つまり何が言いたいかと言えば……
「これに加えて子供まで生まれてくるとか私の人生薔薇色すぎませんか……?幸せ過ぎてちょっと不安になってきました」
「油断したら駄目ですよ。ヘイズさんは頑丈ですけど、お腹の子はそうではないんですから。これまで通りに動いたら駄目ですからね?」
「だからこうして全部あなたに任せてるじゃないですか〜、なんならお腹の子は常に私の治療魔法の対象にしてますし〜」
「え、出来るんですかそんなこと」
「現時点でこの子は私の身体の一部ですからね〜、自己治療魔法の対象内です。私がその辺りを疎かにするわけないじゃないですか、全身全霊でこの子は守りますよ。自分の体調不良の原因も分かったので今は改善してますし」
「流石……」
「とは言え流石に精神力の消費が厳しいので時々は切ってますし、こうして精神力も都度回復してるわけです。はい精神力補充〜」
「そういうことなら、どうぞ好きなだけ〜」
「んむぅ」
少し息苦しいくらいに抱き締められて、抱き締め返す。ただそれだけのことで精神力がみるみる回復していく、これではまるで永久機関だ。むしろ消費量を大幅に超過しているくらいの回復力ではないだろうか。
——それこそ、少しだけ暴走してしまうくらいに。
「っ、ヘイズさん?」
「……まだ時間、ありますもんね」
「え、いや、確かにありますけど……いや!流石に駄目ですよ!?せっかく汗を流してヘルンさんにバレないように掃除までしたのに!!」
「時間ありますし」
「ありますけどそこまでは無いですから!」
「え、嫌なんですか……?」
「……………………それずっる」
世の中には勝てる相手と勝てない相手というものがあり、何を言われどう努力したところで、結果的に言うことを聞かなければならない時がある。それが今で、それが彼女だ。
絶対にこのままでは碌でもないことになると分かっているのに、受け入れてしまう。獣になっている余裕などない。というか獣なのはどちらかと言えば相手の方だ、こっちは一方的に貪られている獲物である。
「ヘイズさん、もうこのまま風呂に行きませんか?」
「え〜、歩きたくないです〜」
「歩かせたりなんかしませんよ、このまま持って行きます。というか離れないじゃないですか」
「むぅ、なんか少し慣れて来てませんか〜?今は常識的な話とか要らないので、もっと甘い言葉をくださ〜い」
「えぇ………………う〜ん」
「ほら、ほら、脳が溶けてしまうような甘々な言葉をくださいな。私の旦那様?」
「……"世界で一番"好きですよ、ヘイズさん」
「〜〜〜っ!!!それ〜!!!」
「おっと」
勢い余って転倒しそうになるところをなんとか堪える。
不思議な話のような、そうでもないような。以前はあれだけ気に食わなかった"1番"という言葉が、今では彼に言われた時に限りここまで嬉しくなる言葉へと変わってしまった。
ちゅっちゅくちゅっちゅくと鳥のよう。
そんな毎日。
そんな乱れた毎日。
けれど満たされる毎日。
「んっ、ふふ……可哀想な人ですねぇ、こんな面倒な女を妻にしてしまうだなんて。ヘルンの方がまだ自重や常識があったかもしれないのに」
「何をもって面倒と言うのかにもよりますけど……ヘイズさんがその性格じゃなかったらオレは惚れてませんから。なるべくしてなった、そう思ってます」
「うっ……」
「もちろん、今では性格だけでなくヘイズさんの何もかもが大好きですけどね?オレがヘイズさんに求めていることなんて1つだけ、一生隣にいてくれることくらいですから」
「……………………ふ〜ん?へぇ?ほ〜う?そんなに言いますか、もうどうなってもいいんですね」
「え?」
「遅刻確定です、えい」
「ちょ、待っ……!!」
待ち合わせ時間にはギリギリ間に合わなかった。
思い返す。
あの日あの時に出会った小さな少女。女神の光に惹かれ、断られてなお諦めることなく着いてきた、特別なところなんてその行動力くらいしかなかった子のことを。
「〜〜っ、遅い!!フレイヤ様を待たせるなんてヘイズは本当に何を考えて!!」
「ふふ、少しくらい良いじゃない。むしろ新鮮なくらいよ、待たせることはあっても待たされたことなんて滅多にないんだもの」
「……少し前までのヘイズなら考えられないことです」
「薄情だと思うかしら」
「思います」
「そうね、けど私は納得もしてるわ」
「納得、ですか……?」
「ええ、だってあの子は一度走り始めたら止まれない子だもの。私より彼のことが好きになったのではなくて、単に彼のことを好きになってしまっただけ。子供が生まれたら、今度は子供の方に向けて走り始めるわ」
「……確かに、想像できます」
「欲しいもの全部に全力で手を伸ばして、結果的に全部がそこそこに落ち着くのがあの子。今日もきっとそんなに長く遅刻しては来ないわ、ほら」
「「遅れましたぁぁぁぁああああああ!!!!!」」
妻を抱えて全力ダッシュ(振動抑えめver)で現れた彼と、艶々の肌で機嫌良さげに現れた彼女。まだ式は挙げていないとは言え、既にもう2人の関係性が分かってしまうこの構図。そして何故遅れたのかも察してしまうような、しまわないような。
「この淫乱」
「ヘルン!?朝の一言目がそれですか!?私これからしばらく旅行に行くんですよ!?会えなくなる友人にもう少し優しくしてください!」
「うっさい、どうせまた朝からやってたんでしょ。布団だけ洗って誤魔化そうとしたって無駄なのよ、毎晩毎晩よく飽きないわね。いくら魔法で子供に影響ないからって大人として恥ずかしくないわけ?」
「痛いっ!それほんとうに言葉が痛いです!!これまでにない鋭さですよ!手加減!!」
あまりに酷すぎるヘルンの物言い、けれど彼女の立場を考えれば仕方あるまい。何が嫌で甘い匂いしかしない家に連日手伝いに向かわなくてはならないのか、ヘルンはヘルンで内心がエラいことになっているというのに。それこそあの白兎のせいで。
「おお、流石ロキ。この荷車かなり良いやつじゃないの?」
「そら妊婦さん乗せるんやし、ええヤツにするのは当たり前やろ。いくら遠征でカツカツ言うても、これくらい用意は出来るわ」
「ありがと、遠征の出迎えが出来ないことだけが心残りかな」
「気にせんでええ。自分でも言うとったやろ?セクメト・ファミリア叩き潰した時点でお仕事は終了、こっから先はフィン達の仕事や」
「……そっか」
一方で今日ばかりは落ち着いた調子で話すロキとハサ、用意された荷車は一級品。引き者もまた同様だ。
ハサとてなんとなく分かっている、オラリオに妙な雰囲気が漂っていることに。これは感覚的なもので、不穏とさえ言って良い。本来であれば自分も残るべきなのだろうが、ハサはそれよりも妻と子を取った。それを否定する者は居ないし、むしろその選択を誰よりも尊重してくれるのがロキ・ファミリアである。故にそれに甘えた。これはそれだけのこと。
「なら……あんま使い道があるか分かんないけど、これをフィンさんにでも渡しておいてよ。フィンさんなら使い道をいくらでも思い付くでしょ」
「……不壊武器のナイフ、"幽谷"やったか。ええんか?武器は持っといた方がええやろ」
「実は他にもあるんだな、ほら」
「なんやねん、その2本のナイフ……片方はハサが最初に持っとった奴か?」
「そ、セクメト様に最初に貰った武器。毒を装填できるナイフ:"アンク"」
「ほなそっちは?」
「セクメト様に最後に貰った武器、呪武具:パピルス。最後はこれで殺して欲しいって頼まれて、ね」
「……あんの腹黒」
「?」
「なんでもあらへん、そういうことならフィンに渡しとくわ」
「うん、お願い」
購入してからずっと使い続けてきた不壊武器である"幽谷"は流石にヘファイストス・ファミリア製なだけあってよく手に馴染んだ。しかしそれ以上に手に馴染むのが、この2本のナイフなのだから因縁というものは強い。
自身のコンディションをいつでもベストへ持っていくこの武装こそ、本当のハサ・ファーティマの武装と言うべきなのだろう。それぞれの名前に込められた意味や思想などは、ロキには分かっても、ハサには分からないことであるが。
「おお!間に合ったか2人とも!すまないが少し時間をくれないか!」
「……タケミカヅチ様?それと隣の方は」
そうしてかつての主神に思いを馳せていると、背後からかかった聞き慣れた声に振り向く。
現れたのは男神タケミカヅチと男神ミアハ、どうやら街を出る自分達の見送りに来てくれたらしい。時間としてはギリギリな所ではあったのだが、間に合ったのだからよし。
——なのだが、どうにもその背後に見慣れない2人組。
片方は女神、背が低くツインテールと異様に大きな胸が特徴的。女神特有の露出度に関しては今更なので特に気にしないこととする。
もう片方は少年、真っ白な髪と真っ赤な瞳が特徴的な彼。そしてその姿をハサは酒場で一度だけ見たことがある。大魔王シル先生に狙いを定められていた、あの少年だ。
「げっ!!ドチビやんけ!なんでお前がこないな所におんねん!!」
「うげ、ロキ……タケとミアハに頼まれたんだい!まさかキミの子だとは思わなかったというか、今の今まで知らされてなかったけどね!」
「あん?ドチビが今日この日に何を頼まれた言うねん、別に何も関係あらへんやろ」
「……忘れてるかもしれないけど、ボクはこれでも炉の女神。そして家庭の女神でもあるんだ。新婚の2人を祝福するのにボク以上に相応しい神は居ないと思うけど」
「……家庭も持ったことない癖によう言うわ」
「言ったなぁ!?それを言っちゃったなぁ!?よーし表に出ろ!喧嘩だい!」
「ここはもう表やろがい!引きこもりのせいで外と内の区別も付かんようになったんか!そんなんやから背も伸びへんねんボケェ!」
「なにおう!!君だって少しくらい身体に起伏を付けたらどうだい!面白味がないんじゃないかな!」
「「ぐぬぬ……!!」」
よく分からないが、どうやらこの女神とロキは仲が良くないらしい。仲良く喧嘩している。そしてそんな二柱を見て、もう慣れたように仲裁に入る女神ヘファイストス。
ロキがこんな風にやんややんやと喧嘩する相手というのも珍しい、なんだか珍しいものを見た気分である。心なしか楽しそうに見えるが、気のせいなのだろうか。
「んー、よく分からないですけど……あれすかね、祝福して貰える?」
「以前に少し話しただろう?女神ヘスティア、そしてその眷属であるベルのことを」
「ああ!そういうことですか!」
「ど、どうも……」
「うむ!それにヘスティアはああ見えて天界においても格の高い女神でな!新たな家族の門出を祝福するに、これ以上に的確な神も居ないだろう!」
「それは光栄です、ありがとうございます」
神々の格の高さなんかについては只人である身にはよく分からないが、ロキがあそこまで正面から喧嘩をしている姿を見るだけで、彼女を親に持つ身としては分かることもある。
なにせ彼女はここに現れてから、宿敵であるロキを前にしてなお、『仕方なく』だとか『嫌々』だとか、そういう言葉を口にしていない。それは彼女にとって、それがロキの子であったとしても、家族というものが祝福すべき対象であるからなのだろう。
ヘイズの手を引いて彼女の前に立つ。
ロキも流石に口を尖らせながらも身を引いた。
家庭の女神からの祝福、これほど頼もしいものもない。
ヘイズも話を聞きつけていそいそと横に立った。
「……ロキとフレイヤの子だって言うから少しだけ警戒してたけど。なんだ、とても素直な顔をしてるじゃないか。これはボクも気合を入れないとね!」
「ありがとうございます、ヘスティア様。それと初めまして、ハサ・ファーティマです」
「ヘイズ・ベルベットで〜す」
「うんうん、仲睦まじくて良いね。ところで君達、結婚してから名前はどうするんだい?ハサくんの家名をヘイズくんが名乗るのが一般的だと思うけれど」
「オレが"ベルベット"を頂くつもりです。"ベルベット"を持っているのはこの世にもうヘイズさんだけですから、大切にしたいので」
「私は別に気にしてないんですけどね〜」
「ま、オレの自己満足なので」
「私だって"ファーティマ"を名乗りたかったですけど」
「残念、これは譲れません」
「むぅ」
「あはは!なるほど、君達のことが少しだけ分かってきた気がするよ」
喧嘩していた先程までとは違い、打って変わって楽しそうな顔を見せるヘスティア。そして同時に、その瞳には確かな慈しみが宿っている。
まるで暖かな炎、暖炉の火。家族を包み込む優しい熱、その権化。不滅さえ司る炉神。
「ボクからの祝福と言っても、そんなに大したものじゃない。ただ君達に誓いを立てて欲しいだけさ」
「誓いですか?」
「そう、君達が互いに対して絶対に譲らないことをここに立てて欲しい。それを柱に、2人の未来をボクからも願おう。そして同時に深めて欲しいんだ、これからの在り方を」
「「………」」
思わず互いに視線を交わす。
互いが互いに絶対に譲らないこと?
なるほどそれはまだ考えたことがなかった。
そしてそれは大切なことだ。
それを打ち明けることもまた。
「どうかな?」
「…………私は」
「うん」
最初に口を開いたのはヘイズの方、それに対してハサもただ口を閉じて見つめ返すばかり。妙な緊張感がそこにはある、けれどそれをヘスティアが中間に立って解いていく。周囲の者達も、静かにそれに聞き入っていた。
「私は…………私は、どうあってもフレイヤ様の眷属です。あの日あの時に憧れたフレイヤ様の背を忘れることは出来ませんし、フレイヤ様への憧れを捨てることなど絶対に出来ません。これは何があろうと絶対に譲れないものです、それが私の人生なので。それが私の起源なので」
「……」
それはどうしようもないことだ、そんなことは誰だって知っている。思わずフレイヤも神妙な面持ちになるし、ヘルンも静かに目を逸らす。人によっては不快な感情さえ抱えていることだろう。
しかしそれがヘイズ・ベルベットという人間であり、切っても切り離せないもの。どうやってもそれを彼女の中から動かすことなんて出来ない。そのことだって、きっと誰もが分かっている。
「オレもです」
「!!」
その上で、の話。
「オレはどう抗い逃げたところで、結局はセクメト様の眷属です。それは恩恵の問題ではなく、在り方の問題として。生きている限り凡ゆるセクメト様の因縁が寄って来るでしょうし、オレも無視することは出来ません。それがオレの起源であり根源なので、逃げられないし逃げるつもりもない」
2本のナイフが手に馴染むように、女神セクメトが地上に残した凡ゆるモノがハサ・ファーティマに集まる。それは一種の引力のようなもので、それを彼自身が求めてしまっているのだから仕方がない。
互いに一途なように見える浮気者。
決して純粋な恋愛関係などではない。
けれどそれを知っている。
それを知った上で受け入れている。
だから思わず込み上げた笑みを2人で交わした。
本当にどうしようもない人だと。
本当に救いようのない人だと。
互いに互いを、そう赦している。
「だから……」
「ですから……」
「「その上で、愛します」」
女神ヘスティアの前で言葉にする。
互いに浮気者で決して一途ではないかもしれないけれど、それでも相手のことを間違いなく愛するのだと。そう決意する。言葉を揃えて、目を見て、息を合わせて。
「うん……分かった、それが君達の家族の形なんだね。確かにそれは他者から見たらあまり褒められた関係ではないかもしれないけど、それでもボクは肯定しよう。君達は間違いなく、君達が思い描く理想の夫婦になることが出来る。このボクがそれを保証しよう」
誰かにとっての理想ではない。
2人にとっての理想の姿になることができる。
きっと、それこそが重要なのだ。
「これから2人が直面するであろう災厄や苦労を振り払うことはボクには出来ない、そういう祝福をするつもりはないからね。けれど、そんな苦労さえ乗り越える心の在り方を手助けすることはできる。それがボクからの祝福だ」
「「はい」」
「困った時や悩んだ時、苦しい時や悲しい時、どうか相手の顔を思い浮かべて欲しい。相手が笑顔になれることに懸命になり、相手が悲しむようなことを避ける。互いに互いを理解しあっている君達なら、それが出来るはずさ」
「「はい」」
「なら最後に、ヘスティアの名の下で誓いを立て欲しい。君達は相手に何を求める?そして何を誓う?」
結婚式でもなんでもないそれは、けれどそれと同じくらいの神聖さを帯び始める。大通りの端で行われているはずなのに、いつの間にか多くの人々に見守られている。
それでもいつの間にか手を握って見つめ合っていた2人には、相手のことしか見えていない。オラリオの大通りには似合わない、心地の良い静寂。2人の誓いが響き渡る。
「ただ幸福であることを、そして彼女の隣で長く生き続けることを誓います」
「ただ幸福であることを、そして彼の隣に寄り添い続けることを誓います」
その瞬間、ヘスティアから放たれた少しの光が2人を包み込んだ。それは単なる光でしかないけれど、見ていた者達が思わず息を呑むほどに2人の姿を美しく彩った。
自然と起こり始める祝福の拍手。
タイミングよく門番達がオラリオの大門を開く。
道を開ける人々。
フレイヤ・ファミリアの従者達がフラワーシャワー用の花弁を配り始める。
ロキとフレイヤも楽しそうにそれに混じり始める。
影から見ていた黒猫も小さく手を振る。
冒険者になったばかりの少年も、憧れるようにその光景を見つめていた。
「「いってきます!!」」
踏み出した未来への一歩。
果てしない道のりの最初の一歩。
きっと待っているのは楽しいことばかりではないし、平穏なことばかりでもない。だがそれでも2人で生きていくのだと誓ったのだ、怖いものなど何もない。あるはずがない。
「あはは!幸せですね、ハサ!」
「そうですね、ヘイズさん!」
「こんなに幸せで良いんですかね!私なんかが!」
「これ以上に幸せにするつもりですよ!?オレは!!」
「……私だってそのつもりですけど〜!」
「世界一の幸せ者にするつもりですよ〜!?」
「私もそうです〜!!せいぜい幸せに溺れ死にしないようにすることですね!」
「その死に方だけはヘイズさんでも助けられなさそうですね〜!!」
「助けちゃいますけどね〜!!」
快晴の青空に2人の笑い声が上がる。
不穏な未来も因縁も今はもう怖くない。
これからは幸せなだけの時間、ただそれを楽しむのだから。
「「新婚旅行、楽しむぞ〜!!」」
2人の顔は、しっかりと緩んでいた。
この作品については、一先ずここで完結とします。
短い間でしたが、ありがとうございました。
ここ最近は筆が全く進まない日々だったのですが、ヘイズさんの可愛い画像を見てスイッチが入りました。いつも通り勢いのまま書き溜めて放出した形です。
まさかその最中に『ファミリア・クロニクル ヘイズ編』が発売されることになるとは夢にも思わず、歓喜と動揺でエラいことになっていました。
一応この後のことも少しは考えていたのですが、書き始めるとキリがないのと、ヘイズさん熱が少し落ち着いて来たので一旦置くことにします。
再熱したら分かりません。
2人が次に帰ってくるのはフレイヤ・ファミリア騒動の後、学区と共に帰って来る予定です。
アミッドのステイタス更新薬を使って、なんやかんやLv.6になっています。女神セクメトの遺産であったり、女神セクメトの悲願であったり、不死殺しスキルの関連であったり、なんか色々とありました。
3人は元気です。
3人です。
妊娠5ヶ月くらいで産みました。
自己治癒魔法を常用していたせいです。
めちゃめちゃ健康体で身体も大きく、
ヘイズはとても苦労しました。
まさか新婚旅行中にフレイヤ・ファミリアが解体されているなんて夢にも思わず……
——というところで、最後にハサ・ベルベットくんの最終ステイタスを載せて終わりたいと思います。
今後とも別作品も含め、楽しんでいただけると嬉しいです。コメントも全て読ませて頂いています。多くの評価や感想、ありがとうございました。
—————————————————————————————
ハサ・ベルベット(15歳)
Lv.5 『首狩骸』
セクメト・ファミリア→ロキ・ファミリア
力 :G201
耐久:I82
器用:F310
敏捷:D505
魔力:H101
○魔法
・サバフ……付与魔法。切断属性。武器が小さいほど効力が向上する。詠唱『告死』
・アーズ・ラ・イェル……付与魔法。破壊属性。武器が小さいほど効力が向上する。詠唱『鴉の宣告、断罪の銀、骸は嗤う。無とは闇、終は夜。白月の糸は指先に触れず、只其の煌を喰らうのみ。ーー慈悲は亡い、次代も無い、只管に霧散しろ。死を此処に告げる、永劫の滅は此処に在る』
○スキル
・心想停止(ザバリ・ア)……任意発動。一時的に任意の身体機能を停止、全能力に高補正。
・晩鐘(ア・ラムルト)……任意発動。死遠きモノに対し全能力の超高補正。不死者に対し致命効果。対象が生命から逸脱するほど効果向上。
○武器(ナイフ)
・幽谷……不壊属性。
・アンク……女神セクメトの最初の贈り物。毒武具。
・パピルス……女神セクメトの最後の贈り物。呪武具。神殺武装。